G7「伊勢志摩」舞台に脱炭素化に向けた移動の未来、観光振興を考える 16日から交通相会合

2023年6月16日 06時00分

大小さまざまな島と、複雑な海岸線が特徴のリアス海岸が織りなす「多島美」の世界。伊勢志摩国立公園の英虞湾は人々の心を癒やし続ける(本社ヘリ「おおづる」から)

 三重県志摩市で16日から「G7三重・伊勢志摩交通大臣会合」が開かれる。2016年にG7伊勢志摩サミットが開かれた国際観光地・志摩に再び注目が集まる。世界が温暖化や脱炭素など地球規模の課題に直面する中、自由でスムーズな移動をどう確保するか、各国が取り組みや知見を出し合う。議長国の日本でも新技術を生かした次代の移動のカタチが見え始めている。(山口登史、山田晃史)

◆東京メトロ、無料アプリで個人のニーズに合わせた経路提案

複雑に入り組んだ東京の鉄道網。東京メトロの「東京メトロmy!アプリ」はスムーズな移動を支援する=東京都台東区で

 地上から地下深くまで、複雑な網目のように張り巡らされた首都・東京の鉄道網。乗換駅の選択、複数路線が入る駅の上下移動、混雑、変わる運行状況…。目的地への移動は簡単ではない。東京メトロは、個人のニーズに即した合理的な経路を提案するスマートフォンの無料アプリ「東京メトロmy!アプリ」で移動を支援している。
 経路検索は個々のその時の状況に対応する。ベビーカーやスーツケースなどと移動する人向けにエレベーターが使える経路を示す。満員電車を避けたい場合や、雨にぬれないように屋内や屋根がある道を優先して選べる。
 経路は駅間はもちろん、目的地の住所でも探せ、徒歩やバス、シェアサイクル、タクシーなど別の移動手段とも組み合わせ可能だ。電車と自転車で出かけることが多い川崎市の会社員(33)は「自転車のレンタル状況まで分かるし、予約するアプリとも連携していて便利」と話す。
 4秒ごとに更新される列車の走行位置が確認できるほか、車両ごとの混雑具合、乗換駅の構内の移動方法、一部トイレの空室、空きロッカーなど「かゆいところに手が届く」情報も提供する。飲食店やレジャー施設の予約サイトとも連携している。
 アプリは2020年から開始。ダウンロード数は今年5月末に175万回に達した。担当者は「ワンストップでできることに磨きをかけ、利便性を向上させたい」と意欲を見せる。

◆藤沢・鎌倉両市 自動運転車で健康情報共有

健康データを測定できる機器を備えた自動運転車を使った実証実験=神奈川県藤沢市で(三菱商事提供)

 高齢者の健康管理を支援しようと、神奈川県の藤沢市と鎌倉市が、自動運転車で移動中に測定した心電図や血圧などの健康データを病院とオンラインで共有、スムーズに診察へつなげる実証実験を行っている。
 両市は2050年には、全市民に占める65歳以上の割合が40%前後に達するという。また人口減などで公共交通機関の運転手不足も懸念され、自宅と病院を結ぶ「足」の確保が大きな課題だ。隣接する両市は21年から湘南鎌倉総合病院(鎌倉市)などと連携し実験に取り組んでいる。
 自動運転車の性能向上を受け、昨年は完全に自動運転可能なタイプを活用。藤沢市の研究施設「湘南ヘルスイノベーションパーク」で、患者役の高齢者がかかりつけ医を受診するとの想定で実験を行った。参加者は移動中の車内で、酸素飽和度や体温などの健康データを計測。移動中に共有したデータを基に、医療機関スタッフが問診した。
 将来は、車内でのデータから処方箋を発行。薬の受け渡しの時間短縮も進めたい考えだ。実験に加わる三菱商事の担当者は「法の整備状況に合わせ社会実装を早く進めたい」と話した。

◆三浦半島観光 予約・決済をサイトで全て一括

三浦半島を電動キックボードで移動(京急電鉄提供)

 東京駅から1時間半で着く神奈川県の観光地・三浦半島。土地勘がなくても周遊できるインターネットサイトが「三浦COCOON(コクーン)」だ。鉄道のデジタルチケットやレジャーの予約・決済、経路検索がまとめてできる観光型ワンストップサービスとして注目を集める。
 三浦エリアは首都圏から気軽に足を運べる半面、有名な三崎まぐろを食べて終わりなど滞在時間が短いのが課題だった。マリンスポーツなど地域資源と合わせ長時間楽しんでもらおうと、2020年に京浜急行電鉄(横浜市)が幹事役となりサイトを立ち上げた。観光業者ら170団体がサービス提供などで関わる。
 サイトでは、レンタサイクルや電動キックボードなども電車に組み合わせて提案。京急の担当者は「自家用車を使わず、ゆっくりとした観光で交通渋滞の緩和も期待できる」。経路検索時に二酸化炭素(CO2)排出量と、車利用時と比べた削減率を提示して環境にも配慮する。
 移動や食事のデジタルチケット化で客層の把握も。「データを生かして最終的には観光客数を予測、地域の店舗の仕入れや準備に生かしたい」
 

◆斉藤鉄夫国交相「世界のお客を迎える地元の熱意に敬意」

交通相会合への意気込みを話す斉藤鉄夫国交相=東京・霞が関の国交省で

 対面でのG7交通相会合は2017年以来で、6年分しっかりやりたい。会場は、美しい自然と、安全かつ静かな環境に囲まれた伊勢志摩。16年のG7首脳会議も開催しており、議論にふさわしい場所だ。地元自治体とG7各国との交流を促進し、地域振興とインバウンド(訪日外国人)のきっかけにしたい。世界のお客を迎える地元の皆さんの熱意に敬意を表したい。
 会合では、脱炭素化に向けた、これからの交通のあり方を考えたい。新しい技術をどう取り入れ、人と人の交流を活発化させるか。人と人が自由に移動して会い、交流することが相互理解と平和につながる。そういう意味で、観光はこれからの世界のあり方に大きな役割を持っている。

 三重県志摩市 志摩半島南部にあり、市全域が伊勢志摩国立公園に含まれる。英虞あご湾には大小約60の島々が浮かび、複雑な岬や入り江によるリアス海岸とともに、美しい景観を織りなす。水産業と観光業が産業の中心。海産物は伊勢エビ、的矢まとやかき、天然のトラフグ「あのりふぐ」が有名。養殖真珠の発祥の地でもある。交通相会合の会場となる志摩観光ホテルは、16年のG7伊勢志摩サミット会場として国際的な知名度も。自然と温暖な気候を生かしたアウトドアも人気。志摩オートキャンプ場など家族連れでも楽しめる。問い合わせは、志摩市観光課=(電)0599(44)0005=へ。

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