DAOKO、米津玄師の映像演出・大橋史「配色より、色をどう見せるか」

独特な色彩感覚と世界観で注目を集める気鋭のアニメーションディレクター・モーショングラファーの大橋史さん。代表作はDAOKO「ぼく(Re-Arrange)」MV(2017年)、ORESAMA「ホトハシル」MV(2018年)、米津玄師やゆずの舞台映像の演出など、数え切れないほどの作品を手がけられています。今回は作業場でお話を聞きました。

――大橋さんがアニメーションやエフェクトに興味を持ったきっかけは何だったんですか?

いろんなことが重なってアニメーションに興味を持ったんですが、テレビゲームの影響が強いかもしれないですね。小学生の頃、家でファミコンするのを禁止されていたのですが、学校でもらうプリントの裏に自分が考える横スクロールのマリオやソニックのコースの絵を描くのが好きでよく描いていました。

いろんなことが重なってアニメーションに興味を持ったんですが、テレビゲームの影響が強いかもしれないですね。

それから中学生になってお小遣いが増えて、ゲームセンターに行くようになり格闘ゲームにハマったんです。キャラクターを動かす気持ちよさとか、エフェクトのかっこよさは現在も参考にしています。今も仕事の息抜きに格闘ゲームの「SOULCALIBUR Ⅵ」をプレイしたり。以前、妄想キャリブレーションの「激ヤバ∞ボッカーン!!」という格闘ゲームを題材にしたMVを作ることになったんですが、背景を格ゲーのトレーニングモードのグリッドの空間にするなど、僕の趣味が全開の作品になりました(笑)。

――映像作品を作り始めたのはいつからですか?

映像自体は多摩美術大学に入学してからです。もともとグラフィックデザインや、イラストに興味があったんですが、グラフィック学科は受験で見事に落ちてしまい、情報デザイン学科情報芸術コース(現メディア芸術コース)に入学。

自由度の高い学科だったので、自分の好きなことを学ぼうと映像の世界に入りました。

自由度の高い学科だったので、自分の好きなことを学ぼうと映像の世界に入りました。授業の中で見た、ミッシェル・ゴンドリー監督のケミカルブラザーズ「Star Guitar」PVや、アルヴァ・ノトという坂本龍一とよくコラボするアーティストの作品に影響を受けて、映像と音のシンクロを題材にした作品を作ろうと、20歳ぐらいから制作活動をスタートしました。

――大学ではどんなことを学ばれたんですか?

ゼミの教授が原田大三郎というCGアーティストで、坂本龍一やYMO、小室哲哉のコンサートの映像を演出している作家さんでした。CGアーティストなのにAdobeのソフトを否定するんです。「みんながみんなAdobeを使ったら、ソフトのクセが残って表現が似ちゃうでしょ?」と。その言葉がきっかけで、同じソフトを使っても誰にも真似できないような表現を目指そうと考えるようになりました。そしてできたのが、cokiyuというアーティストの「Your Thorn」という作品です。

大学ではどんなことを学ばれたんですか?

2011年当時の標準機能だけで制作しました。当時の学生が作るアニメーションは、アナログとデジタルを掛け合わせた表現が主流だったんです。ですが、僕はコンピューターの本来持っている質感とか均一なトーンが、水彩や油絵の具じゃ出せない魅力だと思っていて。天邪鬼な性格なので、みんなと逆のことを追求したかったんです。他人と違う道を選んだおかげで、かなり険しい道のりではあったんですが(笑)。

僕はコンピューターの本来持っている質感とか均一なトーンが、水彩や油絵の具じゃ出せない魅力だと思っていて。

――なるほど。他に影響を受けたものや参考にしている本はありますか?

