【多摩川住宅】前例なき"巨大団地建て替え" 4者一体で取り組む | 建設通信新聞Digital

5月8日 水曜日

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【多摩川住宅】前例なき“巨大団地建て替え” 4者一体で取り組む

5階建て住戸が建ち並ぶ多摩川住宅。中央に見えるのは、  団地のシンボルとして敷地内に5本ある給水塔のうちの1本

 東京都調布市の南東端部と狛江市の西端部にまたがり、多摩川のほとりに広がる多摩川住宅。約50haの広大な敷地には、1966年から68年にかけて建設した、賃貸と分譲を合わせ88の住宅棟が建ち並ぶ。建設から50年以上が経過、老朽化とともにニーズに合わなくなった間取りやエレベーターが設置されていないといった問題から、建て替えに向けた動きが出ている。“巨大団地建て替え”という国内でも前例がない事業の実現に向けて、行政・区分所有者・管理組合・事業協力者が一体となって取り組んでいる。
 「これほどのスケールの団地建て替え計画は前例がない。国内で初めてではないか」と分譲住宅4棟の管理組合の理事長は口をそろえる。その言葉が示すように、多摩川住宅は48.9haの広大な土地に、東京都住宅供給公社の賃貸イ、ロ号棟と各管理組合の分譲ハ、ニ、ホ、ト号棟など88棟3914戸からなる。行政区も調布と狛江の両市にまたがる特異なケースだ。

さまざまな遊具がある公園広場

 同公社初のマンモス団地として、敷地内には公園やテニスコートを始め、保育園・幼稚園など施設が充実している。その規模や斬新さが当時話題となり、モデル団地として多くの見学者が訪れ、皇太子殿下(現天皇陛下)も視察に見えられたほど注目を浴びた。

幼稚園

 今回、建て替えの動きがあるのは、そのうちの分譲住宅57棟2048戸。設備の経年劣化に加え、居住者の高齢化に対してエレベーターなどのバリアフリー環境が整っていない課題がある。
 その中で、建て替えに向け、事業協力者が決まっているハ号棟とホ号棟が先行する形だ。ハ号棟は野村不動産・東京建物・旭化成不動産レジデンスJV、ホ号棟は住友不動産・長谷工コーポレーションJVが参画している。

ハ号棟の事業協力者が提示した新棟イメージ

 19棟820戸と団地内で最大規模のハ号棟は、5棟1490戸に建て替える計画だ。現在、コンサルタント業務を担当するURリンケージとネクストが、共有地分割問題の解決に注力している。「820戸の共有地問題は初めて」(はむね団地管理組合)というだけに、国内有数の法律事務所が入るなど、区分所有法に従った土地所有形態を目指す。同管理組合は「来年度には解決し、登記変更にこぎ着けたい」という。その後3年で建て替え決議を取り、さらに3年かけ新住戸を建設するなど、今後のスケジュールが固まりつつあるだけに、この問題解決のスピードがポイントになりそうだ。
 もう一方の先行棟であるホ号棟(11棟380戸)は、約900戸を計画。管理組合は「一括建て替え決議まで一歩手前のところ。住民への丁寧な説明を引き続き行っていきたい」とする。
 5階建て住戸が建ち並ぶ中、敷地中央に位置し、ひときわ存在感を示す12階建てL型の「ロ-16号棟」。ランドマーク的存在であったが、耐震不足のため、滝口興業が2018年4月24日までの工期で、解体作業を進めている。その跡地に、生活協同組合コープみらいと大和ハウス工業のグループが計画するのは2-3階建て延べ約1万㎡のショッピングセンターだ。16年に撤退したクィーンズ伊勢丹跡地で営業中のコープ調布染地店は、完成した新施設への移転後に解体し、跡地は広場として活用する予定。

解体が進むロ-16号棟。跡地にはコープみらいの商業施設が建つ

 ニ号棟(15棟522戸、総延べ約2万6600㎡)は、年度内の事業協力者選定に向けて、年明けに15者程度とヒアリングする。19年度の建て替え決議を経て、21年度に着工、23年度の完成を目指す。同管理組合は、これからの課題として「引っ越しや仮住まいなど、住民が抱える悩みの解決」を挙げる。住民からは早期着手を望む声がある一方で、行政も「瑕疵がないよう慎重に進めている」
 ト号棟(12棟326戸、総延べ約1万6600㎡)は、18年度内の事業協力者公募を目指す。参画の意向調査を踏まえ、一部のディベロッパーを対象にヒアリングを実施した。ニ、ト両号棟ともに建て替え基本計画案に対する住民の賛成も多いことから、気運は高まっている。

■先行2棟にお墨付き調布・狛江市が地区計画決定
 2007年4月「地元街づくり協議会」の発足に始まった多摩川住宅まちづくり。昨年の9月29日、調布・狛江両市は、将来の多摩川住宅を段階的に築く指針となる、同地区地区計画を決定した。「一団地の住宅施設」を廃止した上で、まちづくりの視点を踏まえた建て替え計画となる。ハ号棟とホ号棟を「住宅再生地区」に区分したことから、行政の“GOサイン”も出た。ニ号棟とト号棟は「住宅再生促進地区」に指定、事業協力者が決まり次第、住宅再生地区への変更を申請する予定だ。

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