超伝導体の特徴!!
     
           
    超伝導の簡単な特徴としては、以下のものが挙げられます。

 

(1) 電気抵抗 = 0 Ω(永久電流の存在)

(2) マイスナー効果(Meissner effect)[1]

(3) 臨界温度(Tc)・臨界磁場(Hc)・臨界電流密度(Jc)の存在

(4) 第T種・第U種超伝導体

(5) 磁束の量子化

(6) 電子対の形成とエネルギーギャップ

(7) 同位元素効果(Isotope effect)

(8) ジョセフソン効果(Josephson effect)[2]

 

(1) 電気抵抗 = 0 Ω(永久電流の存在)

 家庭用導線としては銅線がよく使用されていますが、銅線が使用される要因としては、銅自体の電気抵抗が大変低いためです。しかし、電気抵抗が低いという理由でよく使用さえれている銅ですら、直径1 mm、長さ100 mの導線にした場合1 の電気抵抗を持ちます。何 Kmと電気を運んでいる送電線などを考えると、この電気抵抗の値は無視できないものとなり、導線の発熱や電力損失の問題が生じてきます。その点、超伝導体は電気抵抗がゼロですから、このような問題を気にすることなく電流を流せるということになります。もし、送電線を超伝導体で製造することができれば、送電途中の電流ロスをすることなく大電流を流すことが可能となります。
 この超伝導体の電気抵抗=0という性質は、超伝導最大の魅力です。

 

(2)マイスナー効果(Meissner effect)

 超伝導状態にある物質に磁石を近づけると、磁石の極に関わらず強い反発力を感じることができます(Fig.2では、下の黒い物が超伝導体、上に浮いている銀色の円盤が磁石)。これは、超伝導がもつマイスナー効果(完全反磁性)によるものです。マイスナー効果とは、超伝導体の内部には磁場が侵入できない(磁束の侵入を許さない)というものです。この現象は、1933年にマイスナー(W. Meissner)とオクセンフェルト(R. Ochsenfeld)によって発見されました。
 Fig.3は、マイスナー効果の概念図を表しています。超伝導状態にまで冷却した後に、超伝導体に外部磁場を印加すると、磁束は超伝導内部に侵入することができず排除されます。また、ある温度(Tc)で超伝導転移する物質が、常伝導状態にあるときに外部磁場(黒い矢印)を印加し、その後Tc以下まで冷却し超伝導状態にすると、今まで通り抜けていた磁束は超伝導体の外に排除されてしまいます。超伝導体の内部に磁場が侵入できないのは、磁場を印加したときに超伝導体表面に遮蔽電流が流れるためです。超伝導体がTc以下のとき、この電流が表面から深させいぜい1 m程度の領域を周回することにより、この外部磁場によって誘起された電流が外部磁場を打ち消す方向に磁場を発生させ、侵入を防いでいるのです。(電流が周回している領域は常伝導状態ですが、内部に向かって急激に衰退します。この深さのことを磁場侵入長: λと呼んでいます。)
 このマイスナー効果は、超伝導特有の性質であり、電気抵抗=0とともに、新超伝導体として認知されるための必須事項となっています。
  マイスナー効果を確認する方法はいくつかありますが、実験室では、一定の外部磁場:Hのもと磁化の温度依存性を測定することが多くあります。磁束密度:Bと磁化:Mとの間には、外部磁場をHとするとB = H+4πMの関係が成り立ちます。また、磁化:Mと磁化率(magnetic susceptibility)との間にはM = χHの関係があり、この二つの式よりB = H+4πM = H+4πχHが導かれる。つまり、超伝導体内ではB = 0の状態であるため、M = -H/4πの関係が成立します。したがって、磁化の温度依存性を測定すると、Tcにおいて磁化の値が不連続に転移し-H/4πの値をしめします(Fig.4)。超伝導体のように、外部磁場に対して100%の反磁性をしめす性質を”完全反磁性”と呼んでいます。

 

(3)臨界温度(Tc)・臨界磁場(Hc)・臨界電流密度(Jc)の存在

 超伝導体には、3種類の臨界値(超伝導が壊れてしまう値)があります。

・臨界温度(超伝導転移温度): Tc (critical temperature)

・臨界磁場: Hc (critical magnetic field)

・臨界電流密度: Jc (critical current density)


