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Mizuho RT EXPRESS

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2024年のドル円、120円台への円高を予想

─ 2024年の論点・シナリオを整理する ─

2023年12月28日

調査部 総括・市場調査チーム エコノミスト 東深澤武史
takeshi.higashifukasawa@mizuho-rt.co.jp

2023年の振り返り:11月にかけて円安進行後、年末にかけては一転して円高に

2023年のドル円は、日米の金融政策見通しに振り回される1年となった。

年初から11月上旬にかけては、米連邦準備制度理事会(FRB)による高金利政策の長期化観測や日銀の金融緩和継続を背景に、円安・ドル高が進行した(図表1)。

円安が急速に進行したため、6月~7月と9月~11月の2度、本邦財務省は為替相場に対して口先介入を行った。10月31日に1ドル=151.72円の高値をつけた翌11月1日朝方には、為替介入を含めた準備状況について問われた神田財務官が「スタンバイだ」と述べた。この表現は、2022年の介入直前にも使われていたため、筆者を含め、財務省が介入に踏み切るとの見方が強まったが、実際に介入が実施されることはなかった。口先介入は短期的なドル円の上値を抑えることに成功したといえよう。

11月中旬以降、ドル円は一転円高基調となった。下値支持線の100日移動平均線(MA)を下回り、少なくとも短期的には円安トレンドから転換した。足元は、200日MAの1ドル=142円台で推移している(図表2)。背景には、①FRBによる利下げ観測の高まり、②日銀による金融緩和策の修正観測がある。11月1日時点で、米債券市場は2024年の利下げ回数を3回程度とみていたのに対し、12月27日時点では、6回の利下げを織り込んでいる。11月までの円安要因がはく落し、逆に円高要因として作用する構図だ。

図表1 2023年のドル円と日米金利差

(注)日米金利差=米2年国債利回り-日本2年国債利回り
(出所) Refinitivより、みずほリサーチ&テクノロジーズ作成

図表2 ドル円と各種移動平均線(MA)

(出所)Refinitivより、みずほリサーチ&テクノロジーズ作成

見通し概要:11月初旬にかけて円高基調、年末にかけてはやや円安と予想

2024年について、ドル円は足元の円高基調が継続し、秋口にかけて1ドル=120円台後半まで円高が進行後、年末にかけてやや値を戻す形で円安を予想する1(図表3)。①FRBによる利下げ等を受けた日米金利差の縮小、②投機筋による円売りポジションが高水準で、ポジション解消余地が大きい点等が背景にある。加えて、③米大統領選挙開催年のアノマリーとして、選挙前は円高、選挙後は円安となる傾向がある。

論点①:日米金利差は縮小へ

日米金利差は緩やかに縮小すると予想する。FRBが緩やかな利下げサイクルに入るため、米金利の低下基調は継続する公算である。他方、日銀は金融緩和策を修正する見通しだ。米金利の低下と円金利の上昇が金利差縮小に寄与しよう(図表4)。以下、日米金融政策の見通しの背景を記述する。

FRBの金融政策について、米景気は依然底堅さが継続しているものの、金融引き締め効果の発現等から、2024年前半に個人消費や設備投資を中心に減速感が強まろう。インフレ率は2%目標を上回るものの、インフレ鈍化基調は継続するとみている。そうしたなか、深刻なリセッション入りを回避するため、FRBは4~6月期以降、予防的に利下げを実施すると予想する。他方、利下げペースは緩やかなものにとどまるとみている。拙速な大幅利下げはインフレ再燃のリスクをはらむためだ。

日銀の金融政策について、2024年の春闘における賃金上昇率が、2023年の実績を上回り、日銀はインフレ目標実現のモメンタムがあると判断するだろう。4~6月期にマイナス金利・イールドカーブ・コントロール・マネタリーベース拡大方針のトリプル解除を実施すると予想する。しかし、その後は輸入物価の減速等を背景に賃金・物価の上昇モメンタムが鈍化することで、日銀は追加利上げを実施せず、ゼロ金利政策を継続するとみている。円金利上昇余地は限られよう。

また、足元のドル円は金利差対比で円安水準にある(図表1)。米債券市場では、2024年のFRBによる利下げを織り込む動きが進んでいる一方、ドル円は十分に織り込んでいないとみられる。今後、FRBの利下げを織り込む動きが進めば、金利差との乖離を解消する形で、円高が進行するだろう。

図表3 ドル円と日米金利差の見通し

(注)日米金利差=米5年国債利回り-日本5年国債利回り
(出所) Refinitivより、みずほリサーチ&テクノロジーズ作成

図表4 日米金利の見通し

(出所)Refinitivより、みずほリサーチ&テクノロジーズ作成

論点②:投機筋の円売りポジションは依然高水準で、今後に解消余地

投機筋の円売りポジションが高水準である点も、円高要因として作用しよう。(A)ドルの先高感・円の先安感、(B)円売りドル買いのキャリー取引の活性化等が主な要因だ。一方、今後は、(A)一方的な円の先安観は高まりにくく、(B)日米金利差の縮小に伴ってキャリー取引は減少する、と考えている。

