『日経エンタテインメント!』で望海風斗が連載中の『Canta, vivi!』。2022年上演のオリジナルミュージカル『COLOR』で初めてミュージカルの楽曲制作に携わったシンガーソングライター植村花菜との、本誌に収まり切らなかったトークの続きを特別に公開。海外ミュージカルを日本で上演する場合の「言葉の壁」とは。
植村花菜(うえむら・かな)
望海風斗氏(以下、望海) 植村さんは、日本語と英語の違いはどのように感じていますか。
植村花菜氏(以下、植村) 英語で伝えられる表現と日本語で伝えられる表現は全く別ですし、言葉のイントネーションの違いがあって、英語で作られた歌に、日本語をはめるというのはもう内容を変えないと多分無理で、表現の仕方を変えないと不可能ですよね。そういう言葉の壁はあると思います。
私の曲の作り方で言うと、メロディーを書いていて日本語の持っているメロディー、しゃべる言葉のイントネーションが違うのも嫌なんです。だから例えば、「愛」という言葉をメロディーで表現するときに、「愛」は「あ → い →」であって、「あ → い ↑」となるようなメロディーには絶対にしないです。
望海 海外ミュージカルはよく出てきますし、そこが聴かせどころだったりしますよね。
植村 でも、それは絶対にしません。普通にしゃべっているときに「あ → い ↓ がね」とはならないし、もしかしたら方言とかであるかもしれないけど、標準語の日本語としては「愛」は「あ → い →」というイントネーションで聴けないメロディーはつけないです。それはすごくこだわっています。
「このメロディー、すごくいいな」と思っても、言葉のイントネーションと合わないとメロディーか言葉のどちらかを変えますね。それでいてちゃんと音楽になっているように。それは自分の歌を作るときでも、今回のミュージカルでも気をつけていました。言葉が不自然にならないようなメロディーは常に心がけて作っています。
望海 だからスッと心に言葉が入ってくるんですね。『COLOR』では作曲者として、演じるキャストに「こう歌ってほしい」と思うことはなかったですか。
植村 自分の作る歌でもなんだろう…自分の歌じゃないというか。まず、自分で作っている感覚がないんです。表現が難しいですが、例えば「自分が曲を作りたい」って思うわけですけど、それって私が曲を書いてその曲を聴いてくださったみなさんが幸せな気持ちや前向きな気持ちになってくれたりする、そういう役割で多分、植村花菜は生まれてきていると思っているんです。ただの役割というか。その延長線上で歌うことまで続いている感じなので、誰が歌ってもいいんですよ。『COLOR』では(出演者でぼく/大切な人たち役でWキャストの)浦井健治さんや成河さんがその役割を担っているので、全然自由に歌っていいし、そこは特に考えてなかったですね。ミュージカルは1人じゃなくて、たくさんの人が関わって一緒に作るものですしね。
望海 作曲家さんや脚本家さん、原作を作られた方の話を聞けることはなかなかない経験だってキャスト同士でよく話をするんですが、今お話を伺っていても「一緒に作っていく」というのが一番いい作り方だなと感じました。「役割」ってすごくいい言葉ですね。
私はいつもいただいたものを解釈して出す、自分の体から表現しますが、「作り手にはかなわない」という感覚があったんです。一番は作品を生み出している方の思いをどう届けようか、ということをすごく考えるというか。「これで合っているのかな? どうなのかな?」という迷いが常々あって。ですが、役割と聞いて、「そっか、私はそれを受け取って表現するのが役割だし、それでいいのかな」と今、思いました。
植村 それでいいんですよ(笑)。
失敗してもそこから学びがある
望海 今日はすごくお伝えしたいことがあったんです。植村さんの一番新しいアルバムの『それでいい』に入っている『パンク』! あれを聴いて、ちょっと自分のことと重なって。自分がつまずいていることを言葉にして、しかも曲にして世に届けてくれるんだ、「こんな感情を歌にしてくれるんだ!」と思ったんです(笑)。すごくうれしくって。
植村 うれしい! しかもふざけた感じでね(笑)。
望海 ちょっと落ち込んだときに聴くと元気になれるんです。こんなに笑っていいんだって。その感謝をお伝えしたかったんです。『COLOR』を聴いたときもそうでしたが、植村花菜さんの魅力というか、人の一番飾らない言葉がストンと入ってくるんですよね。すごく近いところに来てくれるんです。それが、『COLOR』を見てからの自分にとっての収穫というか、すごく大きかったことでした。
(写真撮影をしていたときに生まれたのが)「いのしし年だから、猪突(ちょとつ)猛進して壁にぶつかって失敗してもまた起きて…」とおっしゃっていたから、きっとここに至るまでにいろいろな失敗をして、でもやっぱりここに帰ってきて、みたいな繰り返しをきっとされているんだろうなって。
植村 その繰り返しです。でも失敗が悪いことだとは1ミリも思ってない。
望海 うんうん(笑)。
植村 失敗したらそこには絶対学びがあるわけじゃないですか。失敗するっていうのはすごくいいことなんですよ。だからいっぱい失敗して、そのたびに学んで、また成長して。生きるということは常に成長し続けるということ。みんな失敗したときは「やってもうた」ってなるけど(笑)、でもこれは「また成長できる」ということやなって思っています。何で失敗したんだろうっていう分析から始めて…。
望海 それがまた曲になっていったり。
植村 そうそう、それです!
望海 それは面白いですね。
植村 何でも全部曲になるんです。『パンク』を書いたときは本当に忙しくて、何でこんな忙しいんやろなと思ったときに、「あっ、曲にしよ」って(笑)。あの曲はけっこう名曲だと思っているんですが、結局オチは「忙しくしてるのは全部自分なんだ」と分かって、Oh, no!って(笑)。
望海 これから曲を聴くのが楽しみになりました。どんな経験をされて曲になっていくんだろうって。普通、隠したいことのほうが多いと思うんですが、それを教えていただけるのもすごいことですよね。
植村 常に自分の人生は全部曲のためのもの、曲を書くための人生だと思っているので、いいことでも悪いことでも何かあったら「これは曲に」って。
望海 ある意味で人生がミュージカルですよね。
植村 そうかもしれないですね(笑)。曲は全部実体験なので、私のミュージカル…ミュージカルの曲を作っていたんですね、ずっと。望海さんはいろんな感情をどこで発散しているんですか。
望海 私は、舞台で自分とは違う人の人生を借りて感情を表現するのが一番の発散方法というか、役を借りて整理しています。
植村 それも面白いね。
望海 役を介して感情を解放していくというのもあるし、役だったらカッコ悪いところも見せられるんです。あんな大勢の人の前で見せたらスッキリしちゃうというか(笑)。
植村 なるほどね。
望海 大人になったら転ぶのも恥ずかしいけど、舞台だったら転んでも全然恥ずかしくなくて、むしろそれで笑っていただけたりするのがうれしいというか(笑)。
今日はお話が聞けて本当によかったです。
植村 こちらこそ。今度ぜひご飯に行きましょう。
望海 ぜひ行きたいです。楽しみにしています!
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