  超伝導状態は、この臨界値の中でしか存在できません(Fig.6のなかの黄色部分)。もし、超伝導体に大電流を流そうとすると、Jcも大きくしなければいけませんが、その電流によって発生する磁場に対しても対応しなければならないため、Hcも大きくする必要があります。したがって、超伝導を有効に利用するためには、これらの臨界値全てを大きくすることが重要になってきます。しかし、新超伝導体の探索を行う際は、何よりも高い温度で超伝導を示す物質を見つけることが最優先となります(Hc, Jcは、合成の条件を変化させるなどにより向上させることが可能です)

 

(4)第T種・第U種超伝導体

 超伝導体には、磁場に対する挙動の違いから、2種類の超伝導体が存在しています。大きな違いは、印加磁場を強くしていったときの挙動です。Fig.6に第I種超伝導体(type I superconductor)と第II種超伝導体(Type II superconductor)の違いを模式的に示しています(Fig.6は、超伝導体に磁場を印加していったときの様子(上段)と磁化の磁場依存性(下段)を第I種超伝導体(a)と第II種超伝導体(b)ごとに示しています)。
 まず、第I種超伝導体は、臨界磁場: Hcまではマイスナー反磁性を示しますが、Hcで突然常伝導に戻ってしまいます。元素の超伝導体のほとんどがこのような振る舞いを示します。これに対し、第II種超伝導体はある磁場までは第I種超伝導体のように完全反磁性を示しますが、下部臨界磁場: Hc1(lower critical field)に達すると磁化の大きさが減少し、さらに磁場を強くして上部臨界磁場: Hc2(upper critical field)に達するまで連続的に常伝導に移行していきます。この磁化の値が減少していくHc1Hc2の間の領域では、超伝導領域と量子化磁束(quantum flux)と呼ばれる磁場が侵入した常伝導領域の両方が存在する混合状態となっています。この状態は、マイスナー反磁性状態ではありませんが、超伝導状態は保たれています。
 超伝導体が完全反磁性を保つためには、磁場を排除するために余分なエネルギーを必要とします。第I種超伝導体は、低磁場領域から完全反磁性を示し磁場増加と共に大きくなりますが、ついに余分なエネルギーに耐えられなくなって、常伝導に戻ってしまいます。第II種超伝導体では、無理して磁場に耐えるのではなく、一部の磁場の侵入を許すことによって磁場を排除するために必要なエネルギー(完全反磁性を保つためのエネルギー)を緩和させているのです。
 第II種超伝導体では、第I種超伝導体にくらべてTc, Hc, Jcなどの超伝導特性も飛躍的に高くなります。

(5)磁束の量子化

 この現象は、1961年にディーバー(B. S. Deaver)とフェアヴァンク(W. M. Fairbank)[3]及びドール(R. Doll)とノーヴァウアー(M. Nahbauer)[4]により発見されました。彼らは、円筒型に加工した超伝導体(超伝導リング)を空中につるし、リング内部を貫く磁束の測定を行ったところ、磁束が連続的な値をとらずにある単位磁束: Φ0の整数倍の値しかとらないということを見つけました。すなわち、超伝導リングを貫く磁束:Φは、

となる離散的な値しか取り得ないことがわかりました。このことを磁束の量子化(flux quantization)といい、Φ0を磁束量子(fluxoid)と呼んでいます。
 Φが量子化されているということは、超伝導リング表面を流れる電流(リングに磁場をかけることで電磁誘導により流れる超伝導電流)が適当に調節されていることを示しています。そもそも電流とはマクロ(大きな)数の荷電粒子の流れによって生ずるもののため、本来なら連続的な値をとり得るはずです。このような『マクロな尺度での量子化』をみることができるのが超伝導状態の本質です。

 

