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絶海の岩礁ベヨネース列岩から新種のウオノエ科甲殻類を発見 ~龍のような宿主で暮らす「六分儀」~

2023.01.30

ヒメダツ標本のエラから見つかったリュウノロクブンギMothocya kaorui(矢印)(注:寄生部位が見えやすいよう、エラ蓋は除去してある)

【ポイント】
●伊豆諸島ベヨネース列岩で採集されたダツ科の魚類から未知のウオノエ類を発見し、新種記載。
●龍のような姿の宿主と黒い腹尾節の形状にちなみ、標準和名は「リュウノロクブンギ」を提唱。
●節が融合した小触角を持つなど、ウオノエ科の中でもユニークな種で、八丈島にも分布。

【概要】
北海道教育大学釧路校の川西 亮太准教授(北海道大学大学院地球環境科学研究院特任助教(当時)、同大総合博物館資料部研究員)、北海道大学大学力強化推進本部の佐藤 崇URA(京都大学総合博物館、農学研究科研究員(当時))、近畿大学農学部の宮崎 佑介准教授(白梅学園短期大学准教授(当時))の研究グループは、伊豆諸島ベヨネース列岩および八丈島で採集されたダツ科の魚類(ヒメダツ)のエラから未知のウオノエ類を発見し、新種Mothocya kaorui(標準和名リュウノロクブンギ)として記載しました。
ウオノエ科はダイオウグソクムシやダンゴムシなどと同じく等脚目に属する甲殻類ですが、魚の口やエラ、体表などに寄生して暮らしており、「かわいい」寄生虫としても人気があります。今回発見されたリュウノロクブンギは、「六分儀」の由来ともなった黒色で三角状の腹尾節や、節が融合した小触角など、ウオノエ科全体を見渡しても非常にユニークな形態的特徴を持っていました。一方で、リュウノロクブンギのミトコンドリアDNAを調べた結果、釣り人に馴染み深いサヨリのエラに寄生するサヨリヤドリムシと同じエラヌシ属Mothocyaに属することがわかりました。どのような進化の歴史を経て、リュウノロクブンギが誕生したのかはまだ明らかではありませんが、大陸から遠く離れた離島環境が独自の形態を生み出したのかもしれません。
今回の発見は、過去に採集されて博物館に収蔵されていた魚類標本が起点となりました。宿主の自然史標本は、その寄生生物の多様性を解明する上でも貴重な資料であり、後世に引き継いでいくことが日本の生物多様性を解明していく上でも重要であると考えられます。
本研究成果は、日本時間2023年1月25日(水)にSystematic Parasitology誌(寄生虫分類学の国際誌)にてオンライン公開されました。

【背景】
ウオノエ科(Cymothoidae)は魚類の口の中やエラ、体表に寄生する甲殻類であり、ダンゴムシや深海生物ブームで人気となったダイオウグソクムシと同じ等脚目に属しています。ウオノエ類は深海から浅海、そして淡水域にまで分布しており、世界から約40属360種以上、日本だけでも40種が報告されています。日本は世界第6位の領海と排他的経済水域を有しており、亜寒帯~温帯~亜熱帯にまたがる島嶼に多様な魚類(宿主)が生息していることから、その寄生生物であるウオノエ類も多様であると予想されます。しかし、離島など調査が容易ではない地域もあり、その多様性の全容はつかめていません。
今回、伊豆諸島の最南部に位置するベヨネース列岩および八丈島で採集されたヒメダツ(ダツ科の魚類)から未知のウオノエ類が発見されたため、その分類学的調査を行いました。

【研究手法】
博物館所蔵のヒメダツ標本ならびに八丈島での現地採集で得られたヒメダツからウオノエ類を摘出し、体の様々な部位の形や数などを顕微鏡下で観察、計測しました。このデータをもとに、これまでに知られている種(既知種)に当てはまるのか、あるいはどの種にも当てはまらない新種なのかを調査しました。また今回は、ウオノエ類の組織片からミトコンドリアDNAのCOI(シトクロムcオキシダーゼサブユニットⅠ)遺伝子の塩基配列を新たに決定し、塩基配列の世界的データベース(GenBank)に登録されているウオノエ科の他種の配列情報と共に分子系統解析を行いました。

