インタビュー:シェアリング議論、既存業法がネック=竹中平蔵氏

インタビュー:シェアリング議論、既存業法がネック=竹中平蔵氏
 10月5日、竹中平蔵・慶應義塾大名誉教授(写真左)は、ロイターのインタビューに応じ、政府の未来投資会議の中で、欧米が先行しているシェアリングエコノミーや自動車の自動走行などに力点を置いて議論し、一定の結論を出すべきだとの見解を示した。ダボスで2015年1月撮影(2016年 ロイター/Ruben Sprich)
[東京 5日 ロイター] - 竹中平蔵・慶應義塾大名誉教授は5日、ロイターのインタビューに応じ、政府の未来投資会議の中で、欧米が先行しているシェアリングエコノミーや自動車の自動走行などに力点を置いて議論し、一定の結論を出すべきだとの見解を示した。
同氏は同会議の下に新設される「第4次産業革命会合」の会長を務めており、議論の方向性に大きな影響を与えそうだ。
シェアリングエコノミーを広めるうえで、日本国内では既存の業界利益を守ってきた法規制があり、欧米にキャッチアップするには、そうした規制がネックになると指摘した。また、自動走行に関しては、事故発生時の法的保護の枠組みを早く作るべきであるとも述べた。
フィンテックについても言及し、この分野でも日本は米国に大きく遅れているが、フィンテックが社会に浸透するにつれ、銀行システムの存在意義が問われることになるという問題点があると語った。
日銀のマイナス金利ついては、日本の実質金利がそれ程低くなっていないため、マイナス金利の深掘りは日銀が必ずやるだろうとの見通しを示した。
米大統領選の動向に関し、クリントン候補とトランプ候補のどちらが勝っても、米国民の負担を小さくし、日本により多くの負担を求めてくるような「ハイパーポピュリズム」に支えられた厳しい面が出てくると予想。
日米関係の新しいあり方について、日本自身がしっかりと考え、主張していかなければならない局面になるとの展望を示した。
詳細は以下の通り。
──未来投資会議では、どういった分野に重点を置いて議論されるのか。
「未来の有望分野は、だれにもわからない。分野を絞らずに議論する。ただ、1つの目安として、海外に比べて日本が圧倒的に遅れているシェアリングエコノミーと、自動走行の分野はしっかり議論しなければいけない」
「特にシェアリングエコノミーは、ニーズが非常に高い。インバウンド観光客増加により民泊需要が高まる一方で、空き家が余っている。地方に行くとタクシーが、なかなか拾えない」
「ネックとなっているのは、各業界の業法だ。例えば民泊は、ソーシャルネットワーキングという新たな業態だが、旅館業法が適用される。個人として部屋を貸そうとしても借地借家法が適用され、借りる方も貸す方も、その責任を課されることになる」
「自動走行についても、道路交通法により事故の責任が議論となり、何も進まない」
──そうした新ビジネスをベンチャー企業が手掛ける場合、やはり新たな金融形態として、フィンテックの活用余地があるのではないか。
「この分野も、日本は米国などに圧倒的に遅れている。金融でも銀行というインフラを使ってきた。ところが、アプリとビッグデータという技術革新により、フィンテックが実現。それを手掛けているのが米国ではアップルやグーグルやアマゾンであり、銀行より圧倒的に規模の大きいIT企業が存在するということであり、銀行という社会的なシステムの存在意義が問われている」
「日本では、銀行もようやくベンチャー投資を手掛けることができるようになったばかりで、フィンテックを使ってベンチャー融資を行うという話は、その先の応用問題となる」
──日銀は9月の政策決定会合で、政策目標を量から金利に政策転換したが、どう評価しているか。
「日本の実質金利は、まだそれほど低くなっていない。名目金利は低いが物価上昇率も低いためだ」
「今回、日銀は政策を大転換したということでは必ずしもない。マイナス金利を採用した時点から、実は金利にかなり重点は移っている」
「(今後、日銀はマイナス金利の深掘りを)間違いなくやる。重要な点は日銀の政策はかなり効果を発揮したと認識することだ」
「5年前にマイナス1%だったコアコアの消費者物価指数が、1年程前にはプラス1%まで上昇した。円高や中国経済の悪化、あるいは消費税増税などがなかったら、今でもプラス1%程度は維持している」
──米大統領選の行方と、その結果が日本に及ぼす影響をどう見ているか。
「今の米国は、不満を持った人たちに対して、政治がある程度応えざるを得えなくなるポピュリズムが極端に強まったハイパーポピュリズムの状況だ。クリントン氏が大統領になっても、その影響を非常に強く受ける」
「そうした観点からすると、どちらの候補が勝っても自由貿易は大変難しくなってくるだろう。さらに米国民の負担を小さくして、日本により多くの負担を求めてくるような全体としてハイパーポピュリズムに支えられた厳しい面が出てくるだろう。日米関係の新しいあり方を、日本自身がしっかりと考えて主張していかなければならない局面になる」

中川泉 麻生祐司 金子かおり 編集:田巻一彦

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