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立秋:暦の上での秋のはじまり! 「二十四節気で楽しむ着物スタイル」

立秋:暦の上での秋のはじまり! 「二十四節気で楽しむ着物スタイル」

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明日訪れる十三番目の節気は「立秋」。秋の気が立つという意味の節気で、二十四節気(旧暦の太陽暦)では「立秋」から「立冬」の前日までの約90日間が「秋」とされています。

(1) 二十四節気とは

「二十四節気」とは、旧暦(太陰太陽暦)における太陽暦であり、2月4日の「立春」を起点に1年を24等分し約15日ごとの季節に分けたもので、いわゆる「暦の上では…」のもとになっているものです。

どこかで見聞きしているものの、いまひとつなじみがないというあなたにこそ知ってほしい「二十四節気」。
いにしえの知恵「二十四節気」に親しむことで、

□ 季節を感じる感覚が豊かになる
□ 着物コーディネートが上手になる
□ 着物を着る機会が増える

こんな素敵な毎日がはじまりますよ。
月2回アップするこちらの連載で「旧暦着物美人」をめざしてみませんか。

(2)「立秋(りっしゅう)」とは

さて、明日訪れる十三番目の節気は「立秋」です。

秋の気が立つという意味の節気で、二十四節気(旧暦の太陽暦)では「立秋」から「立冬」の前日までの約90日間が「秋」とされています。

夏本番の暑い盛りに「秋」とは気が早いように思えますが、

「秋来ぬと目にはさやかにみえねども
風の音にも驚かれぬる」

と『古今和歌集』に収められた藤原敏行の和歌は、猛暑の続くある朝、ふと涼しさを感じたときが秋の訪れ、暑さのピークがもう秋のはじまりであることを感じる瞬間を見事に詠み込んでいます。

手紙の決まり事でも「立秋」を迎えたら、書き出しは「残暑お見舞い申し上げます」となります。

暑さはまだまだ続くように思われても、自然と手が「残暑」と書くとき、身体に刻まれた旧暦の記憶がよみがえる気がします。

夕方になるとひぐらしが鳴きはじめ、暮れゆく空を飛びかう蝙蝠(こうもり)の姿。
ほおずき市で買ったほおずきの実が軒先に提灯のように色づいて…
そんな夕暮れをイメージしてアンティーク着物をコーディネートしてみました。

(3)「立秋」のアンティーク着物コーディネート

立秋のアンティーク着物コーディネート

◎ 着物…紋錦紗地 青紫色に柳と蝙蝠文様
◎ 帯…絽地 黒色にほおずきと夏の和歌 名古屋帯
◎ 半襟…竪絽縮緬地 芭蕉に雨足と水滴文様
◎ 履物…塗下駄・蝙蝠刺繍鼻緒
◎ 小物…根付 麻雀牌「夏」図

