長澤まさみ「ロストケア」 張りつめて演じた検事役

「食や栄養への関心も高い」という長澤まさみ(石井健撮影)
「食や栄養への関心も高い」という長澤まさみ(石井健撮影)

「ロストケア」(前田哲監督)は、高齢者介護を主題に扱った社会派ミステリーだ。42人もの高齢者を殺害した介護士が、自らの行為を「救いだ」と主張する。この被告人に相対する検事を演じた長澤まさみ(35)は、「どのシーンも疲れたな」と緊張感をもって臨んだ撮影を振り返る。

長澤が演じる検事の大友秀美は、ある殺人事件の容疑者に浮上した介護士の斯波宗典が訪問先の高齢者を40人以上殺害していたことを突き止める。

調べに対して斯波は、自分の行為は彼らや家族を「救済」するものなのだと主張する。

正気か狂気か。信念を宿した瞳で大友を射貫く斯波に松山ケンイチ(38)。松山との共演は、これが初めて。映画は、それぞれの「正義」をぶつけ合う2人の芝居が見どころとなる。

それだけに「緊迫感が大事なシリアスなシーンが多かった。どこがというより、どれもつらかったし、疲れたなって感じ」と明かす。

大友を演じるにあたり「説得力をもたせること」を心がけた。

映画「ロストケア」の一場面©2023「ロストケア」製作委員会
映画「ロストケア」の一場面©2023「ロストケア」製作委員会

大友は連続殺人事件を任されるだけの経験があり、信頼を寄せられる検事であるはずで、そう見えるだけの説得力をもちたい。

これまでシリアスからコミカルまで幅広い役を多数演じてきたが、そうした過去の印象の一切を払拭しなくてはならない。

そこで撮影期間中は、「自分は本物の検事だ」と言い聞かせた。検事の日常を想像し、自身を厳しく律する日々を送ったという。

捜査の過程で大友は、被害者家族が置かれた介護の厳しい現実に直面する。

家族の絆は、時に鎖になってしまうのか。令和2年の主演作「MOTHER マザー」(大森立嗣監督)では、17歳の息子に殺人をそそのかす毒母を演じ、本紙の取材に「母親っていう存在の〝濃さ〟を考えさせられた」と語っていた。

家族と介護という課題と向き合った今回は、「本当は、社会全体が一つの家族なのではないか」という感慨を抱いたという。

号泣する場面も多いが、これは「俳優は、基本的に泣く芝居が多いんです。私は、いつも泣いています」とけろりと語る。

「コンフィデンスマンJP」シリーズでも泣いた、「シン・ウルトラマン」でも、ドラマ「エルピス―希望、あるいは災い―」でも泣いた…と出演作を指折り数えながら、「泣く芝居って体力がいるんですよ。暑くて流す汗とはわけが違いますからね。ともかく俳優は、そういうものです」と教えてくれた。

体力といえば、「俳優は肉体労働」ともいう。今を代表する女優の一人だ。多忙なだけに、「健康じゃないと、この仕事は続けられない」と強調する。

そこで「今、関心があるのは健康と栄養」なのだという。もともと食への関心が高いそうで、栄養について学んでおり、「今年は、食についての仕事ができたらいいなあ」。(石井健)

24日から全国公開。1時間54分。共演は柄本明、鈴鹿央士ら。葉真中顕の同名小説が原作。

ながさわ・まさみ 昭和62年生まれ、静岡県出身。平成12年、第5回「東宝シンデレラ」オーディションでグランプリを受賞。同年、女優デビュー。映画は「世界の中心で、愛をさけぶ」「モテキ」「海街diary」など多数。ドラマ、舞台でも活躍。

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