アンリ・ルソー「戦争」
「美術史上これだけ欠点の多い画家はいない」そんな評価を受けていたアンリ・ルソー。“世界で最も下手”な画家と言われているのに、なぜか強く惹きつけられ、名だたる巨匠たちが絶賛するのです。
そんなルソーの代表作『戦争』。ルソー50歳の時の作品ですが、いくつか不可解な点が…。
描かれているのは、黒い馬が白い服を着た少女とともに颯爽と戦場を駆け抜けている場面。その下には枯れた木々、荒涼とした山、そして死体の山…暗く陰鬱な雰囲気が漂うのに、空だけは清々しいほどに青いのです。また左手には剣、右手には松明を持つ少女が、なぜか楽しげに笑っています。地面に転がる死体もよく見ると変。戦争なのに誰一人武器を持っておらず、軍服も着ずになぜかみんな裸…。おかしな箇所が幾つもあるのに、いつのまにか作品に惹きつけられてしまうのです。
巨匠たちの心を虜にした“世界一下手と言われた画家”が描いた戦争…そこには、下手だからこそ見る者を惹きつけるある理由が秘められていました。それは一体何なのか?作品に込められた不思議な力を解き明かします。