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東北地方の離島における南方系マダニ類の確認 ~南方系マダニ、北方への分布拡大の可能性~

掲載日:2023.08.23

ポイント

・東北地方の離島において、複数の南方系マダニ類を確認。
・これまで知られていた地域より北方に、南方系マダニ類が進出しつつある事を示唆。
・マダニの分布拡大には哺乳類だけではなく鳥類も重要であり、離島がその分布拡大の最前線・中継地となっている可能性がある。

本研究成果は、国際学術誌Experimental and Applied Acarology(727日付)に掲載されました。
URLhttps://link.springer.com/article/10.1007/s10493-023-00819-x
掲載誌:Experimental and Applied Acarology
論文名:Summer collection of multiple southern species of ticks in a remote northern island in Japan and literature review of the distribution and avian hosts of ticks(北日本の離島における複数の南方系マダニ類の夏季の採集と、マダニ類の分布と鳥類宿主に関する文献調査)
著者名:Hirotaka Komine and Kimiko Okabe(小峰浩隆、岡部貴美子)

 詳しくは、こちらをご覧ください。

概要

 国立大学法人山形大学学術研究院(農学担当)の助教、小峰浩隆博士、国立研究開発法人森林研究・整備機構森林総合研究所の岡部貴美子博士らは、東北地方の離島において複数の南方系マダニ類の生息を確認しました。この結果は、これまで知られていた地域より北方に、南方系マダニ類が進出しつつある事を示唆しています。また、今回の調査地である離島には哺乳類がほとんど生息していません(在来の哺乳類はジネズミのみ)。一方で、当該地は渡り鳥にとって重要な中継地となっている事から、多様な鳥類が確認されています。これまでマダニ類の分布拡大に関しては、シカやイノシシ等の哺乳類が注目される事が多かったのですが、今回の結果は、哺乳類だけではなく鳥類も重要である事を示唆するものです。さらに今回の結果は、渡り鳥が多く利用する離島が、気候変動等により南方系マダニ類が北方へ分布拡大する際の、最前線・中継地となっている可能性を示しています。

研究背景

 近年、感染症を媒介するマダニ類の分布拡大が世界中で問題になっています。例えばヨーロッパでは、クリミア-コンゴ出血熱を媒介するマダニ類が、元々生息していなっかったドイツやフィンランド、イギリス等で確認され、その分布拡大が懸念されています。アメリカでは、ライム病を媒介するマダニの分布が拡大し、ライム病のリスクがある地域が広がっています。日本でも、日本紅斑熱や重症熱性血小板減少症候群(SFTS)といった、新興感染症を媒介する南方系マダニ類の分布拡大が懸念されています。マダニ媒介感染症の公衆衛生上のリスクを把握し対処するためには、マダニ類の分布拡大状況やそのメカニズムを理解する必要があります。しかしその実態は知られていない点が多くあります。
 特にこれまでの研究は、マダニの重要な宿主である大型の哺乳類が生息する大陸や、大きな島を対象にする事が多く、それらが生息していない小さな離島は注目されてきませんでした。しかし、離島は鳥類にとっては重要な渡りの中継地である場合があります。鳥類にも、人の感染症を媒介するマダニの、特に未成熟個体が寄生する事が報告されています。このことから、小さな離島には渡り鳥によって運ばれたマダニ類が生息している可能性が考えられます。離島のマダニ類の生息状況を把握する事が、マダニの広域分布拡大の評価に繋がると期待されます。

研究成果

 本研究では、東北地方の離島において、2021年6-8月にかけて植生上のマダニ類の調査を行い、文献調査によりマダニ類の宿主や分布情報についての整理を行いました。野外調査の結果、計9種類、145個体のマダニが採集され、5種類の南方系マダニ類、ヤマアラシチマダニ (Haemaphysalis hystricis)、タカサゴチマダニ (Haemaphysalis formosensis)、ツノチマダニ (Haemaphysalis cornigera)、タカサゴキララマダニ (Amblyomma testudinarium)、カクマダニ属の種(和名未確定) (Dermacentorbellulus)を確認しました。また、これらの種は西日本から東南アジア、南アジアといった南方で広く確認されているものの、今回の調査地と同緯度以北では、ほとんどあるいは全く報告された事のない種である事が分かりました。このように複数の南方系マダニ類が北方で、さらに哺乳類がほとんど生息していない離島で確認されたことは非常に珍しい結果であり、南方系マダニ類が北方へ分布拡大しつつある可能性を示しています。また本研究は、マダニの分布拡大に対する鳥類の重要性及び、分布拡大の最前線・中継地としての離島の機能を示すものです。

今後の展開

 地球温暖化や特定の野生動物の増加に伴って、今後さらにマダニやマダニが媒介する感染症の分布拡大が懸念されています。そのため、マダニ媒介感染症の生態学的な背景の理解が求められています。しかし、マダニの野外での生態や宿主との種間関係等については未解明な課題が多くあります。今後は、島嶼を含む各地域におけるマダニの種構成やその時間変化、宿主である野生動物との関係、保有病原体等についての実態を明らかにする必要があります。それらの基礎情報を明らかにする事で、マダニ媒介感染症のリスク低減を踏まえた生態系管理の実施に繋がるものと期待されます。

図1 今回確認された南方系マダニ類(撮影:小峰浩隆、出典:本論文Komine and Okabe 2023 Exp Appl Acarol):a ヤマアラシチマダニ(<i>H. hystricis</i>)成虫オス、b ヤマアラシチマダニ(<i>H. hystricis</i>)成虫メス、c タカサゴチマダニ(<i>H. formosensis</i>)成虫オス、d タカサゴチマダニ(<i>H. formosensis</i>)成虫メス、e ツノチマダニ(<i>H. cornigera</i>)若虫、f タカサゴキララマダニ(<i>A. testudinarium</i>)成虫オス、g カクマダニ属(<i>D. bellulus</i>)成虫オスの画像
図1 今回確認された南方系マダニ類(撮影:小峰浩隆、出典:本論文Komine and Okabe 2023 Exp Appl Acarol):a ヤマアラシチマダニ(H. hystricis)成虫オス、b ヤマアラシチマダニ(H. hystricis)成虫メス、c タカサゴチマダニ(H. formosensis)成虫オス、d タカサゴチマダニ(H. formosensis)成虫メス、e ツノチマダニ(H. cornigera)若虫、f タカサゴキララマダニ(A. testudinarium)成虫オス、g カクマダニ属(D. bellulus)成虫オス

研究体制

 本研究は、国立大学法人山形大学学術研究院(農学担当)の助教、小峰浩隆博士、国立研究開発法人森林研究・整備機構森林総合研究所の岡部貴美子博士によって行われました。本研究は日本学術振興会科学研究費補助金KAKENHI 21K17917の助成を受けたものです。

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