肥満マウスではコエンザイムQ10で卵子のミトコンドリア機能が一部回復 | 松林 秀彦 (生殖医療専門医)のブログ

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生殖医療に関する正しい知識を提供します。主に英語の論文をわかりやすく日本語で紹介します。

本論文は、肥満マウスを用い、コエンザイムQ10で卵子のミトコンドリア機能の一部が回復することを示しています。

Hum Reprod 2016; 31: 2090(米国)
要約:4週齢のC57B16メスマウスに、通常食あるいは高脂肪高糖質食を6週間与え、その後コエンザイムQ10あるいはプラセボを6週間投与しました。卵巣刺激により卵胞発育させ、採卵した卵子の状態を観察しました。また、その卵子を用いて体外受精を行い、正常マウスに移植しました。高脂肪高糖質食群は対照群と比べ有意な体重増加がみられました(29g vs. 22g)が、コエンザイムQ10は体重には影響を与えませんでした。また、高脂肪高糖質食群は対照群と比べATP、クエン酸、クレアチンリン酸が有意に減少し、活性酸素は有意に増加しました。コエンザイムQ10は、通常食群ではこれらを是正する効果がありましたが、高脂肪高糖質食群には効果を認めませんでした。しかし、コエンザイムQ10は、高脂肪高糖質食群でみられたミトコンドリア分布の異常を是正しました。また、コエンザイムQ10は、紡錘体形成と染色体の配列を正常化する効果を認めました。しかし、これらの卵子で体外受精を行った結果は、全ての群で有意差を認めませんでした。

解説:肥満は卵子の質を低下させることが明らかにされており、生殖機能にマイナスとなります。ヒトでの実験は最初からはできませんので、動物モデルとして肥満マウスが用いられます。高脂肪高糖質食を与えると肥満マウスとなり、肥満マウスでは、紡錘体形成と染色体配列に異常が生じること、卵子のミトコンドリアが機能が低下すること、このためATPが減少し活性酸素が増加することが知られています。これらの現象は卵子の老化の際に生じる現象と似ています。そこで、アンチエイジングでしばしば用いられるコエンザイムQ10がこれらの改善に有効ではないかと考え、本論文の研究が行われました。本論文は、肥満マウスを用い、コエンザイムQ10で卵子のミトコンドリア機能の一部が回復することを示しています。

あくまでも動物実験の段階ですから、すぐさまヒトにあてはめることはできませんが、興味深い可能性を示しています。