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無名ながらも、鮮烈な印象を残した映画「クローズZERO2」(2009年)を経て、新たに目標を立てた。今後3年間で「綾野剛」を知ってもらう。そのために、テレビドラマで徹底的に顔を売る。
不気味な虐待男(日本テレビ系「Mother」)、カメラマン(フジテレビ系「GOLD」)、
その頃、オーディションでつかんだのが、NHK連続テレビ小説「カーネーション」の周防龍一役だった。
デザイナー、コシノ3姉妹の母をモデルにした一代記。長崎出身で、妻子ある仕立て職人の周防は、夫が戦死し、女手一つで洋装店を切り盛りするヒロイン糸子(尾野真千子)と道ならぬ恋に落ちる。
肩まであった髪を「高校生以来」の短髪にし、撮影に臨んだ。悪役や憎まれ役が身についた自分が、「朝ドラヒロイン」に愛される男を演じられるか。不安も募ったが、
秘めた思いを、まなざしやしぐさだけで表現する、静ひつな芝居。「真千子が演じる糸子の愛を感じ、思ったままにやっただけ」と照れるが、糸子が恋したように、お茶の間も周防に恋をした。
<最後に言わせてください。好きでした。ほんだけです>。立ち去ろうとする糸子を抱き寄せ、周防は言う。<おいもです……。おいも好いとった。ずっと>
切ない恋心をあふれさせるシーンは、高視聴率を記録。たった3週間の出演だったが、「この役で初めて、幅広い世代のみなさんに認知していただけた」。愛着を語る。
撮影と放送が、ほぼ同時に進んでいく連続ドラマは、ファンと一緒に作品を作っている気がする。俳優の「最先端の芝居」が見られるのもまた、ドラマだ。「“今”の自分がダイレクトに映る。危険だけど、だからこそ面白い」
「カーネーション」の翌年には、TBS系「空飛ぶ広報室」で、ヒロイン(新垣結衣)の相手役に抜てきされ、「ど真ん中のエンターテインメント」で大役を演じきった。
クランクアップの翌日。綾野は映画の現場にいた。後に、代表作の一つとなる「そこのみにて光輝く」(呉美保監督)は、北海道・函館出身の作家、佐藤泰志の長編小説が原作。初夏の函館で、濃密な撮影が始まろうとしていた。(山田恵美)