宮本武蔵になりたい夫による夢現無双レポ
約1年ぶりのブログ更新となりました。
2018年9月。前回の夫による初観劇レポートは一度きりのつもりで今後更新は無いと思っていた我が家に突然舞い込んだ吉川英治原作「宮本武蔵」宝塚舞台化のニュース。
夫は生粋の宮本武蔵ヲタクである。幼少の頃より剣道・日本画を嗜み、大人になった今では髪型とヒゲを伸ばし結構本気で「宮本武蔵」に近づくために生きているような若干古風な志を持った男に対して、まさかの初宝塚デビューを果たした珠様率いる月組での舞台化。
天海さんもこんなことってある?状態で3月下旬に観劇へ出かけ、再び筆をとってくれた次第である。
ヲタクが故に少々おかしなテンションですが心温かく読んでいただければ幸いです。
※観劇を控えテンションが上がってきたある日、寝る間際に一乗寺下り松・・・と呟いて気を失うように眠りについた夫を目撃。翌日「呼ばれてる気がするんだよね」と言い出したので、なんだか心配になり一乗寺まで宮本武蔵巡りを決行。数年前に巌流島には出かけているので次は武蔵が晩年を過ごした九州に行きたいと新たな目標を掲げている。
【1年ぶりか…】
ここから見る景色は変わらねぇな…
私はこの場所に帰ってきた。
いや、あえて「還ってきた」と言いたい。
1年前にここで宝塚歌劇団の洗礼を受け、今日ここに辿り着くまでの1年間。映画館で雨に唄えばを観せられたり、梅芸でウエストサイド物語を観せられたりとそれなりに修羅場はくぐってきたつもりだ。
…もう宝塚を知らぬ野人ではない…
前回のようにナメきった態度で今日を迎えたわけではないのだ。
それにしてもなんだか今日は、想像していたより穏やかな気持ちだ。
1年前、少し元気の無かった私を救ってくれた とあるプリンシパルに、お別れとお礼を言いにきたのだからもっとしんみりするもんかと思ってたけどなぁ…
まぁそれはどうでもいいとして、
今日の本題。
「天下無双」とはなにか?
石舟斎殿の言うとおり、ただの言葉なのでしょうか?
教えてください武蔵先生、巌流との闘いですらもあなたは勝つべくして勝ったのでしょうか?
あなたの事を理解しようとしても凡人の私には到底理解できるものではありません。
ただ今日、この場で二匹の虎が闘います。
月の下、最期に戯れ合う二匹の虎を見ることで、あなたの思想に少しでも深く触れることができると私は思っているのです。
願わくば、タマキくん、ミヤくんという虎二匹に貴殿ら剣豪の魂が宿り賜うことを…
~~さぁ、宝塚大劇場へ~~
【その前に腹ごしらえ】
味も美味で雰囲気も抜群であった。
ジェンヌさんも普通に食事しているしドキドキワクワクである。
…沼にハマるとはこういう感覚なのだろうか…
【さぁ、改めて大劇場へ】
宝塚大劇場は相変わらず優雅だ。街の雰囲気、人の雰囲気がやはり優雅だ。
出待ちなのか入り待ちなのかわからんが列作ってる人たちもギャーギャー騒ぎ立てることなく優雅だ。誰が何しても気品がある。
そしてアイフォンを替えたばかりなので無駄に写真を撮りたくなってしまう。
外でパシャリ、宝塚歌劇の殿堂という有料の場所でも嫁と2人でシャンシャンを持ってパシャリ。
嫁はその後1人で写りたいとまたスタッフに写真をせがんでいた…
今日宝塚歌劇の殿堂を見て驚いたのは、この不良のカリスマを大地真央さんや安寿ミラさんが演じていたということ。
是非再演していただきたいが演じることができるトップが今いるのかどうか
あとイチローはエリザベートが好きすぎて全曲歌うことができるらしい。
…なんだよ、みんな宝塚好きなんじゃん。
なんか安心した
去年と同じく階段でもパシャリ。
女子トイレの長蛇の列も相変わらずだ…
そして穏やかな気持ちのまま「夢現無双」を迎えるのだった…
【いざ夢現無双】
まず今回のお話は宮本武蔵先生の半生を90分という短い時間にこれでもかというくらいに詰め込んでいる印象を受けた。
宮本武蔵の人生とその周囲の人間関係を予め理解していないと楽しむことは難しいかもしれない。
だが月組のフィルターを通して見る宮本武蔵、宝塚独自の解釈というのか、決して煌びやかでない、華やかさとは縁遠い宮本武蔵の世界を綺麗に落とし込んだのは流石と言わざるを得ない。
あと、みんなのビジュアルがほぼほぼバガボンドだったので今回はバガボンドありきで話を進めていく。
まずハナタレ小僧感の凄い武蔵、又八、お通の3人の幼馴染が茶番劇をしたあと関ヶ原に参戦する為、いきなり17歳になった武蔵と又八の2人が床から飛び出てきた!
