江戸時代の重要用語

士農工商 
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「士農工商」(しのうこうしょう)とは、古代中国で誕生した「儒教」(じゅきょう:紀元前の哲学者・孔子[こうし]の教えをもとにした学問)のなかで使われた単語。もともとは「すべての人々」という意味でしたが、やがて身分制度を示す言葉になったと考えられています。これによれば最も高い身分が「士」(武士)で、その下に「農」(農民)、「工」(職人)、そして「商」(商人)が続きました。しかし近年の研究によって、身分制度を示す単語として適切ではないという意見が多数を占めるようになり、教科書では、士農工商の文言は削除される傾向にあります。

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「士農工商」(しのうこうしょう)とは、古代中国で誕生した「儒教」(じゅきょう:紀元前の哲学者・孔子[こうし]の教えをもとにした学問)のなかで使われた単語。もともとは「すべての人々」という意味でしたが、やがて身分制度を示す言葉になったと考えられています。これによれば最も高い身分が「士」(武士)で、その下に「農」(農民)、「工」(職人)、そして「商」(商人)が続きました。しかし近年の研究によって、身分制度を示す単語として適切ではないという意見が多数を占めるようになり、教科書では、士農工商の文言は削除される傾向にあります。

士農工商とは

身分の順序

士農工商とは、江戸時代の職能に基づく身分制のこと。社会を構成した主要な身分である武士・農民・職人・商人を意味し、これらは総称して「四民」(しみん)と呼ばれます。四民以外には、武士に準ずる身分として公家(くげ:朝廷に仕える貴族)や僧侶、神官などがありました。

また、士農工商の下には賤民(せんみん:通常の民衆よりも下位に置かれた身分の者)として「えた」、「非人」という身分がありましたが、これらは理由のない差別につながるため、今日では使われることはありません。

士農工商の歴史

誕生は古代中国

士農工商(四民)という単語は、古代中国ではすでに用いられており、「漢書」(かんじょ:紀元1~3世紀に中国を統一した後漢[ごかん]時代に編纂された歴史書)に登場します。しかし、あくまでも士農工商は「あらゆる職業の人々」という意味で使われており、身分の上下を示すものではありませんでした。この単語は早い時期に日本にも伝わり、「続日本紀」(しょくにほんぎ:平安時代初期に編纂された歴史書)にも「すべての人々」という意味で使用された例があります。

身分を示す単語となる

太閤検地

太閤検地

この単語がいつ頃から身分制度と結びついたのか、詳細は分かっていません。安土桃山時代以前は、武士と農民の間にほとんど区別はなく、戦いとなると領地に住む農民が武器を持って敵と戦うのが普通でした。

ところが1582年(天正10年)頃から始まった「豊臣秀吉」(とよとみひでよし)による「太閤検地」(たいこうけんち:農地の測量)、「刀狩り」(かたながり:農民が持つ武器の没収)によって武士、農民の区別が固定化され、この頃から士と農が明確に区別されるようになったのです。

1603年(慶長8年)に出版された「日葡辞書」(にっぽじしょ:ポルトガル語辞典)には士農工商という単語が収録されており、この時代には一般的な日本語として用いられていたことが分かります。

支配者に利用される

儒教では、土地に根を下ろさず商売を行う商人、職人よりも、土地に根差して作物を作る農民が重視されました。理由は商人、職人が自由に利益を追求すれば、経済力で支配階級を脅かす可能性があるため。

加えて、農民が商人、職人に転職すると飢饉(ききん)が発生し、支配者の基盤が危うくなるという理由があったのです。江戸幕府は人々を支配する哲学として儒教を取り入れたため、儒教のなかにあった士農工商という単語が身分制度と結び付いていったと考えられています。

とは言え、この順序は絶対ではなく、例えば医師、僧侶は上級武士以外、使用を禁じられていた駕籠(かご)を使うことが許されていました。農民や商人の子でも、医学を学んで開業すれば、武士に近い待遇を得ることも夢ではなかったのです。

現在の士農工商のとらえ方

明治時代になると、明治政府はこれまでの身分制度を撤廃し、全員が苗字(みょうじ)を持ち、国民の誰もが学校に通い、職業や移転も自由に行えることを宣言。これは「四民平等」(しみんびょうどう)と呼ばれ、明治政府の重要なスローガンのひとつでした。

しかし1990年代になると、農民・職人・商人の間に身分の上下関係は存在しなかったという研究成果が相次いで発表され、身分制度を示す単語として士農工商は適切でないことが分かってきたのです。その結果、2000年代には、士農工商の記述が文部科学省検定済教科書から削除されています。

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