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ギャラリーや多目的空間も。街にひらかれた、建築家・寳神尚史さんの自邸

街をつくる事業として取り組んだ家では、人と人との触れ合いが生まれる。

By
hisashi houjin
SOBAJIMA Toshihiro

住まいを建てることは自分好みの空間をつくってそれに自足することではないと建築家の寳神尚史さんは考えています。住まいは社会との接点となるものであり、街をより豊かにしていく起点となるべきものだからです。寳神さんの自宅+多目的スペースは、そんな役割を担っています。

<写真>床はチーク。テーブルの天板は無垢のクスノキ。キッチンの電球色の間接照明や白壁に跳ね返る自然光が、温かみのある空間をつくる。

街の個性を豊かに育むために “マイクロ・ディベロッパー”になる

hisashi houjin
SOBAJIMA Toshihiro

デザイナーやクリエイターが多く住み、小さなギャラリーやアトリエ、ショップが混在する山の手の住宅街の一角に、寳神さんの自宅建物はあります。鉄筋コンクリートの3階建てで、2階の一部と3階が住まいです。1階にはデザイナーのギャラリースペースと住居、さらに寳神さんの事務所があり、2階の自宅部分を除いたスペースは、この建物の“応接間”と名付けられた多目的空間。宿泊もでき、作家が泊まり込みながら個展を開いたり、街を訪れた人の短期滞在の拠点にすることもできます。

<写真>建物は鉄筋コンクリート造の3階建て。道路斜線制限により、傾斜屋根が掛かる。1階の道路側は、街に開いたギャラリースペースに。

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SOBAJIMA Toshihiro

するとこの建物は、ここに住宅を構えたかった寳神さんが、資金捻出のために賃貸スペースを併設した、いわゆる店舗併用住宅としたものなのか、と思う人があるかもしれませんが、そうではありません。「僕が目指したのは、この街に多い職住一体で活動するデザイナーのために拠点を提供することです。それを通してこの街がもっと魅力的になり、住民が楽しんで歩き、誇りとするようなものに育ってほしいと思いがあった。そのために長期収支計画を含む事業計画を立て、借金をして不動産事業としての取り組み。“自宅ありき”ではなく“事業ありき”でした」。

<写真>3階のLDK。門型のフレームが空間を緩やかに仕切る。1階と2階のデザインを住宅に受け継ぐ。特注のテーブルの脚はステンレス製。

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SOBAJIMA Toshihiro

これまで建築家は、基本的には誰かが企画した“コト”に沿って“モノ”を設計する役割だったと寶神さんは言います。「仕事はもっぱら請け負うもので、その作品性ばかりが語られてきました。“コト”の世界に入り込んだら建築家の“純粋性”が損なわれるかのようにいう人もいた。僕はそこを変えたいと思いました」

<写真>3階の階段ホールはトップライトで採光。床はカーペット仕上げ。ソファの後ろに設けた窓が、大きく葺き下ろした屋根の軒下から入る光を導く。

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SOBAJIMA Toshihiro

寳神さんは、この街をさらに魅力的にしていく“コト”の起点になろうと考えたのです。「しかも僕は不動産事業を本業としているわけではありません。事業収支は“低い黒字”で十分なんです。ですから利回りが下がっても、建築のここには費用をかけようといった判断もできます。この点でも建築家が事業を担う意味があると思うんです」と寳神さん。

<写真>2階の住宅の玄関ホール。このフロアに水回りを設けている。外から続く壁のレンガタイル、床のカーペットや木質素材、曲線を多用することで住宅らしい穏やかな空気感をつくった。

hisashi houjin
SOBAJIMA Toshihiro

さらに家造りを予定している人にも、ぜひこうした自宅のあり方を考えてみてはとすすめます。「例えば自宅の道路に面した部分にギャラリーやアトリエを設けるというだけで、人との触れ合いが生まれます。暮らしがとても豊かになると思うんです」。

<写真>トップライト越しに空を眺めながら、3階にアプローチするプラン。

hisashi houjin
SOBAJIMA Toshihiro

コロナ禍で在宅の機会が増え、改めて地元に散歩が楽しめる道がないと気づいたという人は少なくないはすです。“マイクロ・ディベロッパー”としての寳神さんの活躍が、きっと街を変えていくきっかけになるでしょう。

<写真> 吹き抜けのリビング。斜線制限による傾斜屋根面に、大きな窓を設けた。住宅空間の内装は白をベースに、グレージュやベージュを多用してシックに。そこに寶神さんがセレクトした、個性的な照明や小家具がアクセントになっている。

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SOBAJIMA Toshihiro

<写真>3階の階段ホールの壁には錫箔を使った。建築がもたらす光の抑揚を増幅する役割も担う。

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<写真>3階の中央に位置するキッチンは、天井高が最高で約3.5m。レースのカーテンで緩やかに仕切ることもできる。

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<写真>2階に用意されたこの建物の“応接間”。手前側にキッチンとダイニング、さらに水回りも備えているので宿泊もできる。民泊として運営することも想定している。

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<写真>大きな開口で街とつながる道路側の外観。1階の住人がギャラリースペースとして使っている。斜めに配置した扉が人をやさしく迎え入れる。1階軒先の洗い出し仕上げが建物の表情をやわらげる。

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<写真>外階段を上った奥に2階の“応接間”への入り口と住宅への入り口が並ぶ。住宅側には外壁にレンガタイルを張り、温かみのある表情をつくっている。

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SOBAJIMA Toshihiro

<写真>リビング入り口のコンクリートの門型フレームは、白い壁で縁取った。面取りをすることでやわらかな印象に。

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hisashi houjin

DATA

terrace H
□ 設計/日吉坂事務所 寳神尚史
□ 敷地面積/118.49㎡
□ 延床面積/176.63㎡
1階/63.04㎡
2階/63.36㎡
3階/50.23㎡
□ 所在地/東京都
□ 用途地域/第一種低層住居専用地域
□ 構造/壁式鉄筋コンクリート造
□ 設計監理/日吉坂事務所
□ 構造設計/坂田涼太郎構造設計事務所
□ 工事期間/2019年10月~2020年9月
□ 施工/サンユー建設
□ 家具製作(201)/カリモク

MATERIALS
●外部仕上げ
□ 屋根/コンクリート打ち放し+はっ水剤
□ 外壁/コンクリート+はっ水剤
コンクリート洗出し+はっ水剤
 レンガタイル張り
□ 開口部/ステンレスサッシ アルミサッシ
●内部仕上げ
床/カーペット フローリング
壁/調湿クロス 木張り 
 コンクリート打ち放し
天井/調湿クロス

INSTRUMENTS
●厨房機器/
キッチン:マルゼン
レンジフード:富士工業
水栓:リクシル
ドロップインコンロ:リンナイ
レンジフード:アリアフィーナ
食洗機:ミーレ
水栓金具:グローエ
●衛生機器
ユニットバス:パナソニック
洗面化粧台:サンワカンパニー

撮影:SOBAJIMA Toshihiro
取材・文:酒井 新



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