銅が妊娠を妨げる効果は絶大 | 松林 秀彦 (生殖医療専門医)のブログ

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生殖医療に関する正しい知識を提供します。主に英語の論文をわかりやすく日本語で紹介します。

生殖医療専門医は、妊娠治療のプロですが、同時に避妊のプロでもあります。不妊と避妊は表裏一体で、妊娠しやすい環境を知るためには、妊娠しにくい環境も同時に良く知っておく必要があるからです。以下の記事では、亜鉛↑と銅↓が妊娠には望ましい環境であり、逆に亜鉛↓と銅↑は妊娠を妨げる環境であることについてご紹介しました。
2013.11.7「☆亜鉛と不育とプロテインS その1」
2013.11.11「☆亜鉛と不育とプロテインS その2」
2013.11.11「☆亜鉛と不育とプロテインS その3(Q&A回答)」
本論文は、誤って妊娠しそうな状況になった際の緊急避妊として、銅入りの子宮内避妊器具(IUD)を挿入すると非常に効果的であることを示しています。

Hum Reprod 2013; 28: 2672(中国)
要約:1997~2000年に、緊急避妊の目的で、銅入りの子宮内避妊器具(T380-IUD)を挿入した1840名の女性(18~44歳、生理周期25~35日)を前方視的に検討しました。このうち46.2%は妊娠危険日の性交であり、2.8%は性交から5日以上経過していましたが、追跡調査が可能だった1771名の女性の全ての方が妊娠しませんでした。

解説:緊急避妊で有名なのは緊急避妊ピルですが、失敗率(妊娠率)は1~3%です。しかし、子宮内避妊具(IUD)では失敗率<0.1%と極めて効果的で、しかもBMIや性交の時期に左右されない優れた方法です。WHOとCDCのガイドラインでは、子宮内避妊具を性交後5日以内に挿入することとしています。これは、もし性交と排卵日が一致したとしても、着床は7日後であり、その前に着床を障害する器具(IUD)を挿入すれば間に合うという発想です。一方、銅入りのIUDでは性交後10日以内であれば効果があるという報告があり、本論文もその結果を支持するものです。いずれにしても、本論文は「銅」の入ったIUDは100%避妊効果があることを示しており、銅が子宮内膜に沈着する可能性の高い方(銅濃度の高い方)は妊娠しにくいことが示唆されます。