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精神性の深い人物像で知られ、近年は半人半獣のスフィンクス像などで新たな境地を開いた彫刻家、舟越桂(ふなこし・かつら)さんが29日、肺がんのため死去した。72歳だった。
戦後を代表する具象彫刻の大家、舟越保武の次男として盛岡市に生まれ、東京で育った。東京芸大の大学院に在学中、北海道のトラピスト修道院から依頼を受けて木彫りの聖母子像を制作。デビュー作となった。
その後はクスノキを彫った上半身に着色し、大理石を削った目を仏像の玉眼のようにはめ込む手法で、具象の人物像を次々に制作。1988年のベネチア・ビエンナーレで日本代表の1人に選ばれると、日本館で発表した作品が注目され、海外の美術館や画廊でも発表するようになった。
主として身近な人をモデルに選び、普遍的な人物像に昇華させた作品は、停滞気味だった具象の人物彫刻が再び注目されるきっかけになった。しかし2003年にはリアルな彫刻から一転、幻想的な裸体像「水に映る月蝕(げっしょく)」と、獣とも人間ともつかない「夜は夜に」の新作を発表。以後は「スフィンクス」の連作で人間の愚行に対する怒りなどを表現し、裸体像でも自己の内面を見つめた作品で新たな展開を続けてきた。
03年に大江健三郎氏が読売新聞で連載した小説「二百年の子供」の挿絵を担当。すぐれたエッセーでも知られ、「言葉の降る森」などの画文集がある。平櫛田中(ひらくし・でんちゅう)賞、中原悌(てい)二郎賞、芸術選奨文部科学大臣賞などを受賞。11年に紫綬褒章。姉は児童図書編集者の末盛千枝子さん、弟は彫刻家の故・舟越直木さん。