これは素直にカッコイイと思ってしまった。
2人の登場の時の拍手は大変大きく、1番手と3番手の人気、箔の違いを私に見せつけてきた。
これがオープニングになるのかわからんが、2人が床から出てきたり、侍軍団が粋なダンスをしたり、カラスっぽい黒子がワラワラしたりで空気がピリッとした気がした。
いい意味で漫画的というか、アニメ的というか、なんか2次元の演出ってこんな感じなのかな~と私は思った。
そしてタマキくんは…役作りの為にバガボンド読んだんじゃないかって思ってしまうくらい完全に
「タケしゃん」
これ、見た人ならわかってくれると思うのだがタマキくんと瓜二つ
目を閉じれば瞼の裏に憎き父、新免無二斎の姿を浮かべ、出会う人みな敵になるような不細工な殺気を撒き散らしている17歳の武蔵をタマキくんは見事に演じている。猛々しい身体に口調も荒々しく、まさに野人。野山を駆け回る山猿である。
いい面構えをしとるが、ちと危うい。
自分自分、自分ばかり。
鬼の子、悪鬼、悪蔵と呼ばれ、村中から忌み嫌われ、人を殺し続けいつか自分が殺されることを願っていた武蔵に沢庵が諭す。
チャピがいなくなっても、ミヤくんがいなくなってもお前は独りじゃない。
闇を知らぬ者に光もまた無い
闇を抱えて生きろ。
ケリをつけてこい。
沢庵は武蔵にこう言ってる気がした。
お通は慎ましくタマキくんに寄り添おうと健気さと努力を感じる。
人は1人では生きられないと初めて学ぶ武蔵。新免武蔵→宮本武蔵と新たにスタートを切ることになる。
武蔵=タマキくんはどんな剣豪になるのか、物語はどんどんはしょるにはしょるのであった…
【吉岡道場】
強くなる為に京の名門吉岡道場に乗り込む武蔵。1年後に再戦をするというくだりを数分で終え、武者修行もまぁ
はしょる はしょる!
