キャデラックSRX4.6(4WD/6AT)【試乗記】
SRXを求める人 2007.03.23 試乗記 キャデラックSRX4.6(4WD/6AT)……833万5000円
日本車でいう、ビッグマイナーチェンジを受けた「キャデラックSRX」。6段ATを奢られた4.6リッターV8モデルの20インチ仕様に乗る。キャディのクロスオーバーはいかに?
3列シートは後から
「キャデラックSRX」2007年モデルの導入が始まった。
SRXは、GMが開発したミドルサイズの後輪駆動車用シャシー「シグマ・プラットフォーム」を用いたクロスオーバー。新世代キャデラックの象徴“アート&サイエンス”なデザインをまとったセダン「CTS」や、その上級車種「STS」と同じベースをもつわけだ。2955mmという3m近いホイールベースは、「STS」と同寸となる。
ボディサイズは、全長が4965mm、全幅1850mm、全高1710mmという立派なもの。本国アメリカではSRXの上に、さらに「エスカレード」「エスカレードESV」といった巨大なSUVが用意される。「フォルクスワーゲン・トゥアレグ」より約20cm、旧型から一回り大きくなった2代目「BMW X5」よりまだ長いボディをもちながら、“ミディアム”に分類される由縁である。
ラインナップは、4.6リッターV8(324ps、42.8kgm)と3.6リッターV6(258ps、35.0kgm)の2種類。いずれも、センターデフを介して前後にトルクを配分するフルタイム4WDシステムを採る。
当初は2列シート5人乗りモデルが販売されるが、4.6リッターV8モデルには、電動格納式のサードシートを備えたバージョンが追加される予定だ。
販売
2007年モデルのキャデラックSRXは、国産車でいえばビッグマイナーチェンジに相当する変更を受けた。
メカニカルな面では、4.6リッターV8に組み合わされるトランスミッションが5段から6段へと、ギア数が増えた。
3.6V6、4.6V8とも、内装・装備がグレードアップ。
また、「キャデラック・セビル」「キャデラックCTS」に続いて、右ハンドルが設定されたことも大きい。
4.6リッターV8が、758万5000円。
3.6リッターV6が、648万5000円。
単純比較では、どちらも2006年モデルより13万円ずつアップした。
さて、ゼネラルモーターズの限られた日本向けリソースのためか、キャデラックSRXは、700万円級のラグジュアリー・クロスオーバーにもかかわらず、ボディカラーが「銀」「黒」「白」「青」の4色しか用意されない。
そのかわり(?)今回、新たなパッケージオプションが採用された。
3.6リッターモデルにDVDナビや11スピーカーのオーディオを奢って、4.6リッターモデル並の装備にする「コンフォートパッケージ」(35万円)。
4.6には、サードシートを備え、後席のエンターテインメントシステム(DVDプレイヤー+7インチ液晶)を与えた「アクティブパッケージ」(65万円)。
今回の目玉が、3.6、4.6、両モデルに用意される「スポーツパッケージ」で、専用グリル、専用バンパー、LSD、そして20インチアルミホイールなどでスポーティに装う(3.6=85万円/4.6=75万円)。
短時間ながら、4.6リッターV8スポーツパッケージ装着車に試乗できた。
向上と後退
たっぷりしたサイズのレザーシートに座る。柔らかめのクッションが、いかにもラグジュアリー。キャデラックSRXは、V6もV8も革内装となる。
2007年型SRX、以前のインテリアと比較すると、センターコンソールの形状が変わった。樹脂類に細かく刻まれた斜め格子が廃止され、特にドアまわりの樹脂面積が減じ、ウッドパネルは艶やかになった。GMによると、トリムにおいては、新たに本革をパーツに巻いて処理する「カット&ソー」工程が採用されたとのこと。
たしかに全体の質感はグッと上がった。一方で、キャデラック顧客層の若返りを狙った“アート&サイエンス”路線は、ことインテリアにおいては、だいぶ後退した印象だ。
ステアリングホイールを上下に、そしてステアリングコラム左についたボタンで、ペダル類の距離を調整して、走り始める。
すっかりお馴染みとなったV8“ノーススター”エンジンはシュルシュルと回り、93.0×84.0mmのボア×ストロークから、324ps/6400rpmの最高出力と42.8kgm/4400rpmの最大トルクを発生する。4カム24バルブ。吸排気バルブのタイミングを可変化するVVT搭載。ドライブ・バイ・ワイヤ化されたガスペダルに軽く足を載せるだけで、2トンと100kgのボディを苦もなくひっぱる。
SRXの運転感覚
トランスミッション6段化の恩恵は、高速道路で顕著。トップギア、100km/h巡航時のエンジン回転数はわずかに1500rpm。シフターを右のゲートに移して、マニュアルでギアを5速に落としても、タコメーターの針は2000rpmに届くか届かないか。キャデラックSRXは、粛々と走る。
SRXの4.6リッターモデルは、足まわりに「マグネティック・ライド・コントロール」が装備される。これは、路面からの情報によってダンピングを瞬時に変更するシステム。ダンパー内のバルブを絞るのではなく、オイルそのものに磁性流体を用いて、電気的に粘度を変えるのが特徴だ。
と、特徴的なスペックをもつSRX4.6のサスペンションだが、乗り心地が「極めてすばらしい」という感銘は受けなかった。とはいえ、普通に乗り心地はいい。舗装の継ぎ目もスムーズに越える。
試乗車は「スポーツパッケージ」装着車ということで、扁平率50の20インチという薄いタイヤを履いていたが、「それが苦にならなかった」ところに、マグネティック・ライドの凄さがあったのかもしれない。
前ダブルウィッシュボーン、後マルチリングのサスペンションは、可変ダンパーを備えているとはいえ、コーナリングはあまり得意としない。ロールが大きく、シートのホールド性も低く、そもそもSRXはそういうクルマではない。
キャデラックSRXは、その成り立ちからして乗用車に近い運転感覚をもつ。トラックベースのSUVとの差違を強調して、フルタイムの4WDシステムをもつにもかかわらず、あえて「クロスオーバー」を強調するのは、そんなところに理由があるのだろう。運転中は、「どういう人がオーナーになるのか」いまひとつ具体的な想像ができなかったが、あとでGMの人に聞いたら、「キャデラックのワゴンが欲しい人」だそうだ。なるほど。
(文=webCGアオキ/写真=高橋信宏、日本ゼネラルモーターズ)
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青木 禎之
15年ほど勤めた出版社でリストラに遭い、2010年から強制的にフリーランスに。自ら企画し編集もこなすフォトグラファーとして、女性誌『GOLD』、モノ雑誌『Best Gear』、カメラ誌『デジキャパ!』などに寄稿していましたが、いずれも休刊。諸行無常の響きあり。主に「女性とクルマ」をテーマにした写真を手がけています。『webCG』ではライターとして、山野哲也さんの記事の取りまとめをさせていただいております。感謝。