ETFは積立投資ができる?

ETFは積立投資ができる?

  • 最終更新日:2023年7月10日(公開日:2023年4月14日)

今井 幸英

筆者 今井 幸英(いまい こうえい)
ETFセンター・シニア・アドバイザー

1985年4月 株式会社日本興業銀行入社。みずほフィナンシャルグループ(みずほ総合研究所、興銀第一ライフ・アセットマネジメント(現 アセットマネジメントOne))を経て、2006年12月 日興アセットマネジメント株式会社に入社、2008年8月よりETFビジネスに従事。2020年11月から現職。2012年、2013年 武蔵大学経済学部 非常勤講師、2014年 学習院大学経済学部 非常勤講師。長い運用商品開発の経験を活かし、ETFの開発、ETFビジネスの推進活動を行っている。

不確定な将来に備えるために資産形成の重要性がクローズアップされるなかで、個人の有力な資産形成手法として積立投資に注目が集まっています。投資の最大のリスクと考えられる価格変動リスクへの対処方法として有効なものと考えられているからです。今回は積立投資について整理してみたいと思います。

積立投資とは

積立投資とは、通常、一定の間隔で一定の投資金額を設定して買付をしていく投資方法を言います。例えば、「5年間、毎月10万円ずつ投資対象を買い続けること」です。
積立投資の要件として「自動積立」を含めることもあります。自動積立投資であれば、当初定めた金額を預金の自動引き落とし等で投資を機械的に行うことことができます。
投資資金を一度にまとめて投資する場合は、投資タイミングによって投資成果が大きく変わります。そのため市場を見続け、市場の値動きに判断が振り回されるということになることもあります。積立投資は、ある意味、市場の値動きを感知せず、あらかじめ定めた方法で投資して、上がるか下がるか分からない市場に対して投資タイミングを時間分散して投資します。数量的に、高い時は比較的少なめに買い付け、安い時は多く買い付けることになって、買付期間中の平均的な投資単価より低くなります。

ETFを自動積立するには

実はETFは自動積立投資がし難い投資対象です。
例えば、前出の例のように毎月10万円ずつ投資、自動積立投資をするケースを考えてみましょう。預金口座から引き落とした10万円でETFが10万円分買い付けられれば良いのですが、ETFは株式と同じように値段×1単元(取引単位)の口数(100口、10口、1口とか)の整数倍でしか買付できないので、きっちりと10万円分の買付ができません。
日興アセットのETFを買付することを例に見ていきましょう。
上場インデックスファンド日経225(ミニ)(愛称:上場日経225(ミニ))(1578)の2023年6月30日の終値は2,669円で1単元(取引単位)は1口です。証券会社に払う売買委託手数料は無いものとして10万円分を買おうとすると、37口買って1,247円残すことになるのです。また、上場インデックスファンドJリート(東証REIT指数)隔月分配型(愛称:上場Jリート)(1345)では2023年6月30日の終値は1,892円で1単元(取引単位)は100口です。買付に必要な最低金額は189,200円となり10万円では買付ができないのです。

ETF買付の例 ETF 自動積立 難しい

※手数料などの費用は含みません。

株式累積投資(るいとう)

一部の証券会社では投資家に株式累積投資(るいとう)というサービスを提供しているところがあります。投資家は証券会社名義の株式累積投資口に資金を入れて証券会社と共同で対象ETFを買い付け、資金額に応じて保有するイメージです。保有分が1単元に達すると分割されて名義も投資家のものになります。一部の証券会社で提供されているポイント投資サービスもこの仕組みによります。しかしながら、当該サービスを行っている証券会社は限られているうえに、対象銘柄も取扱証券会社が選定した銘柄の範囲内となります。現状、つみたてNISAにおけるETFの扱いも限定的です。

株式累積投資(るいとう)

リレー投資

そこで投資家のなかにはリレー投資といって、まずは自動積立に対応している投資信託で積立投資を行い、ETFが1単元以上買えるように金額が積み上がった段階で、投資信託からETFに乗り換えることをしている投資家もいます。