(A)については、日米の金融政策の方向性の違い(FRBの金融引き締めと日銀の金融緩和維持)が円の先安感に寄与した。しかし、今後については、2024年はFRBの利下げと日銀のマイナス金利政策終了が材料視されるなか、一方的に円の先安観が高まるとは考えづらい。

(B)についても、日米金利差が縮小すれば、キャリー取引による投資妙味は徐々に薄れていくだろう。実際、キャリー取引の規模を測るうえで参考となる在日外国銀行の本支店勘定をみると(図表6)、FRBが利上げを開始した2022年前半以降、キャリー取引が活性化していることがわかる。今後FRBが利下げサイクルに転じれば、徐々にキャリー取引の活況は下火になる可能性が高い。

図表5 投機筋による円ポジションとドル円

(注)右目盛のマイナス幅が大きいほど円売り圧力が強い
(出所) Refinitivより、みずほリサーチ&テクノロジーズ作成

図表6 在日外国銀行の本支店勘定

(注)直近データは23年10月まで
(出所)日本銀行より、みずほリサーチ&テクノロジーズ作成

論点③:米大統領選挙のアノマリー、選挙前は円高、選挙後は円安

米大統領選挙のアノマリーにも注目したい。投票日の75営業日前ごろから投票日にかけて、ドル円は平均2%弱程度ドル安となる傾向がある。選挙後はドル高に転じ、投票日から100営業日後には、平均して2.8%程度、ドルが買い戻されている(図表7)。選挙前には政治不透明感が高まりやすく、米国から資金を退避させる動きが強まるため、相対的に円が買われやすい。選挙後はそうした不透明感が払しょくされるため、ドルが反発する。2024年の米大統領選挙についても、こうした思惑が高まりやすいだろう。

また、選挙後のドルの買い戻しは、民主党が勝った場合でも、共和党が勝った場合でも起こっている点は興味深い(図表8)。勝利政党の政策運営方針等をドル円が材料視するというより、単に政治不透明感の払しょくによってドルが買い戻されていることの証左であるといえよう。

図表7 米大統領選挙前後のドル円

(出所) Refinitivより、みずほリサーチ&テクノロジーズ作成

図表8 米大統領選挙前後のドル円

(出所)Refinitivより、みずほリサーチ&テクノロジーズ作成

円安リスク:米債券市場の過度な利下げ織り込み/「有事のドル買い」

以上を踏まえ、2024年のドル円は円高・ドル安を予想するが、円安リスクも2点指摘したい。

1つ目は、2024年のFRBの利下げ織り込みが米債券市場で進展している点である。2023年12月米連邦公開市場委員会(FOMC)で公表された経済見通しでは、2024年の利下げ回数の中央値は3回であった。ブルームバーグの集計するエコノミスト予想2でも、2024年に3回の利下げが予想されている(中央値)。対して、米債券市場は年6回の利下げ3を織り込んでいる。市場は常に先のマクロ経済環境を見越して動くため、FRBや民間エコノミスト対比で大幅な利下げを織り込んでいることに違和感はない。ただし、インフレの高止まり等、利下げ観測が後退するような材料が発現した場合には、米金利の上昇を通じて、ドル高圧力になりうる可能性がある。

2つ目は、白井ほか(2023)で指摘した2024年のトップリスクが発現する場合である(図表10)。経済政策不確実性指数4について、ドルや円との相関係数をみると、円とはほぼ無相関である一方、ドルとは一定程度の相関関係がある(図表9)。地政学リスクをはじめ、政治不透明感が高まる場面では、円よりドルの方が選好されやすい傾向がある。特に、台湾情勢、中東情勢、BRICs経済不安定化、中国不動産市況・金融不安といったリスクが顕在化する局面では、「有事のドル買い」圧力が高まる可能性があるだろう5

図表9 経済政策不確実性指数(横軸)とドルの名目実効レート(縦軸)

(注)ドルと円はBroadベースの名目実効レート
(出所) BIS、Economic Policy Uncertaintyより、みずほリサーチ&テクノロジーズ作成

図表10 2024年のトップリスク

(出所)みずほリサーチ&テクノロジーズ作成

[参考文献]

みずほリサーチ&テクノロジーズ(2023)「2024年 新春経済見通し ~ラストワンマイルに潜むジレンマ」、2023年12月25日

白井斗京、大澗渉、上村未緒、東深澤武史(2023)「2024年トップリスク ~戦後国際秩序の崩壊が進み、リスクが多様化・複合化」、2023年12月18日


  • 1貿易・サービス収支を含む経常収支等の実需要因は、長期的な為替の需給を見通すうえでは重要な要素である一方、短期的なドル円との連動性は低いため、本稿では考察の対象外とする
  • 22023年12月27日時点
  • 32023年12月27日時点
  • 4政策をめぐる不確実性等を定量化するために作られた指標。指数の水準が高いほど、不確実性が高いことを示す。Baker, Bloom, and Davis (2016)や、独立行政法人経済産業研究所の日本の政策不確実性指数を参照
  • 5ただし、米財政悪化・金利急騰や米国発システミックリスクといった米国が震源となるリスク要因が発現した場合は、米国から資金を逃避し、円買い圧力が高まるものと予想される
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