ウツを防げ!農業が分泌する「幸せホルモン」

農地保全でパラダイム転換

  • 吉田 忠則
  • 2018年01月12日

 作物を育てることが、ストレスの解消につながると感じている人は多いだろう。週末に市民農園に通う目的が、野菜を栽培することだけではなく、平日の仕事で疲れた気分のリフレッシュという人も少なくない。

 では、農作業をすることで、実際にどれだけストレスを減らすことができるのか。それを調べて実証し、ビジネスに結びつけようという試みが始まった。順天堂大学とヤンマーのプロジェクトだ。今回はそのキーマンである順天堂大医学研究科の千葉吉史研究員にインタビューした。

「アグリセラピーでパラダイムが変わる」と話す千葉吉史氏

経験を下敷きに

 プロジェクトの中身に入る前に、千葉氏のプロフィルに触れておこう。千葉氏の構想が、農業経営の経験を下敷きにしていることを示すためだ。

 千葉氏はもともと京大農学部の大学院で研究者を目指していた。転機が訪れたのは31歳のとき。すでに博士課程を修了し、博士論文を準備していたころ、ある花の種苗会社が破綻した。千葉氏の家族がその経営に関わっており、「再建を手伝ってくれ」と頼まれた。

 研究者になることを諦めたくないとの思いはあったが、担当教官は厳格な人で、「経営と研究」という二足のわらじをはくことを許さなかった。これで研究者への道は絶たれたかに見えた。

 大学では農学原論を研究していた千葉氏だが、実家のある岡山に戻ると実務家としての手腕を発揮した。まず取り組んだのが債務の圧縮。受け皿となる法人を設立し、再建プランを立て、1年かけて金融機関を説得した。

 ところが再建は思わぬ形で壁にぶつかった。法人を立ち上げた2009年以降、花の値段が暴落し始めたのだ。一戸建てではなく、マンションやアパートに住む人が増えたことで、消費者の花の育て方が、花壇から小さなプランターに変わり、花の市場はそもそも縮小傾向にあった。公共事業が減り、公園の設置が少なくなったことがこれに追い打ちをかけた。

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