土俵の神様に愛された白鵬 「もやし」「マッチ棒」のたゆみない努力<無双の横綱㊤>

2021年10月4日 06時00分
秋場所前の今年8月下旬、合同稽古ですり足をする白鵬。いつも基礎運動を念入りに行っていた=両国国技館の相撲教習所で

秋場所前の今年8月下旬、合同稽古ですり足をする白鵬。いつも基礎運動を念入りに行っていた=両国国技館の相撲教習所で

 半年も前の出来事。だが、それが起きたことが、いまだに信じられないような白鵬の表情と口ぶりだった。

◆コロナの影響も?

 「いつも通りの稽古をしたら、ピキッといったんですよね。しかも(前に)人が立ってないのに。自分の体重で立ち合いの稽古をしたらですよ」
 新型コロナウイルスに感染し全休を強いられた今年1月の初場所直後のこと。感染から回復し、春場所に向け稽古を再開したら、大きな負荷をかけてもいないのに右膝が突然、悲鳴を上げた。その瞬間を、7月の名古屋場所前に振り返った時の言葉だ。
 春場所へ仕上げるために気がせいていたのかもしれない。横綱自身はコロナウイルスの影響を疑う。それからは膝に水がたまってはそれを抜くことの繰り返し。血が混じった液体の量は計約4リットル。春場所は何とか土俵に立ったが2連勝後、3日目から休場した。ドクターストップだった。
 その時点で5場所連続休場。手術を強いられた。時間的に夏場所に間に合わせるのは無理で「名古屋場所で進退を懸ける」。そう言わざるを得なくなった。横綱審議委員会(横審)からは、連続休場で「注意」を決議されていて、外堀も埋められた。

◆基礎運動に手を抜かない

 身長175センチほど、体重は60キロあまり。「もやしみたいに青白い青年やった」。来日直後、白鵬の面倒を見たアマチュアの名門、摂津倉庫の浅野毅さん(故人)は語った。白鵬自身も「マッチ棒」と自嘲する。番付に初めてしこ名が載った2001年夏場所は3勝4敗。負け越しから始まった土俵人生だった。
 白鵬ほど、四股、すり足、てっぽうの基礎運動を大切に、念入りにする力士を見たことがない。すり足は、腰を下ろしたまま一歩ずつ土の感触を確かめるようにゆっくりと負荷をかける。てっぽうでは、柱に当たる瞬間に息を吐く。それを毎日、1時間以上かけて行う。基礎運動で手を抜いている弟弟子にはこう言った。
 「土俵の神様に見られていると思ってやらないとダメ」
 打ち立てた記録は鮮やか。2位の大鵬の32度を大きく上回る歴代最多45度の優勝。横綱として899勝を挙げ、通算1187勝。
 「横綱はなることが大変だけど、10年務めたら、心も体も横綱の中の横綱になるんじゃないかと自分に言い聞かせてやってきた」
 結果、14年以上、最高位に在位した。土俵に神様がいるとすれば、白鵬ほどその神様に愛された力士はいない。まさに不世出の横綱だった。
   ◇   ◇
 大相撲で数々の金字塔を打ち立て、土俵で一時代を築いた白鵬が引退した。土俵では並ぶ者なき「無双」を誇った横綱のこれまでの歩みを振り返り、今後の土俵人生への意気込みを聞く。(この連載は禰宜田功が担当します)

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