(6)電子対の形成とエネルギーギャップ
 電子状態から超伝導体を見たときの大きな特徴が、Fig.10 (b)のようにフェルミエネルギー: EF付近にエネルギーギャップ(超伝導ギャップ: superconducting gap)があるということです。エネルギーギャップとは、電子が存在できない領域のことをいいます。そのため、超伝導電子をEF以上の準位に励起させるためには、ある程度以上のエネルギーが必要となります。ここでは、金属の電子状態との比較を行いながら超伝導の発現機構も含めて超伝導の電子状態を見ていきます。
 通常の金属の中では、非常に多くの電子がほぼ自由に動き回っています(固体物理学の分野では自由電子モデルとして理解できます)。一立方センチあたり1022〜1023個という莫大な数の電子が最高で1000 km/s 以上の超高速で動いているわけですから、その動きをイメージするのは大変です。しかし、固体中の電子の運動にはルールが存在し、許される運動の仕方が制限されています。また、電子自身も自転(spin)しており、その方向でspinも2通りの状態に区別され、パウリの排他律(Pauli exclusion principle)による制限を受けます。その結果莫大な数の電子が、それぞれ別々の状態になるのです。別々の状態に識別可能となった電子は、 絶対零度の基底状態においてFig.9(a)のようにエネルギー(運動量)の小さい状態のものから順に許される状態を占有していき、最終的にあるエネルギー以下に全ての電子が詰まった状態となります。このときのエネルギーをフェルミエネルギー: Ef(温度に換算すると約10000℃に相当)呼び、EFにある電子の準位をフェルミ準位といいます。このように、いろいろな制約のもとフェルミ準位を形成する粒子をフェルミ粒子(Fermi particleまたはFermion)と呼ばれています。逆に、あまり制約を受けることがなく、同じ状態にいくつでも占有することが許されている、つまり、最低エネルギーの準位にいくつでも入ることのできる粒子のことをボーズ粒子(Bose particleまたはBoson)と呼んでいます。これら二つの粒子の分布を模式的に示したのがFig.10(a)、(b)となります。
  絶対零度以上の温度では、系全体に熱エネルギーが与えられ、EF付近にいる電子がEF以上の占有されていない状態に励起(熱励起)されています。このような状態が金属などの電子状態にあたります。

 これに対し、超伝導状態ではEF近傍の電子がフェルミ面より下の準位に凝縮することで、新しい基底状態を形成している状態であるといわれています。超伝導の電子状態に関しては、バーディーン(J. Bardeen),クーパー(L. N. Cooper), シュリーファー(J. R. Schrierfer)の三人が理論の構築に成功しました。この理論は、三人の頭文字をとってBCS理論[5]と呼ばれています。後に、この三人は1972年にノーベル物理学賞を受賞しました。
 超伝導を記述するこの理論は、2つの電子が電子-格子相互作用(electron-phonon interaction)[6]によりクーパーペア(cooper pair)[7]と呼ばれる電子対を組むことと、対を組んだ電子がボーズ・アインシュタイン凝縮(BoseEinstein concentration)することが重要な鍵となっています。まずボーズ・アインシュタイン凝縮という状態ですが、これは1928年にアインシュタイン(A. Einstein)によって提唱されたもので、『同種の種類の粒子の集団を冷却するとある温度以下で同一の最低エネルギー状態に落ち込んで凝縮する』というものです。しかし、本来フェルミ粒子である電子をこのモデルに当てはめようとすると無理なように感じます。それを可能にしたのが、BCS理論の中で提唱された電子-格子相互作用を媒介とするクーパーペアの形成です。
 電子-格子相互作用の様子を、Fig.11で示します。まず、(a)格子振動をしている正電荷を帯びたイオンの中に負電荷を帯びた電子が飛んできます。(b)負電荷を帯びた電子により正電荷を帯びたイオンが少し引き付けられます。(c)正電荷を帯びたイオンが引き付けられることにより、部分的に正電荷の密度が濃くなる部分が作られます。(d)この正電荷の密度が濃くなった部分に先ほどとは別の負電荷を帯びた電子が引き寄せられて来ます(ここで、2つの電子の運動量の和は変化の前後では等しく、元々の格子振動も変化を伝えただけで全く変化していません)。この過程で、格子振動と負電荷を帯びた電子の運動の早さを比較すると、負電荷を帯びた電子の運動の方が早いため、結果として2つの電子が対をなして動いているようにみえます。このような描像が電子-格子相互作用になります。
 BCS理論では、EFより少し上のエネルギーにある互いに逆向きのスピン方向を持つ2電子間にわずかでも引力的な相互作用が働けば、電子対はEFよりも少し低いだけ低い)位置にボーズ・アインシュタイン凝縮することで落ち着くことを導きました。つまり、1つの電子でいるよりも格子振動を介してクーパーペアを組んだほうが系全体がエネルギー的に安定になるということです。このとき、EF近傍には、電子がすべて凝縮してしまうため、有限のギャップが形成されます。これが、超伝導状態に見られるエネルギーギャップです。
 したがって超伝導とは、EF近傍の電子がクーパーペアを組み、EFより分だけ下の新しい基底状態に落ち込んでボーズ・アインシュタイン凝縮したときにみられる現象ということになります。

(7)同位元素効果(Isotopic effect)

