2007 年の写真の進歩 - 日本写真学会
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<strong>日本写真学会</strong>誌 2008 年 71 巻 3 号:127–158<br />
特 集<br />
<strong>2007</strong> <strong>年の写真の進歩</strong><br />
技術委員会 進歩レビュー分科会<br />
<strong>2007</strong> <strong>年の写真の進歩</strong>は,昨年に引き続き技術委員会の進歩レビュー分科会が担当します.本学会の技術委員会は各研究会の独<br />
自の研究活動とともに,年次大会の実行委員および本レビューを担当し,<strong>日本写真学会</strong>の中核として活動しております.本レ<br />
ビューは現在の写真技術の実態に即した分野のレビューを目指したものです.しかし,技術委員会でカバーできない分野につき<br />
ましては外部の方にお願いしました.本レビューの分類と担当研究会,執筆者は次の通りです.レビュー全体は最小限の統一性<br />
をもたせましたが,内容については各分野,各執筆者を尊重しました.<br />
1. 写真産業界の展望 ・・・・・・・・市川泰憲 127<br />
2. 銀塩感光材料<br />
2.1 理論および技術 ・・・・・・・・・光機能性材料研(久下謙一) 138<br />
2.2 感光材料用結合素材 ・・・・・ゼラチン研(大川祐輔) 139<br />
3. 光機能性材料 ・・・・・・・・・・・・光機能性材料研 141<br />
4. 画像評価・解析 ・・・・・・・・・・画像評価研(藤野 真) 142<br />
5. 分光画像 ・・・・・・・・・・・・・・・・分光画像研(中口俊哉) 143<br />
6. 画像保存<br />
6.1 画像保存関連技術 ・・・・・・・画像保存研(金沢幸彦) 145<br />
6.2 展示・修復・保存関係 ・・・画像保存研(山口孝子) 145<br />
7. 映画 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・玉城和明 147<br />
本レビューは主に写真,画像に関する表 1 に示す学術雑誌,<br />
表 2 に示す学会等の催しの発表から各分野での進歩をまとめ<br />
たものです.本文中では表中に示したような略称が用いられ<br />
ています.表にないものについては,本文中に略称を用いず<br />
に記してあります.組織名,所属については,一般的に広く<br />
使われている略称が用いられています.<strong>2007</strong> 年中に発表され<br />
たものについては年号が記されていません.今年度もここで<br />
引用された文献リストを作成し,本文とともに電子情報とし<br />
て<strong>日本写真学会</strong>のホームページに掲載します.有用にご利用<br />
下さい. 中野 寧(コニカミノルタエムジー)<br />
1. 写真産業界の展望<br />
市川泰憲(写真工業出版社)<br />
1.1 概況<br />
<strong>2007</strong> 年の写真産業界は,2005 年,2006 年と続いた各社銀<br />
塩写真関連からの撤退・規模縮小も一段落した印象がある.<br />
銀塩感光材料では前年に引き続き総出荷はほぼ 100%近傍と<br />
いうことで,統計的にはほぼ下げ止まったという印象だろう<br />
か.カメラ関係の動向を見ると,銀塩フィルムカメラの衰退<br />
はきわめて加速度的で,カメラの生産実績も遠からず本稿で<br />
の掲載順を再構成しなくてはならない時期がやってくるだろ<br />
う.一方でデジタルカメラの生産実績は,過去最高を記録し<br />
127<br />
8. 医用画像 ・・・・・・・・・・・・・・・ 松本政雄 148<br />
9. 科学写真<br />
9.1 文化財 ・・・・・・・・・・・・・・・・ 科学写真研(城野誠治) 150<br />
9.2 天体写真 ・・・・・・・・・・・・・・ 科学写真研(山野泰照) 150<br />
10. 画像入力(撮影機器)・・・ カメラ技術研(長 倫生) 151<br />
11. 画像出力<br />
11.1 プリンタ ・・・・・・・・・・・・・ 村井清昭 153<br />
11.2 印刷 ・・・・・・・・・・・・・・・・・ 小関健一 153<br />
12. 写真芸術 ・・・・・・・・・・・・・・ 西垣仁美 154<br />
13. 写真家から見た画像技術の進歩<br />
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 表現と技術研(矢部國俊) 156<br />
表 1 「<strong>2007</strong> 年写真の進歩」で引用した主な学術雑誌およびその略号<br />
日写誌 : <strong>日本写真学会</strong>誌<br />
JIST : Journal of Imaging Science and Technology<br />
ISJ : Imaging Science Journal<br />
光学 : 光学<br />
日画誌 : 日本画像学会誌<br />
日印誌 : 日本印刷学会誌<br />
写真工業 : 写真工業<br />
PSPIE : Proceedings of SPIE<br />
SMPTEJ : SMPTE Journal<br />
ている.明らかに写真という産業の内部構造が変化した結果<br />
であろうが,画素数増による世代交代から,次の時代への新<br />
技術組み込みが,今後さらなる増大へと牽引していくのだろ<br />
うか.以下,それぞれの分野での主だった各社製品をピック<br />
アップするとともに技術動向を概観してみよう.<br />
1.2 工業生産<br />
1.2.1 統計<br />
①銀塩感光材料<br />
表 3 ~ 5 に <strong>2007</strong>(平成 19)年 1 月から 12 月までの銀塩写<br />
真感光材料に関する総出荷,輸出,輸入の状況を示す.<br />
このうち表 3 の総出荷の状況は,例年は経済産業省化学工<br />
業統計をもとに写真感光材料工業会が独自に算出していた
128<br />
が,<strong>2007</strong> 年 4 月より経済産業省化学工業統計は,写真フィル<br />
ム計,印刷・業務用フィルム,印画紙計以外の品目データが<br />
非開示になった.これは,生産規模,生産企業の縮小により<br />
その細目の公開が不要となることからだ.このため総出荷は,<br />
経済産業省化学工業統計に基づいたフォトマーケット社の推<br />
計データを掲載している.<br />
表 4 の輸出の状況,表 5 の輸入の状況は,財務省貿易統計<br />
に基づく推計によるもので,例年と変化はない.<br />
品目別に見てみると,前年まで X 線用フィルムは前年比を<br />
総出荷・輸出ともわずかながら上回っていたのが,<strong>2007</strong> 年度<br />
では総出荷は微量ながら 1%下回っている.今後数年の動向<br />
を継続的に見ないと明確にはいえないが,医師による医用画<br />
像診断が最終的にレントゲンフィルムによる目視という形態<br />
がわずかながら変化してきたのだろうか.<br />
その点において,印刷・業務用フィルムは,総出荷で前年<br />
比 100%,輸出で 111%,輸入で 124%というのが興味深い.<br />
昨今の印刷技術の進歩から,刷版を必要としないオンデマン<br />
ド印刷や製版フィルムを必要としない CTP(Computer To<br />
Plate)印刷が流行りつつあるものの,まだまだ受け入れられ<br />
ないことに合わせ,印刷現場での手間から,従来校正時の修<br />
正が文字単位,行単位,写真図版単位,ブロック単位であっ<br />
たのが,ページ単位で行うのを原則とするなどの傾向から,<br />
結果としてフィルムの需要は過去と変わらない状態を示して<br />
いるのではないかと考える.<br />
同様に映画用フィルムは,総出荷,輸出,輸入ともいずれ<br />
も前年比を上回っている.この増加はここ数年来の動向だが,<br />
シネマコンプレックス方式によるスクリーン数の増加とも考<br />
えられるが,一方でデジタル化が進むなかでフィルムの消費<br />
が増大するのは,作品をデジタル化することにより,不法に<br />
データがコピーされることを防止する著作権保護のために<br />
も,フィルムでの配給が望ましいと考えられている.<br />
いずれにしても,白黒フィルム,カラーフィルムとも総出<br />
荷,輸出,輸入とも前年比を上回っているのは注目点である.<br />
印画紙では,カラー印画紙が前年比で落ち込んでいるが,<br />
インクジェットプリントの普及などを考慮すれば,健闘して<br />
いると見ていいだろう.<br />
一方で,白黒印画紙は,総出荷で 147%,輸出で 286%と<br />
大幅な伸びを見せている反面,輸入は 74%と大きく落ち込ん<br />
<strong>日本写真学会</strong>誌 71 巻 3 号(2008 年,平 20)<br />
表 2 「<strong>2007</strong> 年写真の進歩」で引用した主な学会等の催しおよびその略号<br />
<strong>日本写真学会</strong>主催のもの 日写春 : <strong>日本写真学会</strong>年次大会研究発表講演会(5/24 ~ 5/25),千葉大<br />
光機能 : 光機能性材料セミナー(6/28),東工大<br />
サマーセミナー : サマーセミナー(8/30 ~ 8/31),湘南国際村センター<br />
画像保存 : 画像保存セミナー(11/2),東京都写真美術館ホール<br />
カメラ技術 : カメラ技術セミナー(11/16),発明会館<br />
日写秋 : <strong>日本写真学会</strong>秋季研究報告会(12/5),キャンパスプラザ京都<br />
デジタル : デジタル写真基礎講座(2/14 ~ 2/15),東京工芸大<br />
関連学協会との連絡協力<br />
によるもの<br />
画像 4 学会 : 画像 4 学会合同研究会(日本印刷学会,日本画像学会,画像電子学会と共催)<br />
(12/7),日本印刷会館<br />
光学五学会 : 第 41 回光学五学会関西支部連合講演会(1/26),大阪市立大<br />
表 3 総出荷の状況(経済産業省化学工業統計に基づくフォトマー<br />
ケット社推計)<br />
品目<br />
平成 19 年数量<br />
(千 m 2 )<br />
前年比<br />
(%)<br />
平成 19 年金額<br />
(百万円)<br />
X 線用フィルム 127,353 99 92,530<br />
印刷・業務用フィルム 94,722 100 39,940<br />
白黒フィルム計 222,075 103 132,470<br />
映画用フィルム 40,084 126 21,503<br />
ロールフィルム 31,401 102 42,426<br />
その他フィルム 3,170 97 10,707<br />
カラーフィルム計 74,655 113 74,636<br />
フィルム計 296,730 105 207,106<br />
白黒印画紙計 5,272 147 5,167<br />
カラー印画紙計 282,832 96 50,769<br />
印画紙計 288,104 97 55,936<br />
写真感光材料計 584,834 101 263,042<br />
(注)化学工業統計は平成 19 年 4 月より写真フィルム計,印刷・業<br />
務用フィルム,印画紙計以外の品目データが非開示となったため,市<br />
場情報を元に推計.ロールフィルムにはレンズ付フィルムを含む.<br />
(写真感光材料工業会提供)<br />
でいる.これは,コダック,アグファの撤退による結果,輸<br />
入先も限られてきたことになるのだろう.結果として,日本<br />
を含む世界市場で日本製品の需要が増大したのだろうか.<br />
②カメラ・フォトプリンター生産実績<br />
表 6 には <strong>2007</strong> 年銀塩カメラ / カメラ用交換レンズ生産出荷<br />
実績表,表 7 には <strong>2007</strong> デジタルスチルカメラ生産出荷実績<br />
表,表 8 には <strong>2007</strong> 年 A4 未満フォトプリンター出荷実績表を<br />
示す.<br />
いずれも,カメラ映像機器工業会(CIPA)統計資料からの<br />
抜粋引用である.この統計データは,CIPA 加盟各社のうち統<br />
計参加メンバー(企業)が提出する月毎の出荷実績に基づい<br />
て算出されているが,一部には外国企業が日本市場に向けた<br />
ものも統計資料には加わっているが,基本的には日本企業の<br />
生産・出荷の実績であり,世界規模ではさらに大きな数が見<br />
込まれる.<br />
表 6 は,フィルムカメラならびに交換レンズの生産出荷実<br />
績であるが,過去には「スチルカメラ等生産出荷実績表」と
表 4 輸出の状況(財務省貿易統計に基づく推計)<br />
品目<br />
平成 19 年数量<br />
(千 m 2 )<br />
前年比<br />
(%)<br />
平成 19 年金額<br />
(百万円)<br />
X 線用フィルム 59,493 81 24,409<br />
印刷・業務用フィルム 225,508 111 138,178<br />
白黒フィルム計 285,001 103 162,587<br />
映画用フィルム 38,131 131 19,485<br />
ロールフィルム 22,808 104 27,116<br />
レンズ付フィルム 33 114 308<br />
その他フィルム 517 88 4,040<br />
カラーフィルム計 61,489 119 50,949<br />
フィルム計 346,490 106 213,536<br />
白黒印画紙計 6,763 286 1,120<br />
カラー印画紙計 191,458 115 32,085<br />
印画紙計 198,221 118 33,205<br />
写真感光材料計 544,711 110 246,741<br />
区 分<br />
銀塩カメラ計<br />
35 mm 用レンズ<br />
デジタル専用レンズ<br />
一眼レフ用交換レンズ計<br />
累計<br />
1~12月<br />
(写真感光材料工業会提供)<br />
して提供されていたが,<strong>2007</strong> 年からは「銀塩カメラ / カメラ<br />
用交換レンズ生産出荷実績表」と変更されている.また,細<br />
目も前年までは FP カメラ,LS カメラ,中・大判カメラと分<br />
類があったのに対し,<strong>2007</strong> 年はそれらをまとめて「銀塩カメ<br />
ラ」として分類されるようになったのが大きな変化である.<br />
2005 年から 2006 年の総生産が前年同期比 30.4%であり,<strong>2007</strong><br />
年はさらにその 46.8%というわけであるから,推して知るべ<br />
しである.いずれにしても PIE(Photo Imaging Expo)2008<br />
のカタログを見ても,フィルムカメラを製造・販売している<br />
のはキヤノン,ニコン,富士フイルム,マミヤを数えるだけ<br />
になっている.今後,銀塩カメラの生産がどのような推移を<br />
見せていくか注目される.<br />
一方で,一眼レフ用の交換レンズは,2005 年から 2006 年<br />
の総生産の 124.2%の伸びよりさらに伸張し <strong>2007</strong> 年は 142.4<br />
%という大きな伸びを見せている.このうち「35 mm 用レン<br />
<strong>2007</strong> <strong>年の写真の進歩</strong> 129<br />
表 5 輸入の状況(財務省貿易統計に基づく)<br />
品目<br />
表 6 銀塩カメラ / カメラ用交換レンズ生産出荷実績表<br />
生産 総出荷<br />
前年同期比<br />
(%)<br />
累計<br />
1~12月<br />
平成 19 年数量<br />
(千 m 2 )<br />
前年比<br />
(%)<br />
平成 19 年金額<br />
(百万円)<br />
X 線用フィルム 9,811 88 6,479<br />
印刷・業務用フィルム 23,851 124 14,146<br />
白黒フィルム計 33,662 111 20,625<br />
映画用カラーフィルム 4,193 106 2,338<br />
ロールカラーフィルム 1,373 267 2,723<br />
レンズ付フィルム 471 68 4,136<br />
その他フィルム 1,181 153 1,460<br />
カラーフィルム計 7,218 122 10,657<br />
フィルム計 40,880 113 31,282<br />
白黒印画紙計 200 74 118<br />
カラー印画紙計 12,768 77 2,022<br />
印画紙計 12,968 77 2,140<br />
写真感光材料計 53,848 101 33,422<br />
前年同期比<br />
(%)<br />
累計<br />
1~12月<br />
(写真感光材料工業会提供)<br />
上段:数量(個),下段:金額(千円)<br />
国内出荷 輸出<br />
前年同期比<br />
(%)<br />
累計<br />
1~12月<br />
前年同期比<br />
(%)<br />
720,475 46.8 791,759 48.4 53,963 42.1 737,796 48.9<br />
2,769,674 36.3 3,873,431 44.0 938,799 46.3 2,934,632 43.4<br />
3,925,873 118.2 3,916,880 118.5 514,908 110.8 3,401,972 119.8<br />
87,372,946 112.6 132,788,808 125.4 18,503,491 114.7 114,285,317 127.3<br />
8,824,795 156.6 8,596,698 157.8 1,150,001 187.0 7,446,697 154.1<br />
107,096,171 128.9 159,189,948 171.2 23,458,290 167.7 135,731,658 171.8<br />
12,750,668 142.4 12,513,578 143.0 1,664,909 154.2 10,848,669 141.4<br />
194,469,117 121.1 291,978,756 146.8 41,961,781 139.3 250,016,975 148.2<br />
カメラ用交換レンズには交換式の標準レンズを含む.(24 mm 専用交換レンズを除く) (カメラ映像機器工業会統計より)<br />
ズ」とは,35 mm フィルムにも使えるいわゆるフルサイズ一<br />
眼レフ用交換レンズであり,「デジタル専用レンズ」とはいわ<br />
ゆる APS-C 判デジタル一眼レフ用交換レンズを指す.その視<br />
点で見ると 35 mm 用レンズは,2005 年から 2006 年の総生産<br />
は 92.4%であったのが,<strong>2007</strong> 年では 118.2%の伸びを示して<br />
いるが,これはデジタル一眼レフのフルサイズ対応機の市場<br />
導入が増加したことによる結果と見てよいだろう.<br />
しかし,デジタル専用レンズも前年に比べ 156.2%と伸び<br />
ているのも見逃せない.今後はフルサイズ対応レンズが伸び<br />
ていくことは間違いないが,デジタル専用レンズに数量的に<br />
均衡するのか,追い抜くことはあるのかは,ひとえにカメラ<br />
技術の進歩にかかわってくる.<br />
表 7 は,デジタルスチルカメラの生産出荷実績表を示す.<br />
このうち画素区分は,ユーザーレベルでの志向を示すもので<br />
はなく,生産されるデジタルカメラが年々高画素化していく
130<br />
画素数区分<br />
区分<br />
600 万画素未満<br />
累計<br />
1 ~ 12 月<br />
ことを示す以外の何ものでもない.このうち「レンズ一体型」<br />
と分類されているのはいわゆるコンパクトデジタルカメラで<br />
あり,このほかにレンズ固着型の一眼スタイルの電子ビュー<br />
ファインダーカメラも含む.「レンズ一体型」と「レンズ交換<br />
式一眼レフタイプ」との比較においては基本的な台数は 1 桁<br />
違うので比較にはならないが,レンズ交換式一眼レフタイプ<br />
のほうが伸び率が大きいのが注目点だ.このような結果が,<br />
交換レンズ全体の好調さを支えていると見てよいだろう.<br />
表 8 は民生用 A4 未満フォトプリンター出荷実績表を示す<br />
が,総生産が前年同期比 86.2%と落ち込んでいる.このうち<br />
国内出荷は,101.7%と前年よりわずかに伸びてはいるが,輸<br />
出の落ち込みは 80.9%と大きく,結果として 86.2%という数<br />
値がでている.これはフォトプリンターが,ある程度のユー<br />
ザーには行き渡り,既購入ユーザーの買い替え時期の狭間に<br />
あるのだろうか,それとも家庭でのプリント人口の限界だろ<br />
うか,今後,長期的には上方向へと回復するのだろうが,い<br />
ずれにしてもデジタルカメラの伸び率と別な動きを示してい<br />
るあたりが注目点だ.図 1 には 2004 年から <strong>2007</strong> 年までの<br />
フォトプリンター出荷台数ならびに金額の推移を示した.<br />
図 2 には,2000 年から <strong>2007</strong> 年までの銀塩とデジタルカメ<br />
ラの出荷推移を示す.これによると 2002 年で銀塩とデジタ<br />
ルが逆転した後の変化は急激であったことはおわかりいただ<br />
<strong>日本写真学会</strong>誌 71 巻 3 号(2008 年,平 20)<br />
表 7 デジタルスチルカメラ生産出荷実績表<br />
上段:数量(台),下段:金額(千円)<br />
生産 出荷 国内出荷 輸出<br />
前年同期比<br />
(%)<br />
累計<br />
1 ~ 12 月<br />
前年同期比<br />
(%)<br />
累計<br />
1 ~ 12 月<br />
前年同期比<br />
(%)<br />
累計<br />
1 ~ 12 月<br />
前年同期比<br />
(%)<br />
4,962,062 25.5 5,084,277 25.0 164,034 9.2 4,920,243 26.5<br />
42,195,563 16.5 50,402,961 16.7 2,480,020 7.6 47,922,941 17.8<br />
600 万画素以上 60,514,212 126.3 60,593,977 126.1 5,599,493 91.0 54,994,484 131.2<br />
800 万画素未満 826,207,599 101.8 992,079,941 98.7 111,168,268 76.6 880,911,673 102.4<br />
800 万画素以上<br />
デジタルスチルカメラ計<br />
タイプ区分<br />
レンズ一体型<br />
レンズ交換式<br />
一眼レフタイプ<br />
区分<br />
A4 未満フォトプリンター計<br />
35,505,504 345.7 34,688,802 327.9 5,224,468 350.7 29,464,334 324.2<br />
789,513,930 235.7 1,018,047,698 217.7 159,363,977 239.0 858,683,721 214.1<br />
100,981,778 130.1 100,367,056 127.1 10,987,995 116.6 89,379,061 128.5<br />
1,657,917,092 118.1 2,060,530,600 116.1 273,012,265 111.8 1,787,518,335 116.8<br />
93,434,483 129.0 92,899,202 126.0 9,922,219 114.0 82,976,983 127.6<br />
1,330,347,159 115.5 1,615,430,989 112.5 209,419,896 105.2 1,406,011,093 113.6<br />
7,547,295 144.3 7,467,854 141.9 1,065,776 148.6 6,402,078 140.8<br />
327,569,933 130.3 445,099,611 131.7 63,592,369 140.5 381,507,242 130.4<br />
累計<br />
1 ~ 12 月<br />
表 8 民生用 A4 未満フォトプリンター出荷実績表<br />
(カメラ映像機器工業会統計より)<br />
上段:数量(台),下段:金額(千円)<br />
出荷 国内出荷 輸出<br />
前年同期比<br />
(%)<br />
累計<br />
1 ~ 12 月<br />
前年同期比<br />
(%)<br />
累計<br />
1 ~ 12 月<br />
前年同期比<br />
(%)<br />
2,000,814 86.2 604,296 101.7 1,396,518 80.9<br />
20,380,608 87.5 6,332,390 99.3 14,048,218 83.0<br />
※調査対象製品:民生用の A4 未満で,かつ PictBridge を標準搭載したフォトプリンター (カメラ映像機器工業会統計より)<br />
図 1 フォトプリンター(A4 未満)総出荷台数 / 金額推移(カメラ映<br />
像機器工業会統計資料より)<br />
けるだろう.同様に図 3 では,その推移を過去 50 年にさか<br />
のぼって集計されているが,<strong>2007</strong> 年はデジタルカメラの出荷<br />
台数が年間で 1 億台を越え,出荷金額で 2 兆円を突破してい<br />
る.これによると銀塩カメラのピークが 1997 年であるから,<br />
そのピーク時に対しデジタルカメラは出荷台数で約 2.7 倍,<br />
金額で約 5.5 倍という数値をだし,カメラ市場規模の大幅な<br />
拡大を見せている.
