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乾いた寒風が吹きつけ、体の芯まで冷える北京の冬にぴったりの料理がある。その名は「シュアン
フビライが大喜びしたとの伝承
中国人は、寒い季節に羊肉を好んで食べる。中国の伝統医学では、羊肉は体を温める食材に分類されるためだという。
シュアン羊肉の由来は諸説ある。一説には、13世紀に元の初代皇帝フビライの料理人が、羊肉をゆっくり調理する時間がない行軍の合間に薄切りの羊肉をさっとゆでて出したところ、フビライが大喜びした、と伝えられる。
北京中心部の専門店「満恒記」に入ると、まず目の前に置かれるのが独特の形をした銅鍋だ。存在感ある煙突状の筒の下の方に熱い炭が入っている。お湯を注いだ鍋にネギやショウガ、クコの実などを入れ、沸騰したらスタートだ。肉は、薄切りにした冷凍肉と、やや厚切りで味が濃厚な生肉がある。
北京出身の料理人・高鵬さん(49)がお勧めの食べ方を教えてくれた。
肉をお湯に数秒くぐらせて白っぽくなったら、すりゴマベースの濃厚なタレをつけて口に運ぶ。この時、「肉の味を損なわないよう、タレをつけすぎてはいけない」と念を押された。
「医食同源」を思いながら
指南通りに口へ運ぶと、野趣あふれる羊肉の味をタレが絶妙に引き立てる。思ったほどしつこくなく、箸が自然と次の肉へと向かう。肉の脂がうっすら浮かぶスープを吸ったハクサイや豆腐などを味わうと、いい口直しになる。
本場の味そのままの「ガチ中華」が日本で人気と聞く。これから冬本番。日本では羊肉を焼くジンギスカンがおなじみだが、「医食同源」を思いながら、シュアン羊肉もいかがでしょうか。
「おひとりさま」でも
「おひとりさま」でもシュアン羊肉の魅力を味わえる。高さんの店にも、どっさり盛られた肉と野菜を小さな鍋で食べるセットがある。度数の高い中国の蒸留酒「白酒」を片手に、滋味を静かに楽しむのも悪くない。
中国に深く根を張る「羊」の文化
羊は中国の文化に深く根を張っている。
日本の外務省がホームページに掲載している2019年の「羊の頭数の多い国」によると、中国は1億6349万頭で世界一だ。2位のインド(7426万1000頭)、3位のオーストラリア(6575万5000頭)を大きく引き離す。ちなみに日本は1万6000頭にとどまる。羊肉が中国の食文化に欠かせないことを如実に示すデータと言えるだろう。
羊肉を使う料理も様々だ。ビールのつまみにぴったりな「
中国で羊が古くから好まれていたのは、文字にも表れている。例えば「美」は、「角川新字源」によると「羊」と「大」で構成される。神に供える羊が肥えて大きいことから、「うまい」「美しい」といった意味を表すようになったという。
国内外の総支局長が、地域の自慢の味を紹介します。