FASHION / TREND & STORY

ジョン・ガリアーノとトモ コイズミが互いに作り上げた、アップサイクル作品とは?

トモ コイズミ(TOMO KOIZUMI)の小泉智貴がメゾン マルジェラ アーティザナルのアトリエトワルを、メゾン マルジェラ(MAISON MARGIELA)のジョン・ガリアーノがトモ コイズミの2021年スプリングコレクションのドレスを手にした。二人は互いの創造性によって、再び輝くほどの甘美な作品を作り上げた。

2018年のメットガラでメゾン マルジェラ アーティザナルのアンサンブルを着たリアーナ。Photo: Jackson Lee / Getty Images

メトロポリタン美術館で開催された2018年のコスチューム・インスティテュートの展覧会「Heavenly Bodies」のレッドカーペットに降り立ったリアーナを、小泉智貴は今も忘れられない。彼女が纏っていたのは、ジョン・ガリアーノがメゾン マルジェラ アーティザナルのためにデザインした、カトリックの華麗な祭典を思わせるパールとクリスタルで飾ったミニドレスとローブだった。頭にはスティーブン・ジョーンズによるミトラ(司教冠)を被り、当時「ファッション信者にとっての永遠のインスピレーション」と称えたほどだ。ガリアーノがディオール(DIOR)でデザインしたドレスを初めて見た14歳の時から、彼に憧れ続けている小泉は、リアーナの登場に歓喜したという。

「いい意味で僕の期待を裏切る、洗練されたデザインでした」と小泉。デザイナーが互いの作品を再利用する『VOGUE』主催のコラボレーションプロジェクトのため、この時のトワルがガリアーノから大阪のスタジオへと送られてきたときには、喜びと同時に身震いがしたほどだった。

マルジェラの硬いキャラコ素材の服を手にした瞬間に浮かんだアイデア、それは「トワルをキャンバスとして、次のコレクションのために開発したラッフルペイントの技術を使い、彩色する」ことだった。「アンサンブルを構成する3つのピースに個性を与え、組み合わさったときにハーモニーが生まれるように心掛けた」と小泉は言う。腕が見えるように袖を開き、ドレスには「18世紀のロココデザインから着想を得て」レイヤーの間にフリルを加え、よりボリュームをつくり出した。さらにメゾン マルジェラ(MAISON MARGIELA)が掲げる“再構築のデザイン”に敬意を払い、ウエディングドレススカート部分に使われていたクリノリンのフープを再利用している。

リボンに飾られたボディスをフィッティング。

改造前のマルジェラのトワル。Photo: Courtesy of Maison Margiela

ガリアーノに影響を受け、ヴィンテージアイテムをクラブ用の服にアップサイクルした10代の頃を回想しながら、小泉の劇的なリメイクはさらに続く。ボディスにはデッドストックのネオンカラーリボンをあしらい、ミトラにはメッシュ素材のフリルで作ったボールをちりばめ、宗教からほど遠い遊び心のあるデザインへと仕上げた。「花のようなデザインで、ポップさを足した」と小泉。ウエディングドレスのアトリエ、トリート・メゾンで、50人ものコラボレーターの協力のもと、3週間の制作期間を経て、リアーナのアンサンブルに小泉の“Kawaii”魂が吹き込まれた。

メゾンマルジェラの「アーティザナル」コレクションを再利用したトモ コイズミのドレスを纏ったモデルのツグミ。Photo: Takashi Homma   Hair and Makeup: Haruka Tazaki On-set Stylist: Shotaro Yamaguchi   Model: Tsugumi   Fashion Editor: Tonne Goodman Special thanks to Treat Maison

トモ コイズミのデザイナーの小泉智貴。Photo: Tim Walker

「大きくてカラフルなドレスが大好きなんです。そこに手仕事のフィーリングを重ねたいと思った」と話し、「驚きは最高のリアクションです。皆が楽しい気持ちになるような、ポジティブな感情を喚起したいと思っています」とさらに言葉を添えた。

一方、トモ コイズミ(TOMO KOIZUMI)のウエディングドレスをパリのメゾン マルジェラ(MAISON MARGIELA)のアトリエで初めて見たときのことを、ガリアーノはこう記憶している。

「本当に魔法のような日でした。神々しい光が差し込んでいるところに、この美しいウエディングドレスが、私とジプシーとココ(ガリアーノのブリュッセルグリフォン2匹)の前で披露されたのですから。ジプシーは保守派で、クチュールが好み。トモがデザインしたフワフワやフリルが大好きなんです。大喜びのジプシーを見て、私はとても大きな責任を感じました」

メゾン マルジェラのクリエイティブ・ディレクター、ジョン・ガリアーノ。Photo: Paolo Roversi / Art + Commerce

ガリアーノは「生涯で最高に素晴らしい日」のためのドレスをアップサイクルするにはどうすべきか思索する中、お金がなかった学生の頃に、古着市で見つけた服をリメイクした経験が、「最高の教師」であると気がづいた。

「心理的にあの頃に戻って冒険することは楽しい体験でした。マルジェラで働きだした頃、いわゆる“洗練”から離れ、自由な感覚を取り戻すのに数シーズンかかったのを思い出しました」

ガリアーノはまず、トモ コイズミのドレスのメッシュラッフルを一つずつ丁寧にほどくことから始めた(この作業には2人がかりで5日を要した)。次に、毛糸のように色別に輪っか状に束ねたカセ巻きにし、この素材を使いオーバーサイズのセーターを編んだ。つまりこれは「世代を超えて記憶を身に纏う」ことになるのだ。

「月の光の下で、一緒に過ごした美しいときについて語り合い、悩める心を慰めるカップルを思い浮かべました。編むという行為も瞑想的で、同じような効果をもたらします」

トモ コイズミのドレス(原型)、2021年スプリングコレクションから。Photo: Courtesy of Tomo Koizumi

ガリアーノが思い浮かべたカップルとは、マルジェラのインハウスモデル兼ミューズ、ヴァランティーヌ・シャラスとトーマス・リゲルだ。二人が試着し、どちらも着こなせるようならば、「コレクションに加え、ジェンダーレスのアイテムとして売られることでしょう」とガリアーノ。

トモ コイズミの特徴的なラッフルをほどく。

マルジェラのスタジオでは、いくつものサンプルを作り、編みのテンションとボディを細かく調整した。「新品に見えるのではなく、感情や魂を宿しているもの」を作るためだ。セーターを編み上げるのに11日間、つまり90時間を費やした。「気どったところはないけれど、とてもシックなアイテムだと思う」とガリアーノは話す。

ガリアーノはライニングにも目をつけた。「手を加えるのは難しかったから、Tシャツを作ってみました。これをボンネットとして頭にのせ、イエローのウェーダー(釣り用のブーツ)とバッグを合わせると、公園を散歩するのにぴったりなスタイルになります」

メゾン マルジェラ アーティザナルのためにジョン ガリアーノがトモコイズミのドレスを再利用して制作したドレスを纏ったモデルのルル・テニー。Photo: Maciek Pozoga   Hair: Eugene Souleiman   Makeup: Marianne Agbadouma   Model: Lulu Tenney   Fashion Editor: Tonne Goodman

この作品には今、あのメゾン マルジェラのラベルが付けられている。そこには「スタイル:ルックナンバー4、トモ コイズミ。日本製。2021年春」と記載されている。

Text: Hamish Bowles