[週刊エンタメ]しっくりくる温度感で「肯定」…いきものがかり 新曲「誰か」核にアルバム「○」

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厳しい現実も直視して応援歌

いきものがかりの吉岡(左)と水野=池谷美帆撮影
いきものがかりの吉岡(左)と水野=池谷美帆撮影

 吉岡聖恵と水野良樹の2人体制で本格的に活動を始めた、いきものがかりが10月、日本新聞協会の新聞広告統一PRキャンペーン「新聞で紡ぐ希望のうた」のため、新曲「誰か」を書き下ろした。今月は、同曲を核とするアルバム「 まる 」(ソニー)を発表。Jポップの王道を歩み、数々の応援歌を世に放ってきた2人は、「肯定すること」の意味と向き合い直していた。(鶴田裕介)

 10月19日、全国の新聞73紙に、一風変わった広告が載った。紙面には、切り分けられた短い楽譜とQRコード。読者がコードを読み込んで参加すると、紙面に載った楽譜が開く。全国73紙分の楽譜が全てつながると、いきものがかりが作ったテーマ曲「誰か」の映像が公開されるという仕組みだった。

 「願いがいくつも 叶わず消えてく なんども なんども 世界は裏切る」と悲しい現実を描きつつ、「SHA LA LA LA LA LA… 朝がまた来るよ」と聴き手を包み込むこの曲は、元気でひたむきな姿を示す従来のいきものがかりから、一歩踏み込んだ印象を与えた。

日本新聞協会の新聞広告統一PRキャンペーンで、10月19日の本紙に掲載された紙面。中央に「誰か」の楽譜の一部が載った
日本新聞協会の新聞広告統一PRキャンペーンで、10月19日の本紙に掲載された紙面。中央に「誰か」の楽譜の一部が載った

 作詞作曲した水野は「企画段階で、新聞が届くところを想像しました。『あなた』『君』と二人称で呼んでもらえて、一緒に過ごす相手がいる人だけでなく、『誰か』と三人称でしか呼ばれない人もたくさんいて、そういう人たちにも新聞は届く」と語る。

 戦争や疫病。暗く悲しいニュースもあるが、それでもどこかに希望があり、前を向いて生きていくんだというメッセージを発するのが、新聞の役割だ。その新聞をテーマにした曲を書く時、水野はコロナ禍やつらい現実を前に、絶望してしまった人もいただろうと想像したという。自身で悲しい決断をしてしまった人が、いきものがかりの曲が好きだったと聞いたこともあった。「簡単に慰めたり、励ましたりはできない。様々な『肯定』がある中で、死さえも肯定し、どこまで向き合えるかを示さなければ」と、自らに問いかけた。

 吉岡は録音時、「笑って 笑っておくれよ」という曲の最後の部分の歌い回しに、迷いが生じたと振り返る。厳しい現実を直視する歌を、文字通り「笑って」と、明るく締めくくるのは違う。「しっくりくる温度感」を探し求め、最後に光が差すイメージで歌った。

 水野はキャンペーンを通じて、不特定多数に向けて何かを届けるという点では、新聞と音楽家の役割は近い、と感じた。「顔も名前も知らない人たちに歌を届けるとはどういうことなのか。ずっと考えながら、大衆音楽をやっています」

 「誰か」はその答えの一つかもしれないと感じ、新作「○」の1曲目に据えた。

吉岡聖恵
吉岡聖恵

 「○」は、2人体制となって初のアルバムだ。2021年夏、ギターの山下穂尊が脱退。22年10月には、吉岡の第1子出産が発表された。グループと、それぞれの人生にとって変化が次々と訪れる中でも、2人は楽曲制作の手を止めなかった。

 約2年半ぶり、10作目となる「○」は12曲入り。タイトルは「OK」という意味にも、「物事は循環する」という意味にも取れる。この風変わりな発想は、初期に録音した楽曲「ときめき」に導かれたものだった、と吉岡は振り返る。

いきものがかりの新作「○」
いきものがかりの新作「○」

 人気アニメ「プリキュア」20周年記念ソングとなったこの曲は、「世界はいまきらめくよ わたしがそう決めたから」という力強い宣言が印象的な曲だ。吉岡は「自分を肯定する気持ちがすごく強い。そこから、新作のテーマを『肯定』に、そして肯定を含む『○』にしようという話になったんです」と語る。

 果たして、様々な「肯定」の形を模索する作品となった。「誰か」に始まり、「ゆけ ゆけ ゆけ」の繰り返しが耳から離れない「声」、「『あたりまえ』を今 壊して 進め!」と歌う吉岡作詞作曲の「好きをあつめたら」と、得意のストレートな応援歌も詰め込みつつ、表題曲「○」で終わる。

水野良樹
水野良樹

 「名も無き ぼくたちの 名も無き おもいでが いつか言葉よりも 強い風になる」。こう歌う「○」は、最後に「シャララララ……」とささやき、冒頭の「誰か」へとバトンをつなぐ。

 ジャケットに描かれた「○」は、少しでこぼこしている。「ちょっとへこんでいても、ゆがんでいても、自分にマルを付ける」(吉岡)との思いを込めたという。

 激動の数年間を経たいきものがかりは、音楽的にも転換点となる作品を生み出した。吉岡は「孤独や自分の中の繊細な部分を歌っていても、曲ごとに救いがあり、肯定の『○』につながっている。温度感を感じ取ってほしい」と訴える。水野は「曲は愛してもらってなんぼ。聴くだけではなく、歌ってもらえたらうれしい」と呼びかけた。

 来年2月から全国を巡る22公演のツアー。

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4838893 0 音楽 2023/12/16 05:00:00 2023/12/16 05:00:00 2023/12/16 05:00:00 https://www.yomiuri.co.jp/media/2023/12/20231215-OYT8I50067-T.jpg?type=thumbnail

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