ゆがんだ街「庭まで消えた」 能登地震で液状化被害千軒超、再建断念も

石川県内灘町では液状化が酷く、道路や電信柱が歪んでいた=25日午後(岩崎叶汰撮影)
石川県内灘町では液状化が酷く、道路や電信柱が歪んでいた=25日午後(岩崎叶汰撮影)

元日の能登半島地震では、地盤の液状化による被害も各地で確認されている。中でも金沢市に近い石川県内灘町とかほく市では、計千軒以上の住宅が液状化被害に遭ったとみられる。平衡感覚を失うほど自宅が傾いた住民らは途方に暮れ、再建を断念する人もいる。

波打つ道路、斜めに倒れた電柱、コンクリートが割れて傾いた住宅-。内灘町西荒屋地区から、かほく市大崎地区にかけての県道一帯は、街全体がゆがんだかのように、あらゆるものが傾いていた。それぞれの建物には、最も危険度の高い「立ち入り危険」の赤紙が張られている。

「自宅前の階段が一枚ずつベリベリとめくれた後、コンクリートがバキバキと音を立てて割れた。まるでスローモーションを見ているかのようだった」。町立西荒屋小学校の近くに住む鍛原(かじわら)恵夫さん(77)はそう地震当時を振り返った。

築約60年の家に妻と娘夫婦、孫の5人で暮らしていた鍛原さん。家族で穏やかに正月を過ごすはずが、地震で一変した。

内灘町は最大震度5弱を観測。ゆっくりした揺れで物が落ちたりはしなかったが、外に出ると驚くべき光景が広がっていた。コンクリートが盛り上がり、家がせり出して庭がなくなっていた。自宅前に止めていた車はタイヤが泥に埋まっていた。

いったん避難所に身を寄せたが限界を感じ、現在は家族で自宅に戻っている。玄関のドアは壊れ、ブルーシートを張ってしのぐ。水は使えず、簡易トイレで用を足し、洗濯はコインランドリーを利用する。風呂からは砂が湧き出している。

アパートの空き部屋を見つけ、2月には移り住むが、自宅の再建は全く見通せない。「道路も直さないといけないし、これだけ地盤が緩いとまた起きる可能性もある。『もう住めんやろ』という人もいる」と肩を落とす。

内灘町によると、罹災(りさい)証明の発行申請は25日時点で1363件あり、液状化被害が多く含まれるとみられる。かほく市でも大崎地区などで被害が数百軒規模に達し、同地区の榊原神社では石碑などが大きく傾く。

「(液状化で)近くの100軒くらいがだめになった」。神社近くに住む男性(75)はそう話す。自宅は倒壊の危険が高いと判定されたが、避難所の寒さに耐えられず、自宅に戻った。ガレージのコンクリートは隆起して割れ、砂が噴き出した状態だ。

同居の母親(98)は老人ホームに避難できたため、男性は1人自宅で過ごす。トイレは近くのショッピングモールを利用し、風呂は金沢市内のビジネスホテルに泊まって入ることもある。

男性は「死ぬまでここで無事に過ごせるかと思っていたら、まさかこんなことになるとは。もう立て直せる気がしない」と疲れた様子で話した。

地盤流動で被害拡大か

地震直後の4日から内灘町やかほく市の現地調査を実施した防災シンクタンク「だいち災害リスク研究所」(東京)の横山芳春所長(理学博士)が取材に応じ、付近の延長8・5キロ程度の範囲で液状化の被害を確認したことを明らかにした。

横山氏によると、被害地域は内灘砂丘のすそで、河北潟につながる水路に近い砂地盤。地下水の水位も浅く、液状化が起きやすい条件がそろう。その中で震度5レベルの揺れが起き、被害が発生したとみている。

さらに液状化に伴い、地盤が流動する「側方流動」が起きた可能性も指摘する。斜面で側方流動が生じると表層地盤が低地へ動くことで、段差や地割れを作りながら地盤が沈下、隆起して地表に大きな形状変化を与えることがあるという。

横山氏は「液状化と側方流動が相次いで起きたことで、被害が広範囲に広がったのではないか」と話している。(大渡美咲)

【用語解説】液状化現象

地震の振動などで地盤に含まれる地下水の水圧が変化し、砂同士の結びつきが弱まることで、地盤が液体状になる現象。同じ成分や大きさの砂からなる土が、地下水で満たされると起こりやすい。湖や海の埋め立て地などで発生するケースが多い。

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