フリーワード検索


タグ検索

  • 注目キーワード
    業種
    目的・課題
    専門家
    国・地域

NRI トップ ナレッジ・インサイト コラム コラム一覧 2024年は円高の一年に

2023/12/08

  • Facebook
  • Twitter
  • LinkedIn

急速な円高進行は市場の過剰反応

植田日本銀行総裁が7日に国会で行った「年末から来年にかけて一段とチャレンジングな状況になる」との発言が、早期のマイナス金利政策解除を示唆するものとの解釈が金融市場で一気に広がった。そのため、7日の国内市場では長期国債利回りが大幅に上昇し、円高ドル安が進んだ。その流れは海外市場でも続き、同日の米国市場では一時1ドル141円70銭と、今年9月以来の水準まで円高が進んだ。

8日の東京市場でも早期のマイナス金利政策解除の観測がなお燻ぶり、長期国債利回りはさらに上昇し、為替市場では1ドル143円台の水準が続いている。

植田総裁の発言が、早期のマイナス金利政策解除を市場に織り込ませるために日本銀行が意図的に送ったメッセージとの解釈には無理があると考えられる(コラム「植田総裁発言で早期利上げ観測が浮上か」、2023年12月7日)。市場の反応は過剰だと思われる。

為替レートの方向性は日銀ではなく米国の金融政策で決まる

他方、米国では、利上げ打ち止め観測から来年の利下げ観測が徐々に市場に織り込まれる中、長期国債利回りは大幅に低下し、10年利回りは10月の5%超えから、今や4%割れも視野に入る水準にまで低下している。

このように、昨年来の大幅なドル高円安の主因であった、米国の金融引き締め、長期国債利回りの上昇というファンダメンタルズは既に変化している。そうした地合いのもと、植田総裁の発言が、円高ドル安の動きを増幅させる市場の材料に使われた、という面もあるだろう。

10月の1ドル151円台が円安のピーク

米国では、物価上昇率の低下傾向は明確に確認されている一方、金融緩和の引き金となるような景気減速の明確な兆候はまだ確認されていない。このため、今後発表される経済指標が上振れることで、利下げ観測がやや後退し、長期金利上昇と円安ドル高方向に揺り戻しが生じる可能性は残されている。

しかし、それでも10年利回りが再び5%の水準に達する可能性は低いだろう。それを踏まえると、ドル円レートが1ドル150円台まで戻る可能性はかなり低下した。10月の1ドル151円台が円安のピークになった可能性が高いだろう。

米国の利下げと日本銀行のマイナス金利政策解除は相容れない点に注意

日本銀行の政策修正観測によって、円ドルレートが振られる状況は今後も続くだろう。しかし実際には、日本銀行のマイナス金利政策解除の時期は、金融市場の強いコンセンサスである来年4月ではなく、来年後半あるいはそれ以降までずれ込む可能性を見ておきたい(コラム「日銀短観(12月調査)で景況感は小幅改善か:2024年日本経済は「内憂外患」。賃上げは期待に届かず日銀政策修正は後ずれへ」、2023年12月7日)。その場合、来年の円ドルレートの方向性を決めるのは、日本銀行の政策よりも、米国の金融政策となるだろう。

足もとでは、米国で利下げ観測が浮上する中で日本銀行の早期のマイナス金利政策解除の観測が同時に浮上したため、日米金利差の縮小が進むとの見方でやや急速な円高となった。しかし、米国の利下げと日本銀行のマイナス金利政策解除とは、本来、相容れないものだ。米国で利下げが実施され、また実施の観測が強まる中では、日本銀行は円高進行のリスクに配慮して、政策修正を先送りする可能性が高まるはずだ。

この点を踏まえると、この先、米国経済の減速の兆候が明確に確認され、米国での利下げ観測が強まれば、それ自体が日本銀行のマイナス金利政策解除の時期を後ずれさせるとの観測を浮上させるだろう。その結果、足もとほどの日米金利差の急速な縮小観測は生じず、足もとほどの急速な円高が生じるわけではないだろう。

2024年末時点での円ドルレートは1ドル130円~135円

2024年は米国景気の減速と利下げを主因に、円高ドル安が進む1年になると予想したい。2024年末時点での円ドルレートは1ドル130円~135円と見ておきたい。現在、金融市場は2024年中に米国の利下げ幅は1.0%程度に達することを織り込んでいる。実際の利下げ幅が1.5%~2.0%とより本格的な利下げとなる場合には、2024年末で120円台までの円高の可能性も出てくるだろう。

他方、米国経済の減速がマイルドなものに留まり、利下げ幅が1.0%未満に留まる場合には、2024年末の円ドルレートは140円前後となる可能性も考えられる。

さらに向う数年間を視野に入れれば、日本銀行の政策修正が進み、その結果、円ドルレートは均衡水準と考えられる1ドル110円~115円程度まで、円安修正が進むものと見ておきたい。

執筆者情報

  • Facebook
  • Twitter
  • LinkedIn

新着コンテンツ