紋錦紗の薄物に描かれているのは、白い柳と黒い蝙蝠。

怪談めいた組み合わせですが、蝙蝠の顔がなんともユーモラスなのがご愛敬です。

ユーモラスな蝙蝠といえば、歌舞伎の「与話情浮名横櫛」(よはなさけうきなのよこぐし)通称「切られ与三」に欠かせない三枚目の悪党の名前が「蝙蝠安」(こうもりやす)。

蝙蝠は、西洋では吸血鬼伝説の影響で悪い印象を持たれていますが、東洋では「蝠」という文字が「福」に通じることから、縁起の良い生き物とされています。

ふんわり卵色の生地の底に敷き詰められたザラメ砂糖が美味しいカステラで知られる福砂屋の商標も「蝙蝠」ですね。

黒の塗りの「こだま」という形の下駄の鼻緒にも、小さな蝙蝠が刺繍されています。

鼻緒蝙蝠の刺繍された黒塗り下駄
竪絽縮緬に芭蕉の葉の半衿

半襟は、蝙蝠の黒に合わせて竪絽縮緬に芭蕉の葉を描いたものを合わせてみました。

(4) 「立秋」の小物合わせ 

このコーディネートのポイントは帯まわりです。
黒地に大胆にほおずきを描いた染め帯は、細かな葉脈にまで丁寧に刺繍が施されています。

ほおずきの葉脈が描かれた帯

ほおずきといえば、新暦7月9日~10日に東京・浅草浅草寺で開かれる四万六千日のお祭りと「ほおずき市」が有名です。

この日にお参りすると、一度で四万六千日分の祈願のご利益があるといわれ、境内の出店に並ぶほおずきをお土産に買って帰る習わしがあります。

まだ実が青い鉢を求めて軒先・庭先に並べることひと月、ちょうどこの立秋の頃に赤く熟した実を水で飲み込むと、

「大人は癪を切り、子どもは疳の虫(かんのむし)をおさめる」

薬効があるといわれています。

ほおずきの実を空にして口の中で鳴らす遊びは、蓮っ葉な女性のしぐさといわれていますが、もともとはこうした民間療法だったものと思われます。

まーじゃん

凄いような美女・悪婆(あくば)の小道具としてあしらったのが麻雀牌の根付です。

根付は本来、煙草入れを帯に留めるための実用的な道具でしたが、こうして飾りを使っても素敵です。

「春」「夏」「秋」「冬」の四季が彫られた牌は、「花牌」と呼ばれるものだそうです。

麻雀は、明治42(1909)年11月19日付け東京朝日新聞に掲載された夏目漱石の「満韓ところどころ」第19節が麻雀を紹介した日本最初の記として有名で、大正時代には上流階級のサロンの娯楽として流行をみました。

少しずつ長くなる夏の夜…といえば、「怪談話」がつきもの。

白い貝で見事な骸骨を掘り出したアンティークの帯留をコーディネートに加えても面白いかもしれません。

アンティーク スカルの帯留

今では「スカル」と呼ばれるお洒落モチーフの骸骨は、江戸時代から「野ざらし」と呼ばれる粋なデザインとして親しまれていました。

芸者衆の長襦袢の柄として好まれた「野ざらし」は、

嫌なお客の時は災難除け
好きなお客の時は骨まで愛して

と一枚に二つの意味を込めて洒落たといわれています。

(5)「立秋」のモチーフ

暑さ厳しい時期は、みずみずしい植物のモチーフに元気をもらいたいものです。

ひまわり・芙蓉(ふよう)・芭蕉・鶏頭・鳳仙花(ほうせんか)八つ手・枝豆・茄子・夏野菜など…

夏の日差しの中で生き生きと色を放つ花や野菜を着物姿に取り入れて、残り少ない夏を楽しんでみてはいかがでしょうか。
また、花火・夏雲・雷・川・流水・波・船など、大空や水の流れを連想させるモチーフも、着物姿をドラマチックに演出してくれます。

(6)「立秋」の着物スタイルをイメージする

洋装では爽やかな白や薄い色に手が伸びがちになる夏ですが、着物の場合は濃い色が涼しげに見える場合があります。

それは、着物の中に着る長襦袢が作り出してくれる効果です。
夏のまぶしい光の中では、淡い色より、濃い色の方が下に着る白い長襦袢がうっすらと映えて見えるのです。
自分も涼しく・見てくださる方にも涼感を…
そんな気持ちで「立秋」にどんな着物スタイルを楽しみたいかを、心に思い浮かべるイメージをカレンダーや手帳にメモしてみましょう。

無地や縞・格子の着物に節気のモチーフをひとつ取り入れるだけで、自然と調和した素敵なコーディネートになりますよ。
一年で二十四回、二週間ごとに着物に親しむ、あなただけの「二十四節気の着物スタイル」のはじまりです!

次回は8月23日に訪れる「処暑」についてお話しします。
前日22日の配信を楽しみにお待ちくださいね!

『旧暦で楽しむ着物スタイル』河出書房新社
 
※写真はさとうめぐみ著『旧暦で楽しむ着物スタイル』(河出書房新社)より。

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