図 2 2000 年から <strong>2007</strong> 年までのカメラ総出荷台数推移(カメラ映像<br />
機器工業会統計資料より)<br />
この他,CIPA 統計で興味あるデータは図 4 に示すデジタル<br />
カメラ画素数別出荷比率である.1999 年からのデータである<br />
が,1 Mpを超えたコンパクトデジタルカメラの登場が 1998<br />
年から,2.8 Mp デジタル一眼の登場が 1999 年からであるか<br />
ら,統計開始時の画素数はコンパクトデジタルカメラの数値<br />
がほとんどであろう.ただ <strong>2007</strong> 年までの画素数変化は大幅<br />
な伸びを示しており,昨今では,コンパクト,一眼レフとも<br />
1,000 万画素超えは通常となってきており,業務用の中判カ<br />
メラ用撮像板を除けば,35 mm 判フルサイズでは 22 Mp 超え<br />
も登場しているので,今後どこまで画素数の増加は進むのだ<br />
ろうか.かつて 35 mm フィルムの情報量を画素数換算した場<br />
合に約 2,000 万画素とされたときがあるが,このあたりがひ<br />
とつの目途であろうか.ただ高画素化により,店頭処理では<br />
最も需要の多い L 判サイズプリントの作業効率の低下,一般<br />
家庭 PC では画像処理能力の不足などが懸念される.<br />
またカメラ側も,高画素化することにより,レンズ性能の<br />
向上を図らなくてはならないなどの問題が出てくる反面,カ<br />
メラ内の光学ローパスフィルターを省けることなどもあるた<br />
めに,カメラそのものの作り方が変わってくることも十分に<br />
考えられる.いずれにしても,フィルムとデジタルの相違点<br />
を改めて感じさせる部分だ.<br />
<strong>2007</strong> <strong>年の写真の進歩</strong> 131<br />
図 3 過去 50 年カメラ総出荷台数推移;デジタルカメラと銀塩カメ<br />
ラの対比(カメラ映像機器工業会統計資料より)<br />
図 4 デジタルカメラ画素数別出荷比率(カメラ映像機器工業会統計資料より)<br />
1.2.2 新製品<br />
①銀塩写真関連<br />
銀塩関連の新製品は極めて低調であった.フィルム,印画<br />
紙,カメラとも従来からのユーザーに向けた一般的な商品と,<br />
ニッチな市場に向けた高額もしくは逆に低価格なトイ的商品<br />
が目に付くようになったのが,ここ数年来の傾向だ.加えて<br />
この市場に向けた商品を扱う企業は,新規参入が多いが,そ<br />
の数は極めて限られている.<br />
〈銀塩フィルム・印画紙〉<br />
富士フイルムは,2005 年に発売されたカラーリバーサル<br />
フィルム「フジクロームフォルティア SP」を 135–36 枚撮り,<br />
120 サイズを各 10 万本ずつ 1 月 27 日から限定販売した.価<br />
格はオープンだが通常より 3 割ほど高く設定された.<br />
富士フイルムは,販売終了とした「フジクロームベルビア<br />
50 プロフェッショナル」を復活させ,4 月 15 日から発売し<br />
た.性能は従来品とほぼ同等で,ブローニー,シートが用意<br />
されている.<br />
ローライはドイツ・ハンブルグのフィルムメーカー MACO<br />
社と提携し,黒白フィルムの供給を開始.R3(ISO25 ~ 6400),<br />
IR400(赤外・ISO25),RETRO100(ISO100),RETRO400<br />
(ISO400),ORTHO25(ISO25),PAN25(ISO25)の 6 種で,
132<br />
135,120,シートが用意されている.この他 RETRO400 を詰<br />
めたレンズ付フィルム,リキッドタイプ黒白フィルム用現像<br />
液 RHS ハイスピード,RLS ロースピードも用意.日本では<br />
<strong>2007</strong> 年 4 月 5 日より駒村商会が取り扱っている.<br />
オーストラリアの UNVERKAEUFLICH handles GmbH 社<br />
は,ポラロイド社・スコットランド工場へ依頼してセピア調<br />
のタイプ 80 フィルム「ポラロイドチョコレートフィルム」を<br />
製造,4 月 25 日から国内販売代理店エー・パワー社が発売し<br />
た.<br />
DNP フォトマーケティングは,ISO100/200/400 のカラーネ<br />
ガフィルム「センチュリアフィルム」24 枚撮りと 36 枚撮り<br />
を 5 月下旬に発売した.DNP は 76 年 10 月にカラーペーパー<br />
の生産事業所 DNP アイ・エス・エム小田原を設立し DNP セ<br />
ンチュリアペーパーを生産していたが,それに引き続くもの.<br />
富士フイルムは,タングステンタイプ映画用ネガフィルム<br />
の新ラインナップとして「エテルナ・ビビッド 160」,世界初<br />
の映画用デジタルフィルムレコーダー専用フィルム「エテル<br />
ナ-RD1」,映画上映用マスターやアーカイブ用に向けた<br />
デュープフィルム「エテルナ-CI」を 6 月に発売.<br />
富士フイルムは,4 月に復活販売した「フジクロームベル<br />
ビア 50 プロフェッショナル」に 135 サイズを追加で 12 月 16<br />
日から発売.<br />
〈銀塩フィルムカメラ〉<br />
富士フイルムは,200612 月に発売したクラッセ W と同じ<br />
ボディに 38 mm F2.8 レンズを搭載した「クラッセ S」を価格<br />
93,450 円で 4 月下旬に発売.プログラム AE の他絞り優先 AE,<br />
独立した露出補正ダイヤルを備える.<br />
ケンコーは,大型ファインダーに 32 ~ 60 mm F3.5-8.5 ズー<br />
ムレンズを搭載した固定焦点式ストロボ内蔵 35 ミリコンパ<br />
クト「Z60D ビッグファインダー」を推定 1 万円で 5 月下旬<br />
に発売.<br />
ケンコーは,ニコン F,ヤシカ / コンタックス,ペンタッ<br />
クス K の各マウントに対応したマニュアル 35 mm 一眼レフ<br />
「Kenko」を中国からの OEM で 8 月に発売.各モデルとも露<br />
出は SPD による TTL 測光,最高シャッター速度は 1/2000 秒<br />
だが,ニコン F マウント機のみ 1/4000 秒機も用意されてい<br />
る.価格は推定約 2.5 万円.<br />
エー・パワー社は,ポラロイドの T-80,富士フォトラマレ<br />
ギュラーサイズの両方に対応したインスタントピンホールカ<br />
メラ「Pinhole 100」を 4 月 25 日に富士 FP-100C1 本付きを<br />
16,800 円で発売した.<br />
②デジタルイメージング関連<br />
新製品の分野で最も多いのはデジタルカメラの分野だ.コ<br />
ンパクト,一眼レフともに大きな進歩は高画素化だ.いずれ<br />
も,高級・普及機を問わず,800 ~ 1000 万画素超えが標準と<br />
なってきた.このうちコンパクトカメラにおいては,手ぶれ<br />
補正機能組み込み,顔認識 AE・AF,高感度化が各社ともこ<br />
こ数年の技術をさらに推し進めている.またこれらの技術を<br />
さらに発展させて,笑ったときの顔の変化を認識してシャッ<br />
ターを切る,赤目現象を自動的に補正するなどの応用技術が<br />
<strong>日本写真学会</strong>誌 71 巻 3 号(2008 年,平 20)<br />
でてきており,顔認識も当初 3 ~ 4 人程度であったのが最大<br />
15 人まで認識という機種も登場している.<br />
一方で,高感度化はコンパクトカメラの分野でも,<br />
ISO1600・3200・10000 などという機種が登場している.実用<br />
的に許容できる画質か,それともそのような感度設定で撮影<br />
できるという範囲にとどまるのか,などその評価はむずかし<br />
い.この高感度化は,一眼レフでも同様で,ニコン D3 では,<br />
標準的画質が ISO6400 で撮影できるというものだが,拡張感<br />
度では ISO25600 相当という数値での撮影も可能というわけ<br />
で,銀塩フィルム時代には未知の分野であった低輝度シーン<br />
の撮影が,手ぶれ補正レンズとの組み合わせで,さらに暗所<br />
での手持ち撮影が可能となるなど新しい写真表現分野の拡大<br />
を見せている.<br />
コンパクト,一眼レフとも高画素化と高感度化という一方<br />
で相反する技術を両立させようとしているところが興味ある<br />
点だ.限られた面積で高画素化・高感度化を図るには,イメー<br />
ジャーの大型化,すなわち画素ピッチの確保が必要となるの<br />
だが,コンパクトデジタルカメラの 1,000 万画素超えの 1/1.7<br />
型 CCD の画素ピッチは 2 μm を割っており,フルサイズ一眼<br />
レフのニコン D3 の場合には 8.4 μm となっている.<br />
このほか,この時期のカメラに導入された技術で深く潜行<br />
して進んでいるのが,コンパクトカメラでの光学ローパス<br />
フィルターの省略である.これも高画素化と大きく絡んでお<br />
り,高画素化によりモアレ除去の必要がなくなり,さらには<br />
レンズ性能の向上,低コスト化などに関連するであろうこと<br />
が考えられる.同じようにコンパクトカメラでやはり潜行し<br />
て進んでいるのが,レンズの歪曲補正や色収差補正をカメラ<br />
内の画像処理で行っているものだ.特にワイド側にズームレ<br />
ンジを広げたカメラにいくつか見ることができるが,いずれ<br />
もカタログデータレベルではあまり公表されていない.<br />
唯一,一眼レフでニコンの D300 と D3 はカメラ内で交換レ<br />
ンズの倍率色収差を補正する処理を行っていることを明らか<br />
にしている.この結果,過去に発売されたレンズをも含めて<br />
デジタルで大伸ばしすると目障りであった倍率色収差(パー<br />
プルフリンジ)が目に付かなくなるなど,レンズ性能(ユー<br />
ザーレベルで知れる)がレンズ単体でなく,カメラボディに<br />
よって大きく変化するであろうことを示し,これからのデジ<br />
タルカメラのあり方の 1 つを示したものとして注目される.<br />
このレンズの諸収差補正に関しては,キヤノンがカメラに<br />
バンドルした RAW 現像ソフト Digital Photo Professional で,<br />
ほとんどの自社レンズで RAW データ撮影した画像に限り,周<br />
辺光量低下,歪曲収差,倍率色収差,色にじみなどを補正で<br />
きるようにした.<br />
コンパクトデジタルカメラでの歪曲補正は,もともと撮影<br />
前画像を液晶モニターで見ているから可能なことで,一眼レ<br />
フカメラでは優秀な光学ファインダーを搭載していることも<br />
あり,ファインダー像と撮影後のプレビュー画像の直線性が<br />
異なるのでは問題となる.今後は,液晶ビューファインダー<br />
を搭載した一眼型カメラ,さらにはライブビュー画面を PC<br />
の大型モニター画面で遠隔で操作観察するようなスタジオ撮
影など特殊用途に向けた高画素で光学ファインダーのないカ<br />
メラの登場も予想されており,そのようなカメラではボディ<br />
内でどれだけ撮影後の処理を行えるかがポイントとなってく<br />
るはずで,デジタルカメラがフィルムの代わりに撮像素子を<br />
配置したというカメラ技術の延長線から一歩踏み出した形で<br />
の時代が見えてきたのが大きな動きだ.<br />
〈デジタルカメラ〉<br />
リコーは,28 mm 相当からの光学 3 倍ズーム付きで 1/1.8<br />
型 8.1 Mp CCD 搭載し,無線 LAN に対応した防水・防塵仕様<br />
の業務用デジタルカメラ「キャプリオ 500SE Model1」を 1 月<br />
12 日に推定価格 12.4 万円で発売.<br />
富士フイルムは,広いダイナミックレンジをもつ 12.34 Mp<br />
スーパーCCD ハニカム SR Pro を採用した APS-C 判レンズ交<br />
換式一眼レフカメラ「ファインピックス S5Pro」を 1 月下旬<br />
に発売.価格はボディのみ推定 26 万円.<br />
富士フイルムは,光学 3 倍ズーム付きで 1/2.5 型 6.4 Mp CCD<br />
を搭載したコンパクト型工事現場用カメラ「ファインピック<br />
スビッグジョブ HD-3W」を推定 7 万円で 1 月 13 日から発売.<br />
キヤノンは,単 3 形電池 2 本仕様で光学 4 倍ズーム 7.1 Mp<br />
1/2.5 型 CCD を搭載したコンパクト「パワーショット A550」<br />
を推定 23,000 円で,同じく単 3 形電池 2 本仕様で光学 4 倍<br />
ズームで 5 Mp 1/3 型 CCD を搭載したコンパクト「パワー<br />
ショット A460」を推定 23,000 円で,ともに 3 月上旬に発売.<br />
ペンタックスは,本体の厚さを 18 mm と抑え光学 3 倍ズー<br />
ムで 7.1 Mp 1/2.5 型 CCD を搭載したコンパクト「オプティオ<br />
M30」を推定 3 万円で,3 型大型液晶を採用し光学 3 倍ズー<br />
ムで 7.1 Mp 1/2.5 型 CCD を搭載したコンパクト「オプティオ<br />
T30」を推定 3.5 万円で,単 3 形電池 2 本仕様光学 3 倍ズーム<br />
で 7.1 Mp 1/2.5 型 CCD を搭載した普及コンパクト「オプティ<br />
オ E30」を推定 2 万円で,ともに 2 月に発売.<br />
オリンパスは,光学 3 倍ズーム付き 7.1 Mp 1/2.33 型 CCD<br />
を搭載したコンパクト「μ760」を推定4万円で2月中旬に発売.<br />
富士フイルムは,光学 3 倍ズーム付きで 8.3 Mp 1/1.6 型スー<br />
パーCCD ハニカム HR を搭載したコンパクト「ファインピッ<br />
クス F40fd」を推定価格 4.5 万円で,同様に単 3 形電池 2 本仕<br />
様普及タイプコンパクトとして 8.3 Mp 1/1.6 型スーパー CCD<br />
ハニカム HR を搭載し光学 3 倍ズーム付き「ファインピック<br />
ス A800」を 2.3 万円で,6.3 Mp 1/2.5 型スーパー CCD ハニカ<br />
ム HR を搭載し光学 3 倍ズーム付き普及コンパクト「ファイ<br />
ンピックス A610」を 1.9 万円で,ともに 2 月下旬から発売.<br />
オリンパスは,35 mm 判換算 28 ~ 504 mm 相当光学 18 倍<br />
ズーム付き 7.1 Mp 1/2.5 型 CCD を搭載した一眼型「キャメ<br />
ディア SP-550UZ」を推定 6 万円で,水深 10 m,100 ㎏ f の荷<br />
重,–10°C の環境で撮影可能とする 7.1 Mp 1/2.33 型 CCD を搭<br />
載したコンパクト「μ770SW」を推定 4 万円後半で,ともに 3<br />
月に発売.<br />
オリンパスは,キャメディア FE シリーズとして,最高感<br />
度 ISO10000 設定可能な光学 3 倍ズーム,8 Mp 1/1.8 型 CCD<br />
の「FE-250」を推定 4 万円で,光学 5 倍ズーム,7.1 Mp 1/2.5<br />
型 CCD 搭載の「FE-240」を推定約 3 万円で,光学 3 倍ズー<br />
<strong>2007</strong> <strong>年の写真の進歩</strong> 133<br />
ム 7.1 Mp 1/2.5 型 CCD 搭載の「FE-230」を推定約 3 万円で,<br />
同じく「FE-220」を推定 2 万円前半で,ともに 2 月に発売.<br />
マミヤ・デジタル・イメージングは,マミヤ 645AFDII,<br />
645AFD,RZ67 プロ IID に装着するデジタルカメラバックと<br />
して 21.3 Mp 48×36 mm 正方画素 CCD 搭載の「マミヤ ZD バッ<br />
ク」を推定 90 万円で,3 月 19 日に発売.記録は SD,CF カー<br />
ドで,撮影に応じ IR カットと光学ローパスフィルターを交換<br />
使用できる.<br />
リコーは,35 mm判28~200 mm相当7.1倍ズームで,7.2 Mp<br />
1/2.5 型 CCD を搭載した「キャプリオ R6」を推定 4.7 万円で,<br />
3 月 23 日に発売.<br />
キヤノンは,3 倍ズーム付き 7.1 Mp 1/2.5 型 CCD を搭載し<br />
たコンパクト「IXY デジタル 10」を推定価格 3.7 万円で,「IXY<br />
デジタル 90」を推定価格 4 万円で 3 月中旬に発売.両機の違<br />
いは,外観デザイン,液晶モニターの大きさ,光学ファイン<br />
ダー有無などである.また縦型デザインのコンパクトで光学<br />
10 倍ズーム 7.1 Mp 1/2.5 型 CCD を搭載「パワーショット TX1」<br />
を推定価格 5 万円で,光学 4 倍ズームの「パワーショット A-<br />
570S」を推定価格 3 万円で 3 月中旬に発売.TX1 は,静止画<br />
に加え最大 1280×720 Pix/30 フレームの HD 動画も記録可能.<br />
ペンタックスは,水深 3mまでの水中で連続 2 時間の撮影<br />
が可能な 3 倍ズーム付き 7.1 Mp 1/2.5 型 CCD 搭載のコンパク<br />
ト「オプティオ W30」を推定価格 4 万円で,ISO3200 まで対<br />
応の 3 倍ズーム付き 7.1 Mp 1/2.5 型 CCD 搭載コンパクト「オ<br />
プティオ A30」を推定価格 4 万円で 3 月中旬に発売.<br />
ニコンは,光学 3.5 倍ズーム 10 Mp 1/1.8 型 CCD 搭載のコ<br />
ンパクト「クールピクス 5000」を推定価格 4.5 万円,光学 3<br />
倍ズーム 7.1 Mp 1/2.5 型 CCD 搭載「クールピクス S500」を<br />
推定価格 4 万円で,光学 3 倍ズーム 7.1 Mp 1/2.5 型 CCD 搭載<br />
「クールピクス S200」を推定価格 3 万円で 3 月に発売.5000<br />
は ISO3200 に対応,手ブレが起きやすいシーンで最大 10 コ<br />
マを撮影し,最も鮮明な 1 コマを自動記録するベストショッ<br />
トセレクター機能をもつ.<br />
ニコンは,APS-C 初級一眼レフとして 10.2 Mp CCD の<br />
「D40x」をボディのみ推定 8 万円で 3 月 29 日に発売.<br />
シグマは,Foveon イメージセンサーを使用した APS-C 一<br />
眼レフ「SD14」を 3 月に発売.Foveon は 1 画素で RGB3 色<br />
を取り込める CMOS で,光学ローパスフィルターを不要と<br />
し,画素数は 2,652×1,768×3 で約 14 Mp,価格はボディのみ<br />
で推定 20 万円.<br />
リコーは,35 mm 判 24 mm 相当の 3 倍ズームで,10 Mp 1/<br />
1.75 型 CCD を搭載したコンパクト「キャプリオ GX100」を<br />
推定 8 万円で,4 月 20 日に発売した.ホットシューに外付け<br />
式液晶ファインダーを取り付けでき,アングルビューファイ<br />
ンダー的な撮影もできる.<br />
オリンパスは,顔検出逆光補正機能を備えた,5 倍ズーム<br />
付き 7.1 Mp,1/2.33 型 CCD を搭載したコンパクト「μ780」を<br />
推定 4.5 万円前後で 4 月に発売.<br />
オリンパスは,LiveMOS センサー 10 Mp 4/3 型規格一眼レ<br />
フ「E-410」を 4 月にボディのみ推定 9 万円前後で発売.ラ
134<br />
イブビュー機能搭載で,小型・軽量が特徴.<br />
ソニーは,動体予測 AF を組み込み,35 mm 判換算 31 ~<br />
465 mm 相当の高倍率ズーム,8.1 Mp 1/2.5 型 CCD 搭載の一<br />
眼型「サイバーショット DSC-H7」を推定価格 5 万円で 4 月<br />
に発売.<br />
キヤノンは,光学 4 倍ズーム,8 Mp 1/2.5 型 CCD 搭載のコ<br />
ンパクト「IXY デジタル 810 IS」を推定 4.7 万円で 4 月 25 日<br />
に発売.<br />
キヤノンは,APS-H 判 10.1 Mp CMOS で,秒 10 コマの連<br />
写機能,ライブビュー機能を持つプロ仕様一眼レフ「EOS-<br />
1DMarkIII」を 5 月下旬に発売.価格はボディのみ推定 50 万円.<br />
キヤノンは,光学 12 倍ズーム,8 Mp 1/2.5 型 CCD 搭載の<br />
一眼型「パワーショット S5IS」を推定価格 5 万円で 6 月中旬<br />
に発売.<br />
ソニーは,光学 3 倍ズーム 12.1 Mp 1/1.7 型 CCD 搭載のコ<br />
ンパクト「サイバーショット DSC-W200」を推定 5 万円で 6<br />
月 8 日に発売.1/1.7 型で 12.1 Mp は画素ピッチは約 1.9 μm と<br />
なる.<br />
コダックは,光学 3 倍ズーム,10 Mp 1/1.8 型 CCD 搭載の<br />
コンパクト「イージーシェア V1003 ズーム」を推定 3 万円で<br />
6 月中旬に発売.<br />
オリンパスは,LiveMOS センサー 10 Mp 4/3 型規格一眼レ<br />
フでボディ内手ブレ補正機構,ライブビュー機構内蔵の「E-<br />
510」を 7 月に推定価格ボディのみ 11 万円で発売.<br />
ペンタックスは,,APS-C 初級一眼レフとして 6.2 Mp CCD<br />
の「ペンタックス K100D」をボディのみ推定 7.5 万円で 7 月<br />
12 日に発売.ボディ内手ブレ補正機構,ゴミ除去機構を搭載.<br />
富士フイルムは,光学 4 倍ズーム付きで 9 Mp 1/1.6 型スー<br />
パーCCD ハニカム HR を搭載したコンパクト「ファインピッ<br />
クス A900」を推定価格 2.5 万円で,6 月 23 日に発売.<br />
ペンタックスは,光学 3 倍ズーム,8.1 Mp 1/2.5 型 CCD 搭<br />
載のコンパクト「オプティオ E40」を推定 2 万円で 8 月下旬<br />
に発売.<br />
ペンタックスは,光学 3 倍ズーム 8.1 Mp 1/2.35 型 CCD 搭<br />
載のコンパクト「オプティオ M40」を推定 2.8 万円で 8 月下<br />
旬に発売.顔認識 AE・AF,ISO3200 に対応.<br />
松下電器産業は,35 mm 判 28 ~ 100 mm 相当の光学 3.6 倍<br />
ズーム,8 Mp 1/2.5 型 CCD 搭載のコンパクト「ルミックス<br />
DMC-FX33,DMC-FX55」を推定 4.3 万円と 4.5 万円で 8 月 25<br />
に発売.FX33 は 2.5 型,DMC-FX55 は 3 型背面液晶を搭載.<br />
松下電器産業は,35 mm 判 28 ~ 504 mm 相当の光学 18 倍<br />
ズーム,8 Mp 1/2.5 型 CCD 搭載の一眼型「ルミックス DMC-<br />
FZ18」を推定 5.5 万円で 8 月 25 日に発売.絞り,シャッター<br />
速度のフルマニュアルが可能.<br />
キヤノンは,APS-C 判の 10.1 Mp CMOS センサー搭載の<br />
「EOS40D」を 8 月に推定 15 万円で発売.6.5 秒の連写,ライ<br />
ブビューが可能.<br />
キヤノンは,光学 6 倍ズーム,12.1 Mp 1/1.7 型 CCD 搭載<br />
のコンパクト「パワーショット A650IS」を推定 5 万円で 8 月<br />
30 日に発売.2.5 型バリアングル液晶を搭載.<br />
<strong>日本写真学会</strong>誌 71 巻 3 号(2008 年,平 20)<br />
キヤノンは,光学 4 倍ズーム,7.1 Mp 1/2.5 型 CCD 搭載の<br />
コンパクト「パワーショット A560」を推定 2.3 万円で 8 月 30<br />
日に発売.<br />
オリンパスは,水深 3mまでの防水機能と耐衝撃性を高め<br />
た光学 3 倍ズーム,7.1 Mp 1/2.33 型 CCD 搭載のコンパクト<br />
「μ790SW」を推定 4 万円前後で 8 月下旬に発売.同じく水深<br />
10 m までの防水機能と耐衝撃性を高めた光学 3 倍ズーム,<br />
7.1 Mp 1/2.33 型 CCD 搭載のコンパクト「μ795SW」を推定 5<br />
万円前後で 9 月 21 日に発売.<br />
オリンパスは,光学 3 倍ズーム,1.2 Mp 1/1.72 型 CCD の<br />
「キャメディア FE-300」を推定 4 万円で 8 月に発売.同じく<br />
光学 3 倍ズーム,8 Mp 1/2.35 型 CCD の「キャメディア FE-<br />
280」を推定 2.8 万円で 8 月に発売.同じく 35 mm 判 28 mm<br />
相当から光学 4 倍ズーム,7.1 Mp 1/2.5 型 CCD の「キャメ<br />
ディア FE-290」を推定 3 万円で 9 月 21 日に発売.<br />
キヤノンは,35 mm 判 28 ~ 105 mm 相当の光学 3.8 倍ズー<br />
ム,8 Mp 1/2.5 型 CCD 搭載のコンパクト「IXY デジタル 910IS」<br />
を推定 4.7 万円で 9 月上旬に発売.<br />
富士フイルムは,光学 3 倍ズーム,12 Mp 1/1.6 型スーパー<br />
CCD ハニカムⅦ V「HR」CCD 搭載のコンパクト「ファイン<br />
ピックス F50fd」を推定 4.5 万円で 9 月下旬に発売.顔認識,<br />
CCD シフト手ブレ補正,ISO6400 に対応.<br />
富士フイルムは,光学 5 倍ズーム,8 Mp 1/2.5 型 CCD 搭載<br />
のコンパクト「ファインピックス Z100fd」を推定 4 万円で 9<br />
月下旬に発売.顔認識,手ブレ補正に対応.<br />
富士フイルムは,35 mm 判 27 ~ 486 mm 相当の光学 18 倍<br />
ズーム,8 Mp 1/2.35 型 CCD 搭載の一眼型「ファインピック<br />
ス S800fd」を推定 5 万円で 9 月上旬に発売.CCD シフト手ブ<br />
レ補正,ISO6400 に対応.<br />
キヤノンは,35 mm 判 35 ~ 210 mm 相当の光学 6 倍ズー<br />
ム,8 Mp 1/2.5 型 CCD 搭載のコンパクト「パワーショット<br />
A720IS」を推定 3.5 万円で 9 月 13 日に発売.<br />
キヤノンは,35 mm 判 35 ~ 210 mm 相当の光学 6 倍ズー<br />
ム,12.1 Mp 1/1.7 型 CCD 搭載のコンパクト「パワーショッ<br />
ト G9」を推定 6 万円で 9 月下旬に発売.光学透視ファイン<br />
ダーを搭載,マニュアルシャッター,絞り,ピントが可能.<br />
キヤノンは,光学 3.7 倍ズーム 12.1 Mp 1/1.7 型 CCD 搭載<br />
のコンパクト「IXY デジタル 2000IS」を推定 5 万円で 9 月下<br />
旬に発売.<br />
キヤノンは,35 mm 判 36 ~ 360 mm 相当の光学 10 倍ズー<br />
ム,8 Mp 1/2.5 型 CCD 搭載のコンパクト「パワーショット<br />
SX100IS」を推定 4 万円で 10 月下旬に発売.<br />
ニコンは,無線 LAN 機能を搭載した光学 3 倍ズーム 8.1 Mp<br />
1/2.5 型 CCD のコンパクト「クールピクス S51c」を推定 3.5<br />
万円で 9 月 14 日に発売.<br />
ニコンは,光学 3.5 倍ズーム,12.1 Mp 1/1.7 型 CCD 搭載の<br />
コンパクト「クールピクス P5100」を推定 4.5 万円で 9 月 21 日<br />
に発売.<br />
オリンパスは,35 mm 判 27 ~ 486 mm 相当の光学 18 倍<br />
ズーム,8.1 Mp 1/2.35 型 CCD 搭載の一眼型「キャメディア
SP560U」を推定 5.5 万円前後で 9 月 21 日に発売.<br />
オリンパスは,35 mm 判 36 ~ 180 mm 相当の光学 5 倍ズー<br />
ム,8.1 Mp 1/2.35 型 CCD 搭載のコンパクト「μ830」を 4.3 万<br />
円前後で 9 月に発売.同じく光学 3 倍ズーム,12 Mp 1/1.72<br />
型CCD搭載のコンパクト「μ1200」を5万円前後で10月に発売.<br />
ソニーは,光学 5 倍ズームの 8.1 Mp 1/2.5 型 CCD の「サイ<br />
バーショット DSC-T200」を推定 4.8 万円後半で,同じく 3 倍<br />
ズーム,8.1 Mp 1/2.5 型 CCD の「サイバーショット DSC-T70」<br />
を推定 4 万円で共に 9 月 21 日に発売.どちらも顔認識機能<br />
を発展させた,笑うとシャッターが切れる機能を搭載.<br />
ソニーは,背面液晶 3 型,光学 5 倍ズーム,8.1 Mp 1/2.5 型<br />
CCD の「サイバーショット DSC-H3」を推定 4 万円で 9 月 14<br />
日に発売した.<br />
リコーは,高感度時のノイズを抑えた35 mm判28~200 mm<br />
相当の光学 7.14 倍ズーム,8.15 Mp 1/2.5 型 CCD 搭載のコン<br />
パクト「キャプリオ R7」を推定 4.7 万円で 9 月 14 日に発売.<br />
ニコンは,35 mm 判 28 ~ 102 mm 相当の光学 3 倍ズーム,<br />
