最近は日本で再生可能エネルギーといえば洋上風力発電ばかりに脚光が当たるが、世界では太陽光発電にむしろ勢いがある。富士経済によれば2023年の太陽光パネルの世界市場は定格出力で377.8GW、金額ベースで12兆6060億円。これが2040年には1190GW、22兆3897億円になるとする。定格出力で3.7倍だが金額ベースでは1.9倍なので、1W当たりのパネル単価は5割近く下がる見通しだ。
発電コストは最安へ
それが大幅に早まりそうだという推測もある。調査会社の米Bloomberg NEFによれば、太陽光発電の発電コストはここ数年、約6円/kWhでほぼ横ばい状態にある(図1)。ただし、2023年に中国における多結晶シリコン(Si)の生産量が43%も増え、その結果として太陽光モジュールの単価がほぼ半額になったとする。今後、これが発電コストにも反映されれば、太陽光発電は、陸上風力発電を抜いて最も発電コストの安い発電源になる可能性が高い。
2年で性能向上と長寿命化が進展
当面、太陽光発電の主力となる結晶Si型太陽電池については、2022年3月に一度、製品や技術の動向についてお伝えした。内容は主に、太陽光パネルの大型化や太陽電池モジュールの大型化、そのモジュールの寸法で中国勢が2陣営に分裂したことなど、製品企画上の動きや企業戦略についてだった。
それから2年。2024年2月29日~3月1日に東京ビッグサイトで開催された展示会「第18回国際太陽光発電展(PV EXPO)」に出展された製品群を見ると、太陽電池や太陽光パネルとしての基本性能ともいえる変換効率と温度係数が大きく向上したようだ。さらに経年劣化の度合いも以前より小さくなった。製品企画上の動きとは異なり、前述のように価格低下、そして性能向上や長寿命化という利用者にとってメリットが大きい変化が目立ったといえる。
結晶Si型がペロブスカイト太陽電池のお株奪う
まずは日本国内で最近しばしば話題になるペロブスカイト太陽電池と結晶Si型太陽電池との関係について触れておこう。ペロブスカイト太陽電池は日本発の技術で開発ベンチャーも多く登場してはいるが、世界に目を向けると海外勢、特に中国勢が目覚ましい成果をあげている。国内メーカーしか見ていない多くのメディアは“井の中の蛙”状態だ。
加えて、ペロブスカイト太陽電池の変換効率は、微小なセルはともかく、太陽光パネル製品としての変換効率はまだ結晶Si型には及ばない。ペロブスカイト太陽電池は軽く、曲げられることが特長の1つだが、実は結晶Si型も以前よりは大幅に軽くなり、変換効率をそれほど落とさずに曲げられるようになっている。実際、今回のPV EXPOでは軽くて曲げられる結晶Si型太陽光パネルが多数出展された(図2)。日本のペロブスカイト太陽電池のメーカーは今後、ペロブスカイト太陽電池を開発する中国勢との競争以前に、軽くて曲げられるSi系太陽電池との競争を迫られるだろう。
カネカの世界記録を塗り替え
結晶Si型太陽電池は、最近になって変換効率が大きく向上している。2022年まではSi系太陽電池セルの変換効率の世界最高値はカネカが2017年に得た26.7%だった。ところが、この記録は2022年11月、中国LONGi Green Energy Technology(隆基緑能科技)によって26.81%に塗り替えられた。
LONGiはそこでは止まらず、2023年12月にはセル変換効率で27.09%を達成したと発表した(図3)。同社の太陽電池はバックコンタクト型だが、当初はフォトリソグラフィーでそのパターニングをしていた。このプロセスが複雑で高コストだったため、レーザーパターニングに切り替えたところ、変換効率も向上したとする。
ただし、LONGiの製品にはこの成果をまだ反映できていない。製品のセル変換効率では25.5%、モジュール変換効率では23.2%が最高値のようだ。
モジュール変換効率が25%台に
実は、Si系太陽電池のモジュール変換効率ではLONGiを上回っているメーカーが少なくとも3社ある。中国AIKO(上海愛旭新能源)の25.15%、シンガポールMaxeon Solar Technologies(2020年に米SunPowerから独立)の24.7%、そして中国Anhui Huasun Energy(華晟)の24.16%である注1)(図4)。