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 「ルビンの壺(つぼ)」とは壺にも人の横顔にも見える多義図形だ。だまし絵の一種として有名なので、目にしたことのある人も多いだろう。これを実際に造った会社がある。従業員8人で金属加工業を営むヒカルマシナリー(山形県山辺町)だ。購入者の横顔に合わせて、オーダーメードで製作する。加工技術の高さを分かりやすく伝える製品は、新規顧客を呼び込む広告塔にもなっている。

ヒカルマシナリーが製造したルビンの壺風のグラス
ヒカルマシナリーが製造したルビンの壺風のグラス
高さ約10cmの大きさで置物として使う。価格は1万5千円(税込み)から。(写真:呉島大介)
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 2021年6月から「Rubin(ルビン)」という名前で、一般消費者向けにルビンの壺のような形をしたグラスの販売を始めた。グラスの形状は1つ1つ異なる。購入者が提供する横顔の写真を基に、その人の輪郭を設計に反映しているのだ。結婚などの記念に製作し、インテリアとして使ってもらうことを想定する。

購入者の横顔の輪郭に合わせてグラスの形状を設計する
購入者の横顔の輪郭に合わせてグラスの形状を設計する
(出所:ヒカルマシナリー)
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 材質はアルミニウム(Al)合金、ステンレス鋼(SUS)、真ちゅうの3種類から選べる。NC旋盤で削り出して造る。同社の主要事業は自動車の生産設備などに組み込む機械部品の金属加工。その設計と加工のノウハウを生かした。

 実は同社は創業以来ほとんど、BtoB(企業間取引)の製品しか造っていなかった。Rubinの加工を手掛けた會田郁三氏は「従来手掛けていた機械部品とRubinでは重視する項目が全く違う」と苦労を語る。機械部品で重視されるのは、寸法や公差の厳守。一方、Rubinは寸法が1mm違っても困る人はいない。しかし、機械部品ではあまり気にしなくてよかったデザインや肌触り、細かな傷がないかといった美観を突き詰める必要がある。

 例えば、最初に試作したRubinは底が厚かった。NC旋盤でRubinの底に当たる部分をつかんで(チャックして)回転させるため、厚底のほうが、加工が安定するのだ。ただ、デザイン上は底が薄いほうが美しいと考えた。そこで、壺の凹部にはめ込んで支える治具を新たに開発し、当初6mm程度だった底の厚みを3mmまで薄くした。

最初に試作したRubin(左)
最初に試作したRubin(左)
改良を重ねた現在の製品(右)より底が分厚い(写真:呉島大介)
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 その際、Rubin本体と治具が触れる部分に傷がつかないよう、治具の材質にも気を配った。SUSや真ちゅうより強度が低いAl合金を使い、治具とRubinが擦れても、Rubin側ではなく、なるべく治具の方に傷がつくように工夫している。

 それにしても、なぜBtoBの機械部品加工しか手掛けていなかった同社がRubinのようなBtoC(個人向けサービス)製品を売り始めたのか。きっかけはTwitterを通じた交流だった。