コラム:米民主党指名争い、サンダース氏にまだ勝機あり

コラム:米民主党指名争い、サンダース氏にまだ勝機あり
 3月29日、米大統領選で民主党候補指名を争うバーニー・サンダース上院議員(写真)に撤退を求める声が、権力層から雨あられのごとく降り注いでいる。ミズーリ州で12日撮影(2016年 ロイター/Shannon Stapleton)
Robert L. Borosage
[29日 ロイター] - 米大統領選で民主党候補指名を争うバーニー・サンダース上院議員に撤退を求める声が、権力層から雨あられのごとく降り注いでいる。
「バイバイ、バーニー」と題した社説をワシントン・ポスト紙は早々と掲載し、数多くのニュースキャスターなどに同調した。一方、米政治情報サイトのポリティコは、民主党議員たちが水面下でサンダース氏に撤退を促していると報じている。
オバマ大統領でさえ、今こそヒラリー・クリントン前国務長官を支持する時だと、富裕層の献金者に暗に訴えた。(大統領、すでに彼らはそうしていますよ)
こうした「サンダース降ろし」の一部はクリントン陣営が広めたものだが、大半は全くの愚行と言える。サンダース氏が今、撤退するなどあり得ない話だ。
サンダース氏が民主党候補指名を獲得するチャンスはまだある。西部6州のうち5州で圧勝したばかりだ。それに、サンダース氏はただの候補者ではない。信念そのものなのだ。単に大統領になるというだけでなく、国を変えるような政治革命を起こせるムーブメントを巻き起こしたいと考えている。
それは、政治から大金を引き出すことと、サンダース氏の掲げる政策を通すことの両方を達成するのに十分強力な政治運動であることを意味する。サンダース氏の支持者たちは、民主党全国大会などを通して、そのような努力を同氏が前進させることを期待している。
確かに、サンダース氏が指名を獲得する可能性はほとんどないかもしれないが、比較的知られていなかった民主社会主義者の同氏が立候補した当時と比べると、その可能性ははるかに高くなっている。
全有権者の半数近くはまだ票を投じていない。サンダース氏は今後もたくさんの有権者と対話を重ねる。同氏はすでに15の予備選と党員集会で勝利し、勢いは増している。
ブルームバーグの最新世論調査によると、サンダース氏は初めて、クリントン氏を僅差で上回った。他の全国調査でも、大差をつけてリードしていたクリントン氏との差が縮まり続けていることが一貫して示されている。
サンダース氏支持者の大半は熱心であり、特に同氏は若者の関心を喚起し続けている。彼らはサンダース氏の選挙活動を盛り上げたいと躍起になっている。2月の献金額は、サンダース氏が4300万ドル(約48億2000万円)で、クリントン氏の3000万ドルを上回った。サンダース氏を支持する約200万人の小口献金者が、クリントン氏の裕福な献金者よりも多くの献金を集めたということだ。実際、クリントン氏の献金者の7割以上は大口献金者で、その額は頭打ちになりつつある。
サンダース氏に懐疑的な人たちは、同氏がクリントン氏に西部で完全に勝利するには、55%対45%というようなほぼ互角の戦いで勝つだけではだめだとこぼしていた。だがふたを開けてみれば、サンダース氏はワシントン、アラスカ、ハワイ、アイダホ、ユタの各州で70%以上の得票率で圧勝した。クリントン氏のリードを徐々に詰めているのだ。
一方、クリントン氏は実質的にすべての大口献金者や熟練の選挙ブレーンたちから支持されている最有力候補と目されているが、確実に勝利を手にしたとは言えない。全有権者の半数以上が同氏を好ましくないと答え、同氏より下位なのは共和党候補指名争いでトップの不動産王ドナルド・トランプ氏だけだ。CBSが1984年に調査を始めて以来、大統領選候補者でこれほどまでに否定された人は他にいない。
米国民はクリントン氏の誠実さと信頼性を疑っている。同氏の強みは経験と当選する可能性にある。しかし複数の世論調査の結果は、どの共和党候補に対しても、クリントン氏よりサンダース氏の方が善戦している。その主な原因は、サンダース氏の方が無党派層に人気があるからだ。これに加え、クリントン氏は、国務長官時代の私用メール問題など枚挙にいとまがない。
サンダース氏にもまだ望みはある。同氏の支持率が伸びるなか、クリントン氏の人気は落ちる一方だ。サンダース氏の支持者たちは同氏の選挙戦に資金を調達し続けるだろう。そのような状況で大統領選から撤退する候補など普通はあり得ない。トランプ氏と共和党候補指名を争うオハイオ州のジョン・ケーシック知事やテッド・クルーズ上院議員は、サンダース氏の状況をうらやましく思うだろう。
サンダース氏は「政治革命」を起こすのがいかに困難であるかを分かっており、幻想など抱いていない。本当の闘いは始まったばかりだ。
繰り返すが、なぜサンダース氏がここで「のろし」を降ろさねばならないのか。同氏の声がこのように多くの大衆に届く機会は二度とないだろう。支持者を得て、市民活動を活性化し、メッセージと政策を広めているというのに。
その努力はすでに実っている。大統領候補が大口献金者に頼る必要のないことを、サンダース氏は証明してみせた。今後の大統領選では非主流派の席も用意されるだろう。
サンダース氏は議論をかき立て、クリントン氏に自身の立場を調整したり、サンダース氏のレトリックの一部を使い回したりすることを余儀なくさせている。貿易、ウォール街、法人税逃れとCEOの報酬、刑事司法、最低賃金と労働組合、政治とカネなどについて、サンダース氏は選挙活動(「Black Lives Matter」や「Fight for $15」のような運動も)で新たな見方を示している。
サンダース氏が大統領選にとどまる時間が長ければ長いほど、クリントン氏は自身の新しい一般大衆向け公約を捨てるのがますます困難になるだろう。
たとえクリントン氏のリードをしのげなかったとしても、サンダース氏は事実上、クリントン氏と同じくらい多くの代議員数を獲得して、民主党全国大会に行くことができる。そこで、大銀行の解体や均衡のとれた貿易、崩壊しそうなインフラ再建、医療制度、学費無料の公立大学などをめぐり、議論を戦わせることができるだろう。
全国大会が終わっても、サンダース氏と支持者たちは、大胆な改革のために闘い、腐敗を暴き、改革を求める運動や候補者を支持することができる。サンダース氏は、今回の大統領選だけで終わらない新しいエネルギーを解き放ったのだ。
党の総意支持者はその失敗にがくぜんとし、民主主義社会の官僚は神経をとがらせ、ウォール街の献金者は落ち着かないだろう。だがそれに慣れるしかない。サンダース氏が大統領選から撤退する理由など少しもないのだから。昔のゴスペルソングにあるように、前途は険しい。だが、もう引き返せないところまで来ている。それにサンダース氏は、全く疲れてなどいない。
*筆者は進歩主義的な米シンクタンク「Institute for America’s Future」の設立者。姉妹団体「Campaign for America’s Future」の共同ディレクターも務める。
*本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています。
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