<月イチ読書会>江戸川乱歩 デビュー100年 探偵小説、今も魅了

2023年8月13日 07時00分

江戸川乱歩

 大正-昭和時代の推理作家、江戸川乱歩がデビューして今年で百年。彼の探偵小説には子どもも大人も夢中になりました。今月の紙上読書会は、今もファンを引きつけてやまない乱歩の魅力に迫ります。 (栗原淳)
 日本の探偵小説、本格推理小説の草分けと言われる乱歩は、少年期を名古屋市で過ごします。上京して大学を卒業後、職を転々としながら「二銭銅貨」を発表してデビュー、勤めを辞めて専業作家に。雑誌『新青年』などを舞台に、「D坂の殺人事件」「人間椅子」「赤い部屋」といった作品を立て続けに執筆し、高評を得ました。

◆刺激的な面白さ

 これらの初期の作品を挙げて「中学生の時、図書館から借りてきては毎晩読みふけっていました」と回想するのは、岐阜県の鮫島偉晃さん。「毒々しい表紙絵や挿絵、グロテスクで不気味、狂気的…。当時の私には刺激的過ぎでした」。愛知県の梶俊晟さんも「短編怪奇小説の『気持ち悪さ』が至高。一方で、語り口調の作品が多く、読みやすいことも長所です」と語ります。

角川文庫・660円

 昭和に入ってからの作品では、「押絵と旅する男」を推す声が多いです。男女が描かれた押し絵細工の、不可思議な来歴が魅力で、「(押し絵に描かれた)兄を思う弟が紡ぐ、幻想的な世界に時を忘れます。犯罪が起こらなくても乱歩の小説はすごい」とは東京都の沖義裕さん。東京都の高石江理さんは、同性愛を描いた「孤島の鬼」を挙げ「純愛が深すぎて狂気すら感じる場面も。一途(いちず)に思う気持ちは切ない」と絶賛します。

ポプラ文庫・616円

◆「少年探偵団」に夢中

 何といっても人気なのは、名探偵・明智小五郎と小林少年が活躍する「少年探偵団」シリーズ。「小学生時代、図書室で夢中になって読みました。冒頭から怪しげな人物や幻想的な場面で始まり、途中で突然読者に語りかけてくる文章があり、『ページをめくる手が止まらない』という初めての経験でした」(愛知県・加納未乃さん)

◆人間への緻密なまなざし

 文芸評論家の縄田一男さんも、子どものころに乱歩を読んで衝撃を受けたと言います。「エロチックで背徳的。読後、ほほが上気するような異様な興奮があった」と鮮烈な乱歩体験を振り返ります。乱歩の秀でた点は「人間へのまなざしが緻密であること」。「登場人物の表情や心理の動きを細かに描写することにこだわりました。だからこそあり得ないような架空の物語がリアリティーをもって迫ってくる。そこが恐怖の源泉です」。一方で、読者思いの面もあったようで、少年ものでは子どもたちが怖がらないようにと流血シーンなどは避けたといい、「その辺は、大人も子供も分ける必要はないと考えた横溝正史との違いです」。

<今月の人>怪奇もの 多数手掛け

えどがわ・らんぽ 1894(明治27)年、現在の三重県名張市生まれ。本名・平井太郎。1923(大正12)年、「二銭銅貨」でデビュー。幻想怪奇趣味の作品、『怪人二十面相』などの少年ものを多数手掛けた。筆名は米作家エドガー・アラン・ポーから。65(昭和40)年死去。

◆次回は西村京太郎

 次回「月イチ読書会」のテーマは西村京太郎さんです。著作を読んで感じたこと、読みどころ、思い出についてお便りを募集します。住所氏名、電話番号を明記し〒100 8525 東京新聞文化芸能部「月イチ読書会」係。メールは「月イチ読書会」の件名でt-bunka@chunichi.co.jpへ。八月末締め切り。掲載の方には薄謝を進呈。

関連キーワード


おすすめ情報

マンスリー企画の新着

記事一覧