税金どうなる?税制改正 議論スタート 減税は? 防衛財源で増税時期は?

私たちにとって、身近な税は今後、どうなるのでしょうか?来年度の税制改正に向けて、自民・公明両党の税制調査会が本格的な議論を始めました。定額減税の制度設計や、来年度は見送るものの、再来年度以降、いつ開始するか検討される見通しの防衛費の財源確保に向けた増税について議論されることになります。一つ一つ、解説していきます。
(山田 康博、佐々木 森里)

Q.今回の税制改正の焦点は何でしょうか?

A.今回の税制改正の議論では、岸田総理大臣が経済対策として打ち出した、1人あたり4万円の定額減税の制度設計が大きな焦点となります。

政府は、納税者本人と扶養家族を対象に1人あたり所得税3万円と住民税1万円のあわせて4万円の減税を来年6月にも実施するとしています。
減税の額や実施時期が固まっている一方、減税を行う回数は決まっておらず、意見が分かれています。

Q.どんな意見が挙がっているんですか?

A.岸田総理大臣はこう述べています。

「1回で終われるよう、経済を盛り上げていきたい」

また、自民党の宮沢税制調査会長も次のような見通しを示しています。

税収が増えた分を還元するという観点から1回になる

これに対し、公明党の山口代表は、今の時点で1回に決める必要はないという考えを示しています。

「賃上げが物価高に追いつかない状況なら、どうするか議論する必要が出てくる」

また、公明党の西田税制調査会長も、次のような認識を示しています。

柔軟に対応すべきだ

このため、今後、与党内で調整が行われる見通しです。

Q.今回の減税について「回数」以外に焦点はありますか?

A.減税を行う際、所得制限を設けるかどうかも焦点です。
岸田総理大臣は、こう述べています。

「子育て世帯の分断を招くことがあってはならない」

与党内でも、年収1000万円前後で所得制限を設けることには否定的な意見が大勢です。
ただ、年収数千万円の富裕層や国会議員は減税の対象から外すべきだという声もあり、今後、議論が活発になることが予想されます。

一方、所得税と住民税の定額減税に関する与党の税制調査会での議論と並行して、政府は、減税とあわせて実施する低所得者への給付について具体的な検討を進めます。

Q.減税にあわせて、低所得者へは給付を実施するんですね?

A.そうです。

まず、住民税が非課税となっている世帯には1世帯あたり7万円を給付する方針です。
また、住民税は納めているものの、所得税は納めていないという人にも、住民税の非課税世帯と同じ水準を目安に給付を行います。
子育て中の世帯には支援の上乗せも検討する方向です。
さらに、年間の納税額が1人あたり4万円に届かず定額減税による還元が十分受けられない人に対しても、自治体などを通じて適切な支援を行えるよう、ことし中に具体策をまとめる方針です。

Q.ほかにも家庭に関わる項目で焦点はありますか?

A.政府が少子化対策として行う児童手当の拡充に伴って、所得税や住民税の扶養控除の見直しも焦点となります。
政府は少子化対策の強化に向けて児童手当の支給対象を18歳までの高校生などにも拡大する方針です。現在、こうした年代の親族を扶養している場合、課税対象となる所得から所得税は年間38万円、住民税は年間33万円が控除=差し引かれています。
一方で、児童手当がすでに支給されている15歳までの子どもについては所得税と住民税の扶養控除の対象になっていません。
いまの制度との整合性の観点から来年度の税制改正に向けた議論では、新たに児童手当が支給される18歳までの扶養控除を見直すかどうか検討される見通しです。

Q.18歳までの扶養控除を見直すかどうかの検討というのは、具体的にはどういうことですか?

A.扶養控除の見直しに伴う税負担の増加をどう考えるかが焦点となります。
例えば夫婦のうち1人が働き、高校生1人を扶養している世帯で仮に月1万円、年間12万円の児童手当を受け取ることになり、扶養控除がすべて廃止されたと想定します。
この場合、課税対象の所得がおよそ900万円を目安として、それより所得が高ければ、受け取る児童手当より税負担が重くなるという試算もあります。
夫婦の働き方や子どもの数などによっても変わってきます。
また、「対象の年代は、教育費などの支出が多いことを考慮する必要がある」などと、控除をすべて廃止することに慎重な声も出ています。
こうした課題や意見を踏まえ、扶養控除をどこまで縮小するのか検討が進められる見通しです。

Q.「減税」以外にはどんなことが焦点になりますか?

A.減税の一方、防衛費の財源確保に向けた増税の開始時期も焦点となります。

増税の対象は、法人税・所得税・たばこ税の3つの税目とすることが決まっていますが、所得税については減税を行うことから、与党内でも整合性をとる必要があるという指摘が出ています。

岸田総理大臣も防衛増税については景気や賃上げの動向などを踏まえ判断するものだとして、次のような考えを表明しています。

来年度は実施しない

再来年度以降、いつ開始するか、議論される見通しです。
増税の開始時期は、所得税の減税回数を1回とするかどうかにも関わる可能性があります。

公明党の西田税制調査会長は次のような考えを示しています。

3つの税目の増税開始時期を分けて検討することもあり得る

一方、自民党の宮沢税制調査会長はこれには否定的で、議論の行方が注目されます。

「時期を分けるメリットはあまり感じられない」

Q.税制をめぐっては、さまざまな議論があるんですね。

A.そうですね。このほかにも、企業については、「外形標準課税」に関する議論もあります。
「外形標準課税」は、資本金が1億円を超える企業を課税対象としていますが、課税を逃れるため、決算時に資本金を減らして「資本剰余金」として計上する企業があり、対象となる企業が減少しています。
このため、総務大臣の諮問機関である地方財政審議会は今月14日、制度の見直しが必要だとして、資本金と資本剰余金の合計が一定水準を上回る企業も課税対象とするよう求める意見書を鈴木総務大臣に提出しました。

これを受けて、税制改正の議論では、外形標準課税の対象となる企業の具体的な要件について検討が進められる見通しです。

このほか、賃上げの流れを後押しするため、「賃上げ税制」の拡充も検討されています。
この税制の期限は来年3月末となっていて、▽期限の延長や▽基準となる賃上げ率の見直しが議論される見通しです。

Q.今後の議論の見通しは?

A.17日、来年度の税制改正に向けて自民・公明両党の税制調査会は総会を開き、本格的な議論を始めています。

自民党の税制調査会 総会 17日

自民党の宮沢税制調査会長は、記者団に対し「本格的に作業を進め、来月半ばまでには仕上げていきたい」と述べていて、両党は、調整を経て、来月半ばまでに与党の税制改正大綱を決めることにしています。

(11月17日「ニュース7」などで放送)

政治部記者
山田 康博
2012年入局。京都局初任。政治部では法務省や公明党の担当などを経験し、現在は自民党を担当。
政治部記者
佐々木 森里
2015年入局。大分局を経て政治部。総理番、野党担当を経て現在は公明党の番記者。