前章の実験から,HTML教材のようなオンスクリーンの教材がロービジョンにとって印刷物と同等の読書速度が保て,さらに検索時間で短縮が望めることが分かった.そこで,HTML教材に手軽にCSSを適用してレイアウトを設定するツール(HTMLビューア)の開発に取り組んだ.
HTMLビューアはHTML教材のレイアウトを簡単かつ自由に設定できるツールを目指している.したがって,HTMLビューアは以下の要求を満たすものでなければならない.
開発に使用した言語はJavascriptである.同言語はスタンドアロンでも利用でき,キーボード操作を実現し,インストールの作業を行わなくても利用できるなどのメリットがある.開発環境は,基本ソフトとしてWindows98,ブラウザソフトとしてInternet Explorer5.0を利用した.
ビューアの構造を図2に示す.本システムは表示部と設定部に分かれている.設定部は,表6に示すように,8つの設定ページから構成される.1ページで,1つのレイアウトに関するパラメータが変更できるようになっている.各設定ページではレイアウト情報を数値化し,8桁のレイアウトデータとして記録している.レイアウトデータのそれぞれのページが担当している部分を書き換えてcookieに保存する.8桁のうちそれぞれの設定内容を記録する桁数を,表6の「CSSファイル名」の列に1以上の数字で示す.このレイアウトデータは,図2では66421822となっている.図3では,そのレイアウトデータの表示結果を示す.
表示部は,1つのJavascriptファイルを各HTMLファイルが参照することにより,各HTMLファイル内でプログラムが動作しレイアウトを再現するようになっている.設定部でcookieに保存された8桁のレイアウトデータから,各数値に対応するCSSファイルを呼び出し,レイアウトを再現する.文字サイズの設定に必要な数だけCSSファイルをあらかじめ用意する仕組みになっている.ビューアはcookieに保存されているレイアウトデータを参照して,該当するCSSファイルを呼び出し,組み合わせてレイアウトを再現する.
cookieにレイアウトデータが格納されるため,個人情報はクライアントマシンで管理できる.すなわち,同じ端末で同じログイン名でログインすれば,既に設定しておいた状態と同じレイアウトでHTML教材を読むことができる.また,cookieのファイルはログイン名を変えることで別に作成される.1台のコンピュータを数人で使用することの多い学校に適した方法である.
利用者は,本HTMLビューアを組み込んだWEBページを参照すればHTMLビューアを意識する必要はない.HTMLビューアが稼動しているページで,スペースキーを押すと,設定部の1ページ目(文字サイズ設定ページ)へ移動する.設定ページのユーザインターフェイスを図4に示す.
本HTMLビューアは5.1で列記した要求を満たすことができた.このHTMLビューアとHTML教材やHTML教科書を組み合わせることで,ロービジョン一人一人の視覚特性に応じたレイアウトを手軽に設定できる環境が整ったことになる.次章ではこれらのツールを用いた実践を紹介し,臨床の中でその妥当性について検討していく.
ページ数 | 設定内容 | CSSファイル名 | CSSファイル内容 |
---|---|---|---|
1 | 文字サイズ | 60000000.css | body,input{31pt} |
2 | 全体の配色 | 06000000.css | body,A,hr{background-color:black ; color:white} |
3 | 行間隔 | 00400000.css | body{line-height:180%} |
4 | 文字間隔* | 00020000.css | body{letter-spacing:0.2em} |
5 | 1行の長さ | 00001000.css | body{margin:0% 3%} |
6 | アンカー文字色 | 00000800.css | A{color:yellow} A:hover{color:white;background-color:black} |
7 | 図の配色* | 00000020.css | img{filter:invert()} |
8 | フォント | 00000002.css | body{font-family:MS ゴシック,Osaka} |
*は,Netscape Navigator未対応