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フェイスブックが13歳未満の子ども向けアプリ「Messenger Kids」を12月4日に公開した。同社のインスタントメッセンジャーの一番新しい仲間で、保護者の目が届かないアカウントを使っている子どもたちを守ることを目的としたものだ。しかし、将来的な囲い込みを狙って、わずか6歳の児童までターゲットにし始めたという批判も出ている。

児童を営利主義から保護するための活動を展開するCampaign for a Commercial Free Childhood(CCFC)のジョッシュ・ゴリンは、フェイスブックが目指しているのは、子どもたちがソーシャルメディアを始めてもいいと見なされる「年齢を引き下げる」ことだと言う。

ゴリンは、すでにFacebookのアカウントをもっている11〜12歳(アカウントを取得できる最低年齢は13歳なので、それ以下の子どもたちは年齢を偽ってアカウントを開いた可能性がある)にとって、Messenger Kidsの絵文字やGIFアニメは「幼稚すぎる」かもしれないと指摘する。だとすれば、新しいサーヴィスに乗り換える子どもは少ないだろう。

Messenger Kidsの対象は6〜12歳で、フェイスブックは開発に細心の注意を払ったとしている。青少年向けのアプリを開発する約100人からなるチームは、18カ月に及ぶ開発期間を通じて、保護者や各種の団体、教育分野の専門家などと緊密な協議を行い、完成した製品は関係者の意見を反映したものとなった。

保護者は子どものアカウントでログインした状態でMessenger Kidsをダウンロードする。対象年齢の子どもは検索結果には表示されないため、親同士が友達申請のやりとりをする必要がある。

アプリでは広告は表示されず、広告への利用を目的としたデータ収集も行わない。またユーザーが13歳になっても、子ども用アカウントが自動的にFacebookの通常アカウントに切り替わることはないという。

しかし、子ども向けのマーケティングを監視する団体は懸念を表明している。Messenger Kidsでは通信内容や送受信した写真、どのような機能が利用されたか、アプリを使っているデヴァイスの情報などは収集される方向だからだ。フェイスブックはこれらのデータをサーヴィスの向上に役立てるほか、「グループの一員である企業」およびカスタマーサポートやデータ分析、技術インフラを提供する外部企業と共有するとしている。

加速する子どものデータ収集

ゴリンは「プライヴァシーポリシーにお決まりの曖昧な表現で、フェイスブックにこうしたデータの共有を可能にする余地を与えているように見えます」としたうえで、誰にデータを渡すのか明確にすべきだと話す。

同社の広報担当者は『WIRED』US版の取材に対し、「Messenger Kidsに広告はなく、集めたデータも広告目的では使用しません。プライヴァシーポリシーにあるヴェンダーとのデータ共有に関する規定は、例えば企業側からのお知らせを配信するような場合のためのものです」と話している。

有力NPOのPublic Citizenでコーディネーターを務めるクリステン・ストレイダーは、5月にリークされたフェイスブックの内部文書を引き合いに出し、青少年に関するデータの扱いで同社を信じるべきではないと指摘する。この文書によると、フェイスブックは広告主に対し、情緒不安定な傾向など若者の感情をリアルタイムで追跡できる機能を提供していたとされる。

ストレイダーは「(内部文書が明らかになったことに対する)同社の反応は、今後は同様の試みは行わないという、たったそれだけでした」と言う。消費者団体などは内部文書を開示するよう求めたが、フェイスブックはこれを拒否した。

テック企業は若いユーザーを取り込むことを目的とした試みを、積極的に進めている。こうした動きは、グーグルが2015年に子ども向けの動画視聴サーヴィス「YouTube Kids」の提供を開始したころから始まった。

YouTube Kidsでは広告が表示されるが、アカウントは保護者が「Family Link」というアプリを通じて作成する。Family Linkは子どもが使うスマートフォンなどのデヴァイスを親が管理するためのサーヴィスで、スマートスピーカーのGoogle Homeの子ども用アカウントをつくるのにも使える。こうすれば、Google Homeはアカウントの所有者である子どもの声を認識するようになる。

デジタルメディアにおける民主主義の保護を目指すCenter for Degital Democracy(CDD)のジェフリー・チェスターは、「企業が子どもを放っておくことはもうないでしょう」と話す。バービー人形などで知られる玩具メーカーのマテルは8月、YouTube Kidsへの広告出稿などで「数千万ドル規模の契約」を結んだことを明らかにしたが、チェスターはこれについて「グーグルが青少年のデジタルメディア利用を大っぴらに商業化したことでハードルは下がりました」と指摘する。

チェスターはまた、YouTube KidsやMessenger Kidsといったサーヴィスは子どもの関心を捉え、親近感を抱かせるようにデザインされていると話す。「GoogleやFacebookの子ども版で育てば、大人になったときに同じサーヴィスを使わせる準備は整ったようなものです。不愉快な話ですが、企業はこうした仕組みで事業展開していくわけです」

親の許可さえあればいい

テック企業はこれまで、13歳以下のユーザーのデータ収集には保護者の許可を必要とすることを定めた「児童オンラインプライヴァシー保護法令(COPPA)」を理由に、若年層をターゲットにすることに消極的だった。ゴリンは「COPPAの問題点は親の許可さえあればいろいろなことができてしまうという点です」と指摘する。過去半年で、子どものデジタルライフ管理の支援をうたい文句にしたアプリが複数リリースされた。ゴリンはこうしたサーヴィスについて「子どもたちを監督するのに画期的な方法だと宣伝して親のゴーサインを得ようとするのです」と語る。

一方で、ConnectSafelyやFamily Online Safety Institute (FOSI)など、子どもたちのための活動を行う複数のNPOが、フェイスブックのアプローチへの支持を表明している。いずれも同社から寄付を受けており、13名で構成されるMessenger Kidsのアドヴァイザリーグループにもメンバーを送っている。なお、この諮問機関にはフェイスブックがスポンサーを務めるNPOのMedia Smartsからも2名が参加する。

フェイスブックの広報担当者は、「わたしたちはこれらの団体と長期にわたる信頼関係を築いてきました。両者の関係においては透明性も確保されています」と話す。やはりMessenger Kidsを評価しているCenter on Media and Child Healthのクリステル・ラヴァリーやジョージ・メイソン大学のケヴィン・クラーク博士のような人々は、フェイスブックから資金を受けていないという。

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