The D. Soraki teaches a workshop prior to the Red Bull Dance Your Style World Final in Frankfurt, Germany on November 1, 2023.
© Eva Berten/Red Bull Content Pool
ダンス

ヒップホップの歴史:現在・過去・未来を学ぶ

ヒップホップの文化運動としての誕生から音楽・ダンスでの世界的人気の獲得までのダイナミックな歴史を簡単に紐解いていく。
Written by FraGue Moser-Kindler
読み終わるまで:9分公開日:
ヒップホップ音楽ダンスカルチャーの領域にまたがるワードだが、その広大なカバー範囲のどこに立つかによってその意味は大きく異なってくる。
ヒップホップを声なき者に声を与えた革新的な文化運動として捉える人がいれば、ビートとリズムを超越した斬新な音楽ジャンルとして捉える人がいる。また、身体を使ってメッセージを発信するダイナミックなダンススタイルとして捉えている人もいる。
本記事ではヒップホップの多角的な世界を覗き込み、上記のような複数の捉え方が生まれた背景を解説しつつ、さらに奥深くへ踏み込むための方法を教えていく。
01

表現と自我の文化運動

1970年代後半のニューヨークシティの喧騒のストリートで誕生したヒップホップカルチャーは、少数派のコミュニティを中心とした若者たちの自己表現とエンパワーメントの道標として台頭した。ブロンクスの苦しい社会経済的状況と娯楽不足への回答として生まれたこのカルチャーは、瞬く間に世界的な文化運動へと進化していった。
ヒップホップがそのナラティブ(物語)を紡ぎ始めたのは、ブロンクスで開催されていた活気溢れるブロックパーティだった。Kook Herc(クール・ハーク)Grandmaster Flash(グランドマスター・フラッシュ)のようなDJたちがそのリズムの基礎を作り上げていった。
これらのブロックパーティは純粋なパーティとしてだけではなく、若者たちが自分たちの声が反映されていないと感じている社会で自己表現をするためのプラットフォームとしても機能していた。
レジェンドブレイカーのAlien Ness

レジェンドブレイカーのAlien Ness

© Kien Quan / Red Bull Content Pool

ヒップホップカルチャーの中心に位置しているのは、DJMC(ラップ)グラフィティブレイキン(ブレイクダンスと呼ばれるときもある)の4要素だ。DJはヒップホップカルチャーの音楽的要素の基盤で、ブレイクビーツとターンテーブルを駆使して音楽のフロウを維持する役割を担う。
MCまたはラップは声を使った表現方法として誕生した。韻を踏んだリズミカルな語りでストーリーやメッセージを伝えていく。一方、視覚面を担うグラフィッティは色鮮やかな壁画やタグで都市の情景を描いており、やがて都市部に個性を与えるストリートアートへと成長していった。
そして、ヒップホップの身体的表現であるブレイキンは、ダンスとスポーツ、アートを組み合わせたアートで、歩道やダンスフロアをステージにしてパフォーマンスが行われた。
やがて、ヒップホップカルチャーは国際的な影響力を持つようになった。音楽・ダンスのいちジャンルを超越し、独自の哲学、ファッション、語学、視点を備えているひとつのライフスタイルとなった。
ヒップホップカルチャーの4要素はそれぞれが特定の世代の現実と願いが反映された物語・社会的意見・コミュニティを語り、創出するためのツールとなった。そしてヒップホップが海を越えて広まっていくと、多種多様なグループの文脈を組み込みながら、新しい表現方法サブジャンルが生み出されていった。
そのインパクトは上記の貢献に留まらず、今も世界中で社会的、政治的、文化的対話を生み出し続けている。
ヒップホップカルチャー構成要素は、お互いに深く関係し合っているが、ビジネス面の興味進化を続けるクリエイティビティによって、音楽とダンスを中心にそれぞれ独自の個性が形成され、文化運動の外側まで領域を広げていった。
Red Bull BC One All Starsがレジェンドたちとニューヨークの歴史を学ぶ動画をチェック!

42分

第6話: レジェンドと巡るニューヨーク

第6話あらすじ: 日本、フランス、ブラジル、アメリカを代表するブレイカー達がヒップホップ発祥の地、ニューヨークに集結した。歴史の生き証人、グランドマスター・カズがヒップホップを構成する代表人物たちを紹介する。さらに、同地で開催されたRed Bull BC One World Final 2022の模様も見ることができる。【Breaking Beyond -ブレイキンの世界-(シーズン1)】

日本語 +10

02

ヒップホップミュージックの台頭

音楽ジャンルとしてのヒップホップは、元々は文化的革命を支える音楽として機能していたが、現在は世界的人気を誇るジャンルに成長している。ビート、ブレイク、スポークンワードの組み合わせは完全に新しいサウンドを生み出したのだ。
Run DMC(ランDMC)Public Enemy(パブリック・エネミー)N.W.Aなどのアーティストたちが、自分たちの音楽で低所得者層の生活や社会的不平等、抵抗を語ることで、ヒップホップをストリートからメインストリームへと押し上げた。その正直で大胆な語り口は心の奥深くに響き、より幅広いオーディエンスの獲得へと繋がっていった。
Rainbow Disco Clubにも出演したDJ Skeme Richards