8.1 Mp 1/2.5 型 CCD 搭載のコンパクト「クールピクス P50」<br />
を推定 3 万円で 10 月に発売.<br />
ニコンは,光学 3 倍ズーム,8.1 Mp 1/2.5 型 CCD の「クー<br />
ルピクス S510」を推定 3.5 万円で 9 月 21 日に発売.同じく<br />
光学 3 倍ズーム,12.1 Mp 1/1.72 型 CCD の「クールピクス<br />
S700」を推定 4.5 万円で 10 月に発売.同じく光学 3 倍ズー<br />
ム,8.1 Mp 1/2.5 型 CCD の「クールピクス S51」を推定 3 万<br />
円で 9 月 14 日に発売.<br />
ニコンは,単 3 型電池仕様の光学 3 倍ズーム,8.1 Mp 1/2.5<br />
型 CCD の「クールピクス L15」を推定 2.5 万円で 10 月に発<br />
売.同じく光学 3 倍ズーム,7.1 Mp 1/2.5 型 CCD の「クール<br />
ピクス L14」を推定 2 万円で 10 月に発売.<br />
ペンタックスは,光学 3 倍ズーム 10 Mp 1/1.8 型 CCD の<br />
「オプティオ S10」を推定 3.5 万円で 9 月 13 日に発売.同じ<br />
く屈曲光学系の 7 倍ズーム,8 Mp 1/2.5 型 CCD の「オプティ<br />
オ Z10」を推定 3 万円後半で 10 月中旬に発売.<br />
ハッセルブラッドの日本代理店であるシュリロトレーディ<br />
ングはセンサーの冷却機能,3 型液晶搭載の中判デジタル一<br />
眼レフ「ハッセルブラッド H3DII」を 10 月 1 日に発売した.<br />
画素数別に 39 Mp CCD(36.7×49.0 mm)H3D-39II 491.4 万円,<br />
31 Mp CCD(33.1×44.2 mm)H3D-31II 435.75 万円,22 Mp CCD<br />
(36.7×49 mm)H3D-22II 372.75 万円と 3 モデルある.<br />
キヤノンは,35 mm判フルサイズで最高画素となる21.1 Mp<br />
CMOS センサー搭載の「EOS-1DsMarkIII」を 11 月下旬に推<br />
定 90 万円で発売.ゴミ除去機能を搭載,ライブビューが可能.<br />
ソニーは,APS-C 判の 12.2 Mp CMOS センサー搭載の一眼<br />
レフ「α700」を 11 月に推定 18 万円で発売.ボディ内手ブレ<br />
補正機構搭載,ISO3200 まで常用感度として対応.<br />
ニコンは,35 mm 判フルサイズの 12 Mp CMOS センサー搭<br />
載の一眼レフ「D3」を 11 月に推定 58 万円で発売.ボディ内<br />
でレンズの倍率色収差を補正,ISO6400 まで常用感度として<br />
対応,ライブビューが可能.<br />
ニコンは,APS-C 判の 12.3 Mp CMOS センサー搭載の一眼<br />
<strong>2007</strong> <strong>年の写真の進歩</strong> 135<br />
レフ「D300」を 11 月に推定 28 万円で発売.ボディ内でレン<br />
ズの倍率色収差を補正,ISO3200 まで常用感度として対応,<br />
ライブビューが可能.<br />
松下電器産業は,4/3 型の 10.1 Mp LiveMOS センサー搭載<br />
の一眼レフ「パナソニックルミックス L10」を 10 月 26 日に<br />
推定 10 万円で発売.ライブビューに対応させ 2.5 型フリーア<br />
ングル背面液晶を搭載.カメラ内 3 枚の画像合成に加え,ラ<br />
イブビュー撮影時はプレビューで確認し,次の画像を重ねら<br />
れる.<br />
オリンパスは,4/3 型の 10.1 Mp LiveMOS センサー搭載の<br />
一眼レフ「E-3」を 11 月 23 日に推定 20 万円で発売.ライブ<br />
ビューに対応させ 2 軸可動の背面液晶を搭載,プロ対応の同<br />
社フラッグシップ機として位置づけられている.<br />
ペンタックスは,光学 3 倍ズーム 8 Mp 1/2.35 型 CCD の<br />
「オプティオ V10」を推定 3 万円で 11 月上旬に発売.背面液<br />
晶は 3.0 型と大型,手ブレ補正は ISO3200 まで自動感度アッ<br />
プで対応.<br />
富士フイルムは,35 mm 判 28 mm 相当からの 4 倍ズーム,<br />
8.15 Mp 1/2.5 型 CCD のコンパクトデジタルカメラ「ファイ<br />
ンピックス F480」を推定価格 2.5 万円で,同じく 3 倍ズーム,<br />
7.24 Mp 1/2.5 型 CCD のスライドカバー式薄型コンパクトデ<br />
ジタルカメラ「ファインピックス Z10fd」を推定価格 3 万円<br />
で,共に 11 月中旬に発売.<br />
リコーは,10 Mp 1/1.75型CCD採用の高画質35 mm判28 mm<br />
画角相当単焦点コンパクトデジタルカメラ「リコー GR デジ<br />
タルⅡ」を 11 月 22 日に推定価格 8 万円で発売.アスペクト<br />
比 1:1の画面出力をもち,電子水準器を搭載.<br />
ソニーは,大容量 4GBの内蔵メモリーを搭載した 8.1 Mp<br />
1/2.5 型 CCD のコンパクトデジタルカメラ「サイバーショッ<br />
ト T2」を 11 月 22 日に発売.撮影画像だけでなく,PC から<br />
の画像転送もでき,ビューアーとしての機能ももつ.<br />
〈プリンター・IJ 用紙・スキャナー〉<br />
三菱製紙は,2006 年 3 月に販売終了した銀塩モノクロ印画<br />
紙月光ブランドのモノクロ用インクジェット用紙「月光<br />
(GEKKO)」を 3 月に発売.黒のしまりが良く,多階調印画<br />
紙のようなグラデーションを特徴とし,微粒面光沢(ブルー<br />
ラベル),画材光沢(レッドラベル)の 2 種がある.サイズは<br />
6 切(20 枚,1,890 円),4 切(20 枚,2,730 円),A3+(20 枚,<br />
5,040 円).価格は参考.<br />
キヤノンは,顔料ブラックインクと 3 色の染料インクを採<br />
用した A4 インクジェットプリンター「PIXUS iP2500」を推<br />
定 1 万円で,A4 モバイルノート型プリンター「PIXUS iP90v」<br />
を推定 28,000 円で 4 月上旬に発売.<br />
ケンコーは,詰め替え可能インクカートリッジを採用した,<br />
兵庫県クローズアップ社のエプソンインクジェットプリン<br />
ター対応のカラーインク,スーパーモノクロームインクイン<br />
クを 4 月 20 日から発売.詰め替えインクと合わせ 6 回の入<br />
れ替えでコストが半分になるとされている.<br />
ノーリツ鋼機は銀塩ペーパーミニラボ機で,デジカメプリ<br />
ント毎時約 790 枚処理の「QSS-3501iPLUS」,約 910 枚処理の
136<br />
「QSS-3501PLUS」,約 1200 枚処理の「QSS-3502PLUS」を 4 月<br />
末に発売.PC,モニター,スキャナーなど離して設置できる<br />
セパレートレイアウトに対応したことが特徴.<br />
キヤノンは,L/ポストカード判用小型昇華型プリンター<br />
「SELPHY CP750」推定 18,000 円,「SELPHY CP740」推定 13,000<br />
円を 6 月 8 日に発売.CP750 型には 2.4 型液晶モニター,CP740<br />
型には 2.0 型液晶モニターが付いている.<br />
セイコーエプソンは,回収した使用済みカートリッジにイ<br />
ンクを再充填した再生カートリッジを開発,5 月からエプソン<br />
販売のネットショップを通じて販売.<br />
エプソンは,ミニラボ店向けの顔料タイプインクジェット<br />
プリンター「クリスタリオイージーラボ PPPS2-80EL」を 6 月<br />
下旬から発売.L 判で毎時 325 枚出力でき,プリントサイズ<br />
は L 判から 4 切まで.<br />
キヤノンは,A1 ノビサイズ(24 インチ幅)対応の「image<br />
PROGRAF iPF6100」365,400 円,A2 ノビサイズ(17 インチ<br />
幅)対応の「imagePROGRAF iPF5100」291,900 円を 7 月に発<br />
売.12 色顔料インクを採用,環境光補正機能により照明光に<br />
よる見え方の違いを補正した出力が可能とされる.<br />
ピクトリコは,白色度,光沢感を増した「ピクトリコプロ・<br />
フォトペーパー」を 5 月 24 日に発売.L 判から A3+ まで,<br />
厚みは 290 μm.<br />
エプソンは,L 判とはがきサイズに特化した小型インク<br />
ジェットプリンター「カラリオ E-720」推定 3 万円,「カラリ<br />
オ E-520」推定 2 万円前半,「カラリオ E-300L」1 万円半ば,<br />
を 9 月 16 日に発売した.上位機 E-720 には,顔を細身に見<br />
せる修正機能,CD/DVD ドライブ機能が付いている.<br />
キヤノンは,A4 フラットベッドスキャナーとして 4,800 dpi<br />
の解像度,ブローニーまでのフィルムスキャン機能を持つ「キ<br />
ヤノスキャン 8800F」推定 2.6 万円と,世界最小クラスを実<br />
現した 2,400 dpi 解像度の「LiDE90」推定 1 万円を 8 月 30 日<br />
に発売.<br />
ノーリツ鋼機は,高い拡張性を確保した高性能デジタルミ<br />
ニラボ機として L 判プリント毎時 2,250 枚の「QSS-3704」を<br />
1,647 万円で,L 判プリント毎時 2,560 枚の「QSS-3705」を<br />
1,798 万円で 9 月初旬から発売.処理ペーパー幅は共に 82.5<br />
~ 305 mm まで.<br />
富士フイルムイメージングは,ユーザーが店頭で液晶タッ<br />
チパネルでセルフプリントを行う昇華型染料熱転写方式のデ<br />
ジタルプリントシステムの「プリンチャオ Jr.」を推定価格 85<br />
万円で,9 月 10 日に発売.<br />
エプソンは,A4 フラットベッドスキャナーとして 6,400 dpi<br />
解像度で 4×5 インチフィルムまで読みとれる「GT-X970」推<br />
定 5.5 万円と,同じく 6,400 dpi 解像度でブローニーフィルム<br />
まで読みとれる「GT-X770」推定 3 万円を,9 月 7 日に発売した.<br />
キヤノンは,A4・7 色 IJ プリンター・A4・4800 dpi スキャ<br />
ナー対応の複合機「PIXUS MP970」を推定 4 万円で,A4・5 色<br />
IJ プリンター・A4・4800 dpi スキャナー対応の複合機「PIXUS<br />
MP610」を推定 2.8 万円で,A4・4 色 IJ プリンター,A4・2400 dpi<br />
スキャナー対応の複合機「PIXUS MP520」を推定 2 万円で,<br />
<strong>日本写真学会</strong>誌 71 巻 3 号(2008 年,平 20)<br />
A4・4 色 IJ プリンター・A4・2400 dpi スキャナー対応の複合<br />
機「PIXUS MP470」を推定1.6万円で,いずれも10月4日に発売.<br />
キヤノンは,A4・5 色インク,L 判縁なしプリント 18 秒,<br />
自動両面印刷対応の IJ プリンター「PIXUS iP4500」推定を 1.8<br />
万円で,A4・4 色インク,2 ウエイ給紙の IJ プリンター「PIXUS<br />
iP3500」を推定 1.3 万円で,2L 判までプリント可能な 2.5 型<br />
液晶モニター付き 4 色インク IJ プリンター「PIXUS mini360」<br />
を推定 2 万円で,いずれも 10 月 4 日に発売した.<br />
キヤノンは,大判写真・ポスターなどの制作に向けた大判<br />
IJ プリンターで 60 インチ幅「イメージプログラフ iPF9100」<br />
209.79 万円と 44 インチ幅対応の「イメージプログラフ<br />
iPF8100」73.29 万円を 10 月中旬に発売した.いずれも顔料<br />
タイプで,モノクロ系 4 種のインクを改良し,見る角度によ<br />
り金属の輝きに見える「ブロンズ現象」を低減している.<br />
キヤノンは,インク・用紙一体カセット式の昇華型 L 判用<br />
小型プリンター「セルフィー ES2」を推定 2.5 万円で 10 月 18<br />
日に発売した.<br />
エプソンは,L 判縁なし 19 秒プリントの A4・6 色インク<br />
IJ プリンター・A4・3200 dpi スキャナー対応の複合機「MP-<br />
T960」を推定 3 万円後半で,A4・6 色 IJ プリンター・A4・<br />
1200 dpi スキャナー対応の複合機「MP-A940」を推定 3 万円<br />
前半で,A4・6 色 IJ プリンター・A4・1200 dpi スキャナー対<br />
応の複合機「MP-A740」を推定 1 万円後半で,いずれも 10 月<br />
4 日に発売した.<br />
エプソンは,4 色インク・A4 対応の IJ プリンター「PM-<br />
V780」を 1 万円前半で 10 月 4 日に,ブルーに代わりオレン<br />
ジインクを採用した 8 色顔料インク PX-G を使用した A3+ 対<br />
応機の IJ プリンター「PM-G5300」を推定 6 万円後半で,<strong>2007</strong><br />
年末に発売.<br />
エプソンはは,大判写真・ポスターなどの制作に向けた大<br />
判 IJ プリンターで 64 インチ幅「MAXART PX-2000」241.29<br />
万円,B0+ 対応の「MAXART PX-9550」68.04 万円,A1 対応<br />
の「MAXART PX-7550」36.54 万円,B0+ 対応の「MAXART<br />
PX-9500N」62.79 万円,A1+ 対応の「MAXART PX-7500N」31.2<br />
万円,B0+ 対応の「MAXART PX-9550S」62.79 万円,A1+ 対<br />
応の「MAXART PX-7550S」31.29 万円,を 10 月下旬に発売.<br />
富士フイルムは,ミニラボ機フロンティアに搭載されてい<br />
る画像処理技術を搭載した L・はがきサイズ対応の昇華型小<br />
型プリンターにメモリースロット /2.4 型液晶モニター搭載の<br />
「富士フイルムファインピックスプリンター QS-70」を推定<br />
1.7 万円で,普及機「QS-7」を推定 1.2 万円で 10 月 20 日に発<br />
売.また,「QS-7」をベースに,規定・任意の証明サイズ出<br />
力が可能な「IP-10」を推定 6 万円で 11 月下旬に発売.<br />
キヤノンは,IJ 写真用紙スーパーフォトペーパー並びに光<br />
沢紙 / エコノミーフォトペーパーの後継として,RC ベースの<br />
高品位ペーパーとして「キヤノン写真用紙・光沢ゴールド」,<br />
スタンダードな「キヤノン写真用紙・光沢」を 11 月上旬か<br />
ら発売した.サイズは L 判から A3+ まで.価格はオープン.<br />
三菱製紙は,ピクトリコからモノクロ IJ ペーパーで,バラ<br />
イタ調・滑面光沢の「月光グリーンラベル」と高マット調・
滑面無光沢の「月光ブラックラベル」を 11 月 5 日に発売.サ<br />
イズは 6 切,4 切,A3+ の 3 種.<br />
富士フイルムは,デジタルミニラボの新シリーズとしてフ<br />
ロンティア 700 シリーズとして「フロンティア 700/710/720/<br />
750/760/770/790」の 7 機種を 11 月 30 日に発売した.新シリー<br />
ズは 2 種類のフィルムスキャナーと 7 種類のプリンター部を<br />
フレキシブルに組み合わせできる拡張性を特徴とし,サイズ<br />
の異なる 4 種のペーパーをスムーズに切り替えられるペー<br />
パーマガジンにも対応.処理能力は 7000 の毎時 L 判 790 枚<br />
から,7900 の毎時 2,500 枚まで.システム参考価格は,フロ<br />
ンティア 710 が 1,639.5 万円,750 が 2,039.5 万円.<br />
1.3 企業・団体・人の動き<br />
富士フイルムグループは,2 月 13 日,富士フイルムホール<br />
ディングス並びに事業会社である富士フイルム,富士ゼロッ<br />
クスの 3 社の本社機能を東京・六本木の東京ミッドタウンの<br />
「ミッドタウン・ウエスト」に集結した.また 3 月 30 日には<br />
“写真文化の情報発信基地”として,写真ギャラリー,ショー<br />
ルーム,写真博物館,イベントスペースを集約した複合施設<br />
「フジフイルムスクエア」を開設した.<br />
コダックと販売代理店の加賀ハイテックは,国内での処理<br />
設備の維持が困難になったことを理由に,3 月でのコダク<br />
ローム 64,コダクローム 64 プロフェッショナルの在庫払底<br />
に伴い販売を終了し,12 月 20 日の受付分をもって国内での<br />
現像処理を終了した.以後は米国での処理となる.<br />
ペンタックスは,4 月 18 日に映像をキーワードにした総合<br />
コミュニケーションスペースとして「ペンタックススクエア」<br />
を東京西新宿の新宿センタービルに開設した.ギャラリー,<br />
ショールーム,サービスセンター,会員制フォトカルチャー<br />
クラブなどが設置されている.<br />
日本カメラ博物館は,理研感光紙に始まるリコーの「リコー<br />
フレックスから GR デジタルまで」展を 3 月 13 日から 6 月<br />
24 日まで開催.<br />
カメラ雑誌 11 誌の新製品担当者で構成するカメラ記者ク<br />
ラブは「カメラグランプリ <strong>2007</strong> にペンタックス K10 を選考」,<br />
6 月 1 日写真の日に贈呈式を行った.選考は記者クラブ員 11<br />
名,雑誌代表者 11 名,外部委託選考委員 20 名,特別選考委<br />
員 8 名の総計 50 名の記名投票により行われた.<br />
カメラ映像機器工業会は,5 月 30 日に,代表理事会長にキ<br />
ヤノン株式会社の内田恒二氏,代表理事副会長にカシオ計算<br />
機株式会社の樫尾幸雄氏を選任した.<br />
日本写真映像用品工業会は,5 月 30 日に,会長にベルボン<br />
株式会社の中谷幸一郎氏,副会長に株式会社ケンコーの大堀<br />
歡二氏とハクバ写真産業の南英幸氏が選任された.<br />
ニコンは,1959 年のニコン F 発売以来,一眼レフ用のニッ<br />
コールレンズの累計生産本数が 4,000 万本を突破したと 7 月<br />
30 日に発表.<br />
ニコンは,ニコン D2Xs と交換レンズアクセサリーなどが<br />
アメリカ宇宙局 NASA からスペースシャトルの記録撮影用に<br />
受注したと 8 月 22 日に発表.<br />
富士フイルムは,デジタルカメラ生産を中国工場(蘇州市)<br />
<strong>2007</strong> <strong>年の写真の進歩</strong> 137<br />
へ全面化.また CCD 前工程を東芝に生産委託し,独自の特<br />
長あるスーパー CCD ハニカムのさらなる高性能化・高機能<br />
化を迅速に進める.またデジタルカメラ生産の全面移管など<br />
に伴い,宮城県黒川郡大和町の富士フイルムフォトニックス<br />
を 2008 年 8 月に解散する.なお CCD 前工程生産の外部委託<br />
に伴い,宮城県仙台市泉区の土地,建物は村田製作所に売却<br />
すると 9 月 19 日に発表した.<br />
富士フイルムスクエアは,<strong>2007</strong> 年がルミエール兄弟により<br />
発明された世界初のカラー写真「オートクローム乾板」が発<br />
売されてから 100 年目にあたることなどから「写真初期・乾<br />
板からフィルムへ小型カメラ時代が始まった」展を 9 月 27 日<br />
から開催.<br />
また,写真がもつ記録性,保存性の価値を再発見してもら<br />
おうと,公開写真講座「ダゲレオタイプ(銀板写真)の魅力<br />
再発見」を 12 月 8 日行い,古写真技術研究家の安藤義路氏<br />
が担当し,現代に精密復刻したフォクトレンダー大砲カメラ<br />
での撮影結果を紹介.<br />
日本カメラ博物館は,10 月 23 日~ 2 月 17 日まで 1981 年<br />
発表のマビカから最新のデジタルカメラまでを特別展示した<br />
「デジタルカメラヒストリー」展を行った.1981 年発表のマビ<br />
カを収蔵しているのは,米国スミソニアン博物館と当館のみ.<br />
キヤノンとリサイクル・アシスト社との間で争われていた<br />
特許侵害訴訟に関して,11 月 8 日,最高裁第一小法廷判決<br />
は,加工や部材の交換がされ,特許製品が新たに製造された<br />
と認められるときは,特許権を行使することができるという<br />
キヤノンの主張をほぼ全面的に認め,リサイクル・アシスト<br />
社の輸入・販売するキヤノン製インクジェットプリンター用<br />
の再生カートリッジは,キヤノンの特許を侵害していると判<br />
断した.<br />
セイコーエプソンは,インクジェットプリンター用インク<br />
カートリッジのリサイクル販売を行なうエコリカ対してイン<br />
クカートリッジに関する特許を侵害されたとして販売差し止<br />
めなどを求めていた請求について,最高裁第二小法廷はエプ<br />
ソンの上告を退ける決定を 11 月 9 日した.<br />
日本カメラ財団は <strong>2007</strong> 年度の歴史的カメラとして,リコー<br />
キャプリオ GX100,オリンパス E-410,ニコン D300,キヤノ<br />
ン EOS1-DsMarkIII,ニコン D3 の 5 機種を選定.歴史的カメ<br />
ラ選考委員は,中立的立場にある専門家,学識経験者等で構<br />
成され,<strong>2007</strong> 年の間に発売されたすべてのフィルムカメラ,<br />
デジタルカメラを対象としている.<br />
1.4 終わりに<br />
本稿を執筆するにあたり,写真感光材料の統計資料は写真<br />
感光材料工業会のご厚意により提供いただき,カメラ・交換<br />
レンズ・フォトプリンター等の統計資料は,カメラ映像機器<br />
工業会が公表する資料を引用させていただいた.<br />
その他,製品および企業情報は,月刊「写真工業」並びに<br />
週刊「カメラタイムズ」の記事から引用した.これらはいず<br />
れも,各社が発するニュースレリーズの範囲を超えるもので<br />
はないため,引用元はあえて記していない.詳しくは各社ホー<br />
ムページのニュースレリーズを参照いただきたい.
138<br />
2. 銀塩感光材料<br />
2.1 理論および技術<br />
久下謙一(千葉大学)<br />
2.1.1 概観<br />
銀塩写真感光材料の研究を行っているところは減少してお<br />
り,ヨーロッパでは旧共産圏を除いてほぼ皆無になっている.<br />
日本,米国でも減少しているが,中国は比較的残っているよ<br />
うである.研究報告はまだ次々と出されているが,過去の研<br />
究のまとめが多く,新規の研究,特に基礎研究は少なくなっ<br />
ている.<br />
2.1.2 乳剤調製<br />
占部ら(工芸大,富士フイルム)は,結晶欠陥の導入程度<br />
を変化させた臭化銀 - ヨウ臭化銀の平板状コア・シェル粒子<br />
を調製して,その結晶構造と写真特性を調べ,コア・シェル<br />
境界からエッジに伸びる刃状転位が重要な働きを持ち,刃状<br />
転位の表面への出口は優先的潜像形成サイトとなり,化学増<br />
感の効果を高める性質があることを示した(日写誌,70(1),<br />
52).<br />
Shiba ら(千葉大)は,これまでの単分散 AgCl 粒子の成長<br />
速度を解析する手法を用いて,ゼラチンの粒子成長抑制機構<br />
を調べ,従来の濁度法による結果と同様の傾向を持つことを<br />
見いだした(日写誌,70(4),238).<br />
2.1.3 ハロゲン化銀物性と写真感光特性,増感<br />
Belous(ウクライナ,オデッサ国立大)は,立方体と八面<br />
体粒子乳剤での蛍光発光と励起スペクトルを調べた.八面体<br />
粒子では,粒子形成の間にポリハロゲン化銀錯体が形成され,<br />
(111)表面に吸着して蛍光発光を示すが,立方体粒子では起<br />
こらなかった.この錯体はヨウ化物イオンを含み,還元剤か<br />
ら電子を受け取って,正孔を捕獲できる負電荷を持った<br />
R-center と見なせるフラグメントとなる(JIST,51,530).<br />
Tani(富士フイルム)は,潜像形成過程,化学増感,分光<br />
増感,感光材料の安定性を含めた写真感光の機構について,<br />
とくに定量的な解析の観点からの結果と知見を詳しく解説し<br />
た(ISJ,55,65).<br />
粒径 100 nm 以下の超微粒子乳剤が注目されている.その<br />
特性についての発表があり,また超微粒子乳剤を利用した新<br />
しい応用用途の発表があった<br />
Wang(中国科学技術大学)らは,超微粒子乳剤の感度上昇<br />
の方法を探った.散乱による光の吸収の低下を補う青色光吸<br />
収増感色素の添加,1 光子 2 電子増感効果を持つギ酸イオン<br />
のドープ,浅い電子トラップを導入する硫黄増感を併用する<br />
ことにより,大きな感度上昇が得られた.(ISJ,55,23).<br />
堤,久下ら(千葉大)は,超微粒子乳剤の感度の粒径依存<br />
性を調べた.超微粒子乳剤特有の感度低下要因があり,微小<br />
な粒子ほど体積に比例する分以上に感度が低下するが,ハロ<br />
ゲンアクセプターにより感度が上昇し,体積に比例した感度<br />
を示すようになった(日写春,134).さらに同グループの森<br />
本らは,金硫黄増感と併用しても感度上昇の加成性があるこ<br />
とを見いだし(日写春,136),異なるハロゲンアクセプター<br />
<strong>日本写真学会</strong>誌 71 巻 3 号(2008 年,平 20)<br />
の効果を調べた(日写秋,7).<br />
加熱により定着されるヨウ化銀粒子を用いた熱現像型写真<br />
感光材料と関連した,ヨウ化銀乳剤の研究が行われている.<br />
Tani(富士フイルム)は,塩化銀,臭化銀,ヨウ化銀の 3 種<br />
のハロゲン化銀からなる乳剤の物性と写真特性を,光導電測<br />
定,イオン伝導度測定,センシトメトリーなどの手法で同時<br />
に系統的に調べ,3 種のハロゲン化銀の写真特性の違いを説<br />
明した.銀イオン濃度が低いとヨウ化銀乳剤は低感度である<br />
が,熱現像型感光材料では銀イオン濃度が高いので,高い感<br />
度を得ることができた(JIST,51,197).<br />
さらに Tani は,ヨウ化銀乳剤粒子のイオンと電子特性を光<br />
導電やイオン伝導度測定で調べ,感度の pAg 依存性を調べた.<br />
ヨウ化銀は銀イオン濃度の増加による感度上昇が大であり,<br />
カルボン酸銀が存在する熱現像型感光材料では高い感度が得<br />
られた.(JIST,51,202).<br />
Ci ら(中国科学院)は,青感域と緑感域の隙間を埋める新<br />
規な非対称カルボシアニン色素の構造とその合成法を検討<br />
し,写真特性の良好な色素を得た(ISJ,55,148).<br />
2.1.4 熱現像型写真感光材料<br />
熱現像型写真感光材料についての研究報告は多い.<br />
2006 年の ICIS06 での発表をベースにした特集が JIST3 号<br />
に組まれ,熱現像型写真感光材料の開発を中心にした論文が<br />
多数発表された.<br />
Bokhonov ら(ロシア科学アカデミー,コダック)は,ベヘ<br />
ン酸銀の熱分解と,熱現像での還元とでの銀の形成過程を,<br />
その場観察 X 線回折で調べて比較した.熱分解では銀核の成<br />
長を決める因子は,中間相の形成を伴うベヘン酸銀の結晶構<br />
造の変化であるのに対し,熱現像では中間体の銀錯体の還元<br />
で銀粒子が形成された(JIST,51,386).<br />
Chen ら(コダック)は,フタラジントナーが現像銀形成に<br />
与える影響を,銀ナノゾルのモデル系を含めて,ラマンスペ<br />
クトル,表面増強ラマンスペクトル測定,透過型電子顕微鏡<br />
観察で調べた.銀粒子の周囲に吸着したフタラジンが,樹枝<br />
状の現像銀形成に重要な役割を担っていた(JIST,51,225).<br />
ヨウ化銀粒子は熱現像時に溶解して感光性のハロゲン化銀<br />
を後に残さないので,現像後の光照射によるかぶり発生が少<br />
ない.このタイプの熱現像型写真感光材料についての報告が<br />
なされている.<br />
Funakubo ら(富士フイルム)は,平板状 AgI 上に AgBr を<br />
方位配向成長させて,テルル増感した粒子を用いた,熱現像<br />
型感光材料を開発し,高い感度と低い低照度相反則不軌を得<br />
た.この系は熱現像時にヨウ化銀が溶解消滅して,定着され<br />
る.さらに紫-青色の高照度な発光を示す,ユーロピウムを<br />
ドープしたバリウムフロロブロミドの蛍光増感スクリーンと<br />
組み合わせて,新しい X 線フィルムシステムを構築し,鮮や<br />
かな画像を得た.(JIST,51,212).<br />
Mifune ら(富士フイルム)は,ヨウ化銀ナノ粒子からなる<br />
熱現像型感光材料の写真特性を調べた.ヨウ化銀乳剤は湿式<br />
