事務所を設立してから44年目に突入した新居千秋都市建築設計(東京都目黒区)〔写真1〕。日本建築学会賞や日本建築大賞など数々の賞を獲得してきた新居千秋氏に、今だからこそのデジタルツールとの付き合い方を聞く。
- 設立:1980年
- 所員数:16人
- 代表プロジェクト:横浜赤レンガ倉庫(2002年)、大船渡市民文化会館・市立図書館 リアスホール(08年)小牧市中央図書館(21年)、横浜市港南公会堂・土木事務所(21年)、バイオフィリアプレイス南青山(2023年)など
- 最近の実績:黒部市国際文化センター コラーレで1996年日本建築学会賞(作品)、2021年度日本建築家協会JIA25年賞を受賞
「建築のDX(デジタルトランスフォーメーション)が進む中、BIM(ビルディング・インフォメーション・モデリング)などのデジタルツールを使って効率だけを求めると、個性がない『ジェネリック』な建物ばかりになる」。新居氏はこう警鐘を鳴らす。
2023年9月に東京都江東区で完成する地上3階建ての店舗「常盤1丁目プロジェクト」では、開口の大きさや形状が異なる窓からの光の入り方を確認するため、原寸の模型をつくって現場に持ち込んだ〔写真2〕。実際に確かめる手間は惜しまない。
新居氏がツールの導入に否定的かというとそうではない。むしろ積極的に取り入れてきた建築設計者だ。
新居千秋都市建築設計とデジタル技術との出会いは早い。時を遡ること約30年前。「黒部市国際文化センター コラーレ」(1995年完成)の設計で建物の3次元(3D)モデルだけでなく、それを基にウオークスルー動画までつくって発注者に見せた。
新居氏は「3Dでしか解けない複雑な構成だった。思い切って550万円ほどかけて事務所にマッキントッシュを導入した」と振り返る。90年代はまだ手描きのパースや図面が主流だった時代だ。デジタルによる表現は、そこまで評価されなかったと言う。
それでも事務所では、Revit(レビット)やRhinoceros(ライノセラス)、Grasshopper(グラスホッパー)など様々なツールに挑戦してきた。長年、デジタル技術との付き合い方を試行錯誤してきた新居氏だからこそ、「3Dモデルや2次元のパースを見るだけでは伝わらない空間の温かさなど、視覚以外の身体的な感覚をどう補完するのかを重視する」と語る。