宝蔵院では何故か阿厳が出て天才の胤舜が出てこないし(胤栄はいる)
柳生の城では、柳生四高弟らしきやつらがいるので二天一流を開眼するかと思えばそうでもない。
でもまぁ かつては瞼の裏に憎き父がいたのが最近は2人の爺さんを思い浮かぶようになってきた武蔵。この頃から天下無双とはなんなのか考えるようになってきたのか、身なりも口調もだいぶ成長してきてる気がする。
もしかして凄い速度で武蔵が成長してるので観客がはしょってると勘違いしてるのかも…
そして吉岡一門との再戦。
…関係無いけどこの前一乗寺下り松に行ってきたばかりだ。
清十郎→伝七郎→植田率いる吉岡一門70人との闘いになるのだが、バガボンドとは違う流れや演出でこれはこれで面白い。
藤次が生きててお甲と3枚目やってるし。
あと清十郎をやっていた娘がとても魅力のある清十郎を創り出していた。
飄々としているのだが当主の風格と強さを持ち合わせ、粋な京都弁で武蔵の前に立ちはだかる。
タマキくんやミヤくんでも出せない、この娘だからこそできる最高の吉岡家当主であった。
この娘名前知らんけど後半では金色の衣装でかなりセクシーだった。
ホットパンツ姿をオペラでガン見してしまうほどだ。私は逮捕されてもおかしくはない。
とりあえずこの娘は最高の吉岡清十郎を創り出し、後半のショーではボーイッシュなのに妙にセクシーという末恐ろしい存在感であった。
で、話を戻すと清十郎や伝七郎を倒すほど強くなり、さらに手段を選ばず勝つ為にはなんでもする武蔵。
で、また沢庵に説教され剣の道を一旦諦める武蔵。
はしょってる所為か、沢庵はただの説教臭くて煩いだけのジジイに見えなくもない…
天下無双…勝つべくして勝つ。見てるこちらも混乱してきた。
そして仏像を掘りながら畑を耕す武蔵。
ちゃんと伊織っぽい子供もいてなんか嬉しくなってしまった。
あと吉野太夫に絵を描いたりとかの何気ない場面でも武蔵先生は剣の才能だけでなく、絵や書の才があり、哲学者の思想も持ち合わすなどのマルチな人だったんだなぁとこちらは想像することができた。
というか、吉野太夫を演じていたこの娘、とても可愛いのだけど。
初めて見たときにジャージだったのでジャージ娘と私は呼んでいるのだが、なんか、単純にルックスが好みである。
とても綺麗で可憐だ。
まぁジャージ娘と吉野太夫が同一人物だと知ったのは演目終わってからなのだが。
普通にデートがしたい
さて、話を武蔵に戻す。
畑耕してたらまさかのここで鎖鎌の宍戸梅軒登場!よく見ると竜胆みたいな娘もいるのがまた嬉しくなってしまう。
で、鎖鎌との闘いでついに二天一流使うかと思ったのだが、別にそうでも無かったのである…
【忘れてはならない、ミヤくん】
っていうかここまでちょいちょい出てくるミヤくんについてなんも語ってなかった…オープニングからちょいちょい巌流佐々木小次郎は出てきているのだ。
2匹の虎が出逢い、天才同士にしかわからぬなにかを互いに感じ取る場面なんかは月組のツートップの孤高な感じが役柄にガッチリとハマっていた。
キザで強くて天才で、
でもどこか哀愁が漂う佐々木小次郎。
巌流を演じるミヤくんは1年前に垣間見た
「男の美学」と「不良の美学」
を兼ね備えたミヤくんそのものであり、なにも変わっていなかった。
相変わらず小柄で華奢で、おまけにクセが強い。なのにかっこいい。
ベジータっぷりは今回も健在。
そして今回のミヤくん、まさかの 「キリシタン」 である。
これには驚いた。ステキなロザリオを首にさげているのだ。
天草四郎が出てくる話間違えたのかと思ったがそうではない。
カトリックかプロテスタントかなんなのかわからんが、もうこちらとしてはオシャレなロックンローラーにしか見えん。
で、今回最高で最強な演出と感じたのが鎖鎌との闘いで小次郎が武蔵を助太刀する場面だ。
これは熱い。
ここは泣いてしまう人もいるのではないだろうか?
最初で最後の共闘でこの後2人はケリを着けなければいけないのだから。
月組の現実と役柄がガチっとハマりここで私の中の川平慈英が再び現れた。
宝塚のフィルターを通すと武蔵と小次郎、1番手と2番手、カカロットとベジータという不思議な「コンビ萌え」が成立する。
にわかの私は宝塚歌劇団の中でタマキくんとミヤくんのコンビ以上に熱いツートップを知らない。
知りたくもない。
互いに最期に 「自分は強いのか?」「自分は何者か?」 それを教えてくれるのはこいつしかいないとなり再び剣を取る武蔵。
無二斎を幼い小次郎が負かしていたとかの申し訳程度の因縁もあったりして。
世に言う巌流島の闘いは瞬きを禁じて見なければいけない。私はそう感じた。
ちなみに数年前に巌流島にも行ってきたのだがこれも話すと長くなるのではしょる。
武蔵と小次郎の一騎討ちの殺陣は、2人とも流石というか、本当に綺麗だった。
互いにケリをつけようとするその様は、なにか感慨深いものがある。
しかもここで当然のように二天一流!
