シャッタースピード〜滝で違いを見る|山の写真撮影術(19)

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動きある被写体の写り方を大きく変えるのがシャッタースピード。速さの違う2枚の作例からその写り方の違いを解説します。

文・写真=三宅 岳、イラスト=石橋 瞭


三次元を二次元で表現する。高さも幅も奥行もある巨大立体の「山」を、レンズやカメラを介して、プリントやディスプレーという平面に落とし込む。それが写真だと思われることが多い。

しかし、写真とはもう一つの次元=「時」さえ取り込んだ、四次元を二次元化した表現なのである。

シャッターの開閉時間。数千分の一秒という短い時間から、数時間といった長時間に至るまで。そのシャッターが開いていた時間を平面に移行表現したのが写真ともいえるのだ。

絞りが写真表現を大きく左右することは以前に述べているが、一方で、絞りと対となり露光量を決定するシャッタースピード(=露光時間)も写真表現を左右する大事な要素である。

下の2つの作例のように、高速と低速、異なるシャッタースピードで撮り比べてもらいたい。そこに自分だけの四次元表現があるはずだ。

【作例1】
シャッタースピード 1/125秒

牧馬大滝。相模川水系の牧馬沢にかかる。速いシャッタースピードで撮ると、水の躍動感やきらめきを強調することができる

①影の印象は薄くなる

目を凝らせば、ここが日陰であることはわかるのだが、日の当たった部分に比べてやや暗い程度の弱い印象になる。シャッタースピードの違いが、光と影の印象も変えるのである。左の写真ほど影のおもしろみはないが、躍動する飛沫を見せたい写真であるため、これでいいのだ。

②きらめく水滴を捉える

シャッタースピードを1/125秒にしたことで、きらめく水滴が一粒一粒はっきりしながらも動きのある描写となり、躍動感が出た。比較のため、絞りは左の作例と同じにして、ISO感度を3200まで上げたが、フルサイズ機なのでノイズは目立っていない。

③反射が動きをつくる

落ちてくる水と跳ね上がる水が交差し、飛び交う動きあるポイント。ここに日が当たり、明るくなっている。速いシャッタースピードの撮影なので、水滴がかなりしっかりと描写され、その大小や輝きが写真全体にダイナミックな動きをもたらした。

撮影データ
カメラ シグマ fp L
レンズ シグマ 24-70mm F2.8 DG DN(29mmで撮影)
ISO 3200
絞り値 f22
シャッター
スピード
1/125秒
備考 -1 2/3、絞り優先オート、ホワイトバランスは晴れ

 

【作例2】
シャッタースピード 1/4秒

上と同じく牧馬大滝。こちらはスローシャッターにすることで、カーテンのような流れに、影がアクセントとなっている

①水のカーテンに影が写る

木々の間からこぼれる光に照らされている滝には、木々の影も走っている。スローシャッターで切ったこのカットでは、カーテンのような水流がスクリーンとなり、木々の影がはっきりと斜めの縞となって現われている。スローシャッターならではの描写で流れを写した。

②流れの軌跡を捉える

暗い岩壁を流れ落ちる滝。そのほとばしりが木々の隙間からこぼれる日差しにきらめいている。ここが明るく飛ばないように、露出補正(-1 2/3)をした。カメラがブレないように三脚で固定した上で、シャッタースピードを1/4秒にしたことで飛沫の一粒一粒は消えて、レースのカーテンのような流れとなった。

③水面の躍動感は薄くなる

滝つぼというほど発達していないが、落水の先では、しぶきが跳ね上がり踊っている。激しく動く水面だが、スローなシャッターではその躍動感はなく、写真全体におけるこの部分の印象も薄い。その分カーテンのような流れと、光と影を強調できる。

撮影データ
カメラ シグマ fp L
レンズ シグマ 24-70mm F2.8 DG DN(29mmで撮影)
ISO 100
絞り値 f22
シャッター
スピード
1/4秒
備考 -1 2/3、絞り優先オート、ホワイトバランスは晴れ

 

コラム

風の揺らぎもまた動き

動画と違い、静止画像で動きを表現するのが写真。静止画像だからこその動きを表現できるのだ。

上の2つの作例のように、山にあっては水が動く被写体の代表格であり、滝の流れをメインの被写体とすることで、まさに動きを刻み込んだ写真になっている。

一方、山は「動かざること」の代名詞にも用いられるほど、動きの少ない被写体だ。しかし、水の流れと同様に、風の揺らぎも写真に動きをもたらす大事な要素である。

下の写真は風の強い日に木々が大きく揺れるさまを捉えている。スローシャッターにすることで、木々から躍動感がほとばしる写真になった。

山と溪谷2023年10月号より転載)

プロフィール

三宅 岳さん(山岳写真家)

みやけ・がく/1964年生まれ。丹沢や北アルプスの山々で風景や山仕事などの撮影を行なう。著書に『ヤマケイアルペンガイド 丹沢』(山と溪谷社)、『山と高原地図 槍ヶ岳・穂高岳 上高地』(昭文社)など。

山の写真撮影術

『山の写真撮影術』では、山で見られる風景から毎回テーマを設け、それに沿った写真撮影術を解説します。

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