【研究成果】
形態観察の結果、今回発見されたウオノエ類は、節が融合して1つになった小触角や黒色で三角状の腹尾節など、ウオノエ科全体を見渡しても非常に珍しい特徴を持っていました。そのため、当初は新しい属を設立することも検討しましたが、ミトコンドリアDNAの解析を行った結果、サヨリに寄生するサヨリヤドリムシなどと同じエラヌシ属Mothocyaに含まれることが示されました。
これらの結果を受けて、本種を新種Mothocya kaoruiとして記載しました。種小名のkaoruiはホロタイプ標本(学名の基準となる世界でただ1つの標本)が寄生していたヒメダツをベヨネース列岩で採集した栗岩薫博士への献名です。
また、標準和名として「リュウノロクブンギ」を提唱しました。この名前は、宿主であるヒメダツが龍のような姿をしており、そのエラに寄生するウオノエの黒色の三角状の腹尾節が航海で用いられる六分儀のように見えることにちなみます。六分儀は、天体と地平線との角度を測定することで船の位置を特定する天測航法に用いられる計器で、古くから大海原を旅する上で欠かせないものです。GPSなど最新の位置情報技術が発達した現在でも、基礎的な航海術として大学の実習などで用いられています。

【今後への期待】
伊豆諸島や小笠原諸島で構成される伊豆・小笠原・マリアナ島弧は世界的にも大きな島弧で、西部北太平洋の南北2800km以上にわたっており、多様で特有な生物相を有することが知られています。一方で、今回のベヨネース列岩のような絶海の孤島も多く、その生物調査を行うことのできる機会は多くありません。今回の発見では、過去に採集されて博物館に収蔵されていた魚類標本が重要な役割を果たしました。川西准教授らの研究グループは、宿主の自然史標本を寄生虫の視点から再評価する研究を進めており(参考プレスリリース)、今後も日本の「隠れた」生物多様性の解明が期待されます。

【謝辞】
本研究は、公益信託ミキモト海洋生態研究助成基金の支援を一部受けて行われました。

【論文情報】
論文名:
Mothocya kaorui n. sp. (Crustacea: Isopoda: Cymothoidae), a fish-parasitic isopod with unique antennules from the Izu Islands, Japan
(新種Mothocya kaorui,日本の伊豆諸島から得られた固有の小触角を持つ魚類寄生性等脚類)
著者名:
川西 亮太1、2、3、宮崎 佑介4、5、佐藤 崇6、7、8
(1北海道教育大学釧路校、2北海道大学大学院地球環境科学研究院、3北海道大学総合博物館、4白梅学園短期大学、5近畿大学農学部、6京都大学総合博物館、7京都大学大学院農学研究科、8北海道大学URAステーション)
雑誌名:Systematic Parasitology(寄生虫分類学の国際誌)
DOI :10.1007/s11230-023-10083-7
公表日:日本時間2023年1月25日(水)(オンライン公開)

【参考図】

【関連リンク】
農学部 環境管理学科 宮崎 佑介(ミヤザキ ユウスケ)
https://www.kindai.ac.jp/meikan/2734-miyazaki-yuusuke.html

農学部
https://www.kindai.ac.jp/agriculture/

Newscast本記事:https://newscast.jp/news/1473272

図1.リュウノロクブンギMothocya kaorui(注:左側が頭部、右側が腹尾節、全体が褐色なのは液浸保存による変色のため)

図2.ベヨネース列岩産のヒメダツ(栗岩 薫氏撮影)

図3.ベヨネース列岩(栗岩 薫氏撮影)

図4.現代の航海用六分儀(北海道大学総合博物館水産科学館所蔵)