東日本大震災から10年 生者を死者と結ぶお地蔵さん

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編集委員 阿部文彦

 先日、書店に積まれた本に懐かしい名前を見かけた。宮城県栗原市の住職、(かね)()(たい)(おう)さんだ。東日本大震災直後から、岩手・宮城・福島の避難所や仮設住宅で、被災者に耳を傾ける宗教者による傾聴移動喫茶「カフェ・デ・モンク」(Cafe de Monk)を開いてきた。そうした体験談をもとにした著書は「東日本大震災―3.11 生と死のはざまで」。震災から4年の2015年2月、記者も仙台市で「カフェ・デ・モンク」を取材した。

仙台市で開かれた「カフェ・デ・モンク」でギターを奏でる金田さん(右奥)(2015年2月)
仙台市で開かれた「カフェ・デ・モンク」でギターを奏でる金田さん(右奥)(2015年2月)

カフェ・デ・モンク 被災者の文句を聞き一緒に苦悶

 モンクは英語で僧侶のこと。直訳すると、坊さん喫茶である。「カフェ・デ・モンク」にはこんな言葉遊びもある。

 〈坊さんはあなたの文句(モンク)を聞きながら、一緒に苦悶(クモン)します〉

 6年前、金田さんに教わった。

 会場で使用するスピーカーはもちろん米国製の「BOSE(ボーズ)」だ。

「被災者のこりかたまった時間と空間をときほぐしたい」と語る金田さん。ニックネームは「ガンジー金田」
「被災者のこりかたまった時間と空間をときほぐしたい」と語る金田さん。ニックネームは「ガンジー金田」

 名前が遊び心満点ならば、カフェの会場もにぎやかだ。金田さんはギターをかきならして歌う。被災者も、おやつを食べながら、おしゃべりが絶えない。心を救うモンク(僧侶)の本分も忘れない。涙に暮れる被災者がいれば、宗派を超えて参集した宗教者たちがその(おも)いに優しく寄り添う。

逝ってしまった身内の名を刻み

 会場で、拳ほどの大きさのお地蔵さんに目がとまった。身内や親しい人を亡くした被災者らが粘土に想いを込めて作ったものという。逝ってしまった大切な人の名が刻まれている。カフェのお地蔵さんには、百人百様の物語が秘められている。夫を津波で亡くした看護師は、夫の顔に少しでも近づけようと、お地蔵さんに眼鏡を描き込んでもらった。仮設住宅で病死した幼子の遺影にささげるため、住人らが泣き顔、笑い顔、すねた顔など7体のお地蔵さんを作った。「あなたは私たちの安らぎだった。明るい笑顔を、生きる希望をありがとう」との気持ちを込めて。あるおばあさんは、焼き上がったお地蔵さんを見て、「私のじいさんは、ほんとにハンサムだったの」とほほえんだ。

カフェに置かれていた粘土のお地蔵さん
カフェに置かれていた粘土のお地蔵さん

 カフェをオープンした当初、金田さんは石のお地蔵さんを希望者に手渡していた。

 「お地蔵さんの前で、わんわん泣くんですよ。お地蔵さんがそこにいるだけで、被災者は 腹の底から感情をさらけ出し、いやされる」

 そして、気がついた。お地蔵さんには日本の宗教風土に根ざした力があるのだと。その力は、生者と死者を結び、未来に向けた物語の扉を開く。

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