宿主の行動操る寄生虫…外の世界にも貢献
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名は体を表す…ハリガネムシ
針金がクネクネと動いているぞ! まさか生き物なのか?
「名は体を表す」という言葉が、これほどぴったりくる生き物はいません。ハリガネムシは長さ数十センチ、太さ1ミリ前後で、細長く黒っぽい体をしています。まさに針金そのものです。カマキリやキリギリスに似たカマドウマの腹に潜んで、水辺に向かうよう操り、溺死させるというユニークな生態を持ちます。その一生は次のようなものです。
まず、水中で生まれたハリガネムシの子どもは、カゲロウなどの幼虫に寄生します。羽化して成虫になったカゲロウは飛び立ち、草むらなどに止まります。そこでカゲロウはカマキリやカマドウマの餌となって、ハリガネムシが寄生するのです。
寄生したハリガネムシは宿主の体内で、栄養をかすめ取って成長します。おとなになると、カマキリやカマドウマの脳神経に作用する物質を出して、川や池に飛び込ませるのです。宿主の尻から飛び出したハリガネムシは、水中をクネクネと移動しながら、交尾の相手を探します。
宿主のカマキリやカマドウマは無駄死にのようです。しかし実は、渓流魚の貴重なエサになることが分かりました。京都大の佐藤拓哉准教授らが紀伊半島の川で調査したところ、イワナが1年間に得るエネルギーのうち、なんと6割が水に飛び込んだカマドウマだったのです。佐藤さんは「ハリガネムシは、森と川の生態系をつなげて、自然環境全体の多様性を維持するための役割を担っている」と話します。
カタツムリと鳥の間に…ロイコクロリジウム
宿主を操る生き物は他にもいます。
吸虫類のロイコクロリジウムの子どもは、カタツムリの仲間に寄生します。カタツムリを鳥の目に付きやすい場所に移動させ、鳥に食べられるよう仕向けます。ロイコクロリジウムは鳥の腸内で産卵し、鳥が排せつしたフンをカタツムリが食べる――といったサイクルを繰り返していきます。
宿主のカタツムリの触角には、ロイコクロリジウムの子どもが何匹も入った袋が収まり、その袋は盛んに伸び縮みします。カタツムリの触角は半透明なので、袋が動く様子が丸見えです。鳥の食欲を刺激し、「さあ食べてくれ」と言わんばかりです。
目黒寄生虫館(東京)の
映画や小説のタイトルなどで目にする「パラサイト」は、寄生生物や寄生虫のこと。その驚きの生存戦略が近年、明らかになっています。パラサイトの不思議ワールドを4回にわたって紹介しましょう。