リレー投資

ETFの積立投資をするメリット

➀比較的少額から始められる
➁購入タイミングに悩まない
➂時間分散による効果

では、上記のメリットを確認してみましょう。
次のグラフは、一時点投資と積立投資のケースの比較です。どちらも買い付けるのは上場日経225(ミニ)(1578)です。

【ケース:一時点投資(グラフの青線)】

2017年12月1日に1口当たりの純資産額で600万円買付

【ケース:積立投資(グラフのグレー線)】

5年間(2017年12月1日から2022年11月1日まで)、毎月月初営業日に1口当たりの純資産額で10万円(総額600万円)を積立投資したと仮定

一時点投資と積立投資の比較

※グラフ、数値等は過去のもの、またはシミュレーションの結果であり、将来の運用成果等を約束するものではありません。

2017年12月1日から2022年11月1日までの毎月月初営業日の上場日経225(ミニ)(1578)の1口当たりの純資産額※の平均単価は1,956円で、一方、同期間中の積立投資の投資単価は1,925円になり、投資単価を引き下げる効果が確認できます。
このケースの一時点投資の投資単価は1,826円で、2022年12月30日の分配金収入を除く資産評価額は690万円で90万円の資産増加となっています。一方、積立投資の分配金収入を除く資産評価額は654万円、54万円の資産増加となっています。
この期間の結果としては一時点投資の方が良かったということも言えるのですが、この投資期間中、2020年3月にコロナショックがあって、翌月1日の一時点投資は損失122万円(損失率約20%、グラフのオレンジ線)となりました。一方の積立投資ですが、この時点での投資資金累計が290万円で損失が50万円(損失率約17%、グラフの黄線)です。投資開始タイミングや相場展開にもよりますが、運用期間中の損失額を見て運用を止めてしまい、その後の市場の上昇の恩恵を受けることができなかったということが起こり難いということから、積立投資は長期の資産形成に有効だと考えられます。

※1口当たりの純資産額は、当該ETFの基準価額(10口単位)を1口単位とした理論価格で、市場価格ではありません。

ETFの積立をするデメリット

➀時間が必要
➁機会損失の可能性
➂コストが割高になる可能性
➃結果として元本割れで終わる可能性

5年間で10万円を上場日経225(ミニ)(1578)に積立投資した例を挙げましたが、投資総額の600万円を投資し終えるのに5年(60ヵ月)という年月をかけています。一時に投資する資金を用立てられない場合は仕方の無いことではありますが、投資総額を全額投資するまでに時間がかかってしまいます。また、この投資が終わらないうちに上昇相場にあたって収益を得るチャンスを逃してしまうといった機会損失を出す可能性もあります。
さらに、証券会社によってですが、小口分割の投資は、まとめて投資するよりも高い売買手数料を課せられることがあります(一方、小口投資の売買委託手数料を減免している証券会社もあります)。

投資にとって、たいへん厳しい状況を想定してみましょう。

<日経平均株価が史上最高値をつけた日から投資を開始したケース>

次のグラフは、総額600万円、毎月最終営業日に10万円の積立投資を日経平均株価が最高値の1989年12月29日に開始し、1994年11月30日に買い終えたケース(手数料と受取分配金は考慮せず)です。
投資が終わった後も市場が下落、低迷するケースです。このケースでは、ようやく投資損益がプラスになり始めるのが2017年10月以降です。この時期以前に資金が入用になって投資を止めてしまうと損失、元本割れで終わる可能性があります。これは積立投資だけでなく投資全般の話になりますが、このようなことが起こりえるものです。運用においては全体の資金配分の考察が必要なことの証です。

積立投資のケーススタディ

※グラフ、数値等は過去のもの、またはシミュレーションの結果であり、将来の運用成果等を約束するものではありません。
※積立投資で必ず利益があがることを保証するものではありません。

これは積立投資が万能ではないということではありますが、有効ではないということではありません。投資を開始した時点の日経平均株価(38,916円)を回復していない2017年10月の日経平均株価(22,012円)水準から益が出始めています。一時投資と比較すると価格変動リスクへの対処方法として有効なことがご理解いただけると思います。

以上、積立投資について整理してみました。
全体の資金運用のなかで投資配分を考える必要があり、これといった正解が無いのが資産運用の世界ですが、それでも積立投資は入り易い有効な手法ではないかと思います。そしてETFの積立投資に関してですが、2023年7月現在、対応している証券会社がまだまだ少ないのが現状ですが、2024年から拡充されるNISA制度を見据えると、ETFの積立投資に対応する証券会社も増えてくるのではないかと期待されます。

(以上)

[今井監修]ETFのキホンシリーズ

「ETFのキホン」シリーズでは投資家の皆様にETFを良く知っていただいて、より良く活用していただきたいとの思いで書かせていただいています。