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第14回 白いマンハッタン:建外SOHO 東福大輔

第14回 白いマンハッタン:建外SOHO 東福大輔

第14回 白いマンハッタン:建外SOHO

地下鉄国貿駅周辺は、政府に誘導されたオフィス街「CBD」である。高層ビルが立ち並ぶエリアだが、南の端には真っ白な高層ビルの集合体「建外SOHO」が建っている。ポツポツと四角い窓があいたビルが密集するさまは、アメコミで描かれるマンハッタンの風景のようにもみえる。様々なカタチの高層ビルが覇を競う北京の景観の中にあって、抑制のきいた群造形が逆に際立っている。

メインの設計者は日本の山本理顕で、これに、みかんぐみやシーラカンスという設計事務所が低層部分の設計に参加している。チームを組んでいるとはいえ、基本的には小規模な個人事務所の集まりだ。通常、このような巨大開発の設計は、収益性が優先されるため大手の組織設計事務所が担当するケースが多く、建築家個人の強い作家性は望まれない。せいぜいが話題作りのために、外装などのデザインが依頼される程度であろう。この建外SOHOは、中国の不動産業界で圧倒的な存在感を示す「SOHO中国」の二つ目の開発にあたる物件だった。気を吐くディベロッパーならではの思い切った起用といえるだろう。

この建物は、東西の街区合わせて計20本の高層棟と、いくつかの3階建ての低層棟からなっている。高層棟は、住宅とオフィスに分かれているが、外観はほとんど一緒だし、使われ方も似たようなものだ。つまり、オフィス棟は文字通り中小企業のオフィスとして、住宅棟も文字通りSOHO―スモール・オフィス・ホーム・オフィス的に極小企業のオフィスとして使われているのである。

通常、中国の住宅開発は道路に囲まれた街区ごとに行われる。低層の商業施設が周囲の道路に向かって建ち、商業で囲まれた街区の中に複数の高層住宅が立ち上がり、その足元に住人たちが集うランドスケープが設えられる、というのが一般的な複合開発の形であろう。だが、この開発には街区を周囲の町並みから隔絶する「囲い」がない。周囲を歩く人たちが街区の中に入り込むことで商業施設全体としての利用率は上がるが、住人たちが楽しむプライベートな庭園はなくなる。国貿駅のすぐ近くという立地を考えれば、施設のほぼすべてがオフィス的に使われる事は予想でき、あえて住宅としての快適性を切り捨てるという選択をしているのだ。

また、街区の性格は政府の都市計画によって決められてしまう。オフィスや住宅を設置する割合なども予め決められており、それを大きく逸脱することはできない。だがしかし、敷地の立地を考えると、オフィスの方が収益性が良い。ディベロッパーが社名として掲げている「SOHO」をコンセプトに、住宅とオフィス、どっちつかずの施設を作ると売れそうだ…そんな意図が透けて見えるようである。

ところで、中国の北方では、「南面信仰」が強い。ほとんどの住宅は精確に真南に向かって建てられているし、そうでないと売れない物件になってしまう。だがこの建物は、ほぼ全ての建物が南北軸からズレている。この配置は、住宅に課される厳しい日照規制をクリアーするためとも言われているが、この方向のズレが、「自分がどこに居るのか分からなくなってしまう」という副次的な効果を生んでいる。これは、いかに人々の滞留時間を延ばすかに腐心している商業施設においては悪いことではない。地上を歩く人々をできるだけ迷わせて、商業施設で買い物をしてもらうのだ。

この建物が完成した2004年当時、北京には日本人がやった現代建築はほとんどなかった。中国の建築にまつわる法規類は、世界各地のそれを「良いとこ取り」したものであるから、日本で一般的に行われているような処理をすることもできる。だが、コストのことを考えると、日本から建材を輸入することは考えにくく、中国国内で手に入るものに置き換えなければならない。中国で、しかも限られたコストで一体何ができるのかを知るために、日本人設計者は見るべきところが多いと思う。


写真1枚目:低層の三階建ての商業施設は「別荘」と名付けられている。
写真2枚目:白い高層ビルが立ち並ぶような外観。
map:<建外SOHO>北京市朝陽区。地下鉄1号線、10号線「国貿」駅下車、C出口から徒歩5分


 

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