池上彰さんの著書『知識ゼロからの池上彰の世界経済地図入門』より、ニュースを読むときに役立つ内容を厳選して、メールマガジン会員の皆様へ特別にお届けします。

連載第3回は、アメリカ経済と金融勢力についてご紹介します。

コロナ禍で開催された東京オリンピックも閉幕しましたね。オリンピックを起爆剤に日本経済が回復することが期待されていますが、コロナ前の水準に戻るのは果たしていつになるでしょうか。

さて、深刻な景気後退に陥った世界経済の見通しは、まだ不確実な状況です。日本の2020年度のGDP(国内総生産)は、実質の伸び率がマイナス4.6%となり、リーマン・ショックが起きた2008年度のマイナス3.6%を超える最大の下落となりました。このように、いわゆる「コロナショック」の比較の対象として度々登場するのが「リーマン・ショック」です。

100年に一度の経済恐慌と言われたリーマン・ショックとは、いったい何だったのでしょう。きっかけとなったサブプライムローンとは、どんな問題だったのでしょうか。わかりやすく解説していきましょう。

【第3回】 アメリカ経済と金融勢力について

サブプライムローンが金融危機を招いた

いまや「サブプライムローン」という言葉は金融危機を象徴していますが、もともとはアメリカの低所得者層を対象にした住宅ローンのことです。プライムとは優遇する、サブは準ずるですから、金利が優遇されない高金利のローンのことですね。

かつて好景気に沸いていたアメリカでは、住宅ブームが過熱しました。住宅バブルで価格が上昇すれば、住宅の担保価格が上がり優遇金利に借り換えできるという売り文句で、本来ローンが組めない低所得者層までマイホームを購入することができたのです。

しかし、住宅ブームが去ると住宅価格が下落。サブプライムローンからプライムローンへの借り換えができなくなったため、返済不能者が続出しました。こうして住宅ローンが不良債権化し、アメリカの株価が暴落。この「サブプライムローン問題」は、リーマン・ショックを発端とした世界的な金融危機の引き金になったとされています。

影響を世界に広げた「証券化」

アメリカでの問題にすぎなかったサブプライムローンが、なぜ全世界にまで影響を与えたのでしょうか。その鍵は「証券化」にあります。

実際にローンを貸し出す金融機関は、高リスクのサブプライムローン債権を証券会社に売却していました。証券会社はその債権を証券にして細分化し、他の社債などと組み合わせて販売。高利回りの金融商品として世界中のヘッジファンドや投資銀行が購入したのです。リスクを福袋に混ぜてお買い得商品に仕立てたというわけですね。リスクを世界中に分散させていたことが、逆に焦げ付きの影響を広範囲に拡大させてしまいました。

リーマン・ブラザーズの破綻で経済恐慌に

アメリカの住宅バブル崩壊により、サブプライムローン関連証券を大量に購入していた大手投資銀行「リーマン・ブラザーズ」は、多額の損失を抱えて倒産します。政府の救済を受けられず、負債総額約64兆円という史上最大の経営破綻でした。その影響が世界に拡大していきます。これが「リーマン・ショック」ですね。

リーマン・ブラザーズの破綻に続き、大手の生命保険会社AIG(アメリカン・インターナショナル・グループ)も経営危機に陥ります。すると、次はどこか? と金融機関どうしの短期のお金の貸し借りも滞り、世界のお金の流れがストップしたことで世界経済が大混乱に陥りました。

日本にも大きな影響を及ぼした

アメリカで始まった金融危機は日本にも大打撃を与え、株価が暴落します。リーマン・ショック直後の2008年10月末、日経平均株価はバブル後よりもひどい26年ぶりの安値水準を記録しました。

また、世界的な大不況を受けて、自動車関連などの製造業を中心に非正規雇用者が解雇される「派遣切り」が社会問題化しました。今回のコロナ禍においても雇用が急速に悪化し、製造業や飲食、小売、宿泊業などを中心に非正規雇用者の解雇や雇い止めが問題になっています。

なるほどティップス 注目ワード「デフォルト」って何?

よく新聞やニュースで見聞きするこの言葉。国や債権がデフォルトすると言いますが、どういうことなのでしょうか。

デフォルトとは、国家が破産してしまうこと。国のお金が足りないとき、国債を発行して市場からお金を借ります。その借金を返済するために、また国債を発行する。しかし、この国はどうも危なさそうだ、とされると国債の金利が高くなり、誰もお金を貸してくれません。すると、借金を返せなくなりデフォルト(債権不履行)となるのです。

新型コロナウイルス感染拡大による景気の落ち込みの影響もあり、昨年はレバノン、エクアドル、アルゼンチンといった新興国が債権不履行を起こしています。アルゼンチンはデフォルトの回数が最も多い国のひとつで、6年ぶり、9回目のデフォルトに陥りました。

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『知識ゼロからの池上彰の世界経済地図入門』
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執筆者紹介池上 彰いけがみ あきら

1950年8月9日長野県松本市生まれ。慶應義塾大学経済学部卒。

元NHK記者主幹。現在はフリージャーナリスト。名城大学教授、東京工業大学特命教授、東京大学客員教授、立教大学客員教授、信州大学特任教授、愛知学院大学特任教授、関西学院大学特任教授、順天堂大学特任教授。

1973年NHK入局。報道局記者を歴任し1994年から「NHK週刊こどもニュース」の初代お父さん役を11年間続けた後、2005年にNHKを退職。在職中から執筆活動を始め、現在は出版、講演会、放送など各メディアにおいてフリーランスの立場で活動する。鋭い取材力に基づいたわかりやすい解説に定評がある。

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