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 ソフトバンクは同社モバイルネットワークの通信品質に関する説明会を2023年9月19日に開いた。かつてのような盛り上がりはないものの、毎年恒例のiPhone商戦に向けて通信品質の高さをアピールする狙いと見られる。ただ通信品質を劇的に高める「飛び道具」はなく、地道な対策の積み重ねに関する内容が中心である。説明会でとりわけ目立っていたのが、本コラムでも取り上げたNTTドコモの通信品質問題だった。

通信品質「300ミリ秒以下」は17.1%

 ソフトバンクによると、新型コロナウイルス禍のトラフィックは繁華街で一時的に鈍化し、住宅街で増加する傾向があったという。それが新型コロナの5類への移行に伴い、繁華街のトラフィックが戻ってきた。ドコモの通信品質問題も人流の戻りを読み間違えたことが大きな要因だった。

 ソフトバンクがモバイルネットワークの整備で最も重視しているのは顧客の「体感」だ。応答がなかなか返ってこない「パケ詰まり」の事象をなくすため、アップリンク(上り)とダウンリンク(下り)のバランスを注視している。バランスが崩れて品質が悪化しているエリアを見つけるため、ネットワーク側の品質データに加え、端末側の品質データも組み合わせて分析している。この測定・検知・分析・対策のサイクルをいかに速く回すかが勝負となり、競合他社も細かな違いこそあれ同様なアプローチを取っているはずである。

 興味深かったのは、各社の通信品質を分析した結果だ。同社は独自の評価指標に基づき、通信品質(端末から通信要求を出してテストデータのダウンロードを終えるまでにかかった時間)を「300ミリ秒以下(下記図の青色部分)」「300ミリ秒超400ミリ秒以下(同黄緑色)」「400ミリ秒超700ミリ秒以下(同黄色)」「700ミリ秒超(同赤色)」の4段階に分けて評価しており、700ミリ秒超になるとパケ詰まりが起こるという。競合他社の評価はA~C社と具体名を伏せたが、A社はKDDI、B社はドコモ、C社は楽天モバイルと見られる。

ソフトバンクが独自の評価指標に基づき、各社の通信品質を分析した結果(右)
ソフトバンクが独自の評価指標に基づき、各社の通信品質を分析した結果(右)
(出所:ソフトバンク)
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 300ミリ秒以下と300ミリ秒超400ミリ秒以下の場所を広げることに注力している同社の結果が総じて高いのは当然として、300ミリ秒以下と300ミリ秒超400ミリ秒以下の合計はソフトバンクの81.4%に対し、KDDIも76.9%、楽天モバイルも75.3%と拮抗している。KDDIに至っては700ミリ秒超もソフトバンクと同じ5.8%と低水準である。

 同評価で特に目立ったのがドコモである。300ミリ秒以下は17.1%と4社比較で突出して低く、300ミリ秒以下と300ミリ秒超400ミリ秒以下の合計は51.9%にとどまる。パケ詰まりの危険信号ともいえる400ミリ秒超700ミリ秒以下も38.9%と高い。ドコモの通信品質問題を巡っては、これまで「つながりにくい」「遅い」などと漠然とした評価が中心だったが、ソフトバンクによって見事に「見える化」されてしまった。ソフトバンクの通信品質の高さはさておき、ドコモの深刻度だけが際立った。