処理感光材料では銀イオン濃度の増加により感度が上昇する<br />
が,熱現像型感光材料では銀イオン濃度にかかわらず,高い
感度を示した.ヨウ化銀に吸着する R-SH 型の還元剤を加え<br />
ると,正孔濃度の減少を伴って,感度が上昇した.ヨウ化銀<br />
は熱現像中に溶解消失して定着されるが,この溶解はベヘン<br />
酸銀とフタラジンの共存下で強められた.(JIST,51,207).<br />
熱現像型写真感光材料は超微粒子乳剤を用いているため解<br />
像度が高く,ホログラム記録が可能である.御舩らは,ヨウ<br />
化銀乳剤を用いた熱現像型写真感光材料でホログラム記録を<br />
行った(特許,特開 <strong>2007</strong>-171566).久下らは,熱現像型写真<br />
感光材料に記録した現像銀像からなる回折格子を臭素で漂白<br />
して位相型に変換することで,より高い回折効率が得られる<br />
ことを示した(ホログラフィック・ディスプレイ研究会,4:<br />
日写秋,21:特許,特願 <strong>2007</strong>-237517).<br />
熱現像型写真感光材料での感光過程については不明の点が<br />
多い.この過程の研究が進められ,従来の湿式感光材料との<br />
違いが示唆されている.<br />
Kimura ら(コニカミノルタ,千葉大)は,脂肪酸銀共存下<br />
での超微粒子乳剤のマイクロ波光導電を調べた.脂肪酸銀が<br />
存在すると光導電信号強度が減少することから,ハロゲン化<br />
銀粒子上に吸着した脂肪酸銀や銀イオンは浅い電子トラップ<br />
を提供しており,脂肪酸銀から供給される銀イオンが,感光<br />
過程に影響を与えていることが示された(JIST,51,540).<br />
さらにキムラらは,脂肪酸銀共存下での超微粒子乳剤のイ<br />
オン伝導度を調べた.イオン伝導度はナノサイズからマイク<br />
ロサイズ領域へと,連続的に粒径に反比例する関係を示した.<br />
脂肪酸銀が少量でも存在するとイオン伝導度が大きく低下<br />
し,これは格子間銀イオンの形成エネルギーが大きくなるた<br />
めと説明した.これらより熱現像型写真感光材料での潜像形<br />
成には,格子間銀イオンよりは表面吸着銀イオンが使用され<br />
ており,通常の湿式感光材料とは潜像形成過程が異なること<br />
を示唆した.(日写誌,70,306).<br />
2.1.5 銀塩写真感光材料の応用と商品開発<br />
銀塩写真感光材料のめだった新しい商品の発表はなかっ<br />
た.一方,銀塩写真感光材料システムを用いた新しい用途が<br />
発表されている.<br />
Shapiro(ロシア)は,写真銀像をメルカプト誘導体の銀塩<br />
や 2 価金属硫化物に変換して,そこに吸着した色素によるル<br />
ミネセンス発光で信号を読み取るシステムを提案した.反射<br />
式より SN 比の小さな多層の光学ディスクへの応用が可能と<br />
した(High Energy Chemistry,41,43).<br />
長谷川ら(千葉大)は,フィラメント構造を持つ現像銀を<br />
使った電界放出陰極を作製して,その電界放出を確認し,画<br />
像デバイスとしての応用を探った(日写秋,25).<br />
原子核乳剤を用いた放射線飛跡検出の手法はこれまで大量<br />
データの取得に難があったが,Ultra track selector(UTS)を<br />
用いた高速自動解析システムが開発されており,測定速度と<br />
精度が向上している.田中(東大)は,宇宙線中のミューオ<br />
ンを用いた非破壊検査の手法に UTS を用いて,浅間山の火山<br />
中のマグマの挙動を調べた例を紹介している(日写誌,70(4),<br />
230).歳藤らのグループ(高エネルギー研,名大など)は,重<br />
粒子線がん治療に用いられる炭素イオンビームの核破砕反応<br />
<strong>2007</strong> <strong>年の写真の進歩</strong> 139<br />
を,UTS で詳細に調べた(日写春,2).<br />
飛跡検出への金沈着現像の応用が図られ,測定精度の向上<br />
が得られている.Kuge は金沈着現像法を飛跡検出に用い<br />
ることで,飛跡がより精細に記録されることを見いだし,<br />
UTS 測 定 精 度が向上 することを見いだした(Radiation<br />
Measurements,42,1335).またグレイン・デンシティの測<br />
定に応用して,同じく測定精度が向上することを見いだした<br />
(日写誌,70,44).久保田ら(名大他)は,この手法で飛跡<br />
上に形成された潜像核個数の線密度を求め,グレイン・デン<br />
シティの測定より高い精度でエネルギー損失が測れることを<br />
見いだした(応物秋,133).<br />
金沈着現像法による金微粒子形成とそれを応用した金膜写<br />
真についての報告が引き続きなされている.Kuge ら(千葉<br />
大)は,感光材料中のハロゲン化銀粒子のサイズの小さな超<br />
微粒子乳剤では,生成する金微粒子のサイズ分布が狭くなり,<br />
比較的小さな金微粒子が形成されることを見いだし,粒子間<br />
の金イオンの獲得競争で説明した(JIST,51,96).<br />
さらに同グループの陳ら(千葉大)は,金チオシアネート<br />
錯体が主成分の金沈着液処方の検討を行い,金イオンに対す<br />
るチオシアネートイオンの比率を下げると,金微粒子形成速<br />
度が向上すること(日写春,128)や,また硫酸ナトリウム<br />
を添加しても速度の向上が得られること(日写春,130)を<br />
報告した.<br />
中西,久下らは,金微粒子からなる写真を焼成して得られ<br />
る金膜写真が,観察角度によってネガ像とポジ像が反転する<br />
ことを報告し,その調子再現特性を求めた(日写春,132).<br />
金膜写真は高解像度を有するため,金膜の凹凸からなるホ<br />
ログラムが作製できる.同じグループの大木らは,赤色光感<br />
度を持つ感光材料を調製して,金膜ホログラムの作製につい<br />
て(日写秋,17),武田らは,金膜ホログラムの調製における<br />
焼成条件を検討し(日写春,8),金膜の回折格子の構造解析<br />
を行った(日写秋,19).<br />
2.2 感光材料用結合素材<br />
大川祐輔(千葉大学)<br />
銀塩写真材料の基礎研究,学術研究が表に出ることは少な<br />
くなり,結合材料関係も例外ではない.永く銀塩写真におけ<br />
る結合材料として不動の地位を保ち続けるゼラチンも,研究<br />
の主流は食品応用,医療応用,基礎物性,新規用途開拓など<br />
に集中し,写真分野に直接関係するものは少なくなっている.<br />
この傾向は今後も変わることはないと思われる.ゼラチン研<br />
究自体のニーズ,ポテンシャルはあるが,写真学会での役割<br />
についてはゼラチン研究会としても引き続き検討しなければ<br />
ならない課題である.<br />
<strong>2007</strong> 年度の<strong>日本写真学会</strong>ゼラチン賞は,ゼライス株式会社<br />
の小林隆氏に贈られた.氏はゼラチンのセット性に関して,<br />
新しいセッティングポイント測定法の提案,それを用いての<br />
セット特性の系統的な評価,セット性を支配する要因の検討,<br />
さらにはゲル化過程を旋光度測定やサイズ排除クロマトグラ<br />
フィによる分子量分布解析等を駆使して分子論的な視点から<br />
調べ,セット特性,ゲル化現象についての考察を行った.氏
140<br />
はゼラチン研究会の設立時から重要な働きをされており,こ<br />
れらの貢献による受賞となった.<br />
銀塩写真に直接関わる研究としては,柴ら(千葉大)が物<br />
理抑制性について本質的な考察を行った.通常の物理抑制度<br />
試験では分離することができない核形成と結晶成長の二つの<br />
要素を分けて議論することが可能な方法として,コントロー<br />
ルドダブルジェット法による単分散塩化銀粒子形成を利用<br />
し,粒子成長速度論に基づく議論を行った(日写誌,70,238).<br />
ゼラチンはタンパク質であり,劣化・分解をおこす.バイ<br />
ンダーの劣化は写真画像そのものの保存性にも重大な影響を<br />
与える.Abrusci ら(スペイン マドリードコンプルテンス大)<br />
はこれまでも写真フィルム,映画フィルムのゼラチンバイン<br />
ダーの微生物分解について報告している.今回は黒白フィルム<br />
のゼラチンバインダーの微生物分解を,発生する二酸化炭素<br />
を電気的に検出する間接インピーダンス法によって追跡した<br />
(Internat. Biodeter. Biodegrad.,60,137).画像銀が存在する<br />
場合には微生物の増殖は抑えられる一方,ゼラチンはグルタ<br />
ルアルデヒドによる架橋の有無にかかわらず分解された.い<br />
くつかのバクテリアについて,この方法で生分解効率を相対<br />
的に比較した.山口ら(東京都写真美術館,千葉大)は,ゼ<br />
ラチンバインダーの経年劣化を,分解によって生ずる可溶性<br />
成分によって評価することを試み,強制劣化試料から冷水抽<br />
出される成分をサイズ排除クロマトグラフィーで調べた(日<br />
写春).モデルゼラチン薄膜と実際の印画紙のどちらも劣化の<br />
進行に伴い可溶性成分は増加し,バインダーの劣化の指標と<br />
なる可能性が示された.<br />
重クロム酸塩の光還元によって生じるCr3+ によるゼラチン<br />
の架橋反応は,古典印画法やホログラム記録に利用されてき<br />
た.Bjørngård ら(千葉大)は重クロム酸塩を用いない安全な<br />
代替法として,鉄塩を感光材料として用い,光生成した Fe(II)<br />
と過酸化水素の反応から始まるラジカル重合でゼラチンを硬<br />
化させる印画法を提案した(日写春,日写誌,70,106).<br />
電子ペーパーはさまざまな原理のものが提案されている<br />
が,銀塩感材同様にゼラチンをバインダーやマトリクスとし<br />
て利用しようという研究が行われている.林ら(千葉大)は<br />
電子ペーパーへの応用を目的とし,ゼラチンで包括固定化さ<br />
れた粒子内包液滴を用いる電気泳動表示素子の調製条件につ<br />
いて検討した(電気化学会第 74 回大会,1L01).泳動粒子を<br />
分散した絶縁性オイルをゼラチンゾル中で液滴として分散<br />
し,これを電極上でゲル化させずに乾燥することで,オイル<br />
滴を稠密に 2 次元配置して固定化できる.ゼラチンは分散時<br />
の保護コロイド,固定化時のマトリクスとして機能する.光<br />
学特性は主にオイル滴内の粒子分散の程度に強く依存し,ゼ<br />
ラチンの影響は小さいとした.原田ら(富士ゼロックス)は,<br />
ゼラチンゾル中でコレステリック液晶を液滴化し,同様にゼ<br />
ラチンをマトリクスとして用いるタイプの高分子分散型液晶<br />
素子を提案し,やはりゾル状態からゲル化させることなく水<br />
分を乾燥除去することで,2 次元的に稠密な液適配置を達成<br />
している(液晶学会討論会,3aA08).光学特性を向上させる<br />
ためには表面の平滑化が有効であるが,そのためにゾルゲル<br />
<strong>日本写真学会</strong>誌 71 巻 3 号(2008 年,平 20)<br />
変換挙動の異なる寒天ゲルで表面を覆ってその状態からゼラ<br />
チンゾルを乾燥させる方法(同,3aA09),さらに積層化のた<br />
めに,ゼラチンを架橋処理する方法(同,3aA10)も示して<br />
いる.電気化学デバイスには電解質溶液が必要であり,その<br />
固体化は実用的に大きな意味を持つ.ゼラチンは水溶液をゲ<br />
ル化できるため,その利用が検討されている.Avellaneda ら<br />
(ドイツ Leibniz 新材料研究所)は Nb 2 O 5 :Mo を表示層に用い<br />
るエレクトロクロミック素子の電解質に,ゼラチンゲルを利<br />
用した(Electrochim. Acta,53,1648).ゲル電解質について<br />
は,Choudhury ら(Indian Institute of Science)が,塩化ナト<br />
リウム水溶液をグルタルアルデヒドで架橋したゼラチンでゲ<br />
ル化し,電気化学スーパーキャパシタ用電解質に適用した(J.<br />
Electrochem. Soc.,155,A74).<br />
ゼラチンと他の有機 / 無機材料を組み合わせた複合材料に<br />
ついても多くの研究が見られるが,写真関係に応用可能性が<br />
ありそうなものをひとつ紹介しておく.Smitha ら(インド<br />
CSIR)は,ゼラチン溶液中でのテトラエトキシシランの加水<br />
分解によってシリカ–ゼラチン複合体を得,いくつかの性質を<br />
調べた.この複合体をガラスに 300 nm の厚みで被覆したと<br />
ころ,透明(透過率 90%以上)で高い強度を示した(Mater.<br />
Chem. Phys.,103,318).彼らはコロイダルシリカにメチル<br />
トリメトキシシランを反応させ,これをゼラチンと複合化す<br />
ることで高い撥水性の透明なコーティング材料が得られるこ<br />
とも報告している(Colloids Surf. B,55,38).光学材料や感<br />
光材料,メディア等への応用もあり得るだろう.<br />
Okonkwo ら(ナイジェリア国立化学技術研究所)は , ゼラ<br />
チン製造時の骨原料からの脱灰処理に通常用いられる塩酸に<br />
換えて,硫酸を用いることを検討した.硫酸を用いることで<br />
製造コストを下げることができ,できあがったゼラチンも工<br />
業用や医薬用に利用可能なグレードであるとした(Global J.<br />
Pure Appl. Sci.,13,189).<br />
<strong>2007</strong> 年度ゼラチン賞の小林隆氏の研究もそのひとつとい<br />
えるが,ゼラチンの最も特徴的な性質である熱可逆的なゾル<br />
ゲル変化については,現在もなお多くの研究者の興味の対象<br />
であり続けている.Osorio ら(チリ サンチアゴ大)は,ゼラ<br />
チンの融解とゲル化の両方について,濃度,ブルーム,pH の<br />
影響を微小振幅振動型レオメータを用いて温度掃引法で検討<br />
した.融解温度,ゲル化温度と濃度,pH を結びつけるモデ<br />
ル式を提案した(Internat. J. Food Prop.,10,841).ゼラチン<br />
の特性パラメータとしてブルーム値を用いており,分子量分<br />
布のような分子論的な視点からの議論がない点が惜しまれ<br />
る.Elharfaoui ら(フランス ESPCI)は分子量の異なるアル<br />
カリ法骨ゼラチン試料を用い,旋光度測定から求めたへリッ<br />
クス含有量,へリックス形成と融解のエンタルピー,粘弾性<br />
挙動を比較した.これらを総合することで,貯蔵弾性率のマ<br />
スターカーブを得,濃度との関係を議論した(Macromol.<br />
Symp.,256,149).Matsunaga ら(東大物性研)は,冷却時<br />
の時間分解動的光散乱と粘弾性測定によってゼラチンゲルの<br />
ゲル化点を求めた.ゲル化温度においては散乱強度の顕著な<br />
増大を始め,特徴的な現象が観察された.このようにして求
められた「微視的」ゲル化温度は,ゼラチン濃度によらず粘<br />
弾性測定によって求められた「巨視的」ゲル化温度とよく一<br />
致した(Phys. Rev. E,76,030401).<br />
ゲルの物性や構造についても興味深い報告が見られる.<br />
Kulisiewicz ら(ドイツ Erlangen 大)は,大きな静水圧をかけ<br />
たときのゼラチンゲルの構造について,300 MPa までの高圧<br />
下で動的粘弾性挙動を測定できる装置を開発して調べた.ゲ<br />
ル化曲線はどれも類似していたが,ゲルの貯蔵弾性率の値は<br />
高圧下の方が大きくなり,水素結合が強化されたために三重<br />
らせん架橋点が増加したためであると考えた(Bull. Polish<br />
Acad. Sci.: Tech. Sci.,55,239).Lairez ら(フランス CEA/CNRS)<br />
は,ゼラチンゲルの酵素(サーモリシン)分解過程を取り扱<br />
い,分解時間と酵素濃度の関係に対してスケーリング則が成<br />
立する換算パラメータを提案した.これらの結果を酵素分子<br />
のランダムウォークによる拡散と連続体パーコレーションモ<br />
デルで議論した(Phys. Rev. Lett.,98,228302).Akiyama ら<br />
(阪大)は,ゼラチンゲルのナノスケールでの構造と水の結合<br />
状態の様子を陽電子消滅寿命スペクトルと示差走査熱量分析<br />
によって調べた.含水量 40 wt%以下ではすべての水分子が<br />
不凍水の状態にあった.微視的な構造としては,水分量が増<br />
えるほど細孔サイズが大きくなり,とくに 40 wt%以下の含<br />
水量で顕著だった.水分子がゼラチンネットワークに滲入す<br />
ると,水分子はらせん構造内の親水性基と水素結合を形成し,<br />
構造を押し広げ,そのために細孔サイズも増加するとした<br />
(J Polymer Sci. B,45,2031,Phys. Status Solidi C,4,3920).<br />
Couture ら(フランス LaTEP-E.N.S.G.T.I.)は,ゼラチンゲル<br />
をモデルとして二相(固体-液体)メディアの蒸発過程をシ<br />
ミュレートする数学モデルを,物質輸送,熱輸送,体積収縮<br />
を考慮して構築した(AIChE J.,53,1703).<br />
ゼラチンの架橋反応についてもさまざまな視点からの研究<br />
が見られる.Bessho ら(大阪府立大)はゼラチンゲルに 60 Co<br />
γ 線を照射することで架橋を行った.8 kGy以上の照射では不<br />
溶化がおこった.遊離アミノ酸を添加した系での照射結果と<br />
の比較から,架橋は側鎖のアルキル基かフェニル基でおこる<br />
ものとした(Bull. Chem. Soc. Jpn.,80,979).Bertoldo ら(イ<br />
タリア Pisa 大)は,架橋剤として 1,6- ジイソシアナトヘキサ<br />
ンを用い,DMSO 中でゼラチンと反応させ,その条件等を検<br />
討した.修飾ゼラチンをさらにいくつかの繊維の織物へ固定<br />
化し,複合材料への応用可能性を示した(Macromol. Biosci.,<br />
7,328).Cao ら(中国科学院)は フェルラ酸あるいはタン<br />
ニ ン 酸 で 架橋したゼ ラ チン皮膜の 物 性 を 調べた(Food<br />
Hydrocolloids,21,575).Kim ら(韓国 大邱カトリック大,<br />
阪大)は,魚ゼラチンのトランスグルタミナーゼ架橋による<br />
ゲル化を検討し,粘弾性,力学的性質の変化を調べ,これら<br />
の物性が架橋程度に依存することを認めた(Polymer J.,39,<br />
1040).<br />
物性制御などの観点から,ゼラチンに他の高分子を複合さ<br />
せる研究が続いている.とくに,他の生物由来高分子材料と<br />
の複合化は,生体適合性や環境調和性の観点からも興味深い.<br />
大川ら(千葉大)はゼラチンと κ-カラギーナンの混合皮膜の<br />
<strong>2007</strong> <strong>年の写真の進歩</strong> 141<br />
物性について調べた.皮膜でも乾燥前のゲルの相分離構造が<br />
維持されていると考えられた.膨潤性には明らかな pH 依存<br />
性が見られ,相分離構造のドメイン境界の静電的相互作用が<br />
影響していると考察した.皮膜強度に対するカラギーナンの<br />
影響は小さかった(日写春).三枡ら(新田ゼラチン)はゼラ<br />
チンに各種の多糖類を添加して粘度とゲル化性を比較し,多<br />
糖の構造との関係を議論した(日写秋).イオン性の多糖同士<br />
でも挙動の違いが見られるなど,相互作用の複雑さが伺われ<br />
る.Pranoto ら(インドネシア Gadjah Mada 大)は魚ゼラチン<br />
膜の物性改善を目的に,多糖の κ- カラギーナンまたはジェラ<br />
ンを添加した系について検討した(LWT,40,766).これら<br />
の添加によりゲルの融点は上昇したが,ジェランがより大き<br />
な効果を示した.皮膜では強度の増加と水蒸気バリア能の向<br />
上が見られたが,若干の着色も生じた.ジェランは微視的な<br />
クラックを埋め,膜を均質にしており,また FTIR でもゼラ<br />
チンとより強く相互作用していることが認められた.Singh<br />
ら(インド Jawaharlal Nehru 大)は,小角中性子散乱,粘弾<br />
性測定,示差走査熱量測定(DSC)によって,寒天 – ゼラチン<br />
複合コアセルベートを調べ,コアセルベート中では寒天の二<br />
重らせんとゼラチンの三重らせんが入り組んだ状態にあると<br />
した(Internat. J. Biol. Macromol.,41,301).<br />
3. 光機能性材料<br />
光機能性材料研究会<br />
3.1 J 会合体の化学<br />
J 会合体は銀塩写真の分光増感に実用されているが,科学<br />
的興味あるいは新たな産業応用への期待から今なお盛んに研<br />
究されている.<br />
当研究会主催の光機能性材料セミナー「光機能性材料にお<br />
ける色素 J 会合体の化学」の 4 件の講演内容が写真学会誌に<br />
特集されている.瀬川(東大)は「ポルフィリン J 会合体の<br />
ナノ構造制御と機能設計」と題し,ポルフィリンが基盤に垂<br />
直に配向した単分子膜および累積膜や,置換基の異なるポル<br />
フィリンのヘテロ積層体を LB 法により形成し,その中の励<br />
起エネルギー移動等を観測した.ポルフィリン J 会合体の電<br />
気化学的挙動を明らかにし,光化学的手法により初めて安定<br />
なポルフィリン J 会合体 π ラジカルの生成に成功した(日写<br />
誌,70,260).水口(横国大)は,「顔料結晶における励起<br />
子相互作用と J 会合体との関連性について」と題し,励起子<br />
相互作用の理論の概観に続いて,シアニン色素の J 会合体の<br />
例やジチオピロロピロールの結晶多形に関する実際のスペク<br />
トルとスペクトル計算例を挙げて具体的に解説した(日写誌,<br />
70,268).古木(富士ゼロックス)は,「スクエアリリウム<br />
色素 J 会合体の形成と機能の発現の検討」と題し,水面上の<br />
単分子膜において J 会合体形成を可能にする置換基の構造を<br />
明らかにし,理想的な二次元構造の J 会合体について,会合<br />
に伴う振動子強度の保存,会合体の幾何学的大きさ,コーヒー<br />
レントサイズ,および励起エネルギーの広がりについて定量<br />
的に評価した(日写誌,70,278).谷(富士フイルム)は,
142<br />
「銀塩写真感光材料におけるシアニン色素J会合体の形成と挙<br />
動」と題し,J 会合体の構造,ハロゲン化銀結晶表面におけ<br />
るシアニン色素の J 会合体の形成,シアニン色素 J 会合体中<br />
の励起子の挙動,シアニン色素の電子エネルギー準位と J 会<br />
合体形成の影響,励起色素からハロゲン化銀粒子への電子移<br />
動の効率および速度に及ぼす J 会合体形成の効果,J 会合体<br />
中の正孔の挙動と逆電子移動について解説し,これらの性質<br />
が写真感光材料に与える効果について考察した(日写誌,70,<br />
287).<br />
日本化学会第 88 春季年会(2008)において,色素 J 会合体<br />
に関する以下の報告がなされた.北村ら(千葉大)は,「ベイ<br />
エリア無置換ペリレンビスイミドからの J 会合体の創製と H<br />
会合体との相互変換」を報告した(日化春,5L4-29).平塚ら<br />
(群馬大)は,「非対称シアニン色素の固体表面上における J<br />
会合体薄膜形成と光物性」(日化春,4PC-042),「チアシアニ<br />
ン色素 J 会合体の成長と光物性」(日化春,4PC-052)を報告<br />
した.瀬川ら(東大)は,「1 次元ナノ構造体を用いた有機系<br />
太陽電池の光電特性」(日化春,2B4-31),「テトラキススル<br />
ホチエニルポルフィリン構造異性体の J 会合体形成と物性」<br />
(日化春,5L3-01),「異種水溶性ポルフィリン混合 J 会合体の<br />
形成と物性」(日化春,5L3-02)を報告した.松本ら(横国<br />
大)は,「ビスアゾメチン色素の結晶構造-2-」を報告した(日<br />
化春,2D3-09).水口ら(横国大)は,「ビスアゾメチン色素<br />
の厚膜蒸着膜で形成された J 会合体について」を報告した(日<br />
化春,1D3-34).佐藤ら(筑波大)は,「色素凝集体を担持し<br />
た銀ナノディスクの作製とその光吸収特性(2)粒子均一化<br />
の試み」を報告した(日化春,3L2-20).米澤ら(阪市大)は,<br />
「シアニン色素 J 凝集体・貴金属複合微粒子の作製とその吸<br />
収・発光特性」を報告した(日化春,4PC-030).尾崎ら(関<br />
学大)は,「表面増強ラマン散乱分光法によるチアシアニン色<br />
素分子の会合状態に関する研究」(日化春,2A5-01),「チア<br />
シアニン色素分子の表面増強ラマン散乱の励起波長依存性」<br />
(日化春,2A5-02)を報告した.<br />
3.2 フォトリソグラフィーで管理された自己組織化<br />
分子の自己組織化は簡便なナノ構造構築法として期待され<br />
ているが,意図したとおりのパターンを形成させるための「管<br />
理された自己組織化」法の開発が課題である.この観点から<br />
近年,フォトリソグラフィーをブロックコポリマーのミクロ<br />
相分離と組み合わせる新たなナノパターン形成法が検討され<br />
ている.<br />
G. S. W. Craig と P. F. Nealey(University of Wisconsin-Madison)<br />
は,フォトリソグラフィーで作成した物質パターンを有する<br />
基盤表面をブロック共重合体で被覆することにより,各ブ<br />
ロックと基盤表面パターンの親和性の違いを反映した,バル<br />
ク・ブロックポリマーの相分離パターンとは異なるミクロ層<br />
分離パターンを作る方法を解説している(Journal of Photopolymer<br />
Science and Technology(以下 JPST と略す),20,511).<br />
J. K. Bosworth(Cornell University)らは,フォトリソグラ<br />
フィーで作ったパターンサイズより小さいパターンの作成に<br />
成功した.酸化ケイ素基盤上にフォトリソグラフィーとプラ<br />
<strong>日本写真学会</strong>誌 71 巻 3 号(2008 年,平 20)<br />
ズマエッチングで深さ 30 nm の溝を作成し,ポリ(α メチル<br />
スチレン)– ブロック – ポリ(t-ブチルスチレン)の PEGMIA<br />
溶液をスピンコートした.THF 蒸気中でアニールすると円柱<br />
状のドメインが溝に平行に並び,アセトン蒸気中ではヘキサ<br />
ゴナル充填した円柱状のドメインが溝に垂直に並んだ.溶媒<br />
により配向を制御できることがわかった(JPSE,20,519).<br />
T. Yamaguchi と H. Yamaguchi(NTT)は,光リソグラフィー<br />
とブロック重合体の相分離を組み合わせて,フォトリソグラ<br />
フィーで作成したパターンより細かいサイズのパターンを基<br />
盤に転写した.シルセスキオキサンレジストのパターン<br />
(110 nm の溝)中に,溝に平行なラメラドメイン(周期 28 nm)<br />
のPMMA-PSのブロック重合体の相分離構造を3本作成した.<br />
PMMA ドメインのみを除去して PS マスクを残し,エッチン<br />
グして基盤に 幅 16 nm 程度のパターンを転写した.(JPST,<br />
20,767).<br />
3.3 光電変換用有機素材<br />
Aoyama(理研)らは,有機光電変換膜の表面にレリーフ状<br />
のグレーティングを形成することにより,光電変換効率が約<br />
3 倍に向上することを見出した.20 重量%の可溶性フラーレ<br />
ン(PCBM)を含む 3-ホルミル-9-ビニルカルバゾールを ITO<br />
上にジクロロメタンを用いてスピンコートし,532 nm の干渉<br />
露光による重合で表面レリーフ状のグレーティングを形成<br />
し,全面 UV 露光した後,アルミニウムを蒸着して光電変換<br />
素子を作成した(JPST,20,93).Arimura(産総研)らは,<br />
メソ位の置換基を介してピロールを連結したポルフィリンと<br />
β- シクロデキストリンとの 1:2錯体の水溶液を電解酸化し<br />
て,ITO 上に光電変換膜を形成した.β-シクロデキストリン<br />
錯体を用いることにより,ポルフィリン環の自己会合に基づ<br />
く非効率過程が解消し,光電流の量子収率が約 2 倍向上した<br />
(JPST,20,533).<br />
4. 画像評価・解析<br />
藤野 真(セイコーエプソン)<br />
像構造,階調・色再現が画像評価の基本であるが,近年こ<br />
れに加えて質感に関する取り組みが多く報告されてきてい<br />
る.また画像評価に関しては,画質という観点から更に進ん<br />
で,人が画像の良さをどのように認識するのかといった研究<br />
が始まってきている.<br />
4.1 像構造<br />
松井(群馬大学)は,ウィナースペクトル及び,協調視覚<br />
モデル応答に基づく画像ノイズ評価方法の基本性能の違いや<br />
その適用可能範囲を明確にするために比較検証を行った.そ<br />
の結果,強調視覚モデル法がウィナースペクトル法よりも主<br />
観的判断を広範囲に説明できるとの結果を得た(日画誌,<br />
46(6),432).稲垣(富士ゼロックス)らは,デジタルカラー<br />
プリンタの新たな粒状性予測モデルを提案した.同指標では,<br />
従前の報告は,それまでのモノクロの Visual Noise モデルを<br />
カラーに拡張したものであり,分解した画像の明度,彩度,<br />
色相成分に分解したカラー画像についてノイズの周波数スペ
クトルを得,それぞれに重み付けをしてノイズ量を導出したも<br />
のであったが,今回は周波数伝達関数(VTF: Visual Transfer<br />
Function)を重み関数として利用することによって心理量と<br />
の高い相関を得られた事を確認した(日画年大会,167).岡<br />
野(滋賀文化短大)らは,デジタルスチルカメラの光学系<br />
MTF(Modulation Transfer Function)を画像処理を行う前の<br />
CCD から出力された Bayer-RAW 画像から算出する方法を提<br />
案した.これにより,製品化されたカメラの光学特性を評価<br />
できるとしている(日写誌,70(6),348).<br />
4.2 階調・色再現<br />
成(日本工業大)らは,輪郭の知覚条件を求めるために階<br />
段状濃度変化パターンを用い評価実験を行った.パターンに<br />
おける同じ濃度の幅,濃度の段差,観察距離,観察環境の明<br />
るさを変化させ輪郭知覚の有無を主観評価により検討した結<br />
果,それらによる依存性を定量的に把握した(日画年大会,<br />
163).近年,広い色再現域を有する表示・印刷装置類が登場<br />
しているが,これらの再現域を有効に利用するための取り組<br />
みが報告されている.北野(信州大)らは,緑(草木),青<br />
(空),赤(花),マゼンタ(花)の彩度を変化させた画像を評<br />
価者に提示し,好ましさと彩度との関係を評価した.結果と<br />
して AdobeRGB の色域では,不十分であることを確認した<br />
(日写春,94).広川(東京工芸大)らは,sRGB などの狭い<br />
色 域 の画像の彩 度を高める際 に 物 体 色 のデータベ ース<br />
(SOCS)で得られた実在の物体色の色域を超えないように制<br />
限することによって良好な結果が得られることを示した(画<br />
像電子誌,36(6),856).安川(千葉大)らは,画像アーカイ<br />
ブにおける圧縮による画像劣化の評価方法として S-CIELAB<br />
(special CIELAB)モデルを用い色再現評価を行うことの検証<br />
を行った.CIELAB よりも有効であることは確認したが画像<br />
の特徴,劣化方法によって必ずしも適正ではないとしている<br />
(日写春,110).青木(千葉大)らは,日本人の黄色人,白人,<br />
黒人の肌色に対する記憶色を比較した.評価者に各人種の人<br />
物画像の肌色を好ましい色に調整させる方法で行い,それぞ<br />
れの分布を得た.またこの分布が実際の肌色の分布と一致し<br />
ていることを確認した(日写誌,70(2),102).蓬莱らは,イ<br />
ンクジェット用写真用紙の「好ましい白さ」についてユーザ<br />
調査をおこなった.無地及びカラーチャートを入れた 8 種類<br />
の用紙について,感じられる色み,白さの好ましさを被験者<br />
に回答させた.色みとしては「黄―青軸」が好ましさに強く<br />
影響を与えており,黄みを感じないほど白さの好ましさが高<br />
いという結果を得ている(日写春,106).<br />
4.3 質感<br />
矢部(光藝工房)らは,デジタル写真の質感向上手法とし<br />
て知られているノイズ付加処理について,銀塩写真のノイズ<br />
量との比較を行った.銀塩写真では,中間調でノイズ量が多<br />
くシャドウ・ハイライトで少なくなるが,熟練者が行うノイ<br />
ズ付加処理も近い共通点があることを確認し,銀塩写真の質<br />
感を再現する特徴であると示唆している(日写春,62).小<br />
島(東海大)らは,金色の認識メカニズムについての検証実<br />
験を行った.結果として,金色は赤色青色と同格の単なる<br />
<strong>2007</strong> <strong>年の写真の進歩</strong> 143<br />
「色」の概念ではなく,色の分布情報から対象物の形状に対応<br />
した反射特性を確認したときに得られる概念であり,「色」よ<br />
りも上位の認識概念と位置付けられるとしている(日画誌,<br />
46(5),357).日本色彩学会誌では,「色と質感」を特集とし<br />
て取り上げ,質感へのアプローチについての多くの興味深い<br />
論文が寄稿されている.質感に関する課題の多さが理解でき<br />
る(日色誌,31(3),196).<br />
4.4 画質改善・総合評価<br />
大谷(千葉大)らは,有名画家によって描かれた人物画の<br />
肌色表現を写真画像に適用することにより,独特な肌色表現<br />
が出来ることを示した.これまでの課題点を,肌色を色相角<br />
で分離し個別にフィルタ処理することにより,自然な表現が<br />
可能になり,かつマスク作成の手間が不要なったとしている.<br />
(日写春,68).青木(千葉大)らは,好ましい肌色の主観評<br />
価のためのサンプル提示法を提案した.従前,一対比較法よ<br />
りも評価時間を大幅従前に短縮する目的で,L* 値毎に a*b*<br />
を系統的に変化させた画像を 1 枚のシートに提示し,これを<br />
複数用意する系統的配置法を提案していたが,この問題点で<br />
あった L* 値の異なるシート間での偏差を防ぐために,1 枚の<br />
シート内に L* 値も変化させたサンプルを配置するものであ<br />
る.評価実験の結果,精度高い評価方法であることを確認し<br />
た.斉藤(岐阜大学)らは,山岳写真における適切な視覚的<br />
構図を画像解析により決定する手法を提案した.同手法は,<br />
画像の特徴量として空の面積率,及び最も高い山頂の位置を<br />
検出し,これを重み付けしたものを評価値として用いた.主<br />
観評価実験とも強い相関が得られたとしている(画像電子誌,<br />
36(4),492).野中(富士フイルム)らは,デジタル画像の<br />
価値を自動的に評価する手法を提案した.デジタル画像及び<br />
撮影情報を解析し「イベント重要度」,「顔」,「明るさ」,「ボ<br />
ケ・ブレ」,「色」の評価値算出しこれを重み付けして総合評<br />
価値を算出するものである.「イベント重要度」には,撮影時<br />
刻で分類したそれぞれのイベント単位において画像数,類似<br />
画像数,時間,人物数などから評価値を決定するとしている.<br />
効果確認のためのユーザ評価の結果にはばらつきはあった<br />
が,ターゲットユーザ層によっては効果があることを確認し<br />
たとしている(富士フイルム研究報告,17).<br />
5. 分光画像<br />
中口俊哉(千葉大学)<br />
<strong>2007</strong> 年も分光画像に関する研究発表が活発に行われた.発<br />
表の傾向も昨年と同様,国内より海外の国際会議に集中して<br />
おり,JIST では 5 件,CIC では 12 件と例年を上回る件数が<br />
報告されている.さらに <strong>2007</strong> 年 5 月には第 9 回分光色彩科<br />
学とその応用に関する国際シンポジウム(MCS: Proc. of 9th International Symposium on Multispectral Color Science and<br />
application(<strong>2007</strong>))が台北市の中国文化大学で開催され,分<br />
光画像に関する多数の議論が集中的に行われた.このシンポ<br />
ジウムでは基調講演が 3 件,口頭発表が 15 件,ポスター 16<br />
件の発表があった.Hill による基調講演では高い色再現性を
144<br />
得るために分光解析を用いる理由とそれぞれの研究状況につ<br />
いて次の 4 種類にまとめて述べられた:1)RGB カメラと人<br />
間の分光感度特性の違い,2)個人間の分光感度特性違い,3)<br />
観測時の光源と再現時の光源の違い,4)メタメリズム.長<br />
年に亙って分光画像処理を手がけてきた講演者の経験談を交<br />
えた丁寧な解説に観衆は聞き入っていた.次に Imai による基<br />
調講演では自然界に近い色再現を実現するための技術とし<br />
て,測色的色再現の基礎から分光画像処理,高ダイナミック<br />
レンジ処理,そしてカラーアピアランスモデルや再現画質の<br />
定量化について述べられた.基礎から応用まで論理的にわか<br />
りやすく述べられていた.また Hauta-Kasari は基調講演にお<br />
いて分光処理の産業応用に焦点を当て,フィンランドのヨー<br />
エンス大学における企業と大学の共同研究の実情を交えなが<br />
ら具体的な研究プロジェクトを紹介した.多数の写真やビデ<br />
オを使った説明は大変興味深いものであった.その他,一般<br />
講演の件数をトピック別に数えると,計測と再現に関する研<br />
究が 8 件,分光推定に関する研究が 7 件,分光解析や視覚モ<br />
デルの基礎研究が 6 件,分光応用に関する研究が 10 件であっ<br />
た.それぞれのトピックにおいて大変活発に議論が交わされ<br />
た.<br />
以下に <strong>2007</strong> 年度の分光画像に関する研究動向をトピック<br />
別にまとめる.<br />
5.1 分光画像の記録と再現<br />
Yamamoto らは LED アレイ,フォトダイオードアレイ,レ<br />
ンズアレイを使った分光スキャナシステムを提案した.分光<br />
推定精度は LED に大きく依存するため,40 種類の商用 LED<br />
を用意して最適化により 5 種類を決定した.900 以上の評価<br />
サンプルに対して分光推定誤差を評価したところΔE94色差に おいて,平均 1.02,最大 2.84 と非常に高い精度が得られてい<br />
る.また FPGA と DSP を併用した高速演算ハードウェアを実<br />
装することにより,0.5 mm ピッチの解像度において 100 mm/<br />
sec のスキャン速度を実現している(JIST,51(1),61).一方,<br />
Chorin らは DLP プロジェクターを 6 原色に拡張したディス<br />
プレイを提案した.光源の選択から 6 原色分解アルゴリズム,<br />
そしてシステム評価まで行っている.最終的には印刷校正の<br />
ハードコピーに置き換え可能となる水準の色再現性を目的と<br />
しており,未だ完全とは言えないものの高い精度を実現して<br />
いる(JIST,51(6),492).<br />
5.2 分光解析の基礎研究<br />
Tsutsumi らは LabPQR 色空間を用いた色域マッピング手法<br />
を提案した.LabPQR とは分光情報を測色値 L*a*b*3 成分と<br />
メタメリックブラックを考慮した追加 3 成分で表現する色空<br />
間であり,Derhak らによって 2004 年に提案された.本論文<br />
では 6 色プリンタでの再現を前提としており,分光から<br />
LabPQR 空間への変換,色域マッピングを行うためのパラ<br />
メータ調整法を提案し,その評価において高い再現性を実現<br />
している(JIST,51(6),473).また Tsutsumi らは LabPQR<br />
色空間から 6 色プリンタへの色変換を LUT によって行う手法<br />
を提案した.17×17×17×5×3 の要素を持った LUT を構築し<br />
ており色域マッピングと組み合わせることで高い精度を実現<br />
<strong>日本写真学会</strong>誌 71 巻 3 号(2008 年,平 20)<br />
した(CIC,184).さらに Nakaya らは LabRGB という CIELAB<br />
と RGB を組み合わせた 6 次元色空間を提案し分光情報の次<br />
元圧縮性能を評価した.比較対象として固有ベクトルを 6 種<br />
類の三角関数でモデル化する手法と,異なる光源下で観察し<br />
た CIELAB 値を 2 セット用いる手法も提案しそれぞれの評価<br />
を行ったところ,LabRGB が最も優れた結果を示した(CIC,<br />
190).色域マッピングに関してはさらに Bastani らが分光領<br />
域における手法を提案し,多色プリンタに応用している.こ<br />
の手法は非負の最小自乗法を用いており,従来の手法は凸包<br />
形状の色域しか扱えなかったのに対し,提案手法は凹面を有<br />
する色域にも適応できたとしている.数値モデルと実インク<br />
を用いた実験を行ってインクの種類と色再現性の関係につい<br />
て評価した(CIC,218).<br />
Morovic らはメタメリズムにおける色彩計測センサの特性<br />
を定量化するフレームワークを提案した.またメタメリズム<br />
の程度を可視化する頻度画像計算手法も提案し,評価を容易<br />
にしている.評価の指標として標準光源下でのメタマー,一<br />
般光源下でのメタマー,色の不一致度といった量を算出する<br />
ところが新しい.実験の結果から,センサ数の増加および狭<br />
帯域バンド数の増加につれてメタメリズムを抑制できること<br />
が客観的に示された(CIC,18).<br />
5.3 分光推定<br />
Bochko らは分光推定手法の提案と比較検討を行った.従来<br />
一般的に用いられてきた主成分分析に基づく方法,Wiener 推<br />
定を用いた方法,重回帰分析を用いた方法はどれも線形性を<br />
仮定している.そこで筆者は非線形性を考慮した学習に基づ<br />
く手法として回帰型 PCA 手法と区分線形型 Wiener 推定手法,<br />
そして非線形回帰分析手法を提案し,それぞれ比較実験を<br />
行った.その結果,回帰型 PCA 手法が推定精度,計算時間の<br />
両方において高いパフォーマンスを示した(JIST,51(1),70).<br />
また Skaff らはエントロピー最大化法を色恒常性に適用した.<br />
従来の色恒常性に対するアプローチは線形基底関数が用いら<br />
れてきたが,エントロピー最大化法は線形性を仮定する必要<br />
がないため柔軟な表現が可能である.ノイズ付与条件下で分<br />
光反射率分布,分光放射輝度分布を推定する実験を行った結<br />
果,エントロピー最大化法は大変良好な結果を示した(CIC,<br />
100).<br />
Shimano らは分光推定時の平均自乗誤差(MSE)について<br />
解析を行った.本研究では Wiener 推定時に発生する MSE を<br />
ノイズ依存成分と非依存の成分に分離解析する手法を提案し<br />
ている.本手法を量子化誤差の解析に適用したところ,ノイ<br />
ズ依存性が顕著に見られた.このノイズ依存性分離手法は<br />
様々な MSE 解析において有効であると考えられる(CIC,<br />
147).<br />
5.4 分光画像処理の応用研究<br />
Zhang らは分光撮影による植生指数の計測法を提案した.<br />
従来は限られたバンド数の分光情報から植生指数を推定して<br />
いたが,AVIRIS と呼ばれる 224 次元の分光計測が可能な計測<br />
器を用いて計測し,計測されたデータから様々な植生指数を<br />
算出する推定手法 VIUPD を提案した.VIUPD を使った計測
結果は高い精度を保ちつつ,ノイズの影響を抑えられること<br />
が分かった(JIST,51(2),141).<br />
またBalaらは紙素材に含まれる蛍光色素の分光特性を生か<br />
した Watermarking 手法を提案した.つまり一般光源下では隠<br />
蔽された情報が UV 光源下でのみ発現するものである.従来<br />
から同等の手法は提案されているが,本研究では蛍光色素と<br />
インクの分光特性を考慮することによって,特殊なインク等<br />
を必要とせずに実現できることが新しい(CIC,12).<br />
羽石らは天然鉱物色素で描かれた壁画の解析を目的に,色<br />
素の分光特性から領域分割する手法を提案している.近年,<br />
領域分 割手法としてサブ空 間法が 注 目されているが,<br />
CLAFIC などの従来手法は非線形性を有するシステムには対<br />
応できなかった.そこで非線形カーネルと融合した KNS 手法<br />
が提案されており,本研究ではこの KNS を分光画像の領域分<br />
割に適用した.評価実験の結果,分光画像の領域分割におい<br />
て KNS 手法が CLAFIC より優れた性能を示した(CIC,95).<br />
Nishino らは色識別能を強調するための分光フィルタを提<br />
案した.実験対象として一方のサンプルは肌と血管を含む色<br />
とし,他方のサンプルは化粧の塗布を制御した顔の肌色を用<br />
いた.ΔE 00 色差を最大化するようにフィルタ特性を最適化し<br />
たところ ON/OFF が急激に切り替わるフィルタ特性が得ら<br />
れ,このフィルタを用いることで色識別能を強調するフィル<br />
タが得られた(CIC,195).<br />
6. 画像保存<br />
6.1 画像保存関連技術<br />
金沢幸彦<br />
(富士フイルム・アドバンスト マーキング研究所)<br />
昨年は,各種デジタル写真プリント材料の保存性試験方法<br />
を実質的にどうすべきか,国内外で討議された年であった.<br />
従来,各社で独自に行っていた保存性評価方法を,統一的な<br />
ものに是正する動きも見られ,国内では <strong>2007</strong> 年 11 月に社団<br />
法人 JEITA(電子情報技術産業協会)が,国内では初めての<br />
画像保存性試験方法の規格となる「デジタルカラー写真プリ<br />
ント画像保存性評価方法(JEITA CP-3901)」を制定した.な<br />
お,ISO で規格化されるには,未だ暫く議論が続きそうであ<br />
る.<br />
保存性評価技術に関する,主だった報告内容について,以<br />
下に紹介する.<br />
耐光性評価方法に関しては,Kali Campbell(HP)らが,<br />
ショーウインドー(Commercial in-window display environment)<br />
におけるインクジェットプリントの耐光性を,冷凍機ありな<br />
しの Xenon 耐光試験機で評価した結果について報告してい<br />
る.ショーウインドーにおける平均暴露量を 6000 lux×12 hr/<br />
日と想定した場合の,HP 及び競合品の寿命(WIR 基準)は,<br />
約 0.5 ~ 3 年としている.また,窓越し光の分光分布を得る<br />
ために,Xenon のフィルターとしては,cut-off が 300 nm の<br />
Window-B/SL(ボ ロシリケート)を使用している(NIP23 proceedings,734).<br />
<strong>2007</strong> <strong>年の写真の進歩</strong> 145<br />
Steven D. Rice(Western Michigan Univ.)らは,各種デジタ<br />
ルプリント材料の耐光性を,色差(ΔE)及びガマット空間に<br />
おいて比較した.ただ,使用した卓上の Xenon 試験機では,<br />
サンプル温度を室温並みにコントロールすることができな<br />
かったため(最低でも BST 35°C にしか設定できなかった),<br />
ワックスベースのインクは,ランプによる熱の影響を受けた<br />
模様である(NIP23 proceedings,739).やはり,耐光性評価<br />
には温湿度制御が欠かせない.<br />
ガス耐性では,Stephan Moeller(Felix Schoeller jr. GmbH &<br />
Co. KG)らが,インクジェット,昇華型プリント,銀塩カ<br />
ラー写真の O3,NO2,SO2 耐性について,耐光性も含め,6ヶ<br />
月相当暴露したところで比較評価している.それによると,<br />
染料系インクジェットプリントは,O 3 ガス耐性が主な劣化要<br />
因.NO 2 と SO 2 による影響は,O 3 より少ない.インクジェッ<br />
トではインクとメディアの組合せが重要など,いずれも従来<br />
知見に同じである.また,銀塩プリント材料は,全てにおい<br />
て耐久性に優れ,評価した中では最も優れるとしている<br />
(NIP23 proceedings,755).<br />
耐湿性評価方法としては,階元(富士フイルム)らが,イ<br />
ンクジェットプリント材料に対して検討した結果を報告して<br />
いる.耐湿性評価にチェックボード・チャートを採用し,色<br />
差(ΔE)による比較が有効であること,また,耐湿性評価用<br />
の温湿度としては 30°C 85%RH が最適としている(NIP23<br />
proceedings,728).<br />
一方,各種デジタルプリント材料の寿命年数比較という意<br />
味では,Henry Wilhelm が,2004 ~ <strong>2007</strong> 年における,28 種<br />
類のデジタルプリント材料の,オゾン耐性を含む Display<br />
Permanence Rating を行っている.染料系インク(メディア写<br />
真用紙)の中には,耐光性において銀塩プリントを凌ぐもの<br />
があること,銀塩プリント材料はオゾン耐性に強いこと,及<br />
びインクジェットの暗保存性は軒並み 200 年を超えるなどと<br />
している(IS&T’s Digital Fulfillment,43).<br />
画像保存セミナーでは,佐野(セイコーエプソン)がイン<br />
クジェット記録におけるモノクロプリントの画質と保存性に<br />
ついて説明している.YMC 各単色の混色としてのグレーの耐<br />
光性が,ある顔料(例:Yellow)律速になる場合があるのに<br />
対し,グレーの部分にカーボンブラックを多用することに<br />
よって耐光性を良くしたことを紹介している(画像保存セミ<br />
ナー,14).また,金沢(富士フイルム)は,デジタル写真<br />
プリント材料の保存性試験方法(耐光性・ガス耐性・暗保存)<br />
の概説及び昨今の保存性試験規格の動向について紹介してい<br />
る(画像保存セミナー,20).<br />
以上,ショーウインドーでの耐光性評価,色差やガマット<br />
を活用した評価方法,耐湿性評価方法などが,文献として発<br />
表された内容であり,また,実質的にデジタル写真プリント<br />
材料の保存性試験方法の規格化に向け,前向きに展開し始め<br />
た年であった.<br />
6.2 展示・修復・保存関係<br />
山口孝子(東京都写真美術館)<br />
ここでは DVD の保存性,展示照明としての白色 LED ラン
146<br />
プおよび毒性のない古典印画法などの検証報告と,デジタル<br />
およびアナログアーカイブの事例報告,文化財保存修復・画<br />
像保存・映画の復元と保存等に関する各セミナーを取り上げ,<br />
紹介する.<br />
デジタルアーカイブにおいて,樫村(慶應義塾大学)は<br />
2006 年から 12 回(予定)に渡る連載の中で,HUMI プロジュ<br />
クトの貴重書デジタルアーカイブについて解説している.<br />
<strong>2007</strong> 年はデジタル画像の利用とコンピュータの活用度合い<br />
に応じたデジタル書物学についての研究事例とデジタルアー<br />
カイブの Web 公開事例を紹介した.活用の度合いを「レベル<br />
1:原資料の代替品としての利用」「レベル 2:パソコン上の<br />
汎用ツールの活用」「レベル 3:専用ツールの開発による処<br />
理」と考え,デジタル画像の研究利用の一般化に向けて考慮<br />
すべき点を言及した(情報の科学と技術,57(2),89).HUMI<br />
プロジュクトでは,保存用の高解像度からなるデジタルファ<br />
クシミリのためのデジタルアーカイブと,一般利用者用の<br />
Web 公開デジタルアーカイブを個々に構築して運営してい<br />
る.デジタルアーカイブはまだ過渡期であり,過去に構築し<br />
たデジタルアーカイブを維持しながら最新の技術で更新して<br />
いくためには,標準化や管理維持のための社会的環境づくり<br />
が課題であると結んでいる(同,57(3).125).日本経済新<br />
聞社経営企画室は,日本経済新聞創刊 130 年の軌跡として,<br />
マイクロフィルムで保存してきた創刊以来の紙面の電子化を<br />
行った.作成した PDF ファイルは 94 万枚に及んだという(月<br />
刊 IM,46(3),10).山崎(東京工業大学)は,設計資料の<br />
保管スペースの問題があるものの,「原資料の永久保存」「複<br />
製資料のマイクロフィルム・デジタルデータの併用」という<br />
捉え方を近代建築関係の資料の保存にも適用させるべきと<br />
し,自身が行った設計資料のマイクロフィルムからデジタル<br />
データに変換する仮定で生じた①撮影縮小率のばらつき(縮<br />
率誤差),②透過濃度のばらつき,についての問題を述べてい<br />
る(月刊 IM,46(4),10).<br />
アナログの保存関係では,沖縄県公文書館研究紀要の中で,<br />
戦後 27 年間の米国統治下における沖縄の行政記録である琉<br />
球政府文書の総合保存利用計画および緊急保存措置事業に関<br />
するプロジェクトの報告がなされている.大湾(沖縄県文化<br />
振興会)は,保存と利用を両立させるために「整理」「保存・<br />
修復」「複製」の側面から保存措置の方針作りや対策を検討<br />
し,15 万簿冊におよぶ琉球政府文書の用紙別の褪色度合いや<br />
劣化要因などの保存状態調査をまとめた(沖縄県公文書館研<br />
究紀要,9,37).吉嶺(沖縄県文化振興会)は,緊急保存措<br />
置としてマイクロ化に至る経緯を述べ,「素材調査」「保存状<br />
態調査」を踏まえた資料の優先順位についても詳細に言及し<br />
ている.マイクロフィルムを選択した理由として,長期保存<br />
性,長期利用性,裸眼可視媒体であることを挙げている(同,<br />
9,49).元興寺文化財研究所は,15 万簿冊の琉球政府文書の<br />
うち,沖縄県公文書館が抽出した 23 簿冊を対象に,形式・紙<br />
質分類・記録方式・褪色・pH・劣化状況について調査し,劣<br />
化傾向を分析した.さらに紙質の異なるサンプルを用いて,<br />
加熱劣化試験および水銀ランプ照射による褪色試験を実施し<br />
<strong>日本写真学会</strong>誌 71 巻 3 号(2008 年,平 20)<br />
た.この結果は劣化傾向の分析と同様,保存措置の優先度に<br />
反映されている(同,9,137).笹隈(ケイアイピー)は,建<br />
築物の社会的責任を果たすため,竣工図面・構造計算書・建<br />
築緒言などの建築情報の永年保存する重要性を述べ,その保<br />
存にデジタルイメージデータを直接マイクロフィルムに描画<br />
して圧縮記録する方法を推薦する.この方法は IT と融合した<br />
情報の永年保存媒体と期待している(月刊 IM,46(2),26).<br />
野外で使用される大型インクジェット印刷は,様々な気象<br />
条件(雨,湿度,光,オゾン等)により退色を余儀なくされる.<br />
Kline(Rochester Institute of Technology)は,加速度試験では<br />
なく実測で多変量解析し,環境変数の特定をおこなった<br />
(IS&T’s Archiving Conference, 113).<br />
媒体の長期保存性について,渡部(デジタルコンテンツ協<br />
会)は,DVD ディスクの寿命推定法を構築し,その加速度試<br />
験による寿命推定から,ディスクの選択によって 30°C・80%<br />
RH の保存条件下であっても 50 年あるいはそれ以上の寿命を<br />
持つと推定した.また,DVD ディスクの寿命推定法の国際標<br />
準化の動向についても述べている(月刊 IM,46(7),29).<br />
デジタル修復では,市川(写真工業出版)らは,変退色し<br />
たカラー写真の救済として,市販の 3 機種のスキャナを用い<br />
たカラーリバーサルフィルムの簡易的な退色復元作業につい<br />
て解説し,各機種に付加されている変退色復元モードを利用<br />
した復元の結果から,フィルムスキャナとしての性能を比較<br />
検討した(日本写真芸術学会誌,16(1),37).<br />
古典技法の脱有害性として,Bjørngård ら(千葉大学)は,<br />
重クロム酸塩ゴム印画法に代わる毒性のない写真法を考案し<br />
た.ゴム印画法の感光化剤として従来使用されてきた有害な<br />
重クロム酸カリウムや重クロム酸アンモニウムは,クエン酸<br />
鉄(III)アンモニウムで代替えできると証明した(日写誌,<br />
70(2),106).<br />
展示照明の報告として,石井(共立女子大学)らは,最も<br />
変退色や劣化が生じやすい天然染料染色布とブルースケール<br />
の変退色挙動から,白色 LED ランプが美術・博物館用照明<br />
としての適性を検証した.変退色は光源の色温度,放射照度<br />
の波長域や放射束値と高い相関が認められ,LED ランプ特有<br />
の 400 ~ 500 nm の発光ピークに応答し,退色を生じた染料<br />
があった.既存の白色蛍光ランプよりも退色が少ないものの,<br />
白色 LED ランプを美術・博物館用照明として実用化するた<br />
めには,さらなる改良が必要とした(照明学会誌,91(2),78).<br />
6 月に開催された文化財修復学会第 29 回大会研究発表は,<br />
セッション 31 件,ポスターにおいては 125 件にのぼり,多<br />
くの参加者の情報交換の場となった.海外輸送時の文化財へ<br />
の負荷,紙資料の劣化度評価や紙へのサイズ剤の影響,シミュ<br />
レーションによる温湿度解析,展示ケースの雰囲気の改善,<br />
水害資料の救済,文化財防災,虫害,IPM 活動など,各方面<br />
からの発表があった.ここではセッション報告のみを取り上<br />
げる.大会要旨のページにのみ括弧内に記した.<br />
神庭(東京国立博物館)らは,文化財輸送の安全対策を講<br />
じるために振動計測を行っている.海外輸送の全行程の振動・<br />
加速度発生時刻と輸送行程ごとの梱包ケースの状態を分析
し,ドーリー移動で最も加速度が高い結果を得,荷取扱者へ<br />
の働きかけと梱包による緩衝の強化での対応を図るとしてい<br />
る(76).岡山ら(東京農工大)は,アコースティック・エ<br />
ミッション法を用いて,保存紙資料の耐折回数・引裂強さ・<br />
引張強さ・ゼロスパン引張強さを測定し,この方法による紙<br />
の物理的測定値が自然劣化した紙の劣化度評価に有効である<br />
ことを示した(80).<br />
9 月には第 2 回「映画の復元と保存に関するワークショッ<br />
プ」が神戸・大阪で開催され,太田(大阪芸術大学)は映画<br />
の復元について,とちぎ(東京国立近代美術館フィルムセン<br />
ター)はフィルム・アーカイブの仕事と現状,森脇(京都府<br />
京都文化博物館)は映画復元の歴史と地域の映画文化アーカ<br />
イブ,石原(NPO 映画保存協会)は映画保存の里親制度と映<br />
画学校について,平野(富士フィルム)は映画フィルムの種<br />
類と特性,山本(IMAGICA ウェスト)はフィルム修復と復<br />
元の方法,越智(IMAGICA)はデジタル・インターメディエ<br />
イトとデジタル修復について,森田(撮影監督)は撮影者か<br />
らの提言といった様々な角度からの講演があり,さらに<br />
IMAGICA ウェストにて技術研修が行われた.劣化フィルム<br />
の問題は写真業界と同様の悩みであり,映画界と情報交換や<br />
連携することが望まれる.映像の保存では,「映画はフィルム<br />
で」「デジタルもフィルムで」が世界の動きであるという.<br />
平成 18 年度画像保存セミナーの講演内容を基に,「アナロ<br />
グおよびデジタルによるアーカイブの現状と課題」が日本写<br />
真学会誌第 70 巻 2 号に特集された.谷(東京大学史料編纂<br />
所)は,古文書の調査・研究における写真・デジタル画像の<br />
利用の変遷について,史料の研究利用と保存の両面での画像<br />
保存を模索する東京大学史料編纂所での取り組みを紹介し,<br />
問題点として画像データの技術の多様性が未知であることを<br />
挙げた.また,すでに多様化してしまったデジタルデータの<br />
有益な運用方法や基準となる仕様の構築が必要と述べている<br />
(日写誌,70(2),77).井上(奈良文化財研究所)は,写真<br />
の保存について,文化財写真の永久保存的記録という観点か<br />
ら,銀塩大判のカラーポジと白黒フィルムによる撮影を推薦<br />
している.また,デジタル画像の利用として採用した,PRO<br />
Photo CD の規格に対する長期保存性への懸念を示している<br />
(同,70(2),81).木目沢(国立国会図書館)は,デジタル<br />
画像の長期的な再生可能性についてと題し,所属館での電子<br />
出版物の長期保存と利用の可能性について,媒体・機器・OS・<br />
再生アプリケーションの観点から動作確認をおこなった.全<br />
体の 7 割弱の資料の利用に問題が生じたことからその解決策<br />
を探り,最後にメタデータやデジタルデータ・フォーマット<br />
の維持管理・標準化・規格化,著作権について,関係機関と<br />
の連携・協力を求めている(同,70(2),84).本多(福井県<br />
教育庁埋蔵文化財調査センター)らは,「福井豪雨」による水<br />
害被災写真原板の状況と救済についての詳細を記した.写真<br />
材料を考えると,水害に遭った場合には適確な専門的判断と<br />
迅速な対応が不可欠である.今回の経験から,災害時の対応<br />
マニュアルや災害復旧プログラムの作成,災害に遭わないた<br />
めの予防対策の整備の必要性を説いている(同,70(2),91).<br />
<strong>2007</strong> <strong>年の写真の進歩</strong> 147<br />
また,11 月に開催された画像保存セミナーでは,金子(東<br />
京都写真美術館)は文化財としての写真について,写真資料<br />
が重要文化財に「科学・産業技術遺産」「文化財の調査記録」<br />
での枠組みによって指定されてきた経緯に触れ,将来的には<br />
芸術としての写真,つまり「近代化遺産」としての新たな捉<br />
え方が必要との見解を述べた(画像保存,1).木下(東京国<br />
立博物館)は,①見やすさ,②わかりやすさ,③居心地のよ<br />
さを基本に展示空間づくりをおこなっている.文化財を安全<br />
に配置するとともに,照度制限等の展示条件を満たしながら,<br />
なおも美しい鑑賞環境を作り上げる照明デザインの役割につ<br />
いて事例を挙げ解説した(同,2).山口(東京都写真美術館)<br />
は,所属館の収集指針,作品管理および長期保存において重<br />
要な温湿度管理・空気質の最適化・虫菌への対応,使用して<br />
いる包装材料や保存方法,また展示における写真技法ごとの<br />
照度設定について具体的に解説した(同,7).<br />
7. 映画<br />
玉城和明(富士フイルム)<br />
7.1 概況<br />
<strong>2007</strong> 年の日本国内における映画興行収入は,洋画邦画合わ<br />
せて 1998 億円(前年比 97.8%),公開作品数 810 本(前年よ<br />
り 11 本減),入場者数 1 億 6319 万人(前年比 99.2%)と一<br />
昨年に比べ微減という結果であった.11 月末までの興業では<br />
前年比 100%を超えていたが,正月興行の 12 月が前年の 83<br />
%であったためこうした結果となった.<br />
邦画の公開作品数は 407 本,興行収入は 947 億円,洋画は<br />
403 本,1034 億円となり,一昨年と比べて再び洋画が邦画の<br />
興行収入を逆転した形となった.一昨年は興行収入 50 億円<br />
以上の作品が邦画で 6 作品あったのに対し,「HERO」「劇場<br />
版ポケットモンスター」の 2 作品に留まっている.<br />
洋画で興収 100 億円を突破したのは,「パイレーツ・オブ・<br />
カリビアン / ワールド・エンド」1 作品のみであった.<br />
スクリーン数は依然増加傾向にあり,昨年から 159 増え,<br />
3221 となった.この傾向は本年も続く見込みである.その<br />
内,シネコンのスクリーンシェアは 76%(前年比 104%)に<br />
達している.<br />
複合型商業施設の集客の核としてシネコンを設置する傾向<br />
は変わっていないが,その結果シネコン同士の競合が始まっ<br />
ている箇所もある.<br />
文化庁は,日本映画・映像の創造,流通促進,人材育成と<br />
普及,フィルムの保存・継承の推進を目的とした「日本映画・<br />
映像振興プラン」の平成 20 年度予算を,対前年わずか減額<br />
の約 20 億円とした.<br />
米国の映画興行収入は,96 億ドル(前年比 105.4%)で,<br />
それまでの最高だった 2004 年を上回り過去最高を記録した.<br />
公開本数は前年ほぼ同数の 603 本であったが確実にヒットが<br />
見込める「続編」に投資を集中し,好成績につなげた.<br />
7.2 フィルム<br />
富士フイルム(株)は業界初,デジタルインターメディエ
148<br />
イト専用レコーディングフィルム ETERNA RDI タイプ 8511,<br />
ポリエスター品 4511 を発売,「スーパーエフィシェントカプ<br />
ラー技術」等による高精細で色再現性の良いデジタル出力を<br />
実現した.また,「スーパーエフィシェント DIR カプラー技<br />
術」等による高彩度・高コントラスト・イメージシャープネ<br />
スの高い映画用ネガフィルム ETERNA vivid160 タイプ 8543,<br />
8643,及び高鮮鋭度・超微粒子のカラーデュープ用フィルム<br />
ETERNA CI タイプ 8503,8603,ポリエスター品 4503 を発売<br />
した.<br />
コダック(株)は映画用ネガフィルム VISION3 500T タイ<br />
プ 5219,7219 を発売,オーバー露光域のラチチュードを拡げ,<br />
「ダイ・レイヤリング・テクノロジー」によるアンダー露光域<br />
の粒状性改善を実現した.<br />
メーカー両社とも新製品を発売し,映画の世界のフィルム<br />
健在を印象づけた.<br />
7.3 撮影機器<br />
デジタルシネマ用カメラではソニーがレコーダーを上部又<br />
は後部に取付け,フィルムカメラの運用・操作性を実現した<br />
ハイエンド機「F23」,更に 35 mm フィルムサイズと同じ大型<br />
単版 CCD 採用,PL マウントですべての 35 mm シネレンズが<br />
使用出来,フィルムカメラ同様の被写界深度が得られる<br />
「F35」を発売した.<br />
西華産業(株)は RED 社製の 4K 収録可能な低価格でデジ<br />
タルシネマカメラ「RED ONE」の取り扱いを始めた.<br />
デジタルハイスピードカメラでは,HD フル解像度での 33<br />
倍速(毎秒 1000 フレーム),映画用 PL マウントレンズが使<br />
用可能なビジョンリサーチ社製「ファントム HD」が発表さ<br />
れた.<br />
シネレンズは,(株)ナックイメージテクノロジーから,ア<br />
ンジェニュー社「Optimo28-76/T2.6」,35 mm フィルム用カー<br />
ルツァイス社「ライトウェイト 15.5-45/T2.6」,デジタル用<br />
「デジプライム 52/T1.6」及び「デジプライム 135/T1.9」が発<br />
表・発売された.<br />
デジタル撮影の環境が更に整いつつある.<br />
7.4 デジタルシネマ<br />
2005 年 7 月に発表された DCI(Digital Cinema Initiative)の<br />
推奨基準制定を受け,2006 年に引き続き <strong>2007</strong> 年もデジタル<br />
シネマシネマスクリーン数は増加し,DCI・2K/4K 推奨基準<br />
を満たしているデジタルシネマスクリーン数は,全世界で約<br />
6000 スクリーンとなった.(全世界の映画スクリーン数は,<br />
12 ~ 15 万と言われている).<br />
米国の DCI・2K/4K 推奨基準デジタルシネマスクリーン数<br />
は 4500 を越え,全世界の約 3/4 を占めているが,契約分の設<br />
置が <strong>2007</strong>/11 でほぼ終了し,設置は一段落した模様である.<br />
また提唱されたビジネスモデル VPF(Virtual Print Fees)も<br />
十分に機能するまでには至っていないようで,3D シネマ上映<br />
でのさらなる普及を試みているが,未だ大手映画チェーンは,<br />
様子見の状況である.<br />
欧州デジタルシネマスクリーン数は約 850,アジアでは約<br />
400 に増加している.KOFIC(韓国映画振興委員会)が「デ<br />
<strong>日本写真学会</strong>誌 71 巻 3 号(2008 年,平 20)<br />
ジタルシネマ推進委員会」を設立するなど,官民一体で普及<br />
に取り組んでいる韓国が約 160 スクリーンとアジア最多であ<br />
る.ただし,中にはデジタル上映時にはバックアップとして<br />
5 分後にフィルム映写機を同時運転するという連動システム<br />
をとっているシネコンも存在している.一方,中国でも中国<br />
電影科学技術研究所が推進し 100 スクリーンを超えている<br />
が,ハリウッド映画を上映するような娯楽映画以外のジャン<br />
ルでは独自・多様のフォーマットでの展開がされている模様<br />
である.<br />
これに対して日本の DCI・2K/4K 推奨基準デジタルシネマ<br />
スクリーン数は,2006 年から増加なく 69 スクリーン(国内<br />
全スクリーン数の約 3%相当)であり,普及面で世界各地域<br />
の後塵を拝している.米国でのビジネスモデルの進捗状況を<br />
確認しつつ,運用面,保守管理面での体制を慎重に検討して<br />
いる模様である.<br />
世界的に見るとデジタルシネマスクリーン数の増加は見ら<br />
れるが,その信頼性,ビジネスモデルの確立や各国規格の統<br />
一等,まだ普及へのハードルが存在している.<br />
8. 医用画像<br />
松本政雄(大阪大学大学院医学系研究科)<br />
8.1 医用画像の基礎<br />
①医用画像デジタル撮影技術<br />
松本(阪大院)は,西部支部 60 周年記念講演「写真の変<br />
化,この 10 年」の特集で「医用画像,この 10 年」と題して,<br />
CT(Computed Tomography),CR(Computed Radiography),<br />
FPD(Flat-Panel Detector)の医用画像がこの 10 年の間にど<br />
のように進展してきたかを解説している(日写誌,71(1),9).<br />
荒川(富士フイルム)は,5 月 24・25 日に千葉大学で開催<br />
された年次大会の特別セッション「医用画像デジタル撮影技<br />
術最前線」で,「Computed Radiography(CR)技術」と題し<br />
て,1983 年に商品化された CR 技術と最近の CR 技術につい<br />
て紹介し,CR システムは X 線画像のデジタル化を最初に実<br />
用化し,リードしてきたが,X 線画像診断が全世界的にデジ<br />
タル化されていくのはこれからで,現在,デジタルラジオグ<br />
ラフィに期待されているのは画像診断能力と医療画像診断の<br />
トータルな生産性であり,汎用性の高い CR の担うべき役割<br />
は非常に大きいと報告している(日写誌,70(別),20).<br />
中野(コニカミノルタエムジー)は,同セッションで,「シ<br />
ンチレータ技術」と題して,デジタル画像診断装置の放射線<br />
検出素子として使用されているシンチレータの役割は,でき<br />
るだけ人への放射線被ばく量を抑え,SN の良好な診断画像<br />
を提供することであるとし,輝尽性蛍光体を中心に発光効率<br />
の向上を主眼にしたシンチレータ技術を報告している(日写<br />
誌,70(別),22).<br />
また,同氏らは,高感度 X 線シンチレータ材料技術である<br />
塗布型蛍光体プレート技術と蒸着型プレート技術を比較検討<br />
し,BaFX(X はハロゲンイオン)系の蛍光体粒子を樹脂バイ<br />
ンダーに分散し,塗布成形する塗布型蛍光体プレート技術は
CR プレートを安価に作成できるメリットがあるので,ハン<br />
ドリング性を求めるカセット型 CR システムのプレートとし<br />
て普及している.一方,蛍光体を柱状に形成し,ライトガイ<br />
ド効果で読み取り時に LD 光の層内散乱を抑える蒸着型プ<br />
レート技術は CR プレートの高画質化を図る有効な技術手段<br />
であり,両技術ともそれぞれのメリットを活用し,医用画像<br />
診断の質の向上に寄与できると報告している(日写誌,70<br />
(別),10).<br />
山﨑(キヤノン)は,同セッションで,「間接型 FPD(flatpanel<br />
detector)技術」と題して,間接型と直接型の FPD の原<br />
理,特徴,要求仕様,X 線検出器の評価について解説し,そ<br />
の中で医療診断用 X 線撮影分野の静止画および動画の両応用<br />
で使用されている間接型 FPD 技術が,静止画においてほぼ十<br />
分な高感度化がなされているが,動画に関しては 1 枚あたり<br />
の撮影線量が非常に少ないことから,さらなる高感度化が求<br />
められており,今後は,透視線量を十分に抑制できるように,<br />
高ゲイン化,低ノイズ化をそれぞれ追求し,高感度化を目指<br />
すと報告している(日写誌,70(別),24).<br />
三品(島津製作所)は,同セッションで,「直接型 Flat Panel<br />
Detector(FPD)技術(FPD システムにおけるアプリケーショ<br />
ンの開発)」と題して,直接型 FPD を使用したアプリケーショ<br />
ンとして,エネルギーサブトラクション,スロットラジオグ<br />
ラフィー,デジタルトモシンセシス,長尺トモシンセシス,<br />
コーンビーム CT について解説し,その先進性のために FPD<br />
自身の技術に注目されがちであるが,実際には FPD はシステ<br />
ムの一部でしかなく,FPD の能力を十分に引き出し臨床的な<br />
意義を高めていくのはシステム全体であるとし,これらのシ<br />
ステムに関する種々の技術をまとめ上げ,常に今後の大きな<br />
可能性を追求し,FPD を中心としたシステムを,画像診断の<br />
新しい領域にまで発展させていくことが我々の責務であると<br />
報告している(日写誌,70(別),26).<br />
②画質評価<br />
新田ら(コニカミノルタエムジー)は,10 ~ 30 倍の高倍<br />
率撮影位相イメージングでの半影による像のボケが生じる画<br />
像辺縁において,位相コントラストによる画像辺縁強調を得<br />
るための撮影条件を検討し,X 線管焦点径(20 μm),撮影拡<br />
大率(20 倍),平均 X 線エネルギー(20 keV 以下)を適切に<br />
組合せることで,鮮明な高倍率位相コントラスト像を得るこ<br />
とができ,今後は,検出器画素サイズを含めたエッジ像取得<br />
の最適撮影条件を検討することが課題であると報告している<br />
(日写誌,70(別),18).<br />
松本ら(阪大院)は,エネルギー弁別型放射線ラインセン<br />
サを用いて,診断用 X 線装置の管電圧 120 kV,管電流 0.22<br />
~ 0.25 mA の撮影条件で,5 keVのエネルギー幅で作成した<br />
被写体(炭素とアルミニウムの円柱とアクリルの正方形柱)<br />
の X 線画像から被写体の材質として減弱係数と原子番号を計<br />
算し,理論値と比較して,被写体の材質が識別可能かどうか<br />
検討した結果,識別可能であることを実験的に確認し,今後<br />
は,理論値との誤差をできるだけ小さくして,実用化に耐え<br />
るようにしていきたいと報告している(日写秋,35).<br />
<strong>2007</strong> <strong>年の写真の進歩</strong> 149<br />
窪田ら(鈴鹿医大院)は,医用画像のノイズの低減法とし<br />
て,これまで,wavelet 係数絶対値のヒストグラム形状だけ<br />
から閾値を決定する手法を提案し,さらに,広範囲な画像 SN<br />
比に対しても,ノイズ低減の性能が安定するように,閾値決<br />
定のアルゴリズムを改良して,154 枚の胸部 X 線ディジタル<br />
画像でノイズ低減性能を評価した結果,広範囲な SN 比のノ<br />
イズ画像に対しては,Donoho の閾値よりも安定であり,低<br />
い SN 比のノイズ画像に対しては,Donoho の閾値と同等のノ<br />
イズ低減効果が得られたと報告している(日写秋,39).<br />
8.2 医用画像の応用<br />
①診断への応用<br />
志村ら(千葉大院)は , 放射性薬剤(RI: Radioisotope)の<br />
集積をイメージングする小型ガンマカメラ(GC)と光学カメ<br />
ラ(OC)の画像合成法をラットなどの小動物イメージングに<br />
適用した時の誤差を見積り,対象物に起伏がある場合にはGC<br />
から離して撮影する必要があるが,距離を離して撮影を行う<br />
と GC の感度が低下してしまうので,近距離での撮影を可能<br />
にするために OC を二眼にしてステレオ撮影を行い,対象物<br />
の形状の復元に成功したので,今後は,対応点検出精度の向<br />
上と対象物の形状に合わせた画像合成法に取り組むと報告し<br />
ている(日写誌,70(別),16).<br />
窪田ら(鈴鹿医大院)は,マンモグラフィのコンピュータ<br />
支援診断システム(CAD: Computer-Aided Diagnosis)で使用<br />
する病巣陰影のコントラスト強調処理に,quoit フィルタのリ<br />
ング上画素値の統計量として,平均値でなく,中央値を採用<br />
し,様々な形状の quoit フィルタでコントラスト強調処理を<br />
行い,平均値を用いた場合と比較した結果,コントラスト強<br />
調効果に大きな違いはなく,逆に計算時間が増大したので,<br />
今後は,実用的な処理時間でより効果的に病巣陰影コントラ<br />
ストを選択的に強調できるように改良していくと報告してい<br />
る(日写秋,41).<br />
②治療への応用<br />
藤淵ら(千葉大)は , 放射線治療での非物理 wedge の線量<br />
プロファイル測定で,従来から行われているフィルム線量分<br />
布測定法で使用されているフィルムの代わりにイメージング<br />
プレート(IP: Imaging Plate)を利用した線量プロファイル測<br />
定を検討し,IP にビーム照射後に一定量の露光によるフェー<br />
ディングを行うことで,100 MU 以上での測定が可能であり,<br />
電離箱線量計で測定した軸外線量比(OCR: Off Center Ratio)<br />
を比較した場合,オープン照射野,非物理 wedge 照射野とも<br />
に,金属フィルタを使用することで誤差を抑え,電離箱線量<br />
計での測定値に近似させることができたので , IP を利用した<br />
線量プロファイル測定は IP の特性を考慮すれば,非物理<br />
wedge の簡便な QA(Quality Assurance)として使用可能であ<br />
ると報告している(日写誌,70(別),12).<br />
松隈ら(千葉大院)は,仮想現実(VR: Virtual Reality)技<br />
術を利用した腹腔鏡下手術トレーニングシステムのための 2<br />
点接触を可能にするリアルタイム肝臓変形シミュレーション<br />
用に,リアルタイム弾性体変形モデルを提案し,2 点の作用<br />
点のそれぞれに梁を考え,2 本の梁の変形を足し合わせるこ
150<br />
とで物体を構成する質点の変位ベクトルを求め,外力の作用<br />
点からの距離に応じた影響率関数を考慮することで,自然な<br />
変形を行わせることを可能にしたが,今後は,影響率関数で<br />
近似した梁モデルの精度評価を行い,剥離などの具体的な手<br />
技の訓練が行えるようなアプリケーションの完成を目指すと<br />
報告している(日写誌,70(別),14).<br />
9. 科学写真<br />
9.1 文化財<br />
城野誠治(東京文化財研究所)<br />
<strong>2007</strong> 年の概況として,科学写真の枠組みでとらえると,文<br />
化財の分野では,新たな技術開発や既存の技術に対する応用<br />
に大きな進展はみられなかった.しかし,すでに公表された<br />
技術の応用事例が数件報告されている.小澤(筑波大)らが<br />
発表したデジタルカメラ撮影を利用した顔料,染料同定の試<br />
み(第 29 回文化財保存修復学会)は,赤外線の物性を利用<br />
して有機物と無機物の材質を簡便に識別することを目的とし<br />
て行っている.これは,イメージセンサが実用域に達し,多<br />
機能化されたデジタルカメラが普及し,機器の一部機能を利<br />
用することで,これまで困難であった赤外線の撮影が簡易な<br />
範囲であるが容易に行えるようになり,科学的な見地での応<br />
用範囲が広がったものと言える.また,文化財を写真に記録<br />
する際,より正確な色再現が重要となるが,岩城(富士フィ<br />
ルム)らは,印刷や写真において「好ましい色再現」を実現<br />
させるために重要と思われる要因を,撮影条件の補正,ガマッ<br />
トマッピング,記憶色再現,意図的色再現とし,その技術を<br />
紹介している(日印誌,44(2),91–97).色に関連して,小島<br />
(東海大)らは,人が金色を認識するメカニズムについて報告<br />
している.人が金色と感じるものの物理的測定結果は黄色で<br />
あるが,対象物の形状(3 次元情報)の認識により金色を認<br />
識できるという仮説を下に検証実験を行っている.この結果,<br />
金色は青や赤といった単なる色とは別格の,対象の形状に対<br />
応した反射特性を認識したときに得られるより上位の認識概<br />
念であるとしている(日画誌,46(5),357–362).文化財に<br />
おいて金色は絵画や工芸品などで様々な材質を用いて表現さ<br />
れている.光の当て方によって輝きの度合いが変化し,金色<br />
は色としての認識が困難である.この検証は科学的に色味を<br />
論証する際に重要となるであろう.鈴木(工芸文化研)は,<br />
歴史学における計測技術の発展を概観するとともに,3 次元<br />
デジタル計測データの応用とデータベース化について述べ<br />
た.古物のデータベースの構成要素として,拡大写真,エッ<br />
クス線写真,3 次元デジタル計測データ,観察記録①表面上<br />
の傷,突線,凹線などの有無,観察記録②表面上の付着物の<br />
有無(錆,土等)の 5 つを揚げている.ここで,写真を写生<br />
技術の発展とし,優れた客観的な観察手段としながらも恣意<br />
的に欲しい結果に近づける工夫がなされることがあるとし<br />
て,注意を促している.デジタルアーカイブが盛んに作られ<br />
る中,データベース化に向けた客観性を確立するためにも何<br />
らかの基準が求められるであろう(Museum,609,21–62).<br />
<strong>日本写真学会</strong>誌 71 巻 3 号(2008 年,平 20)<br />
9.2 天体写真<br />
山野泰照(天体写真家)<br />
<strong>2007</strong> 年も天体写真の世界は,引き続きデジタル化が進んだ<br />
年であった.デジタルカメラなどの,撮影機材の性能や機能<br />
の進化だけでなく,撮影目的に応じて,ワークフローを最適<br />
化するための統合環境づくりに向けた取り組みが進んでいる<br />
ことが注目される.<br />
まず撮影機材の中の静止画機材では,デジタルカメラ全般<br />
に相変わらず高画素化が続いている中で,デジタル一眼レフ<br />
カメラの高性能化,特に天体写真で注目すべき性能面では,<br />
低ノイズ,高感度化が進んだ.<br />
カメラが設定できる最高感度に着目すると,ISO6400,増感<br />
設定では ISO25600 相当まで設定が可能な製品(ニコン D3)<br />
が登場した.ほとんどのデジタル一眼レフカメラで,実用的<br />
な感度設定として ISO800 で,数分間の露出が安心して行え<br />
るようになり,天文ファンだけでなく一般ユーザーにも簡単<br />
に美しい天体画像が撮影できるようになった.<br />
銀塩フィルムに見られた低照度相反則不軌というような,<br />
感度を低下させるような現象はデジタル機材にはないので,<br />
ISO800 の数分間の露出で予想以上に暗い天体が撮影できる<br />
ようになったことは,天体撮影の底辺拡大に大きく貢献する<br />
ものである.<br />
一部の天体写真ファンの間では,Hα の波長(656 nm)を<br />
確実に撮影するために,視覚的な色再現性が損なわれること<br />
を承知の上で,市販のデジタル一眼レフカメラを天体望遠鏡<br />
ショップで改造(赤外線カットフィルターの換装など)する<br />
ことはますます一般化してきた.<strong>2007</strong> 年は,上述したような<br />
分光感度分布を天体写真ファン好みに改造するだけでなく,<br />
さらにノイズを低減するために,冷却 CCD カメラと同様な<br />
ペルチエ素子を用いた冷却機構を搭載する改造カメラを販売<br />
する天体望遠鏡ショップも登場してきた.<br />
動画関連では,主たる鑑賞機材である HDTV の高性能化<br />
(フルハイビジョン化など)も背景にあって,撮影機材もフル<br />
ハイビジョン(1920×1080)の解像度を持つ製品が相次いで<br />
登場した.(キヤノン iVIS HF10,ソニー HDR-SR12 など)<br />
解像度だけではなく,色域の拡大やノイズの低減などの性<br />
能も向上し,また小型化,軽量化も進み,より高画質が手軽<br />
に得られるようになった.撮影可能な最低照度も 5lux程度<br />
と一般撮影には十分な高感度になってきたため,天文の世界<br />
でも,皆既日食や月面,惑星撮影などで威力を発揮すること<br />
が期待されている.<br />
さて,天体撮影のひとつに,遠征先で手軽に星景や星座を<br />
自動追尾撮影したいというニーズがある.以前から,カメラ<br />
を搭載して天体を追尾(日周運動による星の動きを追尾)さ<br />
せる機材として,撮影前に極軸合せをしておけば,あとは赤<br />
道儀のモーターの自動追尾機能に任せて撮影できるポータブ<br />
ル赤道儀というものがあったが,ピリオディックモーション<br />
が±5秒角を下回る高性能なポータブル赤道儀が発売された.<br />
(TOAST TECHNOLOGY)高感度のデジタルカメラと,そう<br />
いうポータブル赤道儀との組み合わせによって,気軽に天体
撮影をするというようなスタイルが広がりつつある.<br />
画像処理に視点を移すと,画像処理を用いた,新しい撮影<br />
と表現のテクニックとして,三脚に固定したデジタルカメラ<br />
で,星と風景を連続的にインターバル撮影した複数枚の画像<br />
を,画像処理ソフトを用いて合成(合成時の条件として比較<br />
(明)を選択)を利用した,デジタル版長時間露出とでも言う<br />
べき手法が広がってきた.都会の風景と組み合わせた星空な<br />
ど,銀塩フィルムによる長時間露出では得ることができな<br />
かった画像が,デジタル撮影機材と画像処理によって得られ<br />
るようになったことは,新しい可能性を示唆するものとして<br />
注目される.<br />
また高精細な広い画角の画像を得るために,写野をずらし<br />
ながら撮影した,複数枚の画像を用いてモザイク合成すると<br />
いう手法も広がっている.風景写真などで,水平方向に順次<br />
撮影した複数枚の画像からパノラマ写真に仕上げるというよ<br />
うなデジタル処理の応用にあたるものだが,星像はできるだ<br />
け小さく,背景のノイズはできるだけ少なくしたいという,<br />
天体写真ファンの高画質へのこだわりが見てとれる.<br />
昨年の本稿でも記したが,新天体の捜索を行うために,撮<br />
影から未確認天体の捜索(データベースとの比較),新天体が<br />
発見されれば所定の手続きでその報告まで行うような,統合<br />
的なソフトウェアの進化もあるように,アマチュアの世界で<br />
も,天候(降雨状況や雲の状況)を調べ,観測施設のドーム<br />
の開閉や回転を行い,望遠鏡を遠隔地から自動コントロール<br />
して天体の自動導入をし撮影をするなど,一連の動作をさせ<br />
る統合環境づくりを目指した動きが始まっている.そういう,<br />
画像処理に止まらない作業の自動化は今後,「より楽に」,「よ<br />
り高画質を」,「より高い生産性で」という方向に向かい,さ<br />
らに進化するものと期待されている.<br />
高度なリモートセンシングという面では,宇宙航空研究開<br />
発機構(JAXA)が月周回衛星「かぐや(SELENE)」を打ち<br />
上げ(<strong>2007</strong> 年 9 月),日本放送協会(NHK)が開発したハイ<br />
ビジョンカメラによって月の周回軌道から撮影された,月の<br />
表面の精密な映像や,月の縁から上る地球,沈む地球の映像<br />
が発表された.もちろん「かぐや(SELENE)」に限った話で<br />
はなく,これまでの惑星探査衛星やハッブル宇宙望遠鏡もそ<br />
うであるように,リモートセンシング技術により,研究や鑑<br />
賞のための高画質映像を,居ながらにして撮影できるように<br />
する取組みは,今後ますます加速すると予想されている.<br />
10. 画像入力(撮影機器)<br />
長 倫生(カメラ技術研究会)<br />
<strong>2007</strong> 年は前年に続きデジタルカメラ市場の成熟化が一層<br />
進み,昨年に続き業界の再編や生産開発拠点の統廃合が進ん<br />
だ.以下にその流れを示す.<br />
9 月:富士フイルム株式会社はデジタルカメラ生産の全面<br />
的中国移管,生産技術の開発機能を有する宮城県黒川郡大和<br />
町の拠点に,デジタルカメラの製品開発,調達,品質保証機<br />
能を統合することを発表.<br />
<strong>2007</strong> <strong>年の写真の進歩</strong> 151<br />
10 月:HOYA 株式会社と,ペンタックス株式会社は,平成<br />
20 年 3 月 31 日に合併すると発表.<br />
このような中でフイルムカメラはほとんど登場せず,デジ<br />
タルカメラもコンパクトタイプでは製品サイクルが一層短く<br />
なりコストだけではなく,新しい付加価値を模索した数多く<br />
の製品が登場している.また,デジタル一眼レフカメラも普<br />
及機からフルサイズセンサー搭載機まで,ラインナップが充<br />
実してきている.研究や製品開発に関した発表はセミナーや<br />
学会誌などで活発になされ,デジタル技術や周辺技術に関し<br />
た多岐にわたる成果の数々が報告された.<br />
①カメラ<br />
研究・開発ではデジタルカメラのノイズ低減や画像処理を<br />
含めた撮像素子・画像関連技術,手ブレ防止技術,外装技術<br />
などの周辺技術が報告された.フイルムカメラの研究報告は<br />
無かった.<br />
デジタルカメラの撮像素子・画像関連技術関連では多くの<br />
報告がされており,風見(ニコン)はデジタル一眼レフの最<br />
新技術動向について報告した(デジタルカメラ基礎講座,).<br />
南(富士フイルム)は FinePix S5Pro 写真画質へのアプロー<br />
チについて報告した(カメラ技術,10).黒田(松下電器)は<br />
イメージセンサにおける画像情報の構造と画質に関する基礎<br />
的考察について報告した(カメラ技術,30).原口(キヤノン)<br />
は EOS KISS Digital X の開発について報告した(日写誌,70,<br />
189).若林,赤木(ニコン)はデジタル一眼レフカメラ D80<br />
の開発について報告した(日写誌,70,185).井浜(富士フ<br />
イルム)は有機光電変換膜を積層した CMOS イメージセン<br />
サーについて報告した(富士フイルム研究報告,52,3).<br />
手ブレ防止技術やデザイン・外装技術を中心に周辺技術で<br />
も盛んに報告されており,信乃(キヤノン)は Canon IXY デ<br />
ザインの系譜について報告した(カメラ技術,19).鷲巣(キ<br />
ヤノン)は光学式手ブレ補正技術の歴史と技術分類について<br />
報告した(PIE,).清水(ペンタックス)はデジタルカメラ<br />
におけるタッチディスプレイの UI について報告した(カメ<br />
ラ技術,15).森(オリンパス)は小型防水耐衝撃デジタル<br />
カメラ μ720SW の開発について報告した(日写誌,70,181).<br />
野中(富士フイルム)は大量の DSC 撮影画像からの自動選択<br />
を可能とする画像評価技術“iAgent”の開発ついて報告した<br />
(富士フイルム研究報告,52,17).張(富士フイルム)は<br />
FinePix S6000fd の顔検出応用技術について報告した(日写誌,<br />
70,196).畳家,上中,最上谷(ペンタックス)は「K10D」<br />
の企画背景および手ブレ補正技術について報告した(日写誌,<br />
70,201).<br />
フイルムカメラでは市場縮小が進み,一眼レフとしては新<br />
機種の発表は無く,コンパクトカメラでも富士フイルム<br />
KLASSE S の 1 機種のみの登場にとどまっている.しかしな<br />
がら,レンジファインダー機では 21 mm 広角レンズに対応し<br />
たファインダーを持つコシナ BESSA R4M,R4A の 2 機種が<br />
登場し,フイルムカメラの根強い人気に対応している.<br />
デジタルカメラは一眼レフでは普及機から高級機まで幅広<br />
い層が登場.すべてが 1000 万画素を超えて登場した.前年
152<br />
は登場しなかったフルサイズ撮像素子搭載の新機種も 2 機種<br />
登場した.CMOS センサー搭載機種も増加している.<br />
ペンタックス K10D GRAND PRIX Package は有効 1020 万<br />
画素の CCD を装備し,ボディ内蔵手ブレ補正機構,ホコリ<br />
除去機構,防塵防滴構造で,K100D Super はボディ内蔵手ブ<br />
レ補正機構,ホコリ除去機構,オートピクチャーモードで登<br />
場した.キヤノン EOS-1D MarkIII は 1010 万画素 APS-H サイ<br />
ズのイメージセンサーを搭載,EOS-1Ds MarkIII は 2110 万画<br />
素フルサイズのイメージセンサーを搭載し,5 コマ / 秒を達<br />
成するなど高級機種としてのニーズに答えた.EOS 40D は<br />
1010 万画素 APS-C サイズではあるが,6.5 コマ / 秒を達成し<br />
た.オリンパスからはいずれもフォーサーズイメージセン<br />
サー,ライブビューを搭載した E-3,E-410,E-510 が登場,<br />
E-3,E-510 はボディ内手ブレ補正を搭載した.パナソニック<br />
LUMIX DMC-L10 は 1010 万画素フォーサーズイメージセン<br />
サーを搭載し,ライブビュー時でもコントラスト AF を可能<br />
とした.ソニーα700 は有効 1220 万画素のイメージセンサー,<br />
ボディ内手ブレ補正,アンチダスト機能を搭載した.シグマ<br />
SD14 は 1406 万画素の 3 層構造の FOVEON X3(R)ダイレク<br />
トイメージセンサーを搭載して登場した.ニコン D3 は 1210<br />
万画素フルサイズイメージセンサを搭載し,フルサイズで 9<br />
コマ / 秒を達成し,フラグシップ機として登場した.D300 は<br />
1210 万画素 APS-C サイズイメージセンサーを搭載し,8 コマ<br />
/ 秒を達成した.D40X はクラス最軽量の小型ボディで登場し<br />
た.富士フイルム FinePix S5Pro は多彩なフイルムシミュレー<br />
ションモードを搭載して登場した.<br />
コンパクトタイプでは高感度や手ブレ補正機能,顔検出機<br />
能の搭載が一般化し,低価格機も含めて小型薄型化が進んだ.<br />
動画機能や広角化も一般的になりつつある.画素数は 1200 万<br />
画素を突破した.<br />
オリンパスからは水中 10 m 防水の μ795SW,5 倍ズーム機<br />
μ830,1200 万画素 CCD 搭載の μ1200 をはじめ,μ760,μ780,<br />
μ790SW,CAMEDIA FE-210,FE-220,FE-230,FE-240,FE-<br />
250,FE-280,FE-300,FE-220D,FE-270,FE-290,SP-550UZ,<br />
SP-560UZ 等多数の機種が登場した.カシオからは H.264 動画<br />
対応,顔検出搭載の EXILIM EX-S880,EX-Z77,EX-Z1080,<br />
EX-V8 をはじめ EX-Z75,EX-Z1050,EX-Z1200,EX-V7 等薄<br />
型機を中心に登場した.キヤノンからは 28 mm 広角の IXY<br />
DIGITAL 910 IS,1200 万画素 CCD 搭載,チタンボディの IXY<br />
DIGITAL 2000 IS,1000 万画素 CCD,動画撮影中の光学ズー<br />
ム可能でHD動画対応のPowerShot TX1をはじめIXY DIGITAL<br />
10,90,810 IS,PowerShot A460,A550,A560,A570 IS,A650<br />
IS,A720 IS,SX100 IS,S5 IS,G9 等多数の機種が登場した.<br />
コダックからは 1013 万画素機,EasyShare V1003 が登場した.<br />
三洋からは HD 動画記録が可能な Xacti DMX-CG65,DMX-<br />
HD700 水中ムービー可能な DMX-CA65 等が登場した.ソニー<br />
からは笑顔検知のスマイルシャッター搭載の Cyber-shot<br />
DSC-T200,DSC-T20,DSC-T2 等をはじめ,顔検出機能搭載<br />
の DSC-T100,DSC-T20,DSC-W200,DSC-W80 等の薄型モ<br />
デルを中心に DSC-W35,DSC-H3,DSC-H7,DSC-G1 等多数<br />
<strong>日本写真学会</strong>誌 71 巻 3 号(2008 年,平 20)<br />
の機種が投入された.ニコンからは無線 LAN を搭載した<br />
COOLPIX S50c,S51c,レリーズタイムラグ 0.005 秒の高速レ<br />
スポンスを実現した COOLPIX S500,S510,S700,をはじめ<br />
L11,L12,L14,L15,P50,P5000,P5100,S50,S51,S200<br />
等多数の機種が登場した.パナソニックからは薄型でありな<br />
がら 10 倍ズームレンズを搭載した LUMIX DMC-TZ3,28 mm<br />
からの広角ズームを搭載したDMC-FX30,DMC-FX100,DMC-<br />
FX33,DMC-FX55,DMC-FZ18 をはじめとして DMC-FS1,<br />
DMC-FZ8,DMC-FS75,DMC-LZ7,DMC-FS2 等,全機種手<br />
ブレ防止機能付で多数の機種が登場した.富士フイルムから<br />
は顔検出機能を搭載した薄型 5 倍ズーム機 FinePix Z100fd を<br />
はじめ,F40fd,A800,A610,A900,F50fd,S8000fd,Z10fd,<br />
F480 等が登場した.ペンタックスからは 10M 機で世界最小・<br />
最軽量の Optio S10,3.0 型タッチディスプレイ搭載の T30 を<br />
はじめ,E30,M30,A30,W30,E40,M40,Z10,V10 等が<br />
登場した.リコーからは薄型化した 28–200 mm の Caplio R6,<br />
R7,24 mm ワイドズームの GX100,単焦点レンズの GR<br />
DIGITAL II 等が登場した.<br />
各社とも成熟化とともに機種が増加しつつあり,画素数・<br />
デザイン性・高機能化でしのぎを削っている.<br />
②レンズ<br />
光学系の研究・開発でもデジタルカメラに対する光学系の<br />
特長についての報告が主となっている.青野(ニコン)はデ<br />
ジタルカメラ光学系の特徴と最新動向について報告した(デ<br />
ジタル写真講座,).志村(東大)はアサヒカメラニューフェー<br />
ス診断室におけるデジタルカメラの試験方法について撮影レ<br />
ンズを中心として報告した(カメラ技術,38).<br />
一眼レフの交換レンズは,昨年同様にデジタルカメラ専用<br />
仕様の製品が多く登場した.<br />
フルサイズ用としてはキヤノン EF50 mm F1.2L USM,<br />
EF14 mm F2.8L IIUSM,EF16–35 mm F2.8L II USM,ニコン<br />
AF-S NIKKOR 400 mm F2.8G ED VR,AF-S NIKKOR 14–<br />
24 mm F2.8G ED,AF-S NIKKOR 24–70 mm F2.8G ED,シグマ<br />
APO 70–200 mm F2.8 EX DG MACRO HSM,タムロン AF28–<br />
300 mm F/3.5–6.3 XR Di VC が登場した.<br />
APS-C サイズ,フォーサーズ等デジタル一眼レフ専用では,<br />
ニコンAF-S DX VR Zoom-Nikkor ED 55-200 mm F4–5.6G(IF),<br />
オリンパス ZUIKO DIGITAL ED12–60 mm F2.8–4.0 SWD,<br />
ZUIKO DIGITAL 2X Teleconverter EC-20,ZUIKO DIGITAL<br />
ED70–300 mm F4.0–5.6,ZUIKO DIGITAL ED14–42 mm F3.5–<br />
5.6,ソニー Vario-Sonnar T* DT 16–80 mm,DT 16–105 mm<br />
F3.5–5.6,DT 18–250 mm F3.5–6.3,DT 55–200 mm F4–5.6,キ<br />
ヤノン EF-S 18–55 mm F3.5–5.6 IS,EF-S 55–250 mm F4–5.6<br />
IS,パナソニック L-RS014150,ペンタックス smc PENTAX-<br />
DA ★ 50–135 mm F2.8ED[IF]SDM,smc PENTAX-DA ★ 16–<br />
50 mm F2.8ED AL[IF]SDM,smc PENTAX-DA 18–250 mm<br />
F3.5–6.3 ED AL[IF],シグマ 18–200 mm F3.5–6.3 DC OS,<br />
10 mm F2.8 EX DC FISHEYE HSM,APO 50-150mm F2.8 II EX<br />
DC HSM,タムロンAF18–250 mm F/3.5–6.3 Di II LD Aspherical<br />
[IF] Macro,トキナー AT-X 165 PRO DX,AT-X M35 PRO DX
が登場した.<br />
中判カメラ用ではマミヤセコール Macro 120 mm F4 D が登<br />
場した.<br />
レンジファインダーカメラ用としても,コシナ COLOR<br />
SKOPAR 21 mm F4P,COLOR SKOPAR 25 mm F4P,ULTRON<br />
40 mm F2 SLII Aspherical,NOKTON 58 mm F1.4 SLII,Carl<br />
Zeiss Makro Planar T* 2/50ZF,Carl Zeiss Makro Planar T* 2/<br />
100 ZF,Carl Zeiss C Biogon T* 4.5/21 ZM,Carl Zeiss Planar T*<br />
1.4/50 ZK,Carl Zeiss Planar T* 1.4/85 ZK,Carl Zeiss Distagon<br />
T* 4/18 ZM,Distagon T* 2/28 ZF,ZK ,Sonnar T* 1.5/50 等多<br />
くのレンズが登場した.<br />
昨年同様に広角系のズームレンズを中心にラインナップが<br />
充実してきている.<br />
11. 画像出力<br />
11.1 プリンタ<br />
村井清昭(セイコーエプソン)<br />
本項では,写真画質出力を主な目的とするハードコピーテ<br />
クノロジーに関し <strong>2007</strong> 年の動向を述べる.ただしデジタル<br />
化の流れの中で写真出力とドキュメント出力の境界が曖昧と<br />
なってきており,どちらかだけの出力を目的とするというよ<br />
り両方が目的となっている場合が多い.全体としては高画質・<br />
高速化という基本項目の進化に加え,引き続きオンデマンド<br />
印刷の流れを受けインクジェットのライン化技術は活発に開<br />
発されている.また,特に電子写真では省電力技術の開発が<br />
要求項目として高まってきているとみられる.<br />
①インクジェット<br />
石倉(京セラ)らは,600 dpi,幅 4.23 インチ,2,656 ノズ<br />
ルのピエゾラインヘッドの駆動周波数を 24 kHz に高め<br />
1,016 mm/s の高速印字を実現したことを報告した(NIP23,<br />
305).奥村(セイコーエプソン)らは,ノズル集積度を 360 dpi<br />
に高めた次世代マイクロピエゾヘッドを開発し,その構造と<br />
特性を報告した(NIP23,314).土井(富士ゼロックス)ら<br />
は,カラーインクと別に処理液を使い,紙上で凝集させるこ<br />
とで紙への浸透が抑えられることを確認し高速印字と高画質<br />
を両立する技術として提案している(NIP23,95).村山(セ<br />
イコーエプソン)らは,顔料インクのインクジェット専用メ<br />
ディアへの浸透挙動を,染料インクや PPC 用紙で比較し,ま<br />
た顔料と樹脂の組成比を変えた場合について評価した(日画<br />
年大会,A-5).辰巳(富士ゼロックス)らは,ライン型イン<br />
クジェットヘッドを用いた場合の不吐出ノズルの白スジを,<br />
4 値誤差拡散と 2 値誤差拡散法を適宜使い分けることで低減<br />
する方法を提案した(日画年大会,A-24).ヘンリー(Wilhelm<br />
Imaging Research)らは,プリント画像のオゾンによる経年退<br />
色について,オリジナルブランドインクとサードパーティー<br />
インクについて比較し,サードパーティーインクの場合の方<br />
が早く退色することを示した.瀬戸(富士ゼロックス)らは,<br />
マトリクス型ノズル配列を用いたピエゾインクジェットヘッ<br />
ドについて紹介した.複数のヘッドを横一列に並べる構造と<br />
<strong>2007</strong> <strong>年の写真の進歩</strong> 153<br />
することで紙幅長の長尺ヘッドとしている(日画年大会,A-<br />
20).乾(キヤノン)は,近年の大判インクジェットプリン<br />
タにおける高画質化の取り組みについて概説した.プリンタ<br />
利用業種・業態に応じて求められる特性が異なることを説明<br />
し,さらに上市した 12 色の顔料インクジェットプリンタに<br />
ついて,ヘッド・インクの特徴,キャリブレーション機能・<br />
環境光補正機能等を紹介した.(サマーセミナー,p. 1)<br />
②電子写真・印刷<br />
香川(シャープ)らは,省電力の定着システムとして,外<br />
部ベルト加圧定着システムを開発し,ニップ幅の拡大を図り<br />
加熱能力を向上することで,ウオームアップ時間を短縮と省<br />
エネルギー化の効果を示した(日画誌,46(6),443).清水<br />
(コニカミノルタビジネステクノロジー)らは,外部 IH 加熱<br />
方式により昇温時間を短縮することで待機温度を低く設定す<br />
ることで低消費電力化の効果を示した(日画年大会,B-26).<br />
飛川(大日本インキ化学工業)は通常の色域よりも広い色<br />
域を印刷する印刷の中で,普及の段階に入った 6 色プロセス<br />
印刷について現状と課題を説明した(日印誌,44(4),181).<br />
佐々浦(メディアテクノロジージャパン)らは,高細線印刷<br />
について AM,FM, ハイブリッドについて高細線化における課<br />
題について説明し,粒状性・バンディングムラ・モアレの低<br />
減に効果のあるハイブリッド網Fairdot2について説明した(日<br />
印誌,44(4),189).狩戸(セイコーエプソン)は,FM スク<br />
リーンの一種でセルの重心位置に網点を生成する Circular<br />
Cell 法を改良し AM 要素を組込むことでエッジ領域の解像性<br />
を向上させた(日画誌,46(2),103).<br />
11.2 印刷<br />
小関健一(千葉大学)<br />
柴谷(セイコーエプソン)らは,写真用紙中に残存するイ<br />
ンクジェットインクに含まれる高沸点溶剤の分析手法を提案<br />
し,残存量と耐擦性との間に負の相関があることを示した(日<br />
印誌,44,32).河相(共同印刷)らは,スクリーン印刷に<br />
より凹凸層を形成し,それに高精細なインクジェット方式で<br />
画像形成することによる岩絵具調複製画の作製方法を開発し<br />
た(日印誌,44,98).小関(千葉大)らは,カチオン重合<br />
反応を用いた UV 硬化型ジェットインクの硬化性とプラス<br />
チック基板に対する接着特性との関係を,各種カチオン重合<br />
性モノマーとの関係で議論し,塩ビ基板に接着するインクの<br />
設計指針を提案している(日印誌,44,209).インクジェッ<br />
ト印刷は,可変データの高速印刷を行うデジタルプレスの分<br />
野から,プリンタブルエレクトロニクスの分野まで,その特<br />
徴を生かして,ますます利用分野を拡大している.<br />
飯濵(国立印刷局)らは,水性グラビアインキの堅牢性と<br />
用いる水溶性樹脂組成との相関を検討し,グラビアインキに<br />
適する樹脂の設計指針を提案している(日印誌,44,279).<br />
佐藤(東京工芸大)らは,スクリーン印刷により分散型無<br />
機 EL パネルを作製し,高輝度化を検討している(日印誌,<br />
44,350).篠田(NBC)らは,液晶繊維を用いた超薄膜形成<br />
用スクリーンを開発し,100 nm 厚の有機 EL 発光層の形成に<br />
ついて検討している(日印誌,44,37).印刷技術により厚
154<br />
膜から超薄膜まで高精度で作製できるようになってきたの<br />
で,今後ますますエレクトロニクス関連分野に利用されてい<br />
くものと考えられる.<br />
12. 写真芸術<br />
<strong>日本写真学会</strong>誌 71 巻 3 号(2008 年,平 20)<br />
西垣仁美(日本大学芸術学部)<br />
12.1 概況<br />
21 世紀に入り,写真の世界では急速にデジタル化が進んで<br />
きた.このわずか 7 年の間に,デジタルはもはや特別なもの<br />
ではなく,当たり前の技術として人々の間に広まっている.<br />
2006 年の報告で,銀塩との共存状態であると報告したが,<br />
<strong>2007</strong> 年には,逆に銀塩写真が特別な存在として,その魅力を<br />
主張した時代であった.すなわち銀塩であることを強調し,<br />
銀塩の魅力を示す写真展が特別なものとして目を引いたので<br />
ある.その代表的なものが「ゼラチンシルバーセッション展」<br />
(アクシスギャラリー,10 月 2 日~ 20 日)である.黒白,カ<br />
ラーともに銀塩の作品の写真展であったが,名だたる写真家<br />
が 2 人 1 組になり,自作の作品と他者がフィルムからプリン<br />
トした作品を 2 枚並べて展示した.この方法により,銀塩写<br />
真には作者の個性がプリントに反映されること,幅広い表現<br />
が可能であることが示され,銀塩写真の幅広い魅力を伝える<br />
ものであったが,同時にデジタルプリントによる制作でも,<br />
個性の反映は可能ではないかと考えさせられるものであっ<br />
た.<br />
また <strong>2007</strong> 年は,写真関係各社が有する写真ギャラリーの<br />
存続が危ぶまれたことが印象深い.相次ぎ写真会社の合併が<br />
発表され,銀塩関係部門が縮小され,写真ギャラリーの移転<br />
や,閉鎖の可能性が話題になった年であった.<br />
一方,写真が写真としての枠を超えて,現代美術として取<br />
り上げられ,現代美術展の中に他分野の作品とともに展示さ<br />
れた展覧会が多かったことも特徴であった.例えば国立新美<br />
術館で行われた「異邦人(エトランジェ)たちのパリ 1900–<br />
2005 ポンピドー・センター所蔵作品展」(2 月 7 日~ 5 月 7<br />
日),森美術館の「六本木クロッシング <strong>2007</strong>:未来への脈動<br />
(10 月 13 日~ 2008 年 1 月 14 日)などがあげられる.この傾<br />
向は今後も続いていくように感じられる.<br />
12.2 写真展<br />
・グレゴリー・コルベール「ashes and snow」<br />
(ノマディック美術館,3 月 11 日~ 6 月 24 日)<br />
東京のお台場に,この展覧会専用の移動美術館として期<br />
間限定で建てられた建物自体も作品の一部となり,写真作<br />
品,映画,小説,建築すべてが一体となった企画展であっ<br />
た.カナダ出身のコルベールが世界 40 カ国以上で,人間<br />
と動物たちの交流の姿を捉えたものであった.すべてがス<br />
トレートな写真であるというのが信じがたいほどの素晴ら<br />
しい瞬間が写されており,心温まる写真展であった.<br />
・アンリ・カルティエ=ブレッソン「知られざる全貌」<br />
(東京国立近代美術館,6 月 19 日~ 8 月 12 日)<br />
カルティエ=ブレッソンの写真,フィルム,油彩やデッ<br />
サン総てを集めた大きな作品展であった.写真も世界各地<br />
で撮影された幅広い作品が数多く展示されていた.最大の<br />
見所は,日本初公開であった彼のヴィンテージプリントが<br />
数多くまとめて展示されたことである.ガスマンプリント<br />
との違いを目の当たりにでき,大変興味深かった.また 7<br />
本のフィルムも見る事ができた.<br />
・森村康昌「森村泰昌-美の教室,静聴せよ」展<br />
(横浜美術館,7 月 17 日~ 9 月 17 日)<br />
森村泰昌の創作の秘密を解き明かすかのような展覧会で<br />
あった.彼が制作してきた写真作品に写し出された被写体<br />
を同時に展示することにより,その作品の芸術性を新ため<br />
て感じさせられた.回顧展に止まらず新しい見方が提示さ<br />
れ,最新作も出品され,余すところなく森村の魅力を展示<br />
していた.<br />
・日本建築写真家協会「銀座ジャック」<br />
(品川キヤノン S タワー 2 階 オープンギャラリー,キヤノン<br />
サロン S タワー,オープンギャラリー,4 月 19 日(木)~<br />
5 月 17 日)<br />
日本建築写真家協会創設 5 周年を記念して,メンバーが<br />
東京銀座の 1 丁目から 8 丁目までの 30 m を撮影し,オー<br />
プンギャラリーの長い展示会場をいかした横長のプリント<br />
を制作し両壁面に銀座通りを再現した.左右で昼と夜と撮<br />
影時間を変えることにより,銀座の 2 つの印象をも示して<br />
いた.通常道路を歩いている時に,建築物の目線のみしか<br />
注視していないことを改めて感じさせられた.非日常の興<br />
味深い写真展であった.<br />
12.3 「東京写真月間 <strong>2007</strong>」開催<br />
第 12 回を迎えた「東京写真月間 <strong>2007</strong>」が,東京写真月間<br />
<strong>2007</strong>」実行委員会と社団法人日本写真協会,東京都写真美術<br />
館の主催で,6 月 1 日の「写真の日」を中心に開催された.<br />
今回のメイン企画は「東京の肖像」であった.一昨年の企<br />
画が写真の歴史を展望する垂直の視線であり,昨年の企画が<br />
現代における日本各地の写真活動を通じた文化交流を展望し<br />
た水平の企画であったのに対し,今回はその交点である東京<br />
写真月間開催地である巨大都市東京に視線を注視し,その過<br />
去・現在・未来の姿を浮かび上がらせるものであった.特に<br />
「生活者」の視線を大事にし,同じ目線でそこに暮らす人々の<br />
生活を捉え,都市の環境の変化を浮かび上がらせていた.<br />
ハービー・山口の「my favorite faces」(ペンタックスフォー<br />
ラム,5 月 18 日~ 31 日)は東京の街で見かけ現代に生きる<br />
人々の様々な表情をテーマにしたものであった.神山洋一の<br />
「東京生活 1992–2002」(ポートレートギャラリー,5 月 29 日<br />
~ 6 月 10 日)は東京に暮らしている環境や生活レベルの違<br />
う様々な人々が『生きている』ということに対しては誰しも<br />
が平等であるという考えのもと,東京 23 区とその周辺を歩<br />
き回りスナップショットで急速に変貌する都市とそこに住む<br />
人々を撮り集めたものであった.春日昌昭の「TOKYO・1963–<br />
1966」(FUJIFILM SQUARE(東京ミッドタウン)富士フイル<br />
ムフォトサロン,6 月 1 日~ 7 日)は 40 年前の東京オリン<br />
ピック前後に変貌する都市東京の街並みを写しとったもので
あり,写真の記録性の価値を感じさえてくれるものであった.<br />
今回で 4 回目を迎える「アジアの写真家たち」はインドが<br />
取り上げられた.<strong>2007</strong> 年は日印文化協定締結 50 周年にあた<br />
り,文化,学術交流,人と人との交流の強化を目的とした「日<br />
印交流年」であった.東京写真月間の「アジアの写真家たち<br />
インド」はインド大使館より日印交流事業と認定された.<br />
この企画では 12 名のインドの写真家により捉えられた現<br />
在のインドの文化,風俗,人々の暮らしが紹介された.スベ<br />
ンダー・チャタジーの「Manipur」(銀座ニコンサロン,5 月<br />
30 日~ 6 月 12 日)は,インド北東部のマニプル州でアイデ<br />
ンティティ制度によって生まれた社会問題の解決のために立<br />
上がった女性達の解放闘争の記録であった.パラシャント・<br />
パンジェールの「KING, COMMONER, CITIZEN」(貴族&庶<br />
民)(コニカミノルタプラザ・ギャラリー C,5 月 19 日~ 28 日)<br />
は生活者の視点から階級制度のギャップを越えて精一杯生き<br />
るインド人の生活の記録であった.パブロ・バーソロミュー<br />
の「Nagaland “Marked by beauty”」(オリンパスギャラリー,<br />
6 月 7 日~ 13 日)は,東端のミャンマーと国境を接する山岳<br />
地帯に住む少数民族の文化,風俗の記録であった.「India in<br />
her colour and vibrancy: インドの輝き・彩り」(キヤノンギャ<br />
ラリー銀座,5 月 31 日~ 6 月 6 日)は,7 人のインドの写真<br />
家により,宗教が半ば社会習慣化された同国の風俗,文化を,<br />
様々な暮らしをとおして紹介した.「India in diversity インド<br />
百態」(アイデムフォトギャラー「シリウス」,5 月 31 日~ 6<br />
月 6 日)は 5 名の写真家により,現在のインドの貧しい人々<br />
の風俗,文化と近代文明を享受する富裕な中間層の暮らしぶ<br />
りを紹介していた.<br />
「日本写真協会賞」は,写真文化の国際交流や写真界への貢<br />
献・功労のあった個人や団体と,地域において写真文化の振<br />
興発展に寄与している個人や団体,写真作家活動や写真研究<br />
活動において顕著な業績を残した写真家・研究者,将来を嘱<br />
望される新人写真家を表彰するものである.その「日本写真<br />
協会賞受賞作品展」(富士フォトサロン,6 月 1 日~ 7 日)が<br />
開催され,その表彰式が 6 月 1 日,笹川記念館で行われた.<br />
・国際賞:テリー・ベネット<br />
氏の収集による豊富な実作品に基づいた研究・調査の集<br />
大成である 2006 年に出版された著書「PHOTOGRAPHY<br />
IN JAPAN1853-1912(日本の写真 1853 ~ 1912)」と,同時<br />
に出版された収集・調査の手引書「OLD JAPANESE PHOTO-<br />
GRAPHES: COLLECTORS’DATA GUIDE(日本古写真コレ<br />
クター・データガイド)」は日本の古写真研究に関わる国内<br />
外の研究者にとって貴重な成果であり,日本の写真文化に<br />
多大に寄与している.<br />
・功労賞:大西實<br />
富士写真フイルム(株)の社長,会長在任中には,写真<br />
界各方面の要職を歴任し,日本の写真感光材料をレベル<br />
アップするリーダーシップをとり,日本写真工業の国際的<br />
地位の確立に寄与した.また日本写真協会の理事,副会長,<br />
会長を歴任し,日本写真協会の協賛組織の充実と,「東京写<br />
真月間」など写真文化活動の強化を計った.<br />
<strong>2007</strong> <strong>年の写真の進歩</strong> 155<br />
・功労賞:津田洋甫<br />
これまでの写真集・写真展などの制作活動と共に,浪華<br />
写真倶楽部の代表としての活動に対して贈られた.浪華写<br />
真倶楽部は 2005 年に 100 周年を迎えた日本で最古の写真<br />
倶楽部である.その代表として 100 周年記念行事の写真展<br />
を関西・東京で催し,写真集も上梓された.そして今後益々<br />
の発展が期待されている.<br />
・功労賞:故・倉持悟郎<br />
2006 年に食道がんのため逝去された氏は日本における<br />
フォトコーディネータの草分け的存在であり,100 以上の<br />
写真展を企画運営し,日本の写真家を海外に,また海外の<br />
写真家を日本に紹介した.「国境なき医師団」展 ’95 や<br />
「ヒューマンライツ写真展」など人権問題,人道支援など<br />
ヒューマンな問題を多くの写真展で社会に訴えた功績は大<br />
きい.<br />
・学芸賞:光田由里<br />
2006 年出版の著書「写真,「芸術」との界面に」で,野<br />
島康三などの巨匠たちの実作品と関連資料の研究調査によ<br />
り独自の視点で写真と芸術の「界面」に関する論を展開し,<br />
彼らの仕事の位置づけに再検討を促すとともに,総論とし<br />
て写真と芸術の新たな光景を浮き上がらせた.また写真と<br />
芸術に関する研究方法の可能性を広げた功績も大きい.<br />
・文化振興賞:飯田市(藤本四八写真文化賞)<br />
長野県飯田市は平成 9 年に「飯田市藤本四八写真文化賞」<br />
を制定し,10 年目を迎える.「推薦の部」はプロ写真家の<br />
業績に対し授与されるものでる.また「公募の部」はプロ・<br />
アマを問わず応募された中からすぐれた写真表現に対して<br />
表彰するものである.写真表現の発展のために力をそそい<br />
だ行政に対し贈られた.<br />
・文化振興賞:京都写真クラブ「How are you, PHOTO-<br />
GRAPHY ? 展」実行委員会<br />
京都写真クラブは,写真文化の活性化と振興の理念を掲げ<br />
て活動している.2006 年に 11 回を迎えた「How are you,<br />
PHOTOGRAPHY ? 展」は,プロ・アマ問わず様々な人が京都<br />
を中心にギャラリーなどで開催される写真展に参加し,自主<br />
的に運営するものである.地域における写真文化振興のため<br />
の草の根運動として注目すべき試みである.<br />
・年度賞:中村征夫<br />
水中写真家である氏は世界 76 カ国の海を巡り,多様な<br />
作品群を発表してきた.その集大成といえる写真展・写真<br />
集「海中 2 万 7000 時間」に対して贈られた.また 30 年に<br />
わたる東京湾の撮影は貴重な記録となっている.氏のもう<br />
一つの特質は,カラー写真と共に黒白写真で水中の世界を<br />
表現したこともあげられる.<br />
・作家賞:永坂嘉光<br />
氏は高野山の門前町に生まれ,高野山の写真を撮り続け,<br />
30 冊近くの写真集を出している.1990 年頃からは更に日<br />
本人の山岳信仰に視野を広げ,吉野,大峯をはじめとし北<br />
は恐山,南は桜島まで全国の聖地を巡っている.自然の中<br />
で神仏を信ずるという日本人独特の宗教観を長年に渡って
156<br />
追い求めた作者の到達点ともいえる「天界の道」が評価さ<br />
れた.<br />
・作家賞:水谷章人<br />
スポーツ写真を職業として確立した先駆者の一人である<br />
氏は多くのスポーツ雑誌のグラビアを飾ってきた.特に<br />
「Number」への掲載は 5 年に渡った.またスポーツプレス<br />
協会の会長としても活動を行い,会は昨年 30 周年を迎え<br />
た.更にスポーツ写真講座を開き,後進の指導にあたり実<br />
力あるスポーツ写真家を育てている.<br />
・新人賞:北野謙<br />
作品「our face」は個と集団という普遍的で現代的でもあ<br />
るテーマを示している.この作品は,撮影した何十人もの<br />
ネガを一枚の印画紙に正確に重ねて作品としたポートレー<br />
トであり,一人一人の肖像でありながら同時に撮影された<br />
総ての人の肖像となっている.この作品をとおし,肖像分<br />
野のみならず写真の新しい可能性に満ちた方法論を提起し<br />
ている.<br />
・新人賞:吉村和敏<br />
1998 年の初個展,2000 年の写真集出版以来,受賞対象<br />
となった再近作「林檎の里の物語」までカナダの自然風景<br />
と人々の暮らしをテーマに作品制作を続けている.人と自<br />
然が対立するのではなく,まさに調和の中に共存していく<br />
風景の美しさは理想郷としての魅力を捉えている.自らの<br />
写真的原点を揺るがすことなく,ヨーロッパにも取材範囲<br />
を広げている.<br />
・特別賞:ジェイ・ウォーリー・ヒギンズ<br />
「発掘カラー写真 昭和 30 年代鉄道原風景(4 巻)」「発<br />
掘カラー写真 昭和 30 年代乗物のある風景(2 巻)」等を<br />
出版.この時代にカラーフィルムで撮影するのは大変で<br />
あったにもかかわらず,これら作品は鉄道写真という範疇<br />
に止まらず,当時の環境を記録した貴重なものである.決<br />
して豊かではなかったが,人々が意欲にあふれていた時代<br />
そのものを車両達と共に記録したのであり,日本の文化記<br />
録として大変価値が高い.<br />
〈「写真の日」記念写真展・<strong>2007</strong>〉(新宿パークタワー・ギャ<br />
ラリー 3・オープンデッキギャラリー,5 月 31 日~ 6 月 6 日)<br />
は全国から 910 名,2282 点の応募があった.応募人数,点数<br />
ともに前回を上回った.作品は自由作品部門とネイチャー<br />
フォト部門に分けられ,その両方から外務大臣賞 1 名が選ば<br />
れた.それ意外は両部門から,最優秀賞各 1 名,優秀賞各 5<br />
名,準優秀賞各 5 名,レディース賞各 5 名,協賛会社賞各 42<br />
名,入選は自由作品部門 121 名,ネイチャーフォト賞 120 名<br />
が選ばれ,展示された.<br />
恒例の〈1000 人の写真展「わたしのこの 1 枚」〉(新宿パー<br />
クタワー,ギャラリー 3・オープンデッキギャラリー,5 月<br />
26 日~ 29 日)は,今回で 12 回目となった.「みんなに見せ<br />
たい!わたしの写真…」キャッチフレーズに,風景,家族の<br />
写真,心に残る光景などバラエティーにとんだ写真が展示さ<br />
れた.<br />
<strong>日本写真学会</strong>誌 71 巻 3 号(2008 年,平 20)<br />
12.4 出版<br />
・写真集「Light Navigation」片桐飛鳥,ADP(アートデザイ<br />
ンパブリッシング)<br />
光を,大気を,世界に存在する色を捉えた写真集である.<br />
被写体自体はこの世に存在する風景の一部であるが,それ<br />
を作者が抽象化している.それは人工的な後処理で生み出<br />
されるものではなく,撮影時点ですべて終わっているスト<br />
レートな写真である.この空気感,色を出すのは高い技術<br />
が必要であろう.作品をとおして壮大な宇宙を感じた.<br />
・写真集「二月 Wintertale」小畑雄嗣,蒼穹舍<br />
白黒写真とカラー写真の両方で構成されている.冬の北<br />
海道が舞台であるが,ストーリや説明的ではなく,白く冷<br />
たい大地を失踪するスケート選手,馬,大気を舞う雪の結<br />
晶,動く天体,そこで暮らす人などを通して,雄大な自然<br />
とそこに暮らす小さな人間の存在を全体で感じさせてくれ<br />
る.<br />
・写真集「NEW DIMENSION」石川直樹,赤々舍<br />
世界各地の壁画へ至る旅の写真集である.太古の壁画へ<br />
至る現代の様々な道,例えば草原,海原,荒れた大地など<br />
を辿って行くうちに,現代の時間が過去へと遡っていくよ<br />
うな感覚を与えられる.たどり着いた先の壁画に潜む太古<br />
の人々の思いを感じると,現代と太古の時空が絡み合って<br />
新しい次元を構成しているように思える.<br />
・写真集「CANARY」志賀理江子,赤々舍<br />
写真集「Lilly」志賀理江子,アートビートパブリッシャーズ<br />
同作者による 2 冊の写真集が 12 月に相次いで出版され<br />
た.ともにカラーによる作品であり,死生観を表現してい<br />
る.内容は世界の断面の集積であり,殊更ストーリーがあ<br />
るわけでもなく全体としてこの世にある光と闇,生と死の<br />
存在を共に感じさせる映像である.写真が現実のみしか写<br />
し出せないといった印象を打破するものであり,静まり<br />
返った音の世界を感じさせられた.<br />
・写真集「密やかな記憶」阿佐見昭彦,蒼穹舍<br />
世界各地の街角などで撮り集められた作者の記憶の集積<br />
といえる黒白の写真集である.それぞれに特徴ある溢れる<br />
光と,被写体の構成力が素晴らしく,しかも一枚一枚の写<br />
真にストーリー性が感じられた.特に建築物の捉え方が独<br />
特で,魅力的である.<br />
13. 写真家から見た画像技術の進歩<br />
矢部國俊(写真家,光藝工房)<br />
13.1 総括<br />
今年は,ハードウエア的にはあまり目立ったおもしろいも<br />
のはなかった.価格競争にあおられたせいか,進歩と言える<br />
のかどうか難しいものが多かった.<br />
逆に,目に見えない部分での革新は著しく,様々な分野で<br />
地道に変化していることが市場動向などから伺える.特に画<br />
像技術とは関係ない電池の容量など,ひと昔前とは比べ物に<br />
ならないほど長く使用することができる.これが直接因果関
係は無くても,撮影を影で支えるものであり,特にデジタル<br />
時代になってからはありがたい向上である.<br />
今年目立って変わってきたのは,ソフトウエアや WEB サー<br />
ビスなどの分野.インターネットを使ってインタラクティブ<br />
に様々なコンテンツを展開する中で,「写真」と言うのが当た<br />
り前になり,ホームページやブログの中でも写真を用いるこ<br />
とが多くなってきた.<br />
それに伴い,その周辺の機器やサービスは著しい変化を遂<br />
げていると言える.<br />
ハードウエアの進歩も,そういったコンシューマー系が多<br />
かったように見受けられるのは少なくとも気のせいではない<br />
だろう.中でも特に目立ったのだは手ぶれ補正だろう.レン<br />
ズかセンサーをカウンター的にぶれさせる方法が主流であ<br />
る.これは撮影技術を支えるもので画像技術が進歩している<br />
とは言いがたいかもしれない.<br />
すこし『とっ散らかった』感のある画像技術関係の技術的<br />
進歩である.<br />
以下に,目立ったものを取り上げてみよう.<br />
13.2 ハードウエアについて<br />
残念ながら,この分野は目立ったものを発見することはで<br />
きなかった.PIE2008 でも探して回ってみたのだが,既存技<br />
術の焼き直しの感が強く,全体的に元気が無かった.<br />
個人的には様々期待するものが多いところなのだが,もう<br />
少し時間を待たないといけないようだ.<br />
なかでも,今年リリースされた DataColor の Spyder3(株式<br />
会社ソリューションシステムズ取扱)は,精度の高いカラー<br />
マネージメントを提供してくれるツールとして好評価であっ<br />
た.<br />
フィルター型のセンサーであるが,液晶環境でも CRT 環境<br />
でも高度なカラーマネージメントを提供し,プリントのキャ<br />
リブレーション精度も高い.何より価格もこなれているので,<br />
既存デジタルユーザーを影で支えるツールとして期待する.<br />
一般的には回折格子型の方が性能が高いと思われがちである<br />
が,その常識を覆している点でおもしろい.<br />
こういったツールはあまり表に出ることも無い上に,画像<br />
技術そのものではない.しかし,あえて取り上げたのは,前<br />
段述べたように画像技術も複雑化しており,包括して考える<br />
べきであろうと思うからだ.<br />
次に筆者が興味深いのが,EPSON の PX-G5300 だ.分類上<br />
はハイアマチュア機に入るであろう(MAXART では無いので<br />
個人的に判断)この機種は,キヤノン等でも似た方向性で出<br />
されているCMYK分色インク+アルファのインクを搭載して<br />
いるモデルだ.<br />
インクの数を増やして再現性を高めると言う方向性は,高<br />
精細印刷でもインクジェットでもおよそ再現性が問われるプ<br />
リント分野で盛んにおこなわれているものであるが,高精細<br />
印刷では複雑な印刷工程と高いコストで,かなしいかな一般<br />
的ではない.インクジェットプリンタでの再現性も,通常,<br />
CMYK に LC や LM と言ったカラー,または CMYK に RGB<br />
と言ったカラーの追加が一般的だ.そこに,インクのカラー<br />
<strong>2007</strong> <strong>年の写真の進歩</strong> 157<br />
を全面的に見直して,CMYK+R と言うところがおもしろい.<br />
CMY も一般的な CMY では無く,明るめのシアン,ブルーよ<br />
りのマゼンタやグリーンよりのイエローを採用してコンポ<br />
ジットによる色再現を徹底的に煮詰めているところで好感度<br />
が高い.<br />
普通,単純に RGB のインクを追加する.これらは可視光<br />
域を再現する際に足りなくなってしまうカラーを補う意味<br />
で,CMY の間を追加するのであるが,それぞれのインクの色<br />
的な重さやコンポジットにした時の再現と言うことを考える<br />
と,ただ追加しただけではあまり効果は期待できない.<br />
例えば,R は M と Y の掛け合わせで再現される.R を単純<br />
に追加すると,分解テーブルが複雑になるだけで,大きな再<br />
現性向上に寄与しない.<br />
似たようなことは B にも言え,単純追加しただけでは,ま<br />
たはうまく組み合わせないと,色再現が悪くなってしまう.<br />
事実,空の色が変な色再現になってしまうという例は散見す<br />
ることができ,色は奇麗であってもデータに対する忠実度が<br />
低いという再現性の低いものが横行するのだ.<br />
掛け合わせを考慮した組み合わせを用いてインクを採用し<br />
色再現をするという,この考え方はおそらく,反射原稿での<br />
色再現方法に波紋を投げ掛けるに違いない.<br />
そしてもうひとつ取り上げた理由は,印刷コストが低いと<br />
言うことだ.ハードウエアの価格も抑えた上にランニングコ<br />
ストも従来存在したあらゆるメーカーのプリントコストの中<br />
でもっとも安い.トナー型プリンタであってももう少し高い<br />
ランニングコストである.高くてうまいのもいいが,日々使<br />
うものは安くてうまいのに限る.<br />
ほか,個人的要望として頑張って欲しい画像技術の分野は,<br />
モニタ分野だ.来年はこの分野で新しい優れた製品を紹介で<br />
きることを期待したい.<br />
13.3 フォトサービス分野について<br />
youtube などのビデオストリーミング系の無料サービスが<br />
大変な数のユーザーを集めている.同時に,スチール系のフォ<br />
トブログももはや一般的だ.<br />
もう,どこそこがすごいと言うのを列挙してもすぐに情報<br />
が古くなってしまう為,あえてここでは取り上げない.Jpg<br />
ファイルを様々なデジタルカメラ,携帯やコンパクトデジカ<br />
メ,一眼レフなどで撮影し,文章をつけてアップしているの<br />
は,老若男女問わず,相当な数にのぼる.<br />
これらの画像周辺技術の進展は,インターネットの普及や<br />
デジタルカメラの一般化に伴い,相互干渉しながらスイッチ<br />
バック的に成長してきた分野で,あきらかにショット数は数<br />
年前の写真分野よりも向上している.<br />
余談であるが 2008 年 2 月に電通総研から発表された <strong>2007</strong><br />
年度の広告費という記事では,2006 年の記事の訂正があり,<br />
既にネットメディアの広告費が紙媒体を追い抜いていたとい<br />
うことである.<br />
この説明するまでもない歴然たる事実は,写真文化の未だ<br />
かつて無い高速の変貌を示唆するものである.何を言わんと<br />
しているかと言うと,文化の変貌はそれにまつわるあらゆる
158<br />
世界を変貌することになるからだ.しかも高速に.<br />
写真技術や画像技術も,写真表現や撮影術にいたるまでそ<br />
れに伴い激しく変貌することが予想される.どうなっていく<br />
のか,今後に期待したい.<br />
冒頭述べた,<strong>2007</strong> 年度にコンパクトデジカメを中心に手ぶ<br />
れ補正を搭載したものが列挙したのは,こういったマーケ<br />
ティングに基づいているのであろうが,残念ながら筆者的に<br />
画像技術の進歩としては評価できない.<br />
13.4 ソフトウエアについて<br />
ソフトウエアでは,ハードウエアよりも小回りが利くのか,<br />
コンシューマー市場の活性化を受けた製品のリリースが相次<br />
いだ.中でも優れていると思うものを取り上げた.<br />
・ Adobe Photoshop Elements ver6.0<br />
アドビがリリースするコンシューマー向け画像処理ソフト<br />
ウエアである同製品は,Windows 用で既にリリースされてお<br />
り,2008 年に Macintosh 用がリリースされた製品である.<br />
既に基本中の基本ソフトとも言えるフォトショップの<br />
CMYK やトーンカーブ以外の機能をそのまま移植し,使い勝<br />
手のよいインターフェースで,初心者からハイアマチュア,<br />
プロ初心者にいたるまで広くカバーできている優れたソフト<br />
だ.<br />
スチール写真に関する作業で,RGB で済むものは,ほとん<br />
どがこのソフトでおこなうことが可能で,しかも,操作がわ<br />
からないユーザーまで要望に対応したコマンドの準備でサ<br />
ポートすると言う念の入れ様は,相当なマーケティングや<br />
ユーザーの調査に裏打ちされたものと見える.<br />
かつて写真の世界はコダックや富士フィルム,コニカなど<br />
の歴史ある企業が支えてきた技術と常識により成り立ってい<br />
たわけだが,今現在はアドビがその役を担っていると思える.<br />
この製品のもっとも評価すべき点は価格が安いと言うこと<br />
だ.対象人数が大きいから当たり前とも言えるのだが,とは<br />
いえ,これだけの技術を 1 万数千円でリリースする姿勢は,<br />
写真文化の向上に大きく寄与していると言えるだろう.無論,<br />
既にベースにフォトショップの評価があるから思いきって勝<br />
負できるのであろう.<br />
筆者的に敢えて言いたいのは,コンシューマー機やプロ機<br />
でハードは優れているのに,純正ソフト使いにくく低評価と<br />
いうものが散見されるので,あえてこれらを半ば意地になっ<br />
て開発してコストを押し上げるより,共闘して,その分基本<br />
性能をあげて欲しいと思う次第だ.これらに携わる技術者が<br />
日夜汗を流しているのは重々承知しているが,ユーザビリ<br />
ティーが低いのも困るのであえて述べた.<br />
・ Apple Aperture2<br />
アパーチャーは昨年も取り上げた.今年は価格も下がって<br />
あちこち機能向 上 してリリースされた.同様ソ フトに<br />
<strong>日本写真学会</strong>誌 71 巻 3 号(2008 年,平 20)<br />
AdobeLightRoom があるが,あえて取り上げた理由は,やは<br />
り優れているからである.ハードウエアに裏打ちされたこの<br />
ソフトは,Windows や古い Mac ユーザーはまるっきり置き去<br />
りだ.ある程度新しい Mac を所有していないとインストール<br />
することすらできない.この強気な姿勢は iPod が売れている<br />
からだと思いきや,それだけでもないようだ.<br />
画像技術的な側面から評価するなら,画像を扱うと言うヘ<br />
ビーな作業を間断なく行う為には PC パワーが必要で,価格<br />
のみを重視して作られている PC や古い PC では今の重たい<br />
データは扱うことができない.画像を扱う PC として極めて<br />
高い定評があるアップルでは,それらを極めていると考えて<br />
も過言ではないだろう.<br />
事実,適当な安いモニタセットの Win 系 PC を購入し,適<br />
当なデジカメで画像処理ソフトでプリントや WEB でのアッ<br />
プをしてみると一目瞭然だ.カラーマネージメントはできな<br />
いし,WEB やプリントで色が合うことは無い.つまり,使え<br />
ることは使えるが,ただ使えるだけでちゃんと使えない.ちゃ<br />
んと使える PC 環境を購入すれば問題ないがそういった情報<br />
は全く説明されることはない.それぞれの製品を別のメー<br />
カーが作っているから責任は分散しているが,購入ユーザー<br />
の立場で考えれば銭失いもいいところで,全くもってユー<br />
ザーを無視した姿勢に他ならない.<br />
そういった見地で考えると,きちんとしたサービス品質を<br />
維持する為に最低限のラインを持ち,迎合しすぎること無く<br />
製品をリリースしている姿勢は好感度が高いと評価する.<br />
実際,使用感で言うなら,アドビ全盛の画像処理ソフトの<br />
中にあって,少ないシェアにもかかわらず,すばらしい技術<br />
を誇っていると言える.<br />
13.5 最後に<br />
モニタについても,あえて述べたい.<br />
期待すると書いたのは,現状で販売されているモニタの多<br />
くがいまいちであるからだ.<br />
画像を評価する際,デジタルデータでは要とも言えるのが<br />
モニタだ.すべてのデジタルフォトをはじめて見るのがモニ<br />
タであるし,数値だけでは写真としてみることができないか<br />
ら,かつてビューアーの色温度を管理した以上に重要なのだ.<br />
しかし,画像技術を取りざたするのにそれに適したモニタ<br />
は少なく,問題が大きいと考える.<br />
ネットショッピングなどで色にまつわる返品率は相当数に<br />
のぼると聞き及ぶ.モニタがもう少し画像を見るのに適した<br />
ものが一般化されているなら起きえないような問題が多いと<br />
思う.<br />
カラーマネージメントの普及と進歩だけでは,これらの問<br />
題はクリアできない.それ故,切実に願う次第だ.