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8回目の「生賴範義展」 大串誠寿

 広告宣伝イラストは短期間で消え去る消耗品だ。しかし緻密な手技で時代を超える魔力を備える作品もある。

 近年、評価を高めつつあるのが生頼範義(おおらいのりよし)氏の仕事だ。42年間暮らした宮崎市のみやざきアートセンターで通算8回目となる「生頼範義展」(15日まで)が開かれている。2014年を皮切りに東京、兵庫、北海道などを巡回した。

 今回の展覧会は、副題に「創作の軌跡と秘密を探る」とあるように、下描きや資料などを完成品と並べて制作過程を追う。生頼氏はスターウォーズのポスターが有名だが、初期に手掛けた「学研・現代の家庭医学」は画家の本質が表れた仕事として出色だ。カラーテレビすら一般的でない時代に、現在のCG映像と見まがう絵を筆描きで示した。医学書としては異例の売れ行きをみたという。

 この仕事のために生頼氏は信州大医学部に半年間通い、導入後間もない電子顕微鏡を見て知識を深めた。しかし白黒画像を見ただけでは、このような空間表現を生み出すことはできない。挿絵は知見に基づいて独自に構想されたものだ。生頼氏は高校時代に東大進学を期待された好学の士であった。絵の道に進んでからも仕事は常に知的で、画家自身「資料の良否が作品の出来具合を決定する」と語った。膨大な資料は今回の企画展の基礎となっている。

 生前の生頼氏をよく知る展覧会主催者の一人、長岡政己氏(57)は次のように語る。「プロは特殊な効果を出す溶剤を用いることが多いが、生頼氏はそれを嫌い水だけで描いた」。またアトリエには透写台もなかったという。つまり画材頼みの技巧なし。複写もせずにその都度新たに描いたのである。画面の細部までが生命力を持って迫ってくるのはそのためだ。手間を惜しまずに作り上げられた画面は商用イラストの域を超え、深い鑑賞に堪える。

 今展では後進の活動振興を図るため「生頼範義賞」が新設された。生頼氏の作品を管理する子息で画家のオーライタロー氏(57)は同賞審査員として総括し「応募者の年齢層は幅広く、世代を超えて影響を与えていることが分かる」と語った。生頼氏は他界して5年たつ。主な作品は四半世紀以上前のものだ。今も新しい感動を与え続ける生頼氏の絵は、やはり魔力を備えている。 (写真デザイン部部長同等)

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