フェラーリの新型ハイブリッドスーパースポーツ「296GTB」がデビュー
2021.06.24 自動車ニュース拡大 |
伊フェラーリは2021年6月24日(現地時間)、プラグインハイブリッドの新型スーパースポーツモデル「296GTB」を世界初公開した。
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“跳ね馬付き”フェラーリとしては初
マラネッロがついにプラグインハイブリッドシステムを積んだ“量販”ミドシップスーパーカーを発表した。
その名も296GTB。意味するところは、シンプルに2.9リッター(実際には2992ccなのでほぼ3リッターだが)の6気筒エンジンを積んだグラン・トゥーリズモ・ベルリネッタ。ただし、それは強力な電気モーターとリチウムイオンバッテリーによって、既存のV8ターボを上回るスペックを得ている(フィオラノのラップタイムは「488ピスタ」をコンマ5秒上回る)。そう、この新型車は、例えば「F8トリブート」の弟分では決してない。
296GTBという車名文字の並びを見て、1960年代の名馬を思い出したフェラーリファンは多いはず。そう、「ディーノ206/246GT」だ。ただ今回はディーノの名前が復活することはなかった。代わりにフェラーリのロードカーとして初めて、正式に跳ね馬エンブレムの付いた6気筒のロードカーとして登場することになったのだ。
思い返せば現代のマラネッロの主力であるV8ミドシップレンジの始祖がディーノ206GTだった。フェラーリとしてはディーノというサブネームをあえて使わずに、その正当な後継モデルであるV8の歴史を“トリビュート”したうえで、さらなる進化を試み、跳ね馬のエンブレムを堂々としつらえたということだろう。
今回は速報ということで、パワートレインとスタイリングについてリポートする。
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ファンも納得のパフォーマンス
ハイブリッドシステムを積んだ新型ミドシップカーをマラネッロが開発中であることはこの数年半ば公然の秘密だったが、それがV6になりそうなことからいつの間にか「ディーノの復活」とうわさされるようになった。そのうわさは半分当たっていて半分外れていたことが車名を見てもわかる。もちろんマラネッロは246GTのみならず、1957年の「ディーノ156 F2シングルシーター」や、1958年のドライバーズタイトルホルダーとなった「246 F1」、フェラーリに初のコンストラクターズタイトルをもたらした120度V6の「156 F1」、さらにはフェラーリ初のホットインサイドVターボとなった1980年代の「126 F1」シリーズまで、フェラーリにおけるV6エンジンのリッチな歴史をその名前に込めたかったといっていいだろう。つまり、フェラーリの歴史はV12とV8だけじゃないという、V6エンジンの歴史的正当性アピールだ。
驚異的なパフォーマンススペックを実現したことでもその正当性を強調した。新開発の120度V6ホットインサイドVツインターボF163ユニットは、エンジン単体でなんと最高出力663PSを発生。「リッターあたり221PS」はフェラーリのロードカー用エンジン史上、最強のスペックである。Vバンク角120度という全く新しいエンジンの詳細を語り始めるとキリがない。エンジン解説は別の機会に譲るとして、押さえるべきポイントは120度ホットインサイドVとしたことでエンジン単体を短く軽く、そして低重心化できたこと。そしてサウンド面でもうれしいことに開発陣が“ピッコロ12気筒”と呼ぶくらい劇的な音を響かせているらしい。最高許容回転数は8500rpmだ。
これに組み合わされる電気モーターは1基で、167PSを発生するという高出力アキシャルフラックスタイプだ。これを8段DCTとエンジンの間に挟み込み後輪を駆動する。マラネッロ製ハイブリッドパワートレインとしては初めての“後輪駆動のみ”となった。
そして注目すべきはそのシステム総合出力で、なんと830PSにまで達している。720PSのF8トリブートを一気に110PSも上回ってきた。80セルからなるバッテリーは床下に置かれ、容量は7.45kWh。満充電時のEVとしての航続距離は25km、EVモードでの最高速は135km/hである。
エンジンが2気筒分軽くなった(約30kg減)とはいえ、バッテリーやモーター、コントロールユニットによる大幅な重量増は避けられない。けれどもそれを上回るパワーアップでパワーウェイトレシオを下げるという魂胆だ。乾燥重量1470kgとF8トリブートに比べて140kgも重くなったが、パワーウェイトレシオは1.77kg/PSでF8の1.85kg/PSをしのいだ。
これにより、0-100km/h加速こそF8と同じ2.9秒だが、0-200km/h加速ではコンマ3秒速く、7.3秒を記録する。最高速度は330km/h以上(F8は340km/h以上)。
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シンプル・ビューティーの極み
スタイリングもまた劇的に変化した。フェラーリにおけるミドシップスタイルの再定義とでも言おうか。全長×全幅×全高=4565×1958×1187mmのボディーサイズから言うと、F8に比べてやや狭くやや低く、そしてホイールベースを55mm短縮し2600mmとしたため、塊感が増したように写真からは見える。さらにエアロダイナミクスの考え方をドラッグのコントロールからダウンフォースの積極的な強化へと変更した結果、スタイリングそのものはシンプル・ビューティーを極めたようにも見える。
ブレーキへのエアインテークとセットになったティアドロップシェイプのヘッドライトと、2個のラジエーターをシングルフレームでおさめる薄いフロントグリルに始まり、グラマラスな前後のフェンダーラインや、カムテール、トンネルバックスタイルのエンジンフードまわりなど、往年のスーパーカーファンにもたまらない造形美で構成されているといっていい。
なかでも個性的なポイントが、バイザースタイルのフロント&サイドウィンドウだ。最近ではフューオフ(極少量生産)の「J50」やワンオフの「P80/C」にも使われていたモチーフである。ちなみにインテリアのデザイン&コンセプトのモチーフは「SF90ストラダーレ」譲り。
全体的にはディーノの再来というよりも「250LM」のモダンな解釈に筆者には思えた。SF90ストラダーレとの近似性も強く感じる。さらには「アルファ・ロメオ4C」のエクステリアデザイン思想にもとても近いように思う。いずれにしてもシンプルな造形美という伝統を引き継ぎつつも過去との決別や革新(リアエンドまわりなど)を織り交ぜるなど、見どころいっぱいのスタイリングである。早く現物を見てみたいものだ。
パワートレインはもとより、スタイリングのコンセプトも全刷新して登場したマラネッロの新たな主力モデルだ。運動性能やエアロダイナミクスにおいて語るべきポイントはまだまだたくさんあるだろうが、今回は速報ということで、まずは知っておいてほしい情報のみを厳選して取り上げた。さらに詳しい解説は続報をお待ちいただきたい。
ちなみに実際に購入される方への情報としては、SF90と同様に「アセット・フィオラノパッケージ」も用意されていることを挙げておく。
(文=西川 淳)