 超伝導現象を考えたとき、電子の伝導現象であるから電子系に関する現象だけのように思われます。しかし、先のエネルギーギャップの形成のところでも述べたように、電子と格子振動が絶妙に相互作用することで発現する現象ということでした。その『格子振動が関係している』という実験的根拠になったのが、この同位元素効果です。
 同位元素効果とは、超伝導体のTcが同位元素の原子量とともに変化する現象のことです。最も有名なのは、1950年頃にマクスウェル(E. Maxwell)やレイノルズ(C. A. Reynolds)らにより発表されたHgの同位元素効果の実験結果です(Fig.13)。これらの結果から、Tcと元素の質量の間には、

という関係があることがわかりました(現在のところ、多くの超伝導体では = 0.5となっていることが見出されています)。この発見を機に、超伝導は、本来電気伝導を邪魔しているだけと考えられていたイオンによる格子振動が密接に関係しているのではないかという考えが広まり、後の電子-格子相互作用の発見につながりました。
 現在2000種以上の超伝導体が発見されていますが、100 K級の超伝導を発現する銅酸化物超伝導体などでは、この同位元素効果があまり効かないという実験事実が分っています。このことから、銅酸化物超伝導体の超伝導発現機構は、従来の電子-格子相互作用とは異なるのではないかといわれています。(しかし、最近では銅酸化物超伝導体での電子-格子相互作用の重要性が改めて見直された報告もあり、超伝導発現の必須条件なのかどうかという議論がなされています。)
 
この様に同位元素効果では、超伝導発現機構と密接に関係しているため、超伝導機構を探るときの有力な実験事実として扱われています。

 

(8)ジョセフソン効果(Josephson effect)

 この現象は1962年にその名とおりジョセフソン(B. D. Josephson)によって発見されました。
 ジョセフソン効果とは、超伝導でみられる単電子トンネル効果がクーパーペアで起こることをいいます。まずトンネル効果ですが、これは本来電気が流れない薄い絶縁体を挟んだ2枚の金属板に電圧をかけると、電子は絶縁膜を(確率が低いながらも)通り抜け、かけた電圧に比例した微弱な電流が流れるという現象のことです。この現象は、量子力学で言うところの『電子の波動性』を示す実験として有名です。
 ジョセフソンが実験的に示す前までは、このトンネル効果を超伝導体で観測することは無理だろうという考え方が一般的でした。その理由は、1電子でさえ絶縁膜を透過する確率は低いのに、クーパーペアを組んで流れている超伝導電子を同時に透過させることは到底不可能と思われたからです。ところが、実際に超伝導体でトンネル効果の実験をしてみると(Fig.14)、電子対の波動性を反映した超伝導電流によるトンネル電流が流れることがわかったのです。しかも超伝導体同士の場合、電圧がゼロの状態でもトンネル電流が流れ(直流ジョセフソン効果)、さらに、微弱な電圧を加えると交流電流が流れる(交流ジョセフソン効果)ことがわかりました。これらの現象は、両側にある超伝導体の波動関数の位相差によりあらわれるものです。

 

・直流ジョセフソン効果
 超伝導体1の位相をφ1、超伝導体2の位相をφ2とし、2つの位相差をθ = φ2 - φ1とする。このとき、絶縁体をとおして

と表されるクーパーペアによるトンネル電流が流れる。

 

・交流ジョセフソン効果
 両端の超伝導体に電位差: Vを与えたとき、接合部にはVに比例した周波数をもつクーパーペアによる交流電流が流れる。そのときの電流は、

と表される。
ジョセフソン効果は、まさに超伝導の最も基本的な現象ということができます。
 ジョセフソン効果では、微弱な電流や電圧で超伝導を生かした様々な振舞いをみることができるため、超伝導を電子デバイスに応用する道を拓きました。

 

[1]  W. Meissner and R. Ochsenfeld, Naturewissen 21 (1933) 787
[2]  B. D. Josephson, Phy. Rev. Lett. 1 (1962) 251
[3]  B. S. Deaver and W. M. Fairbank, Phy. Rev. Lett. 7 (1961) 4
[4]  R. Doll and M. Nabauer, Phy. Rev. Lett. 7 (1961) 51
[5]  J. Bardeen, L. N. Cooper and J. R. Schrierfer, Phys. Rev. 108 (1957) 1175
[6]  H. Frolich, Phys. Rev. 79 (1950) 845
[7]  L. N. Cooper,  Phys. Rev. 104 (1956) 1189