最大の見せ場で二天一流!!
つまらん話をすると、燕返しは恐らくカウンターの技。
小次郎の物干し竿に対し武蔵は船の櫂で対抗する。
武蔵が先手に回るなら脇構で相手に距離を測らせず、後手に回るなら左上段で待つかなぁと勝手に憶測していたのだがその時点で私は武蔵先生のことを理解できていなかった。
武蔵先生の思想は
「型にとらわれないこと」
その理念が後の五輪書に繋がるのだ。
タマキくんとミヤくんの殺陣は型にはまらず自由で、なにより2人が楽しそうに見えた。
「あぁこれ多分、2匹の虎に剣豪の魂、宿ってるなぁ」
私はそう感じた。
【Be water, my friend.】
あと、今回、舞台の両脇には波のセットがある。
この両脇の波のセットを見た瞬間、今回の夢現無双の製作に関わったすべての人が宮本武蔵の思想、理念を表現したかったんだろうと私はとらえた。
Be water, my friend.
これは李小龍の名言である。
私は宮本武蔵の思想を体現したのが李小龍だと勝手に思っている。
「考えるな、感じろ」
は多分李小龍を知らない人でも聞いたことある言葉だと思うが、この有名な名言も武蔵先生の理念と同じである。
「心を空(から)にしろ。
形を取り去れ、型を捨てろ。水のように。
ボトルに入れたら、ボトルに、
水は絶え間なく流れ、激流にもなる。
水になるんだ。友よ。」
李小龍の名言を日本語にするとこうなるのだが、これは武蔵先生の五輪書のパクリというか、サンプリングというか、リスペクトなのだ。
この話を知っていれば舞台の両脇の波=水になる。
今回の演目では水が重要なのであると私は勝手に解釈した。
彼らの思想や理念は剣術や武術に興味が無くても芸術的なまでに美しいので興味のある人は是非知ってほしい。
ジークンドーの話をすればまた長くなるし、李小龍や宮本武蔵の思想も元を辿れば孔子とかになりそうなのでこの話はここまでにする。
「心を水にする。水は小さな一滴にもなれば大きな海にもなる。」
五輪書にはこういうことがたくさん書いてある。
最近ではビジネス書として海外で大人気というのだからさすが武蔵先生。
ちなみに李小龍のこの写真、巌流島に向かう宮本武蔵に見えるのは私だけだろうか…
話を戻してクライマックス。
紙一重の差で勝ったタマキくん。
ミヤくんは我が生涯に一片の悔い無しという感じで誇り高く散る…
「小次郎…安らかに眠れ…」
退団で佐々木小次郎を演じて去っていくのが粋だ…
観客の反応を見ててもミヤくんは最高で最強な2番手ってやつなのがにわかの私にもわかる。
それってもしかしてトップスターになるより難しくて凄いことなんじゃないかな…
ジェロム・レ・バンナみたいな無冠の帝王の美学というか。
天下無双とは結局なんなのか?観劇した後も私は言葉にできない。
言葉にならない。
タマキくんを筆頭に、舞台で凛として立ち振る舞い、常に第一線で闘い続ける月組の精鋭たち。
彼女達は我々に強さを、夢を見せ走り続けている。
彼女達は我々のイメージ通りに妖精のような存在なのか?
否、本当は我々となんら変わらない1人の人間だ。
この世に強い者などいない。
彼女達は「強い者」ではなく「強くあろうとする者」なのだ。
彼女達に勇気や元気をもらったのなら、今度は私がその第一歩を踏み出そうと思う。
でも初観劇の時も言ったけど、やっぱりミヤくんが輝くのはタマキくんがトップにいるからなんだろう…
1年前はチャピがいた。今はもういない。そして次はミヤくんがいなくなる。
月組は形を変えて光り輝き続けることを願っている。
さよならありがとうミヤくん。
がんばれタマキくん。
なんとなく帰りの車で「花は咲く」を聴いて我が家へ帰るのであった。
~完~