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 Winny事件、PC遠隔操作事件、ベネッセ漏洩事件――日本のITを揺るがしたIT刑事事件を、日経BPの雑誌記事、Web記事などを基に振り返る。

 京都府警は2004年5月10日、インターネットを通じてファイルを共有するPtoPソフト「Winny」の開発者である金子勇氏を逮捕した。開発、提供したアプリケーションソフトが犯罪に悪用された場合、ソフト開発者は罪に問われるのか。金子氏は無罪が確定する2011年12月まで、7年半にわたり法廷で争った。

金子勇氏(2008年のイベントITpro Challenge!での講演)
金子勇氏(2008年のイベントITpro Challenge!での講演)
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 Winnyは東京大学大学院助手だった金子氏が2002年に開発したソフトである。同種のファイル共有ソフトと比べて匿名性が高く、国内を中心の多くのユーザーを獲得した。一方で、著作権侵害の温床、インターネットサービスプロバイダー(ISP)の帯域を圧迫するなどの批判が挙がり、実際に著作権法違反で複数のWinnyユーザーが逮捕された。さらに、マルウエアがWinnyを通じてPC内のファイルを拡散させる情報漏洩事件が頻発し、社会問題になった。

 京都府警が金子氏を逮捕した容疑は、著作権法違反行為の幇(ほう)助罪、つまり違反行為を手助けした罪だった。検察側は「違法なファイル交換が行われている事実を金子氏が知っていたにもかかわらず、Winnyの改良や提供を続けたことが著作権侵害のほう助に当たる」と主張した。一方、弁護側は「金子氏はWinnyを技術的検証として作成したにすぎず、このソフトを悪用したものをほう助したとして罪に問われることは、明らかに警察権力の不当行使」として無罪を主張した。

1審は開発者のほう助罪成立を認定

 第1審で京都地方裁判所は2006年12月13日、金子氏に150万円の罰金を命じる有罪判決を言い渡した。

 1審判決で京都地裁は、Winny自体は価値中立的であり、著作権侵害の目的に特化したソフトウエアではないと認めた。

 価値中立というのは、いわば包丁と同じようなものだ。包丁は料理に使える一方、凶器にもなる。もちろん、凶器となった包丁のメーカーが殺人や傷害のほう助罪に問われることは通常ない。とはいえ、今から人殺しに行くと「知って」いて、包丁を凶器として渡せばほう助になり得る。

 価値中立な技術を不特定多数の利用者に提供する行為がほう助罪に当たるかどうかについて、京都地裁は「Winnyの現実の利用状況や、それに対する認識などに沿って判断すべき」との判断基準を示したうえで「Winnyなどのファイル共有ソフトでやりとりされるファイルの大半は著作権の対象で、その状況を知りながらソフトウエアの改良を重ねて入手できるようにした」として、ほう助罪が成立するとした。