Rainbow Disco Clubにも出演したDJ Skeme Richards

© Carlo Cruz/Red Bull Content Pool

ヒップホップミュージックは音楽リスナーと地理的境界を超越し、世界中の様々なコミュニティと文化に影響を及ぼしている。1990年代はこのジャンルにとって特に重要な時代となり、Tupac Shakur(2パック)The Notorious B.I.G.(ノートリアス・B.I.G.)Lauryn Hill(ローリン・ヒル)などがその道と価値を作り上げていった。
この時代のヒップホップミュージックは音楽チャートを独占し、さらにはファッション言語ライフスタイルにも爪痕を残した。その大きな影響力に目を付けたレコード会社たちが次々とこのジャンルに投資し、ヒップホップミュージックは前例にない大きさの商業的成功を手にすることになった。
2000年代が終わるまでにヒップホップミュージックはJay Z(ジェイZ)Eminem(エミネム)OutKast(アウトキャスト)などのアーティストたちとともにメインストリームで確固たる地位を築き、世界的な知名度を得るようになっていた。そのインパクトは否定できないほど大きく、音楽業界のトレンドに影響を与え、英国のグライムのような新しいサブジャンルの誕生も促した。
現在もヒップホップミュージックは進化を続け、影響を与えながら、巨大な力として音楽業界にそびえ立っている。内省的なライムが特徴的なKendrick Lamar(ケンドリック・ラマー)や様々なジャンルを自由に組み合わせるKanye West(カニエ・ウェスト)のような新たなスターやスタイルが生み出されてきた。
デジタル時代に突入後はそのリーチをさらに伸ばしており、ヒップホップカルチャーとストリーミングサービスの上位に位置しながら、ソーシャルメディアのトレンドに影響を与え続けている。
ラップは音楽業界の一大勢力となった

ラップは音楽業界の一大勢力となった

© Gabriele Seghizzi / Red Bull Content Pool

その世界的なインパクトの大きさは、世界各国で受け入れられ、現地語化されていることからも理解できる。ヒップホップミュージックを介したユニバーサルで多様な対話が生み出されているのだ。また、その尽きることのない魅力と適応性の証左として、ヒップホップミュージックは社会のナラティブを形成・反映し続けている。ブロンクスで始まったひとつの運動は真の世界言語となっている。
このメインストリームでの高い認知度によって、多くの人がヒップホップという言葉を聞いて最初にイメージするのは音楽だ。しかし、同レベルの認知度を誇るライバルが存在する。
03

ヒップホップダンスの広まり

ヒップホップフリースタイル、またはニュースタイルとも呼ばれるときがあるヒップホップダンスは、同じくヒップホップカルチャーから派生したダイナミックで表現力に優れたアートフォームで、その起源は1960年代後半から1970年代前半のニューヨークシティの低所得者層まで遡ることができる。
アクロバティックなムーブやフロアワークを軸としているブレイキンとは異なり、ヒップホップダンスはその自由さとヒップホップミュージックのビートに寄り添ったリズミカルなムーブが特徴的だ。
ストリートダンスとして誕生したこのダンススタイルの核にあるのは、自発的かつ即興的な表現手段で、ダンサーたちはそれぞれのスタイルと個性をアピールしている。その基本ムーブはソーシャルダンスとMTVでラップに併せて踊るダンサーたちが生み出したムーブを組み合わせたものだ。
ヒップホップダンスは元々フリースタイルだった

ヒップホップダンスは元々フリースタイルだった

© Emily Gardner / Red Bull Content Pool

ヒップホップミュージックが勢いを得ていく中、ヒップホップダンスも勢いを得ていった。1980年代と1990年代はヒップホップダンスがメインストリームメディアで取り上げられるようになったが、その大きな理由はミュージックビデオや映画、テレビ番組などに取り上げられたところにある。たとえば、テレビ番組『Soul Train』は誰もが知っているはずだ。
この頃になると、ダンスクルーとソロアーティストたちが人気を獲得するようになり、ストリート発祥のダンスを世界中のステージやスクリーンへ広めていった。ジャズやコンテンポラリーなど他のダンススタイルの要素を組み合わせているヒップホップダンスは多様化しているためアクセシビリティが高く、より幅広い層へアピールできている。
また、同時期にダンスバトルコンペも生まれており、どちらも今やダンサーが自分のスキルを披露して知名度を獲得するために不可欠なプラットフォームとなっている。
現在、ヒップホップダンスはヒップホップカルチャーの中で “変化を続ける要素” として位置づけられており、ヒップホップカルチャーはもちろん、メインストリームのダンス業界でも確固たる地位を築いている。ヒップホップダンスのメディアとデジタルプラットフォームでの台頭によって世界中でファンが増えており、新世代のダンサーたちが次々と生まれている。
ワークショップ、ダンススクール、オンラインレッスンなどがヒップホップダンスのアクセシビリティをさらに高めており、世界中のファンが触れられるようになっている。革新性と適応性を備えているヒップホップダンスは、今もモダンカルチャーにおいて活気とパワーに溢れる表現手段として認識されており、新世代のクリエイティビティとエナジーを世界に紹介している。

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英語 +3

ヒップホップの世界を革新的な文化活動としての始まりから音楽やダンスで世界的な影響力を持つまでの成長過程まで振り返っていけば、ヒップホップがただのジャンルやスタイルではないということが明確に理解できる。ヒップホップは成長しながら影響と力を与え続けていく生物なのだ。あらゆる境界線を越えながら、世界のあらゆる人たちと繋がっていく。
ラップのリリック、ストリートダンサーの流れるようなムーブ、グラフィティの力強いストロークを問わず、ヒップホップは進化を続けている。クリエイティビティと自己表現の世界言語であり、その姿を変え続けているヒップホップは時代性と本質を両立させており、そのインパクトとレガシーは時代を超えている。
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