ネット炎上、仕掛け人「0.5%」の正体

国際大学・山口真一講師に聞く新たなメカニズム

  • 河野 祥平
  • 2016年12月13日

日経ビジネス12月12日号の特集「謝罪の流儀2016」では、企業や個人に大きなダメージをもたらすインターネット発の「炎上」の威力とメカニズムを詳報した。なぜ炎上は発生し、どのように対処するべきなのか。炎上問題に関する著作がある国際大学グローバル・コミュニケーション・センターの山口真一講師に聞いた。

今年も多くの炎上事案が発生しましたが、特に印象に残っているのはどのケースですか。

山口:ピーシーデポコーポレーションの契約に関するトラブルは大きな問題になりましたが、炎上の社会的影響を示したものだと言えます。あとは(フリーアナウンサーの)長谷川豊さんの透析患者に対する発言。あまり大きくはないですが、鹿児島県志布志市がふるさと納税のPRのために作った動画が、特産のうなぎを水着姿の少女に擬人化したことで、いわゆるポルノを連想させるということで炎上したケースもありました。

 最近の傾向としては、炎上がわっとネット上で盛り上がっている状況を、マスメディアが積極的に報じるようになっているということですね。ネット炎上というのはネット上での現象であるにも関わらず、人々の認知経路では最も多いのがテレビ番組という研究があります。

 さらに炎上によって企業の株価が下がる原因やタイミングとして、マスメディアの報道があるという実証研究もある。ネット上だけで騒いでいる段階からテレビや新聞が報じる段階になって、株価などに大きなインパクトを与えるようになっているということですね。

マスメディアが炎上に加担

 企業だけでなく、例えば今年、青山学院大学の学生たちがスーパーマーケットでふざけている動画をネットに投稿して炎上するという事案がありました。私の見ている範囲では、テレビも大きく取り上げることで、結果的に炎上の被害が拡大しました。若者がふざけた写真や動画をネット上に投稿することがかつてより増えていることもあるかもしれませんが、それ以上に報道する人々や機関が増えた影響が大きいですね。

山口真一(やまぐち・しんいち)氏。2010年慶應義塾大学経済学部卒、2015年同大学経済学研究科で博士号(経済学)を取得。国際大学グローバル・コミュニケーション・センター助教を経て、2016年より現職。主な著作に『ネット炎上の研究』(共著、勁草書房)など。

確かに、最近では多くのテレビ番組でいち早く炎上問題を取り上げている印象があります。具体的な炎上のメカニズムとは、どのようなものなのでしょうか。

山口:よくあるのが、まずツイッターで投稿された炎上の種を見つけた人が、それを否定的に拡散するケースです。拡散されていくうちに、それに対する書き込みを10回も20回も繰り返す「ヘビーユーザー」が現れて、一気にその炎上が大きく見えてくる。

 今度はそれをPV(ページビュー)数を稼ぐためにまとめる「まとめサイト」が出てきたり、ネットメディアが取り上げたりする。まとめサイトが取り上げる段階で拡散の威力は相当に高くなるのですが、最後にとどめとしてマスメディアが報道します。そうすると、ネットにそこまで精通していない人々や高齢者までがその事件や問題を知ることになるという流れです。

 こうしたメカニズムにあわせて、炎上の件数自体も格段に増えていますね。かつては年間数十件程度だったのが、現在は年間数百件、定義にもよりますが、1000件以上という統計もあります。

 ネットの普及率が一定以上まで高まった上で、さらに2010年から2012年にかけて、スマートフォンやツイッターをはじめとするSNS(交流サイト)が急速に普及した。ツイッターのようなオープンなSNSが登場したことで炎上が広がり、多くの人が知るメカニズムが出来上がってきたということだと思います。

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