初代はやぶさの知見 米探査機オシリス・レックスの成果に貢献

オシリスがベンヌの表面から試料を採取する様子の想像図 (NASA提供)
オシリスがベンヌの表面から試料を採取する様子の想像図 (NASA提供)

小惑星「ベンヌ」で採取した岩石試料のカプセルを、米航空宇宙局(NASA)の探査機「オシリス・レックス」が日本時間24日深夜、地球に届けた。小惑星からの「試料の持ち帰り(サンプルリターン)」は世界で3番目。その成功を支えたのは、世界で初めて小惑星から試料を持ち帰った日本の探査機「初代はやぶさ」が、満身創痍(そうい)で勝ち取った貴重な知見だった。

苦い経験を参考に計画

「オシリス・レックスの計画は、初代はやぶさがどういう取り組みを行ったかについて、米国チームが丹念に調べ、参考にしながら立案し進められた」

オシリス・レックスプロジェクトの正式メンバーで、日本の探査機「はやぶさ2」プロジェクトにおいても試料採取や分析の中心的役割を務めた橘省吾・東京大教授(宇宙化学)は、こう明かす。

初代はやぶさは、2003年5月に内之浦宇宙空間観測所(鹿児島県)から打ち上げられた。05年11月に小惑星「イトカワ」に着地して試料を採取し、10年6月に地球に帰還した。だが往復の約7年は、トラブルの連続だった。

小惑星イトカワに接近する探査機「初代はやぶさ」の想像図(池下章裕氏/MEF/JAXA・ISAS提供)
小惑星イトカワに接近する探査機「初代はやぶさ」の想像図(池下章裕氏/MEF/JAXA・ISAS提供)

燃費に優れ、長距離飛行に向くとされていたイオンエンジンは、飛行中に電極が摩耗するなどして故障や劣化が相次いだ。飛行に欠かせない姿勢制御装置も、故障が多発し、地球からの綱渡りじみた遠隔操作で、やっと帰還したというのが実情だった。ただ、この苦い経験で得られた知見が、その後の小惑星探査に大いに役立てられた。

はやぶさ2の兄弟的存在

初代はやぶさが悪戦苦闘していた2000年代の半ば、日米でほぼ同時に、小惑星からのサンプルリターンを目指す新たな探査機プロジェクトが始動した。米側はオシリス・レックス、日本側ははやぶさ2で、小惑星探査で先行する日本の知見を生かしながら、相互に協力することになった。

協力は非常に密で、それぞれのチームのメンバー3人ずつが相手チームにも正式メンバーとして籍を置いた。その1人が橘教授だ。「初代はやぶさの知見を参考にしつつ、日米両チームが情報交換と議論を活発に繰り返しながら、それぞれの小惑星探査機を作り上げていった」と振り返る。

具体的に機体のどの部分ということではなく、小惑星での試料採取をどのように進めるかという計画策定の方針などで、「初代はやぶさの知見が、直系のはやぶさ2だけでなく、オシリス・レックスにも脈々と流れている」と橘教授は説明する。その上で「オシリス・レックスはよく、米国版はやぶさと呼ばれるが、はやぶさ2と兄弟のような存在で、ライバル関係でもあるのだ」と指摘する。

知見を世界で活用すべき

はやぶさ2は20年12月、小惑星「リュウグウ」の試料約5・4グラムを持ち帰った。一方、オシリス・レックスは今回、ベンヌの試料を約250グラム持ち帰ったとみられている。リュウグウとベンヌは、ともに有機物や水が豊富に存在するタイプとされ、よく似ている。既にリュウグウの試料からは、液体の水や生命の源となるアミノ酸が発見されており、ベンヌの試料との比較に期待が高まっている。

 オシリス・レックスが撮影した小惑星ベンヌ(NASA提供)
オシリス・レックスが撮影した小惑星ベンヌ(NASA提供)

橘教授は「2つの天体の試料を分析することで、共通する部分と異なる部分が見えてくるだろう。両方の分析結果を比較するのがとても楽しみだ」と話す。

共通部分からは、太陽系の中で普遍的に起こった出来事への理解が進む上に、異なる部分からは、2つの小惑星それぞれがたどった歴史が見えてくるからだ。また「私たちが見たこともなく、想像もしていなかったようなものが発見されることも期待している」とも。

小惑星は、火星と木星の間にある小惑星帯に数多く存在し、地球に飛来する隕石(いんせき)の「故郷」とみられている。また、太陽系誕生時の特徴をよく保っていることが多いともいわれる。そのため、小惑星の試料を分析することは、地球生命の起源や、太陽系の成り立ちへの理解につながる。

橘教授は「小惑星探査は人類が宇宙をどう理解し、今後の文明をどう築いていくか判断する助けになる。初代はやぶさの知見は、世界で活用していくべき大きな財産なのだ」と話した。

(伊藤壽一郎)

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