全1603文字

 監理者が施工不良を発見するのは極めて困難だった――。2023年3月16日に大成建設が発表した、札幌市中央区で建設中の超高層ビル「(仮称)札幌北1西5計画」の施工不良について、工事監理者の久米設計(東京・江東)は、このような見解を明らかにしている。

久米設計は2023年3月27日、同社ウェブサイトに見解を掲載。「初回の鉄骨建て方時の立ち会い検査では問題がなく、その後は施工者から提出される自主検査記録で監理していた」などとしている(出所:久米設計)
久米設計は2023年3月27日、同社ウェブサイトに見解を掲載。「初回の鉄骨建て方時の立ち会い検査では問題がなく、その後は施工者から提出される自主検査記録で監理していた」などとしている(出所:久米設計)
[画像のクリックで拡大表示]

 「(仮称)札幌北1西5計画」は、旧北海道放送本社跡地に地下1階・地上26階建ての北棟と、地下2階・地上7階建ての南棟から成る延べ面積約6万m2の複合施設を建設するプロジェクトだ。北棟の高さは約116mで、17~26階にはホテル「ハイアット セントリック 札幌」が入居予定。発注者はNTT都市開発(東京・千代田)、施工者は大成建設だ。

 大成建設の発表によると、同社の工事監理課長代理が鉄骨の建て入れ精度の計測値などを改ざんし、実際とは異なる数値を工事監理者や発注者に報告していた。鉄骨の使用部分は北棟の地下部と地上部、南棟の地上部で計754カ所。うち77カ所で、日本建築学会の建築工事標準仕様書(JASS6)に基づき契約で定めた柱の傾きの限界許容差を平均4mm、最大で21mm超過していた。スラブ厚の不足も大量に生じている。570カ所のうち245カ所が平均で6mm、最大で14mm、基準より薄い状態だった。

「(仮称)札幌北1西5計画」の建設現場。2023年3月24日3月時点では15階まで立ち上がっていた。地上部分全体と地下の一部を撤去したうえで再構築するため、竣工が2年超遅れる見通しだ(写真:日経クロステック)
「(仮称)札幌北1西5計画」の建設現場。2023年3月24日3月時点では15階まで立ち上がっていた。地上部分全体と地下の一部を撤去したうえで再構築するため、竣工が2年超遅れる見通しだ(写真:日経クロステック)
[画像のクリックで拡大表示]
問題発覚までの経緯。問題発覚のきっかけは発注者のNTT都市開発による現場巡回だった(出所:大成建設などへの取材を基に日経クロステックが作成)
問題発覚までの経緯。問題発覚のきっかけは発注者のNTT都市開発による現場巡回だった(出所:大成建設などへの取材を基に日経クロステックが作成)
[画像のクリックで拡大表示]

 問題発覚のきっかけとなったのは、発注者による現場巡回だ。NTT都市開発の担当者が23年1月5日、鉄骨柱の接合部分のボルト穴がずれているのを発見した。現場では、用意していた仮ボルトが穴を通らなかったため、直径の小さいボルトで仮留めしていたという。この点に違和感を覚えた担当者が、大成建設の現場事務所に指摘。同社札幌支店の品質管理部門が乗り出し、鉄骨の全数調査を実施したことで問題が明らかになった。

 発覚を受けて、大成建設は15階まで立ち上がった地上部分全体と地下の一部を撤去したうえで再構築するため、竣工は当初予定の24年2月から28カ月遅れの26年6月末ごろになる見通しだ。同社は23年4月17日、23年3月期決算に是正工事関連費用として約240億円を計上すると発表した。

 工事監理者の久米設計は、設計図書通りに施工されているかどうかを確認するのが役割のはず。なぜ問題を発見できなかったのか。同社は「初回の鉄骨建て方時に立ち会い確認を行い、以降は数節ごとの建て方完了時に自主検査記録などで精度の確認を行うことになっていた」「初回の立ち会い検査では柱に問題はなく、施工者から最初に提出のあった自主検査記録は管理基準値内に収まっていた」などと説明。「記録に虚偽の記載がされた場合、施工不良を発見することは極めて困難」とし、工事監理業務に問題はなかったと釈明した。