グラフィックデザイン学科には入れなかったので、ゼミの原田教授に「モーショングラフィックスを学びたいのですがどうすればいいですか?」と尋ねた時に、「映像のソフトについてはここで学べるけど、グラフィックのことについては自力で頑張れ! ここはデザイン科じゃないから」と言われて、独学で猛勉強しました。

神保町の古本屋で買った本です。

これはその頃、神保町の古本屋で買った本です。

私は他の方にキャラクターデザインを依頼するとき「上半身と下半身のボリュームをなるべく変えて欲しい」とお願いすることが多いです。この本が、その考えのベースにあります。上半身を逆三角形、下半身を三角形と捉えたとき、鋭角にするか広角にするか。それで体の緊張感や力の入り方が表現できる。モーショングラファーは新しいツールやソフトウェアをハックすることに興味を抱く人が多いですが、デザインの原理や原則を語る人があまりいない。僕はどちらかというと後者が好きで、すごく身に付いています。

――大橋さんは、独特な色彩感覚の映像が印象的ですが、何かこだわりがありますか?

そう言ってもらえることが多いんですが、実はあまり色にこだわりがないんです。色彩感覚も優れていると思っていなくて。むしろ、色をクリエイターのアイデンティティにしてはいけないと考えているくらいなんです。これは以前、飲料水のCMディレクターをやったとき、あまり暗い色を使えなかったという経験から来ています。

色は人間の脳内で補正がかかるので、どんな色を置くかよりも、色をどう見せるかが大事だと思います。

色は人間の脳内で補正がかかるので、どんな色を置くかよりも、色をどう見せるかが大事だと思います。DAOKOさんの「ぼく(Re-Arrange)」の場合は、この曲が収録されているアルバムが「THANK YOU BLUE」の特典映像なので、必然的に青を使おうと決めていました。色に関しては自分1人だけで決められる領域ではないと思っていて。むしろグレースケールのモノクロにした時に見やすい画面になっているどうかに気をつけています。

――文字が生きているかのように動く映像も多くありますが、キャラクターの映像との違いや共通点はありますか?

文字もキャラクターも天地(上下)があるので、気持ちのいい文字の組み方になっているかどうかは意識しています。変な文字のインサートをしていないか、生理的に不自然にならないように注意していますね。フレデリックというバンドのセカンドアルバムのトレーラーでは、全曲のタイトルを作字して細かく動かしました。

文字一つひとつのエレメンツと抽象的な図形の格好良さを見せるのに苦労しました。「クライマックスナンバー」という曲では、クリスマスソングのコーラスに合わせて文字を動かすのが難しかったですが、音にマッチした映像を作るのが伝家の宝刀なんだ、とかなり気合を入れました。

――アニメーションと、実写、ライブ演出、それぞれ表現はどのように変化させていますか?

実写の場合は他の監督とダブルディレクションでやることもあって。専門分野が互いに違うので、相手のテリトリーに入らないようには注意しています。1人で作ると自分のできる技術やツールの中で制限がありますが、2人で作ると自分の想像以上のものが出来上がることもあるんですよ。

――今後やってみたい表現・お仕事はありますか?

ゲーム開発をしてみたいですね。最近はコードを書かなくても直感的に制作できるソフトもあると聞いているのでかなり興味が湧いています。ゲームを作ると言っても、対戦するとか何かをクリアするとかではなく、普段自分が自主制作しているような映像の延長をゲームのエンジンを使って、どのように表現できるかを模索してみたいです。

大橋史

プロフィール

大橋史
1986年生まれ。2012年多摩美術大学大学院 美術研究科情報デザイン領域修了。CGの有限性・限界線を意識したアニメーション表現をテーマにした作品を発表し、現在はTomgggと映像作品の共作や「BRDG」「REPUBLIC」をはじめとしたオーディオビジュアルイベントに出演。DAOKO、さよならポニーテール、Burnout syndromes等のアーティストのMVに監督として演出し、西尾維新大辞展「バトルシーン」映像演出 、米津玄師「春雷」コンサート映像演出(アーティストQueHouxoとの共同演出)などカルチャー色の強いプロジェクトにディレクター兼クラフトマンとして参加する。作品の多くはStash、motionographer、onedotzero、cartoonbrew、the Creators Projectなど国内外のデザインカルチャーのマガジンや映像祭で上映・掲載され評価を受けている。

[2019年5月